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14信じていいのかはわかりませんけど
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ヴィルフリートが街の繁華街に向かって歩いて行く。
私は手を繋がれたままでまるで捕獲された何かみたいな気分だ。
「もう、ヴィルフリートったらついて行くから離してよ。これじゃ目立って仕方ないわ。まだ授業は終わってないのよ」
「いいだろう?」
そう言って彼はつないだ手を離そうとはしない。
学園は街なかにあって繁華街も近い。だから私はアルバイトをするのも便利だし帰りも心配ないのだ。
「食事まだだったよな。腹が減っただろう。何にする?」
「私、食欲ないんで」
「じゃあ、ティーホイップでも飲むか?」
「ええ、そうね」
あれは美味しかった。脳内があの味を思い出して口の中に唾液が広がった。
ヴィルフリートはそれ以上何も言わずカフェに入った。
昼時を少しずれたので人は少なかった。一番奥まった席に私を座らせると当たり前のように彼が隣に座った。
「前、空いてますよ」
「いいんだ」
私はもっと奥まで詰めて彼と距離を取るとなんで?と言う顔をしてまた詰めて来た。
店員が来るとティーホイップを注文した。
「あとこれも」彼がメニューを指さした。
「私はいらないわよ」
「ああ、俺が腹減ってるから」
そう言うとハムとチーズを挟んだサンドイッチをふたつ頼んだ。
先日のラムサンドを食べた時私がチーズ好きだって気づいたのかもしれない。
すぐにサンドイッチとティーホイップが来て私たちは食事を始める。
ヴィルフリートは、「これ以外とうまいぞ」と言うと私の口に一切れサンドイッチを頬張らせた。
「ちょ…もぐもぐ……これ、おいしい」
「な?もう一切れ食うか?ほら」
何?この人って人に食べさせるのが趣味?確か食堂でもあーんしてとか言ってたし…
でも、お腹が減っていたせいなのかサンドイッチが美味しくて3切れも平らげた。
「これ食べたらドレス選びに行く。それから指輪もだ」
「ドレスありますけど。それに指輪って?」
「もうすぐ卒業記念の夜会があるだろう?その時着るドレスだ。婚約者の色の入ったドレスって相場は決まってるだろう?それに婚約決まったんだし指輪バイオレットの好きなものでいいぞ」
「そうかもしれませんけど…今すぐでなくても」
「もう、ヨハンの事は踏ん切り付けろ。そのためにも指輪を買うのが一番だ」
「私、ヨハンの事なんか」
「未練たらたらだろうが…」
「そんなんじゃありませんから!ただ…なんていったらいいかわかりません。勝手に涙が止まらなかっただけです!」
「涙はバイオレットがまだヨハンを諦められないからに決まってる」
「違います。ヨハンの事はもうあれで良かったって思ってますから」
「いいや、思ってない。気持ちに切りをつけるために俺に指輪を送らせるんだな」
「どうして?私の事好きでもないくせに」
「はっ?俺がいつそんな事言った?俺はお前を愛してるって言ったはずだが」
「あんなの信じれる訳ありません」
「じゃあ、婚約の証に指輪を送る。ドレスもだ。いいな」
「これって、どうしてもお受けしなきゃいけません?」
「はあ?当たり前だろう。婚約者としての義務だ」
「義務ですか。わかりました。義務なら仕方ありませんね」
私たちはカフェを後にすると街中の宝石店を訪れた。
そこでヴィルフリートは私に薄紫色の美しい指輪を買ってくれた。
ヴィルフリートが言った。
「一目見た時からバイオレットのその美しい瞳に惹きつけられたから、アメジストはどうだろうか?」
「ええ、私はよくわからないわ。あなたが決めてくれたいいわ。だってあなたが送ってくれる指輪なんだから」と答えた。
でもすごくきれいな指輪を指にはめてもらったらすごくうれしかった。
彼ったら指輪をはめるとき照れて赤くなってた。
「ありがとう」って言ったら「あまり高価な指輪じゃなくて悪いな」って言われた。
「そんな事気にしないわ。だってすごくきれいだもの」
何だか不思議な気持ちだったけどきれいなものを喜ばない女性はいないもの。
婚約したって実感もないままだったけど、やっぱり指輪を貰うとジワリと彼を見つめてしまった。
整った眉は太くて力強い。目は大きくてはっきりしていて、鼻だってきれいな形で羨ましいくらい。唇は薄いけど大きすぎず小さすぎず全体的な配置がすごく良くて美しい。
ごくりと喉がなって私は思わず見惚れてしまった。
こんなにいい顔立ちの人はタイプじゃないって思っていたけど、彼は優しいしよく気が利いて話をしていても楽しい。
意外といい人かもって思えて来た。
さっきまでヨハンとマーリン先生の熱いところを見て動揺しまくっていた自分が?
なんて調子いいんだろうって思うけど彼に元気づけられたのは確かだった。
かなりうきうきした気分でドレスを見に行った。
ドレスは仕立てはもう間に合わないから既製品を直してもらうことになった。でもそれでも夜会にはぎりぎりだった。
私は彼って天才って思ってしまった。
だって今日じゃなかったら間に合わなかったかもしれなかったんだもの。
もしかして彼そこまで計算ずくで?
そんなはずはない。だって…
でも正解だったわ。ヴィルフリートの言う通りドレスを選びに行って。
彼がこんなのはどうって見せてくれたドレス。
そのドレスは濃いめの青色のマーメイド型のドレスに金色や銀色のビーズが散りばめられているデザインでとってもきれいなの。
まるで星空をまとう気分になれそうなドレスだわ。
私は一目見て気に入った。
彼って意外といいセンスしてるのかもって思った。
塞いでいた気分もいつの間にか上向いていた。
「ありがとうヴィルフリート。すごく素敵なドレスだわ」
ったく。こんな日に…
私の心をぐしゃりと掴んでしまいそうなあいつが腹立たくもある。
そっと抱きしめられて危険を避けようとしたり夜会のドレスを送ってくれてとどめは婚約指輪なんて。
こんなものに騙されてはいけない。
私は必死でヴィルフリートの嫌なところを思い出そうとした。
そうよ。整った顔立ちだから女性との付き合いも多かったみたいだしこんなものを選ぶのには慣れているに決まっている。
そう、どうすれば女が喜ぶか知ってるのよ!
私はそんな事を思うと浮かれていた気持ちがすぐに凪いだ。
ヴィルフリートとは距離を置いておくつもり。
だって卒業したら婚約は解消するかもしれないから。
彼もそのつもりかもしれないし。
なぜか彼が私に夢中だとは信じ切れていなかった。
でも、薬指にはめられたきれいな指輪を見ると頬が勝手に緩んでしまう。
寮の前に着いた。
「今日はありがとう」私はもう一度お礼を言った。
「いいんだ」そして向かい合わせになった。
またいつもみたいにキスでもするつもり?なんて構えていたら…
ㇰシャリと金色の髪をかき上げてその整った顔を少し傾けた。
「今日は…そのすまなかった。いきなり強引に指輪を買いに行くなんてバイオレットの気持ちも考えないで…そのいやじゃなかったか?」
「い、いいのよ別に嫌だなんて思ってないからそんなの気にしないで」
私だって何気にうれしかったんだから。少し頬が熱くなってくる。
「そうか。なら良かったんだ。バイオレット今日は指輪受け取ってくれてありがとう」
彼はふっと安心したように口元を緩めた。
「何よ。改まって…私だって嬉しかったから」
いやいや、そんな控えめな態度で出られると調子がくるってしまう。
すっと目が細められて上から下に視線を這わすと「いいから今日はもうゆっくり休め」なんて言う。
あんなに押せ押せだった人がどうしてこんな謙虚な態度を?
もう、調子狂うから。
「だめよ。夕方からアルバイトがあるんだから」
「はっ?失恋したくせにそんな元気あんのかよ!」
「もう!何よ。そんな事あなたに関係ないじゃない!」
私は口を尖らす。
婚約者が別な人を好きだって認めたくはない。けど…まあ、どうあがいたって失恋確定なんだから。
私は少ししょんぼり肩を落とす。
「いいからアルバイトは今日は休め!いいな」
頭をなぜなぜされて肩をポンポン叩かれる。
はっ、その上から目線の態度はなに?
まあ年上だからって嫌な人。
失恋とアルバイトは関係ないじゃない。
「そんな事で私が仕事を休むとでも思ったの?失礼な、仕事をしているのよ。勝手に休めるわけないじゃない。もういいから帰って、ヴィルフリートだって仕事があるんでしょ。私は少し休んで出かけるから、じゃあ。とにかく今日はありがとう」
私は肩を怒らせて女子寮の扉をバーンって開けると振り返らず中に走り込んだ。
廊下を曲がったところでこっそり外を見る。
彼は左手で髪をかきむしると右足で石ころを蹴り飛ばして去って行った。
ちょっぴり、ほんのちょっぴり悪い事したかなって思った。
私は手を繋がれたままでまるで捕獲された何かみたいな気分だ。
「もう、ヴィルフリートったらついて行くから離してよ。これじゃ目立って仕方ないわ。まだ授業は終わってないのよ」
「いいだろう?」
そう言って彼はつないだ手を離そうとはしない。
学園は街なかにあって繁華街も近い。だから私はアルバイトをするのも便利だし帰りも心配ないのだ。
「食事まだだったよな。腹が減っただろう。何にする?」
「私、食欲ないんで」
「じゃあ、ティーホイップでも飲むか?」
「ええ、そうね」
あれは美味しかった。脳内があの味を思い出して口の中に唾液が広がった。
ヴィルフリートはそれ以上何も言わずカフェに入った。
昼時を少しずれたので人は少なかった。一番奥まった席に私を座らせると当たり前のように彼が隣に座った。
「前、空いてますよ」
「いいんだ」
私はもっと奥まで詰めて彼と距離を取るとなんで?と言う顔をしてまた詰めて来た。
店員が来るとティーホイップを注文した。
「あとこれも」彼がメニューを指さした。
「私はいらないわよ」
「ああ、俺が腹減ってるから」
そう言うとハムとチーズを挟んだサンドイッチをふたつ頼んだ。
先日のラムサンドを食べた時私がチーズ好きだって気づいたのかもしれない。
すぐにサンドイッチとティーホイップが来て私たちは食事を始める。
ヴィルフリートは、「これ以外とうまいぞ」と言うと私の口に一切れサンドイッチを頬張らせた。
「ちょ…もぐもぐ……これ、おいしい」
「な?もう一切れ食うか?ほら」
何?この人って人に食べさせるのが趣味?確か食堂でもあーんしてとか言ってたし…
でも、お腹が減っていたせいなのかサンドイッチが美味しくて3切れも平らげた。
「これ食べたらドレス選びに行く。それから指輪もだ」
「ドレスありますけど。それに指輪って?」
「もうすぐ卒業記念の夜会があるだろう?その時着るドレスだ。婚約者の色の入ったドレスって相場は決まってるだろう?それに婚約決まったんだし指輪バイオレットの好きなものでいいぞ」
「そうかもしれませんけど…今すぐでなくても」
「もう、ヨハンの事は踏ん切り付けろ。そのためにも指輪を買うのが一番だ」
「私、ヨハンの事なんか」
「未練たらたらだろうが…」
「そんなんじゃありませんから!ただ…なんていったらいいかわかりません。勝手に涙が止まらなかっただけです!」
「涙はバイオレットがまだヨハンを諦められないからに決まってる」
「違います。ヨハンの事はもうあれで良かったって思ってますから」
「いいや、思ってない。気持ちに切りをつけるために俺に指輪を送らせるんだな」
「どうして?私の事好きでもないくせに」
「はっ?俺がいつそんな事言った?俺はお前を愛してるって言ったはずだが」
「あんなの信じれる訳ありません」
「じゃあ、婚約の証に指輪を送る。ドレスもだ。いいな」
「これって、どうしてもお受けしなきゃいけません?」
「はあ?当たり前だろう。婚約者としての義務だ」
「義務ですか。わかりました。義務なら仕方ありませんね」
私たちはカフェを後にすると街中の宝石店を訪れた。
そこでヴィルフリートは私に薄紫色の美しい指輪を買ってくれた。
ヴィルフリートが言った。
「一目見た時からバイオレットのその美しい瞳に惹きつけられたから、アメジストはどうだろうか?」
「ええ、私はよくわからないわ。あなたが決めてくれたいいわ。だってあなたが送ってくれる指輪なんだから」と答えた。
でもすごくきれいな指輪を指にはめてもらったらすごくうれしかった。
彼ったら指輪をはめるとき照れて赤くなってた。
「ありがとう」って言ったら「あまり高価な指輪じゃなくて悪いな」って言われた。
「そんな事気にしないわ。だってすごくきれいだもの」
何だか不思議な気持ちだったけどきれいなものを喜ばない女性はいないもの。
婚約したって実感もないままだったけど、やっぱり指輪を貰うとジワリと彼を見つめてしまった。
整った眉は太くて力強い。目は大きくてはっきりしていて、鼻だってきれいな形で羨ましいくらい。唇は薄いけど大きすぎず小さすぎず全体的な配置がすごく良くて美しい。
ごくりと喉がなって私は思わず見惚れてしまった。
こんなにいい顔立ちの人はタイプじゃないって思っていたけど、彼は優しいしよく気が利いて話をしていても楽しい。
意外といい人かもって思えて来た。
さっきまでヨハンとマーリン先生の熱いところを見て動揺しまくっていた自分が?
なんて調子いいんだろうって思うけど彼に元気づけられたのは確かだった。
かなりうきうきした気分でドレスを見に行った。
ドレスは仕立てはもう間に合わないから既製品を直してもらうことになった。でもそれでも夜会にはぎりぎりだった。
私は彼って天才って思ってしまった。
だって今日じゃなかったら間に合わなかったかもしれなかったんだもの。
もしかして彼そこまで計算ずくで?
そんなはずはない。だって…
でも正解だったわ。ヴィルフリートの言う通りドレスを選びに行って。
彼がこんなのはどうって見せてくれたドレス。
そのドレスは濃いめの青色のマーメイド型のドレスに金色や銀色のビーズが散りばめられているデザインでとってもきれいなの。
まるで星空をまとう気分になれそうなドレスだわ。
私は一目見て気に入った。
彼って意外といいセンスしてるのかもって思った。
塞いでいた気分もいつの間にか上向いていた。
「ありがとうヴィルフリート。すごく素敵なドレスだわ」
ったく。こんな日に…
私の心をぐしゃりと掴んでしまいそうなあいつが腹立たくもある。
そっと抱きしめられて危険を避けようとしたり夜会のドレスを送ってくれてとどめは婚約指輪なんて。
こんなものに騙されてはいけない。
私は必死でヴィルフリートの嫌なところを思い出そうとした。
そうよ。整った顔立ちだから女性との付き合いも多かったみたいだしこんなものを選ぶのには慣れているに決まっている。
そう、どうすれば女が喜ぶか知ってるのよ!
私はそんな事を思うと浮かれていた気持ちがすぐに凪いだ。
ヴィルフリートとは距離を置いておくつもり。
だって卒業したら婚約は解消するかもしれないから。
彼もそのつもりかもしれないし。
なぜか彼が私に夢中だとは信じ切れていなかった。
でも、薬指にはめられたきれいな指輪を見ると頬が勝手に緩んでしまう。
寮の前に着いた。
「今日はありがとう」私はもう一度お礼を言った。
「いいんだ」そして向かい合わせになった。
またいつもみたいにキスでもするつもり?なんて構えていたら…
ㇰシャリと金色の髪をかき上げてその整った顔を少し傾けた。
「今日は…そのすまなかった。いきなり強引に指輪を買いに行くなんてバイオレットの気持ちも考えないで…そのいやじゃなかったか?」
「い、いいのよ別に嫌だなんて思ってないからそんなの気にしないで」
私だって何気にうれしかったんだから。少し頬が熱くなってくる。
「そうか。なら良かったんだ。バイオレット今日は指輪受け取ってくれてありがとう」
彼はふっと安心したように口元を緩めた。
「何よ。改まって…私だって嬉しかったから」
いやいや、そんな控えめな態度で出られると調子がくるってしまう。
すっと目が細められて上から下に視線を這わすと「いいから今日はもうゆっくり休め」なんて言う。
あんなに押せ押せだった人がどうしてこんな謙虚な態度を?
もう、調子狂うから。
「だめよ。夕方からアルバイトがあるんだから」
「はっ?失恋したくせにそんな元気あんのかよ!」
「もう!何よ。そんな事あなたに関係ないじゃない!」
私は口を尖らす。
婚約者が別な人を好きだって認めたくはない。けど…まあ、どうあがいたって失恋確定なんだから。
私は少ししょんぼり肩を落とす。
「いいからアルバイトは今日は休め!いいな」
頭をなぜなぜされて肩をポンポン叩かれる。
はっ、その上から目線の態度はなに?
まあ年上だからって嫌な人。
失恋とアルバイトは関係ないじゃない。
「そんな事で私が仕事を休むとでも思ったの?失礼な、仕事をしているのよ。勝手に休めるわけないじゃない。もういいから帰って、ヴィルフリートだって仕事があるんでしょ。私は少し休んで出かけるから、じゃあ。とにかく今日はありがとう」
私は肩を怒らせて女子寮の扉をバーンって開けると振り返らず中に走り込んだ。
廊下を曲がったところでこっそり外を見る。
彼は左手で髪をかきむしると右足で石ころを蹴り飛ばして去って行った。
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