この度学園を卒業するために婚約しなければならなくなりまして

はなまる

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10色々とばれてしまいました


 結局ヴィルフリートに待ち伏せされて一緒に帰ることになる。

 そわそわとして何か話をと思って、そうだ。料理の事と思う。

 「あの、仔牛の煮込みどうでしたか?」

 「あっ、すごく旨かった。それにあのフォカッチャと一緒に食べると口の中で込んだスープがじゅわっと広がって…」

 「ですよね。あの料理私の故郷の料理なんですよ。あのコロケットのご主人がべズセクトの出身で他にもチーズたっぷりのドリアなんかもそりゃ絶品で…グゥー…」

 私はいつもならまかない料理を頂いて帰るのだが今日はあんなことがあって急いでいたので夕食を食べそこなっていた。


 「夕食まだなのか?」

 「まあ、誰かさんのおかげで食べそこなってしまいましたので」

 じろりとヴィルフリートを睨む。

 「俺のせいか?いや、あの質の悪い男たちのせいだろう?でも、何か食うか?」

 「大丈夫ですから」

 「ほら、そこの店先でラムサンドを売っているだろう?」

 ヴィルフリートはさっと走ってそのラムサンドと言う食べ物を買って来た。

 ラムサンドとは厚めに切ったパンに焼いた塩漬けの羊肉が挟んであって上にチーズがトロリと乗っている歩きながらでも食べれるものらしい。

 私は今まで知ってはいたが食べたことはなくて差しだされたそれを受け取ると少し戸惑ってしまう。

 「ほら、食ってみろ!」

 「でも、歩きながらなんて無理です」

 「いいから、ほら、こうしてかぶりつく」

 ヴィルフリートは自分の分まで買っていてそのパンの端っこにかぶりついた。

 「うまっ!」

 私の喉はごくりと鳴った。確かにお腹が減っていた。昼食もろくに食べれなかった。

 この男のせいで。そして練習の後のあの試合でかなりの体力を消耗して、アルバイトに来たのだから、それはもう…

 「では、せめてどこかに座って」

 私は目を彷徨わせて座るところを探す。

 運よく広場が近くにあってベンチが見えた。

 私は迷うことなくそのベンチを目指し始める。

 「待て!話がまだだぞ」

 ヴィルフリートが私の腕をつかんだ。

 「分かってます。でも、先にこれを食べたいので…」

 「あっ、そういう事。じゃ、ついでに飲み物買ってくる。先に行ってろ!」

 私が何かを言う前にもう彼は走り出していた。



 なんて気の利く人なんだろうと思った。

 私の兄なんか全部私にやらせるタイプだったのに…

 子供の頃はまだ使用人もいて何とか家の事はやってもらえたけど、そのうち家計が苦しくなりひとり、またひとりと使用人がやめていった。

 それに加えて私も大きくなってそのうち料理をすることになった。

 一番下の兄エドガーとは7歳違いで他の兄たちはすでに仕事をしていて手伝ってくれるのはエドガーだけだった。

 掃除も余儀なくしなくてはならなくなり、そのうちにほころんだ衣服とかもするようになりついには洗濯も…まあ、掃除や洗濯は交代で兄たちも手伝ってはくれたが料理だけは全くできなくて私は朝起きると朝食や簡単なランチも用意する羽目になって言った。

