この度学園を卒業するために婚約しなければならなくなりまして

はなまる

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11どこで私を?

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 「ああ、それが?それに呼ぶとき様なんかつけるなって!」

 ヴィルフリートの素っ気ない返事が帰って来る。

 彼の態度はあきらかにおかしかった。

 もしかして知らないの?

 私が元伯爵家の人間だから婚約を申し込んだならおあいにく様、我が家がすっかり落ちぶれた事を知ったら…



 そうだ、我が家の実情を知ればヴィルフリートも…

 これはラッキーかも!

 私は少し前を歩く彼に走り寄る。

 「ヴィルフリート様。いえ、ヴィルフリートはもしかしてご存知なかったんですか?我が家はお金はほとんどないって事。私を学園に行かせるのだってそれは苦労していて、だから私自分の必要なものを買うお金が必要でだからアルバイトをしてるんですよ」

 「嘘だろう?だってお兄さんたちは皆一流の仕事をしているじゃないか」

 彼の驚いた顔ったら。

 やっぱり。

 思わず笑みがこぼれそうになるが。そこは必死に抑える。

 「そんな事、一番上のモービンお兄様の会社はあまりうまく行ってませんし、アルクお兄様だって自分の事で手いっぱいだわ。コッズお兄様なんか国境警備隊ですけど給料は少ないって嘆いてますし、エドガーお兄様はまだ勉強が必要だと言って大学院に通ってます。お金はモービンお兄様が何とか都合をつけるのに必死なんですから」

 っていきなりお嬢様みたいな言葉が出てくる。

 取り繕ったみたいで自分でもおかしくなる。

 そうこれが我が家の実情何だから、兄は毎月の学園の授業料の支払いも大変らしく、ここ3か月ほど滞納していて…

 そう言えばその支払いも事務室から催促されていたんだった。

 そんなこと知らなかったんでしょ。



 私は彼の表情を伺ってから顔を俯ける。

 だって、おかしくって。

 彼は嘘だろ?みたいな顔をして眉を寄せたから…



 「あっ、だから私は卒業したら仕事をするつもりなんです。あのヴィルフリート様…いえ、ヴィルフリートは仕事をする女性はどう思われます?私は結婚しても仕事は続けるつもりですし…」

 さぁ、どうぞ。言って下さい。俺にはそんな女性は無理だって…



 「いや、いいと思う」

 「えっ?いいんですか?」

 「おっ、それって結婚するって事だな」

 どうしてそうなるの!?

 「いえ、違いますから。そういえば。私あなたの事何も知らないですよね?」

 「ああ、そうだな」

 「一体私の事をどこで知ったんです?」

 そうよ。どこで私の事を知ったの?

 彼の事何にも知らないんだから。それに私を好きかどうかも…

 そう思うと突然、心の隅っこが引きつれたみたいになった。

 どうして?私が好きなのはヨハンなのに…



 「ああ、それはだな。あれだ。そう、俺、行政府の警務部で働いていてその時バイオレットのお兄さんのアルクと知り合ったんだ。妹がいるって聞いてたけど半年前バイオレット警務部に来ただろう?あの時君を見かけて…」

 「半年前?…そうだったわ。あの時はアルク兄さんの誕生日プレゼントを持って行ったけど、その時に?…でも、あなたに会った記憶はないけど…」

 「そりゃそうさ。俺は君を見ただけで直接会った訳じゃないから」

 「はぁ?あなた私の顔を知らないって言いましたよね?、それなのに…?」



 「それは…あの時は騎士練習で髪も顔もぐしゃぐしゃで君だってわからなかったからついあんなうそをついた。だって傷つくだろう?好きな人の顔見間違えたって聞いたら…あっ、でも、ほんとなんだ。バイオレットあの時俺は恋に落ちたんだ。バイオレットのあの美しい薄紫色の瞳と視線が合って…それで君の事が頭から離れなくなってどうしても君と一緒になりたいって。ちょうどその頃上司から結婚話を持ち掛けられてて、この学園もそうだけど。25歳にもなって結婚していないのは俺だけだったし、早く結婚して子供を作ってって国の政策があるだろう?だからうるさくって。さあ」

 彼が私に恋をしてるですって?冗談はやめてよ。初めて学園で会った時ヴィルフリートは何て言った?

 私だって気づかなかったのよ。そんな人が恋?ふざけないでよ。誰がそんな話信じるもんですか!!

