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16今日は驚きの連続で
しおりを挟むそれからすぐにアルク兄さんとエドガー兄さんがやって来た。
「こんばんは。お久しぶりですラーシャさん」
「今日はすみません。妹の為にお忙しいのに」
アルク兄さんとは11歳違う。もう29歳だが一度結婚して別れた。子供はいなかったのがせめてもの救いかな。もう結婚する気はなさそう。
ひとり身だが社会人らしくきっちりと上着を着て亜麻色の髪もきちんと整えている。
エドガー兄さんとは7歳違いまだ学生気分なのかシャツにズボンとラフな格好でアルクと同じ色の髪は長く伸ばされて後ろで束ねていた。
ふたりとも瞳の色は淡いブルーだ。兄妹の中で私だけが髪の色も淡いピンク色で瞳も薄紫色これは母と同じ色なんだけど。
「ああ、久しぶりね。元気だったかい?今日はお祝いだからたくさん食べて行っておくれ。さあ、そろそろ店じまいにしようか」
ラーシャさんが最後のお客さんが料理を終えたところを見てそう言った。
「ありがとうございました。またのお越しをお待ちしてます」
私はお客さんの支払いを済ませると皿を片付け始めた。
兄たちは店内のテーブルを二つ合わせて大きなテーブルにした。
ラーシャさんは厨房で忙しく支度を始めていたので私は一緒に手伝いをする。
「バイオレット今日はそんな事しなくていいから、あなたは今日の主役なんだからね」
「ありがとう。でもこれくらい手伝わせてください」
私はそう言って出来上がった料理を運ぶ。
「お兄さんたちも手伝ってよ」
料理を運びながら兄に手伝いを頼む。
「ああ、バイオレットお前はそこに座ってろ」
ふたりの兄は急いで厨房に向かう。
料理を運んでくる兄たちを見ると家族そろって一緒に暮らしていた頃を思い出した。
何しろ男4人食べ盛りで料理はいつも大きな皿に山盛りだった。私はまだ小さかったが兄たちに釣られて競争するように食べていた気がする。
「いいわよ。私も手伝うから…そうだ。あの、今日はヴィルフリートもいるから一緒にお祝いすることになって」
アルク兄さんが振り返る。
「ヴィルフリート?そう言えばバイオレットと婚約が決まったんだったな。じゃあその祝いもしなきゃな。おめでとうバイオレット」
「ねぇ、アルク兄さんが私を紹介したの?私ヴィルフリートの事なんかちっとも知らなくて驚いたんだから」
「紹介って?俺は妹がいるって話しただけだ。でもヴィルがお前が気にいったって言ってた。あいつも早く結婚しろってうるさく言われてたからな。だから良かったんじゃないのか?」
「彼ってどんな人なの?」
「ああ、いい奴だ。行政府に入る前はゴールドヘイムダルにいたんだ。モービンが入れるように手を回してそれから国家警備隊になる前にこっちに空きが出来て俺がちょっと昔の知り合いに頼んで行政府に回してもらった。まあ、コネがつかえたのも父さんが騎士隊長をしていたおかげなんだけどな。それに学園は行政府の管轄でそれであいつが講師として行く事になったんだ。あいつは仕事も真面目だし面白いしでもちょっと優柔不断なところもあるかな?」
「そう…」当たってる。
それでこんな時期に来たのか。納得。ゴールドヘイムダルにねぇ、どうりで強かったはず。
「おっ、バイオレット。俺達が関係してたとかあいつには内緒だからな」
「ああ、そうなのね。了解!」
準備をしているところにヴィルフリートが帰って来た。
「遅くなってすまん。あれ?おお、久しぶりアルク先輩。来るなら教えてくれれば良かったのに。ったく人が悪いですよ」
彼はアルクを見ると親し気に話をする。
「ヴィル。お前相変わらず色男だな」
アルクがにやりと笑う。
「勘弁してくださいよ。彼女が勘違いしたらどうしてくれるんです?そちらは…」
「兄妹の4番目のエドガーです。まだ学生ですけどよろしく。バイオレットの婚約者と言うことはいずれ義理の弟って事ですか?参ったな。ヴィルフリートは今何歳なの?」
エドガーは学生だけあって25歳なのにそれよりかなり若く見えた。
「俺25歳だけどエドガーは?」
「同い年です。ショックだな。まだ結婚とか僕には考えられない」
「いいかエドガーも知ってるだろう?ヴィルの父上はうちの父さんの命の恩人なんだからな。15年前戦争中後ろから襲われそうになった父さんを助けてくれたんだ。ヴィルの父さんが助けてくれなかったら…ほんとにみんな感謝してるんだ」
ヴィルフリートが今さらかよと言いたげに言う。
「それ、俺じゃないしな。もう関係ないだろう」
「まあ、これも何かの縁だなって思ったんだよ。だってヴィルがバイオレットと。なぁ。ほんとに俺達もうれしいよ」
なぜかヴィルフリートは顔をしかめた。
私は驚いた。そんな話聞いたことあったかしら?
「アルク兄さん、それはいつの話なの?ヴィルのお父さんって?」
「ああヴィルのお父さんは子爵で騎士隊にも入っていた。あの頃はみんなが戦争に駆り出されてたくさん人が亡くなったんだ。お前はまだ小さかったからな…」
「そうだったの。そんな事を聞いたら何だか運命感じちゃうわ」
「おっ!バイオレットそんな事を言うって事はお前、かなりヴィルに惚れてるんだな」
「ち、違うわよ。そんなんじゃないから!」
私は慌てて料理を取りに行こうと席を立つ。
ラーシャさんは厨房内で忙しそうに盛り付けをしている。
「ラーシャさんの旦那さんって家で働いてたんですよね?」
「ああ、ロッドリーは最後までレスプランドール家に残るって決めてたから。早いね。もう旦那様と奥様が亡くなっても10年にもなるんだから」
「…あの、じゃあバルガン子爵家の人の事もご存知なんですか?」
「もちろん知ってるよ。15年前に旦那様を助けてくれたんだよ。でも戦争から帰って爵位を返上することになって生活は荒れてたみたいだね。お酒ばかり飲んでほとんど仕事もしなくなって酒場に入り浸ってるって噂を聞いていたよ」
「まあ、じゃあヴィルは苦労したのね」
「そうだろうね。おまけにあの頃はマルケリア国とまだもめていて国境を越えてマルケリア軍の残党が入ってきたりして旦那様はしょっちゅう国境や街の繁華街に見回りをしていた。ある時、その残党が根城にしている酒場があると情報が入ってその時はちょうど王都からゴールドヘイムダルの小隊長が来ていて、旦那様やその小隊長が酒場に乗り込んでその場にいた人全員捕まえたんだ。捕まった人の中にバルガンさんもいて…」
「まあ‥それで?」
「一緒に捕まったよ。自分は無実だって言ってたらしいけど、国の中も乱れて誰を信じていいかもわからないような有り様だったからそんな事は聞いてはもらえなかったみたいだよ」
「でも、バルガンさんはお父様の命の恩人なんでしょう?」
「ああ、でも王都のゴールドヘイムダルが一緒だったからうかつなことも言えないまま、そのうちバルガンさんは病気で亡くなったみたいでね」
「まあ、それって牢屋っての中でって事?」
ラーシャさんはうなずいた。
「そんなひどいわ。お父様はどうして助けてあげなかったの?」
「どうにもできなかったみたいだよ。それに旦那様のお葬式に行った時モービンが言ってた。旦那様はずっとそのことを悔いていたって…バイオレットのお父様は素晴らしい人だよ。きっと苦しんでいらっしゃったと思うよ」
「ええ、そうかも。父はすごく優しい人だったから‥」
それで兄さんたちがヴィルの事を気にかけているんだ。
「そうだよ。バイオレットをどんなに可愛がっていたか、18誕生日おめでとうって言ってるよ。さあ、みんなお腹を空かしてるわよ。お祝いを始めるよ」
ラーシャさんは余計なことを言ったと思ったみたいだ。
いえ、教えてもらって良かった。
「そうですね。せっかくラーシャさんがこんなにお料理やケーキを作ってくれたんですもの。ありがとうラーシャさん」
私は厨房からそっとテーブルを覗いた。
ヴィルフリートは兄たちとたわいもない話をして笑っていた。
お父さんの事、彼の中ではもう過去の事として踏ん切りがついているのかな?そんな事を思った。
でも、喉の奥に小さな塊がつかえたみたいな気分だった。
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