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18学園をやめるですって?
しおりを挟む翌日私はヴィルにお礼を言おうと授業が終わると急いでランチルーム行った。
でもヴィルの顔は見当たらなかった。
ちょうどサリエル先生を見かけたので聞いてみると今日は休みを取ったらしい。
何かあったのかと思ったけど私用らしいと聞いたのでそれ以上考えるのはやめた。
ヴィルにだっていろいろ都合があるのだろう。
それにヴィルの事だ。昨夜の醜態をからかうに決まっている。そんな事をわざわざ望む必要もないから。
放課後になると今日は生徒会室に行った。
もうすぐ卒業記念の夜会があるのでその支度が忙しいからだ。
ヨハンに会うことになるけど私はきっともう大丈夫よね。
マーリン先生との事祝ってあげなくちゃ。
そんな風に思えるのもヴィルのおかげかも知れない。
あんなに優しく気遣ってくれた私の婚約者。何だか自慢したくなるかも。
私は入り口の前で一度深呼吸した。
生徒会室に入るともうヨハンが来ていた。ガーネットや他の執行部員もいた。
「バイオレット、ちょうど良かった。聞いてよ!ヨハンったら生徒会長なのにもう今日限りで学園に来れないって言うのよ」
「どういう事?ヨハン何があったの?」
マーリン先生の事はもうみんな知っていることでそれにこの学園の卒業には婚約者が必須なわけで別に問題はないはずじゃ。
「父ともめたんだ」
「でも卒業は出来るんでしょう?」
「ああ、それは学園長が責任を持つって言ってくれた。でもこれ以上ここにはいられない。僕は恥さらしだと言われて勘当されたから、決まっていたゴールドヘイムダルの入隊も父の圧力で取り消された」
大きな体はいつになく背中が丸くなっている。
「嘘でしょう?ヨハンはゴールドヘイムダルに入る事が夢だったのに?」
そう、ヨハンはゴールドヘイムダルに入る事が夢だった。だから騎士練習生としてもすごくいい成績を収めてて生徒会長だってこなして来たのに。
これはヨハンの実力でお父さんの力を借りた訳でもないのに…
「もういいんだ。僕はマーリンと一緒ならどんな仕事だって構わないんだ」
「でも、大丈夫なの?マーリン先生だって仕事は続けられないわよね?」
学園内でも噂になっていた。マーリン先生は卒業式が終わったらやめることになったと…妊娠の事もあったがやはりヨハンのお父さんも圧力も…
「ああ、心配ない。でも仕事を探さなきゃならないし色々忙しくてもう学園に来ている暇がないんだ。生徒会の仕事も悪いけど夜会の準備とかは副会長に変わってもらおうと思う」
「それはいいとしても夜会は参加できないの?」
夜会は学園での最後のいい思い出にして欲しかった。
「バイオレットそんないい方したらヨハンが言った事を認めるようなものじゃない」
「ガーネットでもそれは仕方ないわよ。だってヨハンは今まで精一杯やってくれたじゃない。夜会の準備は私たちで何とかすればいいわよ。それよりヨハンとマーリン先生に夜会に参加してもらう方が大切よ」
「もう、バイオレットったらほんといいとこ見せるわよね。そんなにヨハンに未練がある訳?もう彼の気持ちを引くことは無理なのよ」
「何言ってるのよ。私には婚約者がいるのよ。そんな事思うわけないわ」
「あら。そうかしら?」
また別の女子生徒が二やついて口をはさむ。クロエだ。
「もういい加減にしてよ。そんな事ばかり言って何が楽しいの?」
そんな言い合いをしているうちにヨハンは「悪いけど、もう帰らなきゃ。じゃあ、みんな頑張って」と帰って行ってしまう。
「ヨハン気にしないで。夜会の事考えておいてね」
「ああ、ありがとうバイオレット」
「いいの。何かあったらいつでもみんなに声かけてね」
「そうする」
ヨハンはもう廊下の向こうまで行っていて最後に手を振った。
私も手を振り返した。
「バイオレットったらヨハンにはいい顔するんだから」
「違うわよ。だってあんなことになってみんな平気なの?少しでも力になってあげたいじゃない」
「そうね。バイオレットの言う事もわかる。だって愛を貫くために親子の縁まで切られて…感動的じゃない。ヨハンは勇気があるわ。私の婚約者なんか…」さっき軽口をたたいたクロエがため息をつく。
「さあ、いいから準備にかかるわよ」
ガーネットが声を上げた。
「じゃあ、私はアーチの飾りつけをするわ」
「こっちは任せてくれ」
「花の手配もしなくちゃね」
みんなは仕事に取り掛かった。
やることは山ほどあった。アーチは出来上がっているけど飾り付けにはまだ時間がかかる。
アーチをくぐって大ホールの中に入る通路にはランプを灯す計画になっているしテーブルのセッティングや料理の最終チェックも必要だろう。
学園の卒業記念の夜会は今週末の休日、それが終われば来週はいよいよ卒業式だ。
3年間ともにして来た友達ともこの学園ともお別れなんだよね…
私は少し感傷的になる。
そして卒業したらいよいよ社会人としての生活が始まる。バタバタ忙しくなるだろう。
私はゴールドヘイムダルに所属することになるので宿舎が用意されることになっていて住むところには困らない。
料理や掃除も出来るし何も困ることはないし仕事だって一生懸命やるつもりそれに騎士隊員たちとも仲良くやって行けると思う。
最大の心配事はあの男。そうヴィルフリートの事だけだった。
意外な一面を知って最初に思っていた気持ちとは違う気持ちが芽生えている事に気づいた。
でも、決めるにはまだまだ時間が足りない。
まあ、婚約の事はゆっくり考えても遅くはないだろうし。
「バイオレット・レスプランドールさんはいますか?」
呼んだのは事務室の女性だった。
「はい、私です」
「少しお時間いいですか?」
私はその女性の方に走って行った。
生徒会室から出て廊下で話を聞く。
「レスプランドールさん3か月分の授業料がまだですよね?今週末までに支払いをお願いしますね」
「今週末ですか?」と言うことはあと2日しかない。
「はい、夜会が終われば来週は卒業式ですし事務の方も今週末で締める予定ですので、生徒の皆さんにはどなたにもそうお願いしているんです」
「分かりました。ただ、兄はべズセクトにいるのですぐに送金してもらえるか聞いてみないと…」
「ではこちらからすぐに速達便を出しましょう。明日には届くはずですから、すぐに送金してもらえば明後日には間に合うでしょうから」
「はい、お願いします」
私は頭を下げるとまた生徒会室に戻った。
モービン兄さんったらどうしたのかしら?いつもだったらもうとっくに授業料を支払っているはずなのに…
昨日の誕生日プレゼントだって結構高かっただろうし、そんなにお金に困っているなら私にも何か言って来るはずよね?
アーチの飾りつけを作る手が止まる。
アルク兄さんに相談した方がいいかな?
そうだ。今夜宿舎を訪ねてみよう。
私は少し早めに帰らせてもらおうと思った。アルバイトは今日は休みなので兄の宿舎に行ってみればいい。
兄は今日は休みだと昨晩言っていたのを思い出したからだ。
行政府、警務部で働いている兄の宿舎はゴールドヘイムダルの宿舎のすぐ道路を隔てた向かいにあるのだ。
ちなみにアルク兄さんは警ら隊に所属していて、ここべズバルドルの街の安全を守るのが仕事だ。
馬に乗り街中を見回るのが仕事だった。
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