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31夜会の準備は出来ても心の準備は出来なくて
もうすぐいよいよ卒業記念の夜会が始まる。
会場は学園の一番古い建物にある大ホールで行われる。
3階建てで大理石が敷き詰められた大ホールはこの学園が出来た当時のままで入り口には大きな装飾を凝らした大きな柱がいくつもある。ホールは高い天井から下がる大きなシャンデリアや2階に続く螺旋階段もあってそれは豪華な建物だ。
入り口には飾りつけを終えたアーチが立てられ、大ホールに続く通路には色とりどりのランプが並べられて最初の計画通り素晴らしい会場が出来上がった。
私は午前中、自室で座ってでも出来る飾りつけやテーブルにセッチングする花かごの作成などを手伝ったが怪我で迷惑をかけてしまってほんとうにみんなには感謝しかなかった。
ヨハンとマーリン先生も夜会には参加することになっていた。
私はと言えば足を捻挫して歩くこともままならない状態であるにも関わらずヴィルが完全エスコートを買って出てくれたおかげで夜会の出席が可能となっていた。
まあ、ダンスも出来なければ生徒会のお手伝いもほとんど出来ないというありさまではあったが何しろ参加しなければ卒業は認めないとの学園長のお達しもあることなので壁の花となっても構わないとお許しを頂いた。
アマリは警務部で事情を聞かれて学園に戻ってくることはなかった。
婚約者のフランツに薬物を強要されてあの水晶中毒になっていたらしい。
フランツは捕まり警務部で取り調べを受けているらしい。ボルガータ商会は手入れに入られて本格的に薬物摘発が始まるらしい。
それと言うのもべズバルドルにはかなり薬物が出回るようになっていて、ボルガータ商会の手入れでかなり大掛かりな組織を一網打尽に出来ると思われているらしい。
アマリは無理やり協力させられていたことと未成年と言うこともあって医療施設で薬物の治療をする事になるそうだ。
夜会の当日と言うこともあり慌ただしく学園長からみんなに話があった。
ドンやそのほか薬物を使用していた生徒は退学処分となり就職も失った。
これから先は薬物治療と就職活動をして行かなくてはならないらしい。
ただ、学園長は婚約が全組決まっていたのに、このような事態になって関係者との婚約が破談になった事をすごく残念がってはいたが、それも仕方のない事だと私は思っていた。またそうあるべきだとも。
そして婚約者と破断になった生徒には夜会のお相手として特別にゴールドヘイムダルから独身の騎士が数人来てくれることになっていて、朝からその話題で持ちきりだった。
午後になると女子生徒は夜会の準備に忙しかった。
私の支度はガーネットたちが手伝ってくれると言うのでお願いした。
ガーネットとフローレンは自宅で支度を整えてから私の手伝いに来てくれたのだ。
「もう、バイオレットったらこんな日に怪我なんて…」
ガーネットが残念そうに私にドレスを着せながら言う。
「でも、このドレスすごく似合ってるわ。ねぇガーネット」
同じ生徒会執行部のフローレンも一緒に手伝ってくれながらそう言ってくれた。
フローレンの婚約者はあのドンだった。
「そんなこと…フローレンのドレスもすごく素敵。でも残念だったわよね」
「あら、いいのよ、気にしないで。あんな勝手な男と婚約破棄できてほっとしてるんだから。それに今日はコールドヘイムダルの騎士の方が来るんでしょう?そっちの方が楽しみよ」
「そうなの?まあ、そうかもね。フローレンにいい相手が見つかるように応援するから」
「ええ、頑張るから」
「もう、ふたりともいい加減にしなさいよ。酔っぱらって醜態でも晒したらうちの父がまた何を言い出すかわからないわよ。あんな父でも学園の事となるとほんとに頭が固いんだから…」
「ごめんなさい。そんな事にはならないから、ガーネットの婚約者のお父様のロガレナート元侯爵も来られるのよね?」
ガーネットは学園長の娘で婚約者は何人も王妃を送り出して来た元ロガレナート侯爵家の嫡男のアルフレッドなのだ。
おまけにガーネットのドレスときたら…深紅の胸が大きく開いたすごく大人っぽいデザインで、まあ、ガーネットは胸も大きいしスタイル抜群で美しいからこんなドレスがすごく見栄えるって言うか…はぁ、素敵すぎるから。
でも、私はこのドレスはすごく気に入ってるし何しろヴィルからの贈り物だからそれに意外にも私に似合っている気もして。
鏡の前で全身を見た。
あまり大きく開いていないけどデコルテが見えてきれいな鎖骨ラインとか、マーメイドラインの腰下から広がるシルエットは私の少し大きめなお尻もカバーしてくれてるみたいだし。
濃い青色に金色や銀色のビーズがキラキラ輝いてすごくきれいで。
うん、私にピッタリだと思う。
でも、彼には他の女性が…又あの時の光景が脳をよぎる。
もう、こんな日にそんな事を考えるのは後回しにしたら?ふっとそんな事も思う。
でも、こんな気持ちのままヴィルと出かけてもきっと私はそのことばかりに気を取られてしまうはず。
やっぱり彼が来たらはっきり確かめた方がいい。
もし他の女性がいるのなら私は卒業したら婚約破棄すればいいんだから。
少し前まではそんな事を思っても胸が痛むことはなかった。
なのにもしそうなったらどうしたらいいんだろうと不安に押しつぶされそうな自分が目の前の鏡に映っていた。
「ほんとにバイオレットにすごく似合ってるわよ」
ガーネットにもう一度褒められて気分は少し落ち着いた。
髪を緩めに結い上げてもらってひと房耳元に垂らしてその髪をクルンとカールさせてもらった。頬に少し紅をはたいて唇には薄っすらとピンク色の紅を乗せてもらった。
最期にイヤリングと指輪を付ける。
「それって彼からの?」
「ええ…」
友人の視線が熱すぎて私は頬が熱くなる。うれしい気持ちと困惑した気持ちが織り交ざって視線は泳ぐ。
「すごく似合ってる。彼って見る目あるわ。そのドレスにそのイヤリングと指輪。淡いピンク色の髪にも薄紫の瞳にもすべてが完璧じゃない」
「そう?初めてだしこんなのよくわからないわよ」
「自信もってバイオレット。今夜はみんなが主役なんだからダンスは無理でも夜会は楽しまなくちゃ」
「ええ、ガーネット、フローレンありがとう。ふたりもまだ支度があるんでしょ、私