 でも、あの時は淡いピンク色の髪は下ろしてお嬢様らしく花柄のワンピース何か着て行ったから…

 騎士練習のときのあの格好を見たら…まっ、無理もないか。

 私はひとり納得して頷いたが。



 「要するに私に婚約を申し込んでるって言えば上司の結婚話を断れたからなんでしょ?」

 「ち、違うって。何言ってるんだ。俺は本気だって。信じてくれよバイオレット。なぁ、ほら、もう一回ラムサンド買ってやろうか?それともティーホイップか?」

 「私をそんな子供みたいに…いいんですよ。お互い婚約してるふりをすればいいんで…いいえ、やっぱり婚約は解消して下さい。私には好きな人がいるんです」

 「なぁ、バイオレット考え直してくれよ。俺ほんとに本気だから」

 ヴィルフリートが親し気に私の肩を抱き寄せようとした。

 「やめて下さいよ!大きな声出しますよ」

 じろりと冷たい視線を送る。

 彼は伸ばした手の指先をぎゅっと折り曲げるとその腕をズボンのポケットに押し込んだ。



 「なあ、機嫌直してくれよぉ~。それより話は変わるけど、実はすごいことが分かったんだ。マーガレットは学園長の屋敷の侍女のお嬢さんで今回のあの事件って言えばいいのかな…」

 私はすぐにその半紙に飛びついてしまう。

 「私が飲まされたみたいな薬が出回っているって話?」

 何よ。まったく、もう…と思いながらヴィルフリートの話を聞く。



 「ああ、学園長は行政府から圧力をかけられていた事もだが、元貴族のフィジェル公爵家から多額の寄付を受けていて今年全員に婚約者が決まらなかったら学園に寄付をやめると言われたらしい。学園の存続にかかわることで学園長が頭がいっぱいだっだらしい。それで婚約が決まっていない元貴族の生徒たちがうまく行くようにあんな薬を使い始めたそうだ。マーガレットには狙いをつけた女子生徒に薬を仕込んだ飲み物を飲ませて相手になる男子生徒を医務室に案内するってわけだ。特にヨハンは父親に進められる縁談はすべて断ってしまって何とかしろと言われてたらしい」

 「それで私が?」

 「どうもそうらしいな。でも、俺が婚約を申し込んで決まったから学園長はかなり落ち込んでいたけど」

 彼は悪びれた様子もなく私をじっと見つめた。

 ああ、ヨハンとのことを気にしてるってわけ?

 「それで…あのマーリン先生はどうして」

 「マーリン先生は学園長にくびにするって脅されて仕方なく協力してたらしい」

 「やっぱり…マーリン先生がそんな事するはずないもの。先生は優しいから…」



 そうしているうちに女子寮の前に着く。

 「さあ、もう早く休め。疲れただろう?ったくどんだけ。授業受けて生徒会もやって騎士練習もやって、おまけにバイトかよ。すごいよバイオレット」

 「それはあなたじゃないんですか?私につきまとっていないで仕事してください。じゃあ、送ってくれてありがとう。ラムサンドおいしかったです。おやすみなさい」

 すっと彼の手が伸びて来たと思ったらいきなり彼の顔が目の前に…あっという間に唇を奪われた。

 羽が触れる程度の柔らかなキス。

 「グフッ!な、何するんですか?こんな事。女子寮の前ですよ!」

 「おやすみのキスくらいいいだろう?何も一発やらせろなんて言ってるんじゃないんだ。じゃあな」

 
 もう、油断も隙もない奴。

 「バイオレット、今バイトの帰り?」

 「ああ、アマリも今帰ったの?」

 「ええ、街に行ってきたの。王都にうちの商会があるからちょっと手伝いにね。それにフランツにも会いたかったし」

 「そう、彼元気?」

 アマリの父親はべズセクトでボルガータと言う輸入をしている商会だ。婚約者はその会社で働く人だった。

 「ええ、景気も良くなってきたから忙しいって」

 「そう、アマリも大変ね。卒業したら王都にいるの?」

 「ええ、フランツもこっちで仕事をするから」

 「そうなんだ。楽しみね」

 「バイオレットも遂に婚約者が決まって良かったじゃない。あんなカッコイイ人で彼って元騎士隊にいたのかしら?」

 「どうして?」

 「だって騎士練習生の講師じゃない」

 「ええ、そうかもね」

 でも彼はただの講師だしなぁ…首を傾げたからかアマリが驚いて聞いた。

 「何だ。バイオレット知らないの?」

 「だって、昨日婚約者だって兄から知らせが届いたんだもの。まあ、その辺は兄がきちんと調べてると思うから心配ないと思うけど」

 「でしょうね、お兄様は元騎士隊のエリートだものね」

 「そんなの関係ないでしょ。もう休むわ。アマリおやすみ」

 私は大きなあくびをした。

 そう言えば肝心なこと何も聞いていなかった。

 どこの出身だとか、爵位があったのかとか、学校や仕事は何をしていたのかとか…まあ兄が決めたんだものそのくらいきちんとしてるわよね。きっと。

 それに結婚するって決まったわけでもないんだし…

 いやいや、違うったら、私はまだヨハンに告白するつもりだし。

 やっぱり疲れた。早く休んだ方がいい。



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