この度学園を卒業するために婚約しなければならなくなりまして

はなまる

文字の大きさ
21 / 51

21最後の試合で


  私は何とか気持ちを切り替えると大急ぎで騎士練習場に行った。

 試合はここであるから。

 私の最初の対戦相手は3年生でも元貴族ではなく商家の息子で剣など握った事もなかったイリスだ。

 審判は騎士練習生の実習の先生であるランケル先生。

 その隣にはヴィルフリートもいた。

 私は平然とした顔でふたりの先生の姿を流すように見て試合場の中に入って行った。

 全く問題ないから。

 試合の順番が来るまでは自分の席で座って待つのが決まりだ。私は着替えをして席に着いた。

 ヴィルがちらちらこちらを見て来るがそんな事に構っている暇はない。

 集中。とにかく集中しなくちゃ。私の今日の目標は優勝することだ。

 いつもはヨハンやアルビンたちに勝てなかったが最後の大一番で決着をつけてやるって思っていたから。



 すぐに自分の番が来て私は準備をした。

 「両者向かい合わせになって」

 先生の声で私たちは向かい合わせになる。

 イリスと向かい合わせになって剣を一度構える。それが挨拶になる。

 「きゃぁ、バイオレット様すてきー」

 黄色い声が湧き起こる。 

 今日は授業も午前中のみで同級生の女子生徒や後輩たちも試合を見に来ていいことになっていた。

 私は声援を送るサラたちをちらりと見て笑顔を見せた。

 「…きゃーバイオレット様絶対いけますわ。頑張って」

 「イリス、女に負けるなよ」

 次々に声援が飛んで来る。


 私は位置に着くと練習用の剣を片手に一度びゅっと振り下ろす。

 ちなみに私は赤旗でイリスは白旗になっている。勝負が決まると先生が勝った側の色の旗を上げる。そこで勝敗が決まる。

 イリスが剣の音を聞いてびくりとしながら剣を構えた。

 「始め!」

 私は一気にイリスに剣をかざす。イリスは必死で私の剣を受け止めるがグイっと力を掛けてイリスの身体は次第に傾いていく。

 そして剣を素早く払いのけてイリスの脇腹をはたいた。

 「グフッ!」

 イリスはその場に膝をついて声を上げた。

 「勝負あり!」

 ランケル先生が赤旗を上げる。


 私はそうやって準々決勝まで勝ち上がっていた。

 次の相手はケビン。そうカレンと先日ひと悶着あったあのケビンだった。

 「ケビン頑張って」

 そう声を掛けたのはカレンだった。

 私は彼女をちらりと見て口元が緩むのをこらえられない。この間まで犬猿の中みたいだったふたりが?今では熱々なんて…やってらんない。


 イリスの時と同じように位置について私は剣をケビンに向けて振り下ろした。

 「女だからって容赦はしないからな。バイオレットそんなに煽ってくんなよ。後で後悔したって知らないからな」

 ケビンはずいぶんと高飛車な言い方をした。

 まあ無理もないか。カレンの前でいい所みせたいものね。

 私は何も言い返さず剣を構えた。

 「始め!」

 ケビンは一気に私の前に走り寄って来て剣を上からたたき下ろす。

 私は剣の太刀筋を見極めると身体をひょいとよけた。ケビンは空回りになった剣に脚を取られそうになったが、何とか踏みとどまりすぐに向きを変えて私に振りかぶって来る。

 「エイッ!」

 「ギリッ…」

 とっさに上体をよじり剣で受ける。カッと血が上ったケビンが力任せに押し付けてくる剣はなかなか重くて跳ね返せない。

 ギリギリ剣がせめぎ合う中、私は刃先を跳ね上げるようにして何とか剣を受け流した。

 互いににらみ合い肩で息をする。



 「どうした?バイオレットそれでおしまいか?」突然そんな声がかかる。

 ヴィルだ。彼は私を煽るかのようにニヤついた顔で私を見ている。

 「行くわよケビン!」

 私は一気に片を突けようとケビンの脇を狙う。

 最初の構えは上から振り下ろすように剣を立ててケビンに走り寄る。

 ケビンは受けの構えで剣を立てている。

 その隙をついて私は上に向けていた剣を走りながら横に流す。そのままケビンの横腹を打ち付けた。

 「グェ!」カエルが潰されたかのような声を上げてケビンは前にかがみこむ。

 「勝負あり!」

 ランセル先生の赤旗がさっと上に上がった。

 私はケビンに手を差しだす。

 ケビンは私の手をつかもうとはせず。自分で身体を起こした。

 「バイオレット。お前それでも女かよ!」

 ケビンはカレンの前で恥をかかされた手前そう悪態をついたのだろう。

 でも、傷つく。

 女が強かったらいけないの?女だってやるときはやるのよ。と言ってやりたかったがぐっとこらえる。

 それは優勝した時の決めセリフとして残しておこうと。

 私は元の位置について互いに礼を済ませると知らん顔をして自分の席に戻った。



 するとしばらくしてヴィルがやって来た。

 私の席の横にしゃがみ込む。

 周りの男子生徒がざわついた。

 ヴィルは顔を持ち上げると彼らに言う。

 「あっ、俺これでも彼女の婚約者だから、すぐ行くからそう心配するな」

 彼らは婚約者だと聞いてすぐに何も言わなくなった。

 ああ、私が婚約したってそんなに知れ渡ってないんだ。私の中では生れて一番の大事件くらいなことになってたんですけど…などと思ってしまった。



 ヴィルはまた私のすぐそばに近寄って小さな声でしゃべり始めた。

 「バイオレットさっきのカッコよかったな。でもケビンの奴あれは言い過ぎだろよな?気にするな。次は準決勝だろう?頑張れよ。今日は講師と言う手前バイオレットに個人的に声援を送るわけにもいかんから、でも俺はずっとお前を応援してるから」

 「あなたって人を煽るのはほんと。うまいのよね」さっきもそう。それでおしまいかって?あんな事言われたらがぜんやる気になるに決まってるのに…

 えっ、あれってわざと?

 ヴィルは応援してるって事?頑張れって言うと講師の立場がないからあんなことを?