 家庭教師などもちろん雇えるはずもなく勉強は兄に教えてもらったり本を読んだりするのが精いっぱいだった。

 なのに突然王都のペンダル学園に行くように言われ、数か月は詰込みの勉強をさせられてこの学園にきたのだった。


 私は広場まで行くとベンチに座った。

 そしてやっとラムサンドを口に入れた。もちろんお腹が減っていてもかぶりついたりはしなかった。

 「美味し…い…」

 口に入れた途端肉汁がしみ込んだパンがしっとりしてチーズも蕩けて、ああ、もう何なの。この羊肉いい仕事してる。

 この塩加減が絶妙で口の中でパンと肉とチーズが混じり合って究極のワルツを奏でているではないか。

 「どうだ?うまいだろう」

 私は相当顔を崩していたらしく、思わずよだれがたれているのではと焦る。

 急いで口元に手を当ててこくこくと首を縦に振った。

 「ほら、これ」

 ぶっきらぼうに手渡されたのはとろりとした白いものが乗った黄金色の液体。

 なんですかと聞きたいが口の中がいっぱいですぐに話が出来ない。

 「これは、紅茶に牛乳の脂肪を泡立てて乗せた飲み物だ」

 私はその飲み物を見てこれがあの女生徒がよく騒いでいたティーホイップなる飲み物かと思う。

 私にはそんなものを買って飲む余裕はないかったから。

 やっとパンを飲み込んで「ありがとう。あの、お金払いますから」急いでカバンから財布を出そうとした。

 「どうして?こんな時は男が出すのが当然だろう。男に恥をかかせる気か?」

 「いえ、そんなつもりじゃないけど、あなたにそんな事をしてもらう理由がありません」

 「えっ?バイオレット。俺、これでも婚約者だから。一応。それともまだ認めないとか?」

 「いえ、そういう訳じゃないけど…悪いと思ったから」

 「そもそも俺は社会人。バイオレットは学生。婚約者じゃなくてもおごってもらえる立場だろう」

 「ごめんなさい。じゃあ、ごちそうになります」

 「最初からそう言えばいいんだ。さあ、食べろ!」

 「はい、これすごく美味しいです。実はずっと食べてみたかったんです。でもお行儀悪いから…」

 こんな所で貴族の性だろうか…


 「そうか。これからはいつでも欲しいときに買ってやるぞ」

 「いえ、そういうわけには」

 私、こんなもので誤魔化されてはいけないと。でも、なぜかすごくうれしいのはどうして?

 私はヴィルフリートが買って来てくれたティーホイップを飲んでみた。

 ふわふわした泡が口の中に広がって紅茶なのにとろりとした感触がして、こんな飲み物初めて飲みましたと興奮した。

 「美味しいです。ラムサンドもティーホイップも。ヴィルフリート様ほんとにありがとうございます」

 きっと今の私の顔は幸せオーラが全開で、ほころばせまいと思っているのに頬が勝手に緩み口元は口角が上がりっぱなしだろう。

 「いいんだ。それより様はつけるな。それにこんなものでバイオレットが喜んでくれるなら俺もうれしい」


 ふたりでベンチに並んで座ってニコニコしながらラムサンドを食べている。 

 他人が見たらきっと本当に仲のいい恋人同士に見えるに違いないと思うが私はラムサンドとティーホイップを堪能して満足していた。


 「そろそろ帰ろうか」

 「そうですね。まあ、大変もうこんな時間です。急いで帰らなくては…」

 「まあ、俺が一緒なんだ。大丈夫だろう」

 「そうでした。あなたは学園の先生ですものね」

 「でも、意外だったな。どうしてアルバイトなんかしてるんだ?」

 「どうしてって…ヴィルフリート様は我が家の事をご存知なんでしょう?婚約を申し込んだくらいですから」

 「そりゃ元伯爵だとは知っている。西の辺境伯でホワイトヘイムダルの騎士隊長を務める家柄だって事くらいは」

 「でも、それはもう昔の事です。今は伯爵でもありませんし、領地もほとんどなくなって兄弟はそれぞれ仕事をしていますし…」

 「バイオレットそれ?」

 私は指さされたところに目を向けて驚いた。ど、どうして。

 私はあまり私服を持っていない。学園では制服があるのであまり私服を着ることもない。

 学園の記念パーティとかもあるのでその時のドレスはもちろん持っている。だが普段に着る服は新しいものを買うことも出来なくて着ていた服を縫い直したりふたつの服を合わせてひとつの服に作り替えて着まわしているのだ。

 今日も服装もシャツはまだそんなに着古していないがスカートは何回も手直しをしたもので裏側は継ぎ接ぎだらけなのだが…

 今夜あのお客とやり合った時にどうやら破れたらしく。

 「いやだ。私ったらこんな姿で歩いてたなんて…」

 「いいから見せてみろ。何とかこの辺りを…なんだこれは?どうしてこんな継ぎはぎが?」

 「いえ、これは…ヴィルフリート様は我が家の事を知ってるのよね?」

 自分が伯爵家の女性だったのにと思うと羞恥が沸き上がった。

 でも、そんなもの今さら繕っても仕方がないじゃない。

 それにこんな事を知れば彼も婚約したことをを考え直すかも?





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