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3なぜかとんでもないことになっていました
私は気を失ってどれくらい経ったのかわからなかったが何度か身体を揺すられて気が付いた。
「バイオレット大丈夫なのか、一体何があったんだ!」
そう言ったのは同じ学園の生徒会長のヨハン・フィジェルだった。
彼はバイオレットの秘かなあこがれの人。学園で必須科目の騎士練習生としても一番の剣の使い手の上、鍛え上げられた筋肉のオンパレードの身体はじゃじゃ馬なバイオレットさえもうならせるほどのたくましさなのだ。
そんな彼がいきなり入って来たから慌てた。
私はおろおろしながらも平然を装うとしたがいきなり荒げた声に驚いて起き上がってしまった。
「えっ?何がです?」
一気にさっきの醜態が脳内で蘇ってかぁと身体が熱くなる。
「何がってバイオレット…その格好。まさか誰かに辱めを?」
ヨハンはごつい手を握りしめその声は震えている。
はっと気を取り直して私は自分の姿を見下ろした。
「きゃー見ないでよ。ヨハンったら、いいから出て行って!」
そりゃ驚く。私のブラウスははだけていて胸が零れ落ちそうになっていたのだから…
そして先ほどの記憶がありありと蘇った。
私…私もうお嫁に行けない。まだ私は婚約が決まってもいないのにどうしよう。
卒業までに婚約者が決まらないと学園を卒業することすら出来なくなる。
そして浮かび上がったのはあいつが婚約を申し込んでいた事だった。
ああ…それにしても。そんなのない有り得ない!
くっ!ヴィルフリートの奴ー!!
私はヨハンに見せた失態などかすんでいた。
そもそもそんな事になった原因はこの国の歴史にあったのだ。
ティルキア国は数百年前はこの大陸すべての国を支配し強大な権力を誇っていた。だが、年月とともに力は衰退して行きそのうちあちこちの国から反乱がおき支配していた国は次々に独立していった。
そして10数年ほど前に戦争が終わりずっと昔小さな小国だったころの元のティルキア国の領土になった。
それから国は大きく変わった。
ずっと戦争に明け暮れたいたせいで若い男の数が極端に減り治安も悪化していた。
おまけに戦争で国に男がいなかったせいで女性も労働力として駆り出され働くようになっていた。
戦争が終わると国は困窮して国王は貴族の領地を没収することを決めた。貴族には一部の土地だけが残された。
そうやって国の領地を増やし一般の人たちに貸し出したり売られたりして今では土地を持って作物を自由に売買出来る人が増えた。商業も自由に行えるようになった。
国はその人たちから税金を取ることが出来るようになり次第に国内は活気が取り戻されて行った。
議会制度も生まれ貴族だけが執り行っていた政治は騎士や各都市の代表などが参加できるようになる。
それぞれに国家機関が出来て国の議会で決まった事を行政で行いそこにはたくさんの人が働けるようになり、東西南北にあった騎士隊も数年前に国家警備隊として新たな編成をした。
ヴィルフリートもそんな国家機関に属する人間なのだった。
元々この国には騎士隊(今は国境警備隊)が東西南北と王都に別れて5つあった。王都の騎士隊はゴールドヘイムダルと言う名で西の騎士隊はホワイトヘイムダル、東がブルーヘイムダル、南はレッドヘイムダル、北はブラックヘイムダルと煌びやかな名前があった。
今はその騎士隊を残すのは王都のゴールドヘイムダルだけだ。
そして西のホワイトヘイムダルを持っていたのが我がレスプランドール伯爵家だったのだ。
騎士隊長は我が家の伯爵がなると決まっていてそのため幼いころから騎士としての訓練を余儀なくされるのだが、それはとても名誉な事だった。
幼いころからそのことを頭に摺りこまれて来た私も実を言えばかなりの剣術の使い手で乗馬も弓も何でもこなせるいわゆるじゃじゃ馬なのだった。
ゆえに学園で騎士練習生としてもやってこられたというのに。
これでも結構女生徒には人気があるのです私。
あいつ。殺す!
大体どうしてあいつが医務室に現れたのかさえもわからない。
おまけに私をすごく親しい人のように扱って?
ふん、厚かましいったらありゃしない。
どうしてくれようかヴィルフリートの奴。
ふつふつの怒りが沸き上がるが…
そのせいでヨハンにどんな誤解を与えたかもわからないわ。
彼って生真面目だから。まあ、そんなところも好きなんだけれど。
一気に上がった温度計がいきなり下がるみたいに私の心はしおれた。
まあそんないくつもの理由のせいで結婚する男女が極端に少なくなりティルキア国は出生率も子供の数も非常に少なくなってしまった。
前の国王はその事をひどく心配して出産手当や育児手当、休業補償など手を尽くしたが焼け石に水だったと授業で習った。
それが今の国王に変わると結婚を義務化することが議会で決まってしまったのだ。
でもどうやって。そりゃあもう、一番に元貴族やお金持ちにしわ寄せが…
なので。パブリックスクールであるいわゆる元貴族やお金持ちが行く学園の生徒に卒業前に婚約者を決めることを義務付けられたのだ。
ああ、いやだ。戦争が終わってやっと貴族制度はなくなったのにいまだに政略結婚真っ盛りってわけなのだ。
ったく。どうして私たちが犠牲にならなきゃいけないのよ。いい迷惑だわ。
そりゃ元は辺境伯として西のべズセクトの領地を持ってはいたけれど。
それは今となっては何の意味もない事だろう。
私たちだって昔から貴族だからって政略結婚のいいこまになっていたことくらい皆知っている事なのに。
やっと私たちも自由な恋も仕事も出来るようになったというのに…
でも、モービンお兄様が嘆くのも無理はないかも知れない。今や貴族だったというだけでいわれのない差別や侮蔑の視線を受ける。
だからこそ元貴族は同じ貴族とのつながりに固執しているのかもしれない。
でも、そんなの私たちには関係ない事じゃないって言いたくなる。
両親は私が7歳の時に事故で早くに亡くなった。ちょうどそのころ貴族制度がなくなり父はたいそう気落ちしたからだと兄は言うけど、あの事故にあったのは私が病気になって高熱を出したと聞き両親が急いでいたからだと今でも胸が苦しくなる。
とにかく私には兄が4人いて一番上の兄モービンが私の親代わりだ。
兄は今では残った土地を担保に新しい貿易関係の会社を始めた。次の兄アルク兄さんは王都の国家機関での仕事に忙しい。3番目の兄コッズ兄さんは国境警備隊に入った。名前こそ違うが元の騎士隊とほとんど同じらしい。ただ違うのは騎士隊長が我が伯爵家の人間ではないことだ。父は騎士隊長であることを誇りにしていたと聞いた。兄も父が亡くなってやっと騎士隊長になれるチャンスがあったというのにあの時も私が怪我をして病院に付き添っている間にそのチャンスを逃した。
そうなのです。悲しい事に私は究極の悪運の持ち主らしくて周りの人を不幸に陥れる天才的な技を持って生まれたらしい。
ああ、最期に4番目の兄エドガー兄さんは大学院に通っている。将来は医者を希望しているらしい。
私は大きなため息をついた。
こんなことが知られたら兄に何といわれるか。
いいえ、お兄様があの男を婚約の申し込みを受けたのがいけないんだわ。
兄は伯爵家だった事を今でも誇りに思っていて騎士隊の隊長に返り咲きたいと思っているみたいなのだ。
そのためには私の縁談には王族や元公爵家の男性がふさわしいと思っているから始末に負えない。
今や王族も貴族も関係ないと言うのに、兄はそんな事を受け入れようとは思ってもいないようなのだ。
だからヴィルフリートとの婚約に兄が乗り気だと?胸がざわついた。
彼の母親の出目のホワティエ公爵家はかなり落ちぶれた…いえ、王族の血筋を引く由緒正しい家柄だけど領地もなく名ばかりの家柄だったと聞かされたような…
こんな学園に行く事を決めたのもお兄様でしょ。
15歳になるとこの王都にあるペンダル学園と言う特権階級しか行けないという学園に行くはめになったのは。
私は思わずゾクリとなって後ろを振り返る。今にも兄が見ているような気がしたから…
もう、一体誰のせいなのよ!!
許せないヴィルフリートの奴!
それにこんな薬物を使っている奴も!
私はしばらくして学園の女子寮に帰った。もちろんマーリン先生の許可を貰って。
マーリン先生には良かったわ。彼もすごく喜んでいたみたいよなんて言われて…
すると手紙が兄から届いていた。
*****
ーバイオレットへー
やっとお前の婚約者を決めた。名前はヴィルフリート・バルガン25歳。いいか、彼は王族の血を引く由緒正しいホワティエ公爵家の子孫なんだ。喜べ国家機関で働く優秀なエリートでお前にピッタリの男だから、すぐに学園にも婚約が決まったことを連絡しておいた。安心しろ。ヴィルフリートにも連絡したからお前に会いに来るだろう。また近いうちに一緒に挨拶に来るといい。じゃあな。ーモービン・レスプランドールよりー
*****
何よ!何よ!何が喜べよ。婚約なんて。もう!!
そんなに公爵家がいいならお兄様が婚約すればいいじゃない!
あんな、あんな不埒な奴!!
この事知ってたのね。だからあんな真似を。
くやしい!!
私はベッドの上で拳をマットレスに叩きつけた。
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