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しおりを挟むレオナルドがふらふらしながら瑠衣を追いかけてくる。後ろからぎゅっと抱き締められて瑠衣は体中の力が抜けていく。
彼にすべてを預けて彼のものになって彼に愛されていたかった。
「瑠衣どういうことだ?さよならってどういう意味だって聞いてるんだ!」
「もう、レオナルドったらやっぱり脳をやられた?さようならはお別れの言葉じゃない。もうおしまい。エンドって事じゃない!」
瑠衣は食い入るようにレオナルドを見つめる。どこかおかしなところはない?ううん、顔はいたっていつものイケメンだし、体はまあまだしゃきっとしていないのは仕方がないとしても…‥
目つきは?いつもの憎たらしいほど美しいレッドアイ。
そうだ。脳をやられたらよだれを垂らすとか?まったく垂らしてない。悩ましい唇は今にもわたしの唇を奪いそうなほどで…
ろれつは?しっかり回っててたじゃない!
まさか、ふりしてる?とか?
「瑠衣、だからさよならってどういうことかって聞いてるんだ?」
「はぁっ?レオナルド。いい加減にしてくれない。そんな病気のふりなんかするのはやめて!」
「なんだ、病気のふりって?じゃあ、さっきのはなんだ?さよならレオナルドどうか幸せになってだって?俺がお前がいなくてどうやって幸せになんかなれる?」
いったいこの男はなんなの?それをわたしに最後まで言わせる気?
何だって、そこまで説明が必要なわけ!これ以上…
瑠衣はレオナルドと向かい合わせになって彼の胸に拳を置く。
「もう…だって…だってレオナルド。わたしもう聖女じゃなくなったのよ。まじないをかけても何にも治せないのよ。病気だって怪我だって…だからあなたが死にそうになってるのに、わたしはあなたの看病をするしかなくて…もうどれだけ心配したと思ってるのよ。わたし…わたし…もうあなたに会えなくなると思ったら恐くて恐くて…胸が潰れそうで…それなのに、あなたったらさっきからさよならの意味も分からなくなるなんて…」
瑠衣は支離滅裂でついにその場で号泣し始めた。
レオナルドは瑠衣の拳を握って抱き寄せる。
「瑠衣、お前力がなくなったのか?それってつまり聖女じゃなくなったって事?」
瑠衣は半べそでうなずく。
「それで俺から逃げようとしたのか?」
瑠衣はまたうなずく。
「馬鹿じゃねぇの。瑠衣の事愛してるって言ってんだろう?むしろ聖女じゃない方いい。そしたらもうずっと俺だけの瑠衣になれる。そう思わないか?」
「だって…レオナルド死ぬところだった。わたしが聖女だったらすぐに助けてあげれたのに…」
「でも、お前ずっと俺の事看病してくれてたんだろう…俺ずっと気持ちよかった。苦い薬を俺の口に流し込んで来る熱い唇が、背中をさすってくれる手が、熱い体を何度も拭いてくれて、額に冷たい布を当ててくれて、それから…何度も俺を励ましてくれてただろう。ずっと聞こえてたんだ。俺の体が深い闇に沈みそうになるのを誰かが引っ張り上げてくれるみたいで…何度ももうこのまま浮き上がれないかもって思っていた。でもその度に聞こえるんだ。諦めちゃだめだって…瑠衣がいたから俺はここにいる。それなのに俺から逃げるのか?」
「だって…レオナルド…愛してるの。もうどうしようもないほど…それなのにもうあなたを助けてあげられないのよ。わたし‥‥」
瑠衣はまた泣きだした。
「瑠衣、俺はお前がいないと死んでしまう。だからお前さえいてくれればいいんだ。だからもう心配するな。俺は死んだりしない。お前がいれば死んだりしないから…ずっと俺のそばにいてくれ、聖女じゃない方がいい。だから…だから…俺のそばに…」
瑠衣がぴたりと泣き止んだ。
「レオナルド?あなた…まさか…それって、わたし…あなたといてもいいって事?」
「当たり前じゃないか!俺たちはもう、番なんだぞ!印はもう消えないんだからな。俺から逃げられると思ってたのか?」
「逃げようなんて思ってもないけど…」
「ああ、もう永遠に離さないからな瑠衣!」
「ああ、レオナルド愛してる。永遠に愛してる」
「それは俺のセリフだ。愛してるよ瑠衣。永遠に愛してる。死んでも愛してるからな」
レオナルドはさらに瑠衣をきつく抱きしめた。
瑠衣はぴたりと抱き締められていたが、お腹を少しずらして離れた。
「でも、その前にシャワーを浴びてよね、おねしょしたままじゃ…愛が覚めるかも知れないから…」
「わかってるって…俺だって好きでお漏らししたんじゃないってわかってるじゃないか!」
「あの…おふたりともその辺でよろしいでしょうか?」
ロンダが声をかける。