 「バイオレットのそう言うとこ好きなんだよな。やばい、次の試合頑張れよ。じゃあ」

 ヴィルは急いで立ち上がるとまた試合の立ち合いに戻った。



 次の準決勝はいよいよアルビンとの対戦だった。

 しばらく間があったので私はお手洗いに行って気持ちを落ち着けようと騎士練習場の裏手に出た。

 そこには数人の男子生徒たちがいた。

 「おい、よこせよ。次は俺の番だろう?」

 「待てよ、俺だって今回って来たばっかりだ!」

 「やめろって!大きな声すんな。誰かに見つかったらやばいだろう」

 そう言えば先日もこの人達…前にも見たことがある。私はすぐに身を壁に隠すようにした。


 「ああ、わかってるって」

 「ったく、あいつがなかなか手に入れてくれないから…」

 「ああ、でもあいつが卒業したら俺達どうする?」

 「でも、街のボルガータ商会に行けばいくらでも手に入るって言ってたじゃないか」

 「ああ、それおれも聞いた。学園の生徒だったって証明書をみせればいいんだろう?」

 「違うぞ。あいつのサインがいるんだ。いるなら早い所サインを書いてもらっとけよ」

 「そうなのか。やべぇ、俺まだだ。急がなきゃな」

 「ああ、そう焦らなくても週末の夜会の時でもいいんじゃねぇ?」

 「そうだな。夜会の時に頼もう」

 一体何のこと?ボルガータ商会ってアマリのお父さんの店。ここべズバルドルではアマリの婚約者のフランツが切り盛りしてるって聞いたけど…

  後でヴィルに話した方がいい?でも先にアマルに聞いた方がいいかも。

 私はとっさにそんな事を思った。


 いよいよアルビンとの試合が始まる。

 位置に着くが緊張していた。

 私は緊張をほぐそうと前と同じようにアルビンに向けて剣を一振りした。

 「バイオレット、そう緊張すんな。気楽に行こうぜ」

 アルビンは漆黒の髪をたなびかせとび色の瞳を細めて目尻にしわを寄せ口元は笑みを浮かべた。

 「ええ、アルビン、覚悟はいい?」

 「ああ、バイオレットのような美人にやられるなら本望だ。いつでもいいぞ」

 彼はクッと肩を上げてふざけた。

 「ったく。知らないわよ」

 私は大きく呼吸をすると剣を構えた。


 「始め!」 

 私はじりじりアルビンに近づく。剣は斜め上、いつでも上からでも横からでも出せるようにとグリップを握る手に力が入る。

 ガッキーン。剣の合わさる音が場内に響く。

 誰もが声を奪われたように辺りは水を売ったような静けさに覆われる。

 剣の刃先が私に突きつけられる。何のためらいのない剣さばき。

 私は夢中で剣を交える。剣が激しくぶつかり合い攻せと守りが目まぐるしく変わった。

 アルビンが足を踏み、私が一歩飛びのく。私が踏み込めばアルビンが瞬時に剣先を交わした。

 息をつく暇もないほど激しい打ち合いが続き一瞬の隙を突いてアルビンの剣が私のお腹に突きつけられた。

 ほんの一瞬だった。私はすぐに後ろに飛びのいたが…

 「勝負あり!」

 ランケル先生が白旗を上げる。


 「まだです。まだ勝負はついていません。先生お願いします」

 「勝負はあった。それが不服だと言うんだね」

 「だって私は剣を交わしています」

 「レスプランドール。君は失格とする」

 ランケル先生は私に即刻そう告げた。

 私はしてはいけない事をした。

 勝負を決めるのは判定員で私たちではない。これは判定員が強さの判断をすると同時に怪我をさせないためのものでもあった。

 実際の戦闘ではここで終わるはずもないが、これはあくまでも試合なのだ。



 悔しかった。ランケル先生は私が女だから…そんな思いが込み上げてきたがこれ以上何を言っても自分を貶めることになる。

 私は何度もそう言い聞かせる。

 結局、元の位置につくと両者頭を下げて試合を終えた。

 私は心穏やかではなかったがそんな事はおくびにも出さないように背筋を伸ばし悠然と試合会場を後にした。

 

感想 0

あなたにおすすめの小説

好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】

皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」 「っ――――!!」 「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」 クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。 ****** ・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。

五人姉妹の上から四番目でいつも空気だった私は少々出遅れていましたが……? ~ハッピーエンドへ走りたい~

四季
恋愛
五人姉妹の上から四番目でいつも空気だった私は少々出遅れていましたが……?

【完結】番としか子供が産まれない世界で

さくらもち
恋愛
番との間にしか子供が産まれない世界に産まれたニーナ。 何故か親から要らない子扱いされる不遇な子供時代に番と言う概念すら知らないまま育った。 そんなニーナが番に出会うまで 4話完結 出会えたところで話は終わってます。

一夜の過ちで懐妊したら、幼なじみの冷酷皇帝に溺愛されました

由香
恋愛
没落貴族の娘・柳月鈴は、宮廷で医官見習いとして働いていた。 ある夜、皇帝即位の宴で酒に酔い、幼なじみだった皇帝・李景珩と再会する。 遠い存在になったはずの彼。 けれど、その夜をきっかけに月鈴の運命は大きく動き出す。 冷酷と恐れられる皇帝が、なぜか彼女だけには甘すぎて――。

【本編,番外編完結】私、殺されちゃったの? 婚約者に懸想した王女に殺された侯爵令嬢は巻き戻った世界で殺されないように策を練る

金峯蓮華
恋愛
侯爵令嬢のベルティーユは婚約者に懸想した王女に嫌がらせをされたあげく殺された。 ちょっと待ってよ。なんで私が殺されなきゃならないの? お父様、ジェフリー様、私は死にたくないから婚約を解消してって言ったよね。 ジェフリー様、必ず守るから少し待ってほしいって言ったよね。 少し待っている間に殺されちゃったじゃないの。 どうしてくれるのよ。 ちょっと神様! やり直させなさいよ! 何で私が殺されなきゃならないのよ! 腹立つわ〜。 舞台は独自の世界です。 ご都合主義です。 緩いお話なので気楽にお読みいただけると嬉しいです。

嫌われたと思って離れたのに

ラム猫
恋愛
 私は、婚約者のカイルに嫌われたと思った。冷たくそっけなく、近づくたびに避けられる日々。  距離を置くことを選び、留学の準備も進めて心を落ち着かせようとするけれど——。

【完結】モブのメイドが腹黒公爵様に捕まりました

ベル
恋愛
皆さまお久しぶりです。メイドAです。 名前をつけられもしなかった私が主人公になるなんて誰が思ったでしょうか。 ええ。私は今非常に困惑しております。 私はザーグ公爵家に仕えるメイド。そして奥様のソフィア様のもと、楽しく時に生温かい微笑みを浮かべながら日々仕事に励んでおり、平和な生活を送らせていただいておりました。 ...あの腹黒が現れるまでは。 『無口な旦那様は妻が可愛くて仕方ない』のサイドストーリーです。 個人的に好きだった二人を今回は主役にしてみました。

英雄の可愛い幼馴染は、彼の真っ黒な本性を知らない

百門一新
恋愛
男の子の恰好で走り回る元気な平民の少女、ティーゼには、見目麗しい完璧な幼馴染がいる。彼は幼少の頃、ティーゼが女の子だと知らず、怪我をしてしまった事で責任を感じている優しすぎる少し年上の幼馴染だ――と、ティーゼ自身はずっと思っていた。 幼馴染が半魔族の王を倒して、英雄として戻って来た。彼が旅に出て戻って来た目的も知らぬまま、ティーゼは心配症な幼馴染離れをしようと考えていたのだが、……ついでとばかりに引き受けた仕事の先で、彼女は、恋に悩む優しい魔王と、ちっとも優しくないその宰相に巻き込まれました。 ※「小説家になろう」「ベリーズカフェ」「ノベマ!」「カクヨム」にも掲載しています。