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29夜会の朝は沢しなく過ぎていき
しおりを挟むヴィルに今朝医務室から寮に連れて帰ってもらって来た。
昨夜は私はあのまま寝落ちしてしまってヴィルはずっとそばで付き添ってくれていたらしい。
彼は途中からベッドに入って来たらしく私が目覚めた時ヴィルは私の隣で眠っていた。
目が覚めた時は心臓がピキっと音を立てて止まるほど驚いた。けど…
じわじわ昨晩の醜態が…ううん、ヴィルとの愛の時間が思い出されて。
そうはいっても薬のせいでかなりの部分が欠落してしまっているのがすごく残念なんだけど、でも、ちゃんと優しくしてくれたのは覚えているし、ヴィルが愛してるって言ってくれたこともはっきり覚えてる。
それに入って来る瞬間の感覚とか…あっ、もう、やだぁ…
ひとり思い出してはにやにやする。
それから私はすぅすぅ寝息を立てて眠るヴィルの顔をまじかでじっと見つめて口元がほころびっぱなしだった。
彼の長いまつ毛に感動しそのまぶたにそっと口づけ、彼の指に自分の指を絡ませてじっと彼のそばでこれからの事をいろいろ想像した。
卒業すれば私はゴールドヘイムダルの事務官として仕事を始める事になっている。
住まいは宿舎があると言うのでそちらをお願いしてあったが、ヴィルとこんなふうな関係になったなら一緒に住むのも時間の問題かもしれないし、まあ、仕事に慣れるまでは結婚はまだとしても…もし妊娠でもしたら、それはそれでいいかもしれないから。
そんな事を飽きもせず考えていた。
たった数時間前までこんなふうになるなんて想像もしていなかったのに。
そうこうしているうちにマーリン先生から声を掛けられてヴィルが飛び起きた。
ヴィルが目を覚まして私と目が合う。
私は恥ずかしくて顔を反らした。
彼はそんな私が怒っていると勘違いしたのかもしれない。
急いで身支度を整えると何も言わず私のそばを離れた。
私も何て言っていいかわからず黙ってベッドの上で起き上がる。
脚の痛みはかなり引いたらしく思ったほど痛くはなかった。
私はマーリン先生から着替えを受け取るとすぐに着替え始める。
「もう、ヴィルったらあっちに行っててよ!」
だってヴィルったら私が着替えるところじっと見つめてるんだから…もう恥ずかしいったらない。
昨夜の事を何か言うんじゃないかって冷や冷やしたけどヴィルはそのことには何も触れなかった。
それも少し寂しい気がしたけど…まあ、こんな所でそんな話出来ないよね。
「いいじゃないか…まあ、仕方ないな。着替えたら呼べよ。バイオレットは俺が連れて行くんだからな」
「わかってます。…ぃたっ!」
「大丈夫か?やっぱり着替え手伝おうか?」
一瞬彼の顔がにやついた。もう、いやらしいんだから!
私の羞恥心はマックスに跳ね上がる。
「いい。大丈夫だから…着替えたら呼ぶから…もう、早く行って…」
勢いよく断りたいのに声は尻すぼみになって行く。
「はいはい、仰せのままに」
ヴィルは仰々しくお辞儀をして部屋を後にした。
私はその仕草がおかしくてひとりにやにやしながら着替える。
着替えが終わるとヴィルを呼んだ。
そしてマーリン先生とにヨハンと夜会に来てほしいってお願いしてヴィルに当たり前のように抱かれて医務室を出たがなぜかふたりとも黙ったままだった。
ヴィルは医務室を出るとすぐに話しを始めた。
「あの…バイオレット、身体大丈夫か?」
「ええ、もう平気みたい。私の方こそごめんなさい」
「な、何で謝る?謝るのは俺の方で…昨日は無理させてごめん…やっぱり怒ってるんだろう?」
「そんなの、怒ってなんかないから…私だってあなたがいなかったら…だからもういいじゃない。ヴィル?それとも後悔してるの?」
私はすごくすごくうれしかったのよヴィルって思ってたのにと最後は声が消えそうな言い方になった。
「するもんか。むしろうれしい。それに今日も一緒にいれるしなぁ」
私はすごくうれしくて彼の首に腕を巻き付けてぱっと顔を上げる。
いつもなら軽口をたたいたりするくせに、ヴィルは頬を染めて照れ臭そうにする。
私は思わず笑みがこぼれた。ヴィルにずっと一緒にいたいって言いそうになるのを必死でこらえるのに唇をぎゅっと嚙んだ。
ぐっと気持ちを押し殺すと一度俯いて気持ちを整えた。
「でも、午前中は夜会の会場の準備があるし、午後は支度が忙しいから…時間になったら迎えに来てくれる?」
ほんと。心を鬼にするってこういう気持ちなのかも…
「夜まで会えないのか…つらいな」
眉間を寄せてほんとに残念がるヴィル。
あぁ…もう、胸がきゅんきゅんするじゃないヴィル。
「もう…すぐに会えるじゃない」
私は思わず彼の胸を指先でつんつんしてまた微笑んだ。
だってうれしくて。
「バイオレット。すげぇ可愛い。やばっ、俺…また興奮して来た」
いきなりヴィルが私を抱きかかえてくるっとターンした。
「ちょ、ちょっと。こんな所で。もうヴィルったらやだぁ」
「こんなとこでする訳ないだろう?これでも講師なんだから…バイオレットって意外とエロイんじゃないのか?昨日もすごかったし…」
ヴィルはわざと舌を出してペロリとして見せた。
「そんなわけないじゃない。もう、ヴィルのばか!もういいから下ろしてよ、私、歩くから!!」
私は真っ赤になってヴィルの胸を軽く叩く。
「わかった、わかった。もうからかわないから、おとなしくしててバイオレット」
「絶対?」
「ああ、絶対。神に誓って夜会まではふざけない」
「もう、また夜会で変なことしないでよ。私そんな事したらすぐ帰るから!」
「そんな事って?聞くけどバイオレットはどこまで覚えてる?いや、変な意味じゃなくて昨日は薬で…だからさぁ」
「そんなの知らない!もうヴィルやっぱり下ろしてよ」
「冗談だって、でも覚えてるんだよな?」
「あ、当たり前じゃない。私だって最初から最後まですべてじゃないけど…最後までいったことくらい覚えてるわよ」
「そうか。じゃあいいんだ」
ヴィルはにやっとして静かになる。
私はいたたまれなくなってヴィルに聞く。
「なに?おかしなことを考えてない?」
「もちろん。夜会には学園長や他の先生もいるんだから。ちゃんとする。おっと。そう言えば夜会のドレス、俺取りに行って来るから」
「ああ、そうだった。すっかり忘れてた。ヴィル午後には必要だからお願いできる?」
「ああ、ついでに昼食何か買ってくるから」
「ええ、ありがとう助かる」
ヴィルは女子寮の私の部屋まで私を連れて行ってくれると「じゃあ、また後で」とバタバタと部屋を後にした。
こういう時学園の講師で良かったと思う。だって学園以外の人だったら女子寮までは絶対入れないもの。
「わぁ、バルガン先生。やだぁ。男はここに入れないんですよ。もう、先生だからって」
「おい、俺は講師だぞ。お前達なんか相手にするはずがない。ほら、さっさと行け!」
いきなりわたしの部屋を出ると女子生徒に一撃をくらっている。私はふっふって笑いが漏れた。
私もそのお前たちの中のひとりなんですけどねって。
どうもいけない。薬はもうすでに抜けてるはずなのに、朝目覚めた時から私の脳みそはでれでれとヴィルフリート一色に染まっている。
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