「ああ、ロンダか…いや、もう少し待ってくれ、今大事な話をしてるんだ」
「いえ、それより、ここから出してもらいましょうよ」
そこに兵士がやって来た。
「皆さんすみませんでした。どうやらあなた達は本物のアディドラ国の使いと分かりましたから、すぐに国王陛下がお会いになるそうです」
「だから言ってるだろう?それでどうして本物だと?」
「はい、国王陛下のご子息アルブロス様が来られまして、レオナルド国王陛下は本物だとはっきりおっしゃって」
兵士がバツが悪そうにみんなを牢から出す。
「もうだから言ったじゃないか!」
ぞろぞろみんなが出て行こうとした時レオナルドが言った。
「おい、みんなわかってるだろうな。俺が漏らしたことは未来永劫内緒だからな。もし誰かに漏らしたら…」
「もう、わかってますって、漏らしません絶対に!」
「俺をからかってるのか?」
「まさか…いいからもういい加減にしてください。僕たちもう疲れてるんですから…」
「そうですよ。国王と奥さんのイチャイチャで…すっかり見せつけられましたから、もうごちそうさまって感じですよ」
みんな口々に言いながら、牢屋を出て行く。
宮殿の客間に通されて、すごいごちそうに囲まれてやっとみんな機嫌が直った。
レオナルドはシャワーを浴びて着替えるとトラブロスに会いに行った。トラブロスとはすっかり仲良くなって、二つの国は協力していくことになった。そしてその場にいたトラブロスの息子アルブロスは父のトラブロスと仲直りした。
ルカディウス宰相は医師のカルヒンと手を組んで国王の暗殺を企てたとしてエレナ山のふもとにある炭鉱に監督と炭鉱の医師として送られることになった。
レオナルドと瑠衣はそれから帰りの馬車でもずっと一緒で、片時も離れようとはしなかった。食糧援助の使いは護衛兵の一人が早馬で知らせに帰ると、2人はヘッセンで騎士隊の本拠地に寄った。
ジャックにお礼を言うためだった。
ジャックの妹はトラブロス国王の息子アルブロスと結婚したのだ。それでジャックは妹のエリファスにレオナルドたちの事を頼んでいたのだった。そのおかげでアルブロスがロペに来てくれて、トラブロス国王にレオナルドたちの事を話してくれたからこそ、誤解がとけて牢屋から出ることが出来た。
それにしてもプリンツ王国のルカディウス宰相はとんでもない奴だった。トラブロス国王が無事だったことは何よりだ。それに元気になって良かった。
レオナルドと瑠衣はしばらくヘッセンでゆっくりするつもりだ。
後の事はしばらくジャミル宰相が任せて下さいと言ってくれた。
「瑠衣、これからあの泉に行かないか?」
「あの泉?」
「ああ、俺達の出会いの場所。そこでふたりきりになりたい。しばらくは誰にも邪魔されたくないからな」
「ええ、それっていい考えね」
考えてみればエサムで見つかっていなければ私たちとっくにあの泉で暮らし始めてたかも‥‥でもこんな深い結びつきは生まれなかったのかも知れないな。
ほんと、わたしは最初からまるで神様がサイコロを振るかのように何度も二つの世界を行き来し、生死をさまよい、その度に迷い悩んで…
その度にレオナルドを愛してることに気づかされ、彼に愛されている喜びを感じたもの。いっぱい大変な目に遭ったからこそ、今ここにいられる喜びが数万倍も幸せに感じる。
本当にこの世界に残って良かったと思う。
きっとあの時聞こえた天の声も、いつも見守ってくれていたヤスミンの魂や、両親、そしておばあちゃんがわたしに頑張れって言ってくれたんだと思う。
”ヤスミンありがとう。350年前から今までわたしのご先祖様すべてにありがとうって言うわ。わたしにパワーを、信じる力を、強い意志を教えてくれたことを感謝します。あっ!それから女神さまにもね…”
「瑠衣?どうした?」
「ううん、ほんとにあなたに出会えたのは運命だったって、それにものすごーく幸せだなって…レオナルド愛してる」
「ずるいぞ。それは俺のセリフ。お前は衝撃的に現れて一瞬で俺の心を奪ったんだからな。まったく…瑠衣愛してる。永遠にだぞ!」
レオナルドの燃えるような瞳が瑠衣のヒスイのように煌めく瞳を絡み取っていく。
「わたし達って、最初に出会った瞬間からもう運命は決まっていたのかもしれないわね」
「ああ、きっとそうだろうな…いや。絶対にそうだ!」
ふたりして笑った。
「ふたりともまだいたんですか。いい加減早く行ってくださいよ。隊員たちが…もう見てられませんから…」ジャックに追い出された。
「俺も早く結婚したい!」ジャックが大声で叫んだ。
ーおわりー
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