この度学園を卒業するために婚約しなければならなくなりまして

はなまる

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13私の婚約者ってこんな人でしたっけ?


 
 「バイオレット待てよ」

 ヴィルフリートが追いかけて来る。

 私は夢中で走っていてそんな言葉が耳に入る余裕はなかった。

 自分でもこんな態度をとるなんて思ってもいなかった。

 ただ、目の前に現実突きつけられて思わず走り出してしまった。

 そんな事もうわかっていた事なのに…おかしい。私はおかしい。そんなこと…

 私は騎士練習場の建物の裏手に回り込むとやっと壁に背を向けて座り込んだ。



 ヨハンはいつも頼りになっていつもみんなに優しくてそんなあなたにずっと憧れていた。

 騎士練習生になったのだって…男子生徒の中にたったひとりの女子生徒だったけど…

 それでもあなたは特別な目で見たりはしなかったのに。

 いつも声をかけてくれて親切に接してくれた。

 だから私、勘違いしたのかな?

 だから私、少しは好意を持ってもらっているって思ったのかな?

 だから私、あなたに好きだって告白したいってずっと思ってたのかな?

 でもあなたに好きって知られたら私の事嫌いになるかもって恐かった。

 それに私を見るあなたの視線はいつだって女の子を見るようなあんな瞳ではなかったもの。

 そう言えば私には他の男子生徒と同じ温度で同じ空気だった気もする。

 そうよね、私は特別じゃなかった。

 だからきっと最初から感じていたんだと思う。

 この恋はかなわないって。だから告白しようと何度も思っても恐くて告白できなかったんでしょうね。

 私ったらばかみたい。

 そんな事に今さら気づくなんて……

 ううん、きっともうずっと前に気づいていたのかもしれない。けど…



 「ばか、探したぞ」

 はっ?ヴィルフリートにばか呼ばわりされたと思ったらいきなり後ろに回り込まれてそっと後ろから抱きしめられた。

 私は抗おうとして腕を上げかけたけど、彼が優しくその腕をなだめるように押し下げて来て私はそれ以上抗えなくなった。

 彼は一言もしゃべったりしなかった。

 ただ、じっと…黙って頭を何度も何度も優しく、それはもう優しく撫ぜてくれた。

 その感触は母を思い出していつしか私は回された彼の腕にすがっていた。

 そっと彼の腕に頬ずりするみたいに顔を傾ける。その度に眦から涙が零れ落ちて彼のシャツを濡らした。

 それでも彼は何も言わなくて。

 いつもだったらシャツが濡れるだろう。とか、いつまで泣いてるんだ。とか言いそうなのに。



 「私ずっとヨハンに憧れてたの。でもずっと告白できなくて」

 「だろうな」

 「なのにあなたが現れて」

 「俺のせいか?」

 「だって、すぐに身体に触って来たし」

 「だからあれは不可抗力だって」

 「いつだってどこからか現れて…あなた私を見張ってるの?」

 私は涙でいっぱい濡れてぐしゃぐしゃな顔のままヴィルフリートの方に振り返った。

 「俺はそんなに暇じゃないからな!」

 彼の顔がなぜかとんでもないくらい悲しそうに見えた。

 「こんな所に座ってたら冷えるぞ。さあ、戻ろう」

 「いやよ。ここにいたいの。あなたはひとりで行けばいいじゃない」

 「なぁ、いいから立ってくれよ」



 そこにざわざわと人の気配がした。

 「ヨハンなの?」

 「来るわけない」

 そう言うと私をかばうように彼が私の身体を塞いだ。

 座ったまま壁に押し付けられてまるで恋人が逢引きでもしているかのように私たちはぴったりと重なっていた。



 曲がり角を曲がって来たのは3年生らしい男子生徒だった。

 彼らには私たちがまるで透明人間かのように見えないらしく。と言うより眼中にないみたいだった。

 がやがやと騒ぎながらさらに奥へと入って行く。

 「おい!早く回せよ」

 「待てよ、今回すって」

 「これ、めちゃくちゃいいよな」

 「ああ、癖になる。やめられないよ」

 口々にそう言いながらビンを回して行く男子生徒たち。

 

 「バイオレットいいからそっと立って、あいつら薬が回ってるから近づかない方がいい。何を言って来るかわからないからな。さあ、行こう」

 ヴィルフリートは私を危険な目に合わせたくないらしく、そっと私の手を取った。人差し指を唇に当てて静かになというふうに合図をする。

 私たちはそっと足音を立てないよう静かにその場所を離れた。



 角を曲がり安全な場所に私を連れてくる。

 「いいかバイオレット、今見たことは誰にも言うんじゃない。あの薬は誰かが裏にいるかもしれない。だから危険なんだ。わかったか?」

 ヴィルフリートは後ろを振り返って安全を確かめる。

 私もきっとあれは普通じゃない事で彼の言う意味はわかる気がしたが…

 「ええ、でもあんな事を放っておいていいの?」

 「それはさせないから安心しろ。バイオレットは教室に帰るか?」

 「ううん、今日はもう寮に帰るわ。夜はアルバイトもあるし…でも気を付けてよ」

 「俺も一緒に行くから」

 「でも、仕事あるんじゃ…」

 「今はバイオレットのそばにいるのが仕事だ」

 「何よそれ…」

 でも今は彼の温もりがうれしいとさえ感じた。

 

 私は寮に帰ろうとしたら引き留められた。

 「バイオレットこっちだ」

 「どこに行くんです。寮はこっちですけど」

 「いいから、今から街に行こう」

 「はっ?でもこんな時間からいいんですか?私、制服ですよ」

 「教師が一緒なんだ。どうにでも理由は付けられる。それに俺は婚約者だしな」

 「知りませんよ」

 「ああ、責任は俺が取る。いいから行くぞ」

 彼は私の手を取るとずかずか歩き出した。





 

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