この度学園を卒業するために婚約しなければならなくなりまして

はなまる

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20最後の試験で


 翌日は騎士練習生の最後の試験だった。

 午前中筆記試験があって午後には試合がある。

 これで3年間の全ての騎士練習生としての学習が終わりその成績は就職するときの評価にもなるという大切な試験だった。

 私は教室に入ってヨハンが来るのを待った。

 彼の席は私の斜め後ろの席だ。

 でもヨハンは来なかった。

 ヴィルが教室に入って来た。

 「みんなわかってると思うがこれが最後の試験だ。最終的な成績がこれで良くも悪くもなると思え。だから頑張れよ」

 彼が試験の問題を配り始めた。私の席に来ると小さな声で言った。

 「昼飯を一緒に食べよう。話がある」それだけ言うとすぐに離れた。

 試験が始まりみんな問題を解くので必死だ。

 試験は騎士隊としての心構えから始まり、戦略、防御、騎士隊の規則や命令系統の事まですべてはゴールドヘイムダルに入るため。もしくは国境警備隊に入るための試験と言っても良かった。


 だからこそヨハンに必ず来るように言ったのに…私は時々扉を見つめてふぅっとため息をついた。


 時間が来て筆記試験は終わった。残すは午後の試合だけだ。これで本当に学園での騎士練習は終わるのだ。

 ヴィルは問題用紙を回収すると私に目配せをして教室を出て行った。

 私はマーリン先生にヨハンの事を聞こうと医務室に急いだ。

 扉をノックするとすぐに開けて聞いた。

 「先生。ヨハンはどうしたんです?」

 私は扉を開けると同時にそう聞いた。


 「なんだ?バイオレット。そんなにヨハンが気になるのか?」

 がばりと振り返ってジト目で私を見るヴィルフリート。どうして彼がここにいるのよ!?

 「どうしてあなたがいるのよ。マーリン先生はどこ?」

 「マーリン先生はさっき病院に行った。つわりで具合が悪いらしいぞ」

 「先生は大丈夫でした?」

 「顔色が悪かったな。そうだ。ヨハンが迎えに来るんじゃないのか?急いで見に行ったらどうだ?」

 ヴィルは指に絆創膏を貼りながらのふてぶてしく言った。

 もう、なんて厭味ったらしいのよ。

 ふん!

 「別に気にしてませんから。ヨハンには試験を受けて欲しいだけよ。だってそうすれば一般公募で騎士隊に入れるから、そんな事もわからないなんて…先生失格よ」

 「俺は先生じゃない。俺ってバイオレットそんなに信用ないのか?」

 「誰があなたなんか!」

 ヴィルはふぅと一度ため息を吐いた。

 「いいか。そんなに疑うなら本当の事を話すけど…俺が講師としてこの学園に来たのはこの学園にもぐりこむための手段で、本当の目的はこの学園で出回っている薬物の出所を突き止める事なんだ。信じてくれないかバイオレット」

 「だからなに?」

 「もう君に嘘はつきたくない。まあ、卒業したら話すつもりだったんだけどな」

 彼はちらっとこちろを見てじっと見つめてて。

 さすがにヴィルの声は小さかったし話したことは嘘ではなさそうだ。

 ここが周りに誰もいない医務室だからと言っても聞かれて良い話ではないのだろう。


 だが、その後の私に嘘はつきたくないんだって何?ほんとに!!

 本当の事を話すから信用しろって?

 する訳ないじゃない!

 彼は私の不信感に油を注いだだけだと気づいていない。

 「それがどうしたのよ。おかしいと思ったわ。3か月だけの講師なんて…それで私も利用したわけ?でもどうして私なのよ。あっ、そうよね。残ってたのは私だけだもの。婚約者って言うことにすれば生徒に近づくのも都合がいいわよね」

 おかしいほどつじつまが合っていく現実におかしくなる。

 私一人が騙されて?兄さんたちも知ってたの?ううん、そんなはずはないと思う。だってわたしを騙すってわかってたら…

 最後のひとピースが会わなくてイライラするみたいに私は唇を歪めた。


 「えっ?おい、待ってくれ。今なんて言った?いや、違う!そんな意味で行ったんじゃない。わかるだろう?なぁ、バイオレット。婚約はいい加減な気持ちじゃない。仕事は確かに講師は隠れ蓑だった。けど婚約はマジ。真剣な気持ちに決まっている。俺はそこまで…」

 シャラップ!!とでもいうように私は彼の言葉を遮る。

 「いいのよ。もう言い訳しなくても。あなたの本心ははっきりわかったから。でも卒業までは仮面婚約者を演じるつもりよ。私だってあなたを利用させてもらう権利はあるじゃない。じゃ、私、午後は試合で忙しいから」

 踵を返して医務室を飛び出す。



 どうしてこんなに苦しいんだろう?ヴィルの事なんかどうでもよかったはずじゃない。

 優しさも全部見せかけ、指輪もドレスも… 

 「こんなもの!」

 私は留めていた蝶の髪留めをむしるように取った。思い切り投げつけようかと思ったが髪留めに罪はない。

 そう思い直して制服のポケットに押し込んだ。

 買ってもらった指輪は大切にしまってある。この学園の中に指輪をはめてくる者はいない。

 だから私もみんなと同じようにしていたけど本当にはめていなくてよかった。


 ランチは彼と顔を合わせたくなくて軽食をもって一度寮に戻った。

 空腹を感じてはいなかったが試合があるんだもの何か食べておかないとと思ってその塊を口の中に押し込んだ。

 まるで砂を噛むような感覚に陥りながら…

 その理由はちっともわかりたくなかった。

 彼に好意を寄せていたなんて思いたくなかった。認めたくなかった。


 試合が始まる時間が近付いて私は部屋から練習場に急ぐ。

 女子寮の入り口の掲示板の前を通り過ぎるときやっとその張り紙に気づく。

 思わずその張り紙に目が吸い寄せられた。


 【~卒業記念の夜会について~

   卒業記念の夜会には必ず正装で婚約者同伴で参加すること。

   参加しない場合は卒業は取り消しになること。

   怪我や病気など一切の理由は受付できません。

   体調管理をして必ず出席すること

                   ペンダル学園、学園長 コンラード・ダーディン 】


 えっ?

 いつこんなもの?私ったら張ってあったのに気づかなかった?でも、誰もそんな事言っていなかった気がするけど。

 最近色々な事があってそんな余裕はなかったのは確かだけど…うそ。

 「やだ~。そんなの無理よ。もう、学園長…どうしてくれるんです?」

 思わず声が漏れた。

 今さらヴィルに夜会に一緒に行ってほしいなんて言えるわけがないじゃない。



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