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ジェリーはすぐにパーティー会場を後にした。そして前にレックスと出会った時のことを思いだしていた。
あれは、もう半年以上も前だ。レックスはホワイトグレーの高級スーツを着ていた。彼は業界大手の人たちと談笑していた。そこにウエイトレスがぶつかった。ウエイトレスはシャンパンを彼のスーツにこぼしてしまった。
ウエイトレスはすぐに彼に謝り、スーツをきれいなタオルで拭こうとした。
その時彼は、いきなり機嫌を悪くして彼女を罵倒した。たくさんの人も前で散々彼女を怒り無能だとか、くびにしてやるとか、罵声を浴びせた。彼女はたまらなくなって泣いて会場を後にした。
客はみんな驚いていた。レックスのそんな一面を見たのは初めてみたいに、彼はいつも冷静で親切で礼儀正しい印象が強い人間らしかった。
表向きは取り繕っていても、しょせんお金持ちの身勝手な人間に違いない。そんなあいつがシャロンを好きになるか?
ふいにもたげた疑問はジェリーの中でどんどん大きくなっていった。
もしも…シャロンが騙されていたら?
もしも…僕に仕返しをするつもりだったら?
まさかとは思うが、あいつはプライドの高い金持ちだ。人を傷つける事なんかなんとも思ってはいないやつらだ。
レックスはいまだにアイリーンの事は僕のせいだと思っているはずだ。彼女は僕と知り合う前からもう薬と男に溺れていたと言うのに…彼はそれを認めようとはしなかった。
あのバーで働いていた時、まだシャロンと知り合う前だった。アイリーンはまだ大学生で未成年だったが、嘘をついていた。大学の友人に薬の味を教えられすっかり薬中毒になっていた彼女を落とすのに時間はいらなかった。
僕はいつものように彼女とバーのトイレでやった。時間にすればものの5分くらいだった。だがその後だった。彼女が突然意識を失って倒れたのは、救急車が来て、僕は彼女に付き添って病院に行った。そこにレックスがやってきて、僕が薬を打って彼女と無理やり関係を持ったと、それで意識不明にしたと思い込んだ。
彼にそうじゃないと何度言っても聞かなかった。僕は警察に連れていかれてひどい目に遭った。だが、バーの店主が証人になってくれて僕はやっと釈放された。だが、レックスは僕を信じてはいなかった。あくまで僕がアイリーンをひどい目に合わせたと思い込んだままだった。
あれからアイリーンがどうなったかは知らないが、きっと彼は今でも僕の事を恨んでいるに違いない。
でもそれはシャロンには関係ないことだし…‥
そんなことを思い返しているうちに帰るのが遅くなった。
ジェリーはまだパーティー会場を出てすぐの廊下の影になっているところにいた。
レックスが会場を出て来た。その後をきれいな女性が追うように出てくるとレックスに声をかけた。
ちょうど陰になっていたジェリーには気づいていないようで、ふたりは話を始めた。
「レックス待ってよ。話があるの…もうなかなかふたりきりになれないんだもの」カテリーナは少し怒ったように言った。
「カテリーナ、僕は今日は客の対応で忙しいことくらいわかってるだろう?君もそれくらいの事はわかるようになってくれなきゃ困るよ」
「わかってるわ。わたしだって…でもあなた最近ちっとも会ってくれないわ。あなたがウォルトブックスの社内の人と付き合ってるって聞いたのよ。ほんとなの?」
「カテリーナ僕が同じ社内の女性と付き合うわけがないだろう?確かに一人の女性が暴漢に襲われてけがをした。僕があの会社のオーナーの関係者だって誰もが知っているんだ。僕には彼女が安心できるよう取り計らう責任がある。それで少しの間だけ彼女を家まで送っているだけだ。もう少しすれば彼女も落ち着くだろうし、僕の責任も果たせる。君が心配することは何一つない。僕たちはもうすぐ婚約するんだ。君はすばらしい女性だからね。でも婚約の事は今は絶対に知られてはいけないんだ。わかってるだろうカテリーナ?うちの会社とケリーコーポレーションが合併することは絶対に秘密なんだから、もし今そのことが公になったら君の会社が迷惑するかもしれないんだからね」レックスはそう言うと辺りを見まわした。誰もいないことを確かめるとほっとしたように顔をほころばせてカテリーナを抱きしめてそっと唇に優しくキスをした。
「ごめんなさいレックス。あなたを信じてるわ。じゃあ、また連絡してくれる?」
「ああ、今週中には彼女も傷が完治して落ち着くだろうからね。また連絡するよ」レックスはカテリーナの頬を撫ぜると、会場に戻るよう合図した。
カテリーナは、安心したようににっこり笑ってまた会場に戻っていった。
カテリーナはケリーコーポレーションの一人娘でもあるが、その美しい顔や抜群のスタイルでモデルとしても活躍していた。
レックスにはまさに完璧な女性だった。
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