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15実は私、今日誕生日なんです
私は時間が来るといつものように【コロケット】にアルバイトに行った。
「バイオレット今日も頼むよ。でも今日仕事でよかったの?」
いきなりラーシャさんがそう聞いた。お店ではナイトって呼ぶけどそうでないときはちゃんと名前で呼んでくれる。そんなところも好きだ。
「ええ、もちろんです。よろしくお願いします。なにか?」
「やっぱり。思ってた通りだ。バイオレット今日は誕生日だろう?友達とお祝いとかあるんじゃないかと思って」
「えっ?私が誕生日ってどうしてわかったんです?」
私は驚いた。ラーシャさんに教えた記憶はなかった。
「ああ、それはバイオレットが見せてくれた学園証を見ればわかるしお兄さんが教えてくれたんだよ」
「ああ、そうでしたか。でもお祝いはありませんからご心配なく。私の誕生日ってホントに学年の最期の方なのでいつもみんなから忘れられてることが多いんですよね。それにもう誕生日を祝うような子供でもありませんし…」
「何言ってるんだい。誕生日はいつだってお祝いするもんだよ。そう思って今夜はアルクとエドガーも来るから一緒にお祝いしようね」
「兄も来るんですか?いつの間に…」
ふたりは私がここで働いている事も知ってるしバズバルドルにいるから問題はない。
今日は特にお祝いするつもりもなかったけど、ラーシャさんったらちゃんと私の事?
胸が熱くなって私は黙ったままだ。
「いいじゃないか。どうせべズバルドルにいるんだし誕生日に一緒に食事するくらい。まあ、たいしたものはないけど。そうだバイオレット。ケーキは何がいい?フルーツタルトとかチーズケーキそれともチョコレートケーキは?」
ラーシャさんの目が遠慮なんかしなくていいと輝く。
そうは言っても。
「でも、いいんですか?お店も忙しいのにケーキまで…」
「何言ってるの。そんな事構わないから」
私はいったん遠慮したものの何にするかもうすでに決まっていた。
なんてちゃっかりしてるんだろう私などと思いながらもうれしくて仕方がない。
「じゃあ、お言葉に甘えてチーズケーキでもいいですか?」
「ああ、遠慮なんかしなくていいのに、チーズケーキは一番簡単じゃない。まあバイオレットがいいならいいんだけどね。私も助かるよ。最後までいてくれるとね。じゃあ、今夜もよろしく頼むよ。帰りはお兄さんがいるし安心だろう?」
「はーい」
今日はヨハンの事があってへこんだけど、ヴィルフリートからは指輪やドレスを貰ったし、おまけにラーシャさんからこんなサプライズまで一体どんな日なのかと思った。
ティルキア国の最高神オーディンが私に同情してくれたのかも知れない。おまけにチーズケーキまで食べれると分かって張り切るしかない!
いつもの服装にフリルのついたエプロンを着けると仕事を始めた。
お客さんはまずまず入って食堂はいつもの賑わいだった。
私は料理を運んだり皿を片付けたりと大忙しで働いた。
あと30分で閉店をいうときになってヴィルフリートがふらりと入って来た。
「いらっしゃいませ…えっ?遅いんじゃない」
だっていつもならもうとっくに来てるはずだったから。
「ああ、バイオレットの帰りが遅いから心配になった」
「もしかして気にしてくれたの?」
「だっていつもはもっと早く帰って来るだろう?今日は閉店まで仕事なのか?」
「ええ…」
「俺が来たんだ、送って帰るから」
「でも…」
「なんだ?迷惑なのか?俺は婚約者なんだからな。それくらいするのが当然だろう?」
「ううん、迷惑とかじゃないのよ。ただ…その」
彼があまりに真面目な顔で言うから。いつからそんないい人になったんだろう?いつもはにやにやしてちょっと下心ありみたいな感じなのに…
視線が泳いで不審者みたいにそわそわする。
「どうしたんだいナイト、大丈夫かい?」
ラーシャさんが困っているように見えたのか声を掛けてきた。
「あの、僕は婚約者のヴィルフリート・バルガンと言います。いつもバイオレットがお世話になっています。帰りは僕が送りますから」
やっぱりおかしい。
「婚約者?ナイトいつ決まったんだい?早く教えてくれなきゃ。私も心配してたんだからね。卒業はもうすぐなのにまだ決まってなかっただろう?」
「ええ、でもほんの数日前に決まったばかりなんです」
「まあ良かったじゃないか。そうだ。あんたも一緒にお祝いするだろう?」
ヴィルフリートが何の事でしょうかと首をひねった。
「お祝いですか?いったい何のお祝いですか?」
「ちょっとあんた。婚約者の誕生日も知らないの?まったく、困った婚約者だね」
ラーシャさんは大丈夫なのかい?みたいな目線で私を見た。
ヴィルフリートの眉が上がり私をじろりと見た。
「いえラーシャさん。彼とはまだほんとに知り合ったばかりで…」
私は何でか慌てて彼をかばう。彼は悪くないはず…
ヴィルフリート怒ってるわよね。私も言いにくくて今日が誕生日だと言えなかったし。
でも、あの時はすっかり忘れていたんだけれど。
でも…?もしかしてあの指輪やドレスが…?
私は彼を見る。
いや、ない。彼はホントに知らなかったみたい。かなり焦ってるし怒ってるもの。
「そういえば、あなたもうかなり前からうちの店に来てた気がするけど…バルガンさんとか言ったね。あんた2~3か月前からうちの店に来てたよね?」
ラーシャさんがさらに追及する。
「はい、彼女に婚約を申し込んだのが3か月前だったのででもはっきりと決まった訳ではなかったですし、彼女がここで働いていることは知らなくて」
「でも何度か顔を合わせてるんじゃないのかい?」
ラーシャさんが目の前まで来て呆れた顔で見る。
今度は彼が目を泳がせる番。
今日は一体どんな日なんだろう。そんな事を思いながらラーシャさんもうその辺でと言いたくなる。
「はい、ですが…その、俺の最初の印象がすごく悪くて彼女を怒らせたので何だか声を掛けずらくて…」
彼は蛇に睨まれたカエルみたいに小さくなって行く。
私は思わず彼が可哀想になる。
確かにラーシャさんに睨まれたら恐い。何しろラーシャさんはでっぷりと体格がいいし声も大きい。まあこんな店を女手ひとつでやっているんだもの。そりゃ強くなるけど。
「そうなんです。彼ったら私を見てわからなかったんですよ。まあ、騎士練習で汗だくになってましたから無理もないんですけど。それに婚約者って決まってたわけでもなかったですし…私は全然気づいていなかったですけど」
って言うのは嘘。ちゃんと気づいてました。それに気にしてないと言えばうそになる。
はい。でもお互い声を掛けずらかったって言うのは本当だしラーシャさんもうこの話はその辺でやめませんか?
「はっ?本当に?うそだろ…ったく!」
彼が呆れたような顔でこちらを見た。
何よ。助けてあげようと思ってるのに!!
「だって静かに隅っこの席なんかに座っているお客さんなんか見ているはずないじゃない。私はそうでなくても色目を使われたり、お酒を飲んで酔っ払ったお客さんの事で精いっぱいなんだから。そんなんだったら声を掛ければよかったじゃない」
もうかばってなんかあげないんだから。
「いや、あまりなれなれしいと嫌われるかもしれないと思ったから…」
「うそ!結構図々しいくせに変なところあるのね」
私の脳内に医務室でも出来事が浮かんで来てまた腹が立った。
何よ。あの時は婚約者だからってあんな事したくせに!!
「だから、変に気を使ってたんだって。俺だって少しくらいデリケートなところあるんだからな。それにどうして誕生日だって教えてくれなかったんだ?知ってたら俺だって食事に誘うとか何か出来たのに」
「何よ。話をすり替える気?」
「ちょっと!喧嘩はそこまでにしておくれ。お互い遠慮してたって事だね。まあ仕方なかったってことにして、でもこれからはそんな事はしないでお互いをよく知ることだよ。じゃあ、そういう事でバルガンさんも一緒に今夜お祝いすればいいだろう?それでどうだいナイト?」
店の中なのでラーシャさんは私をナイトと呼んだ。
「もちろんいいよな。ナイト?」
ヴィルフリートが意味深ににやりと笑った。
もう、どうしてこんな話に?
でも、これは悪い兆候だ。
彼がこんな顔の時は逆らうべきではない。嫌だと言ったらしつこくつきまとっていいと言うまで食い下がる。きっとサメみたいに…
私だって少しは学習能力はあるんだけど。兄も来るし…
「いいけど。兄もくるのよ。それでもいいの?」
「もちろんだ。ちょうどいい。俺も挨拶もしたかったし、兄ってアルクが来るのか?」
彼はすごい勢いで食らいついた。
「ええ、アルク兄さんとエドガー兄さんが来るって」
「そうか。久しぶりに楽しい酒が飲めそうだ」
「分かってる?私の誕生日なんだから」
「もちろんだ。誕生日おめでとう」
彼は眩しいほどの笑みを向けて来た。
なに?このぞわりとする感覚…
「もういいから。それより少し食べる?お腹減ってるんでしょう?」
私は話をそらした。
「ナイト。彼にビールを持って行ってやりな。それとつまみも」
ラーシャさんがビールとハムやチーズのおつまみをカウンターに置いた。
どうやらラーシャさんは彼が気に入ったようだ。
「どうぞ。ラーシャさんからのおごりですって」
「やっぱり見る目のある人にはわかるんだろうな」
「何が?」
「俺がいい人だってさ」
「どこが?」
ヴィルフリートはビールをグイっと流し込んだ。そしてつまみをぽいと口に放り込むと彼は椅子から立ち上がった。
「それよりちょっと出てくる」
「えっ?でも…」
「心配するな。すぐに帰って来る」
ヴィルフリートはそう言うと店を飛び出して行った。
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