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しおりを挟むマクシュミリアンは、何とか眠りに就こうとさっさと横になると目を閉じた。
床に敷いてある敷物はラーシュの羊の毛を編み込んで作ったものでとても暖かい。いつもならすぐに眠りが訪れるはずだが、今日は違った。
くららと言う女性がいて、おまけに彼女からは芳醇な男を煽る香りがしている。
抑えても抑えても体が欲情していく。
きっと天命とかそんな事は関係なく発情期のせいだ。
気にするまいと思えば思うほど、くららの寝息にじっと聞き耳を立てているマクシュミリアンは、何をしているんだと自分を律する。
彼女を襲うつもりもないし、ましてや‥‥くららと交わろうなどとは思ってもいない。
くららなんか!
それなのに‥‥ったく!
じわじわと雄の欲望は沸き上がり、股間を膨らませていく。
いけないと分かっていながらも、どうしようもない快楽の開放を求めそうになる。
そんな時だった。
彼女がうめき声を漏らした。そしてかさこそ布団のこすれる音がして、それが上下に揺れた。
今度は脚を突っ張らせる感じが、腰を揺する音が伝わって来た。
彼女が何をしているかすぐに気づいた。
きっと媚薬を飲んだせいで体が疼くのだろう。
森に入る前にも顔が赤らんでいたし、背中に背負っているときも彼女はもぞもぞしておかしかった。
理由はわかっていたんだ。
でもそれは触れてはいけないことで、もしそのことに触れれば自分の都合を押し付けた気がする。
何しろこの8年獣人になってから、そんな行いすらしたことがないのだから‥‥
だが、くららの切なげな声が薄っすらと漏れた時、もうどうしようもないほど我慢できなくなった。
それに彼女も苦しんでいると思うと、もしも良ければ彼女を助けたいと言い訳がましい気持ちが湧いてきた。
それでは自分の欲望は吐き出すためじゃないんだと言い聞かせる。
どうせそんなことは絶対に無理だし、彼女もそれを望んではいないだろう。
だからあくまで彼女の苦痛を和らげる手伝いを申し出てみたらどうかと思った。
いや、待て。
もしくららが天命の人なら、僕たちは結ばれる定め‥‥
だとしたら、彼女は僕を受け入れてくれるんじゃないのか?
いい加減にしないか…‥大人しくしろ!俺の分身…‥
マクシュミリアンは、思い切って立ち上がるとくららに近づいていた。
「どうした?くらら気分でも悪いのか?」
いきなり声が聞こえてくららはビクッとなる。
「うっ。あの、いえ、何でもありませんわ。ご心配なさらないで下さいマクシュミリアン様‥‥」
そう言った時にはもう彼がくららの目の前にいた。
「くらら…この匂い‥‥欲情してるんだね?」
くららからは甘酸っぱい雌の匂いが漂っている。
「違います。何でもありません。どうか心配なさらないで、もうお休みになって…」
くららは下履きから急いで手を出した拍子に上掛から手が出た。
マクシュミリアンはそのくららの手を握ると、我慢できなくなってその指を舐めた。
「何をなさるんです!」
くららは慌てた。
ぬるりとした指先はまだ愛蜜にまみれていて、それを口に入れた瞬間マクシュミリアンは得も言われぬ喜びを覚えた。
あんなに自分の欲望のためではないと言い聞かせたのに…‥
もっと欲しい。そんな欲望がむくむく湧き上がっていく。
「これでも?僕が気づかないとでも思った?僕は獣人なんだ。鼻も耳も人間の何倍もきくんだ。君がひとりで慰めているのはすぐにわかったよ」
「マクシュミリアン様って意外と嫌な方なんですね。そんな事レディにはっきり言うなんて…失礼ですわ」
くららは目の前で恥ずかしい行為を、はっきり言い当てられて恥ずかしくていたたまれない。
何とか言い逃れようと辛らつな言い方をする。
「ごめん。くららを責めるつもりはないんだ。君が辛そうで慰めたいだけで‥‥あの‥‥もしよければ…その…僕も手伝ってあげようか?その…こうなったのも何かの縁だし‥‥」
マクシュミリアンも何を言ってるんだと自分で驚く。
さっき口にした甘い蜜が、マクシュミリアンの脚をくららのベッドに押しとどめた。
くららの顔が引きつる。
暗がりでもはっきりと驚いている様子が分かった。
「な、何をおっしゃいますの?わたし、そんなことしてませんから…変なことをおっしゃらないで下さい。人を呼びますわよ‥‥」
そう言って誰を呼ぶのだと思う。
マクシュミリアンは首を横に振った。そしてくららを安心させようとその場にしゃがみ込んで話を始める。
「いいかい、よく聞いてくらら。君は媚薬を飲まされたんだ。だから体が疼くのは君のせいじゃないんだ。そんなこと知らなかったんだろう?だから恥かしかったんだろう?でもこんなふうになるのは媚薬を飲まされたからだ。このまま放っておくのは体に良くないと思うよ。さあ、何も恥ずかしがることはない…疼きを楽してあげる。僕に任せるといい」
そんなに僕は飢えていたのだろうか?
くららは嫌がっているじゃないか。もうやめろ!
いや、そうじゃない。僕はくららが本当に天命の相手か確かめたいだけだ。
もう少し誘ってみたらどうだ。くららはその気になってるんだ。
訳の分からない理屈が勝手に頭の中で理路整然とくっついて行く。
「でも…そんなこと出来るわけがありませんわ。何をなさるおつもりなんです?いいから放っておいてください」
くららは声を荒げて体を強張せた。
さっきまでのいい気分はあっという間に霧散していた。
「でも、辛いんだろう?」
マクシュミリアンはくららの上掛を取り去った。
くららは驚いて腕を胸に巻き付ける。
「何をするんです!」
「大丈夫だ。安心して、恐くない。君が嫌なことは何もしない…さあ…」
僕は何を言ってるんだ…‥
もう一人の自分が天井から見下ろしているみたいに、そんな声が聞こえる。
マクシュミリアンは完全にいつもの自分を見失っていた。
「くらら、何も恥ずかしがらなくていい。これは薬のせいなんだから。今から君を楽にしてあげる。さあリラックスして」
ったく!何を楽にさせるつもりだ?
マクシュミリアンの手は止まることを忘れたらしい。
くららのシフトドレスの上からそっと胸のとがりを指先でつまんだ。
そこはもうピンと立ち上がり布地越しにでもわかるほど硬くなっていた。
「ぁあん…‥」
くららはそれだけで声を上げた。
やっぱりだ。くららにはこうしてあげることが必要なんだ。
マクシュミリアンの歯止めはきかなくなった。
「いいんだ。我慢しなくて、もっと声も出していい」
マクシュミリアンは、今度はベッドの端に腰かけ両手てくららの乳房をやわやわ揉み始める。
「あっ、そんな事…‥ぅうっ」
くららが背中をのけ反らせる。
そんなことをされれば、抑え込んだ欲望はすぐに頭を持ち上げて来た。
ああ…いけませんわ。こんな事間違ってますから‥‥
いくら拒絶しようと思っても体は彼の指を、彼が与える刺激を欲しがっていた。
おもむろにマクシュミリアンが顔を寄せて来た。
くららの頬に優しいキスを落とし始めた。
柔らかな被毛が頬に触れて、ふっくらとした唇から出された舌の感触に思わず背中がぞくぞくする。
その舌は、頬から額にそして目元を這い唇に這わされた。
ねっとりとした舌は、人間より長いのか唇の端から端まで丹念に舐め回した。
くららはあまりの心地よさに思わずされるままになっていた。
マクシュミリアンはその隙にくららの唇の中に舌を潜り込ませると、唇の裏側から歯茎、口蓋から喉の奥までくまなく口の中に心地よい刺激を与えた。
最後にくららの舌を絡めとると舌を絡ませてぎゅっと吸い付いた。
甘い快感と舌をすするなまめかしい音が、耳の奥で響くとくららは胸の先がずくりと疼いた。
そこは今も彼が刺激を与えている場所で、あっという間に甘い刺激が全身に広がっていく。
こんな…こんなことは、間違っていることです。わたしが好きでもない人と睦みあうなんて…そんなことは許されないことで‥‥
まだ残っている理性が、マクシュミリアンの口づけを振りほどこうとする。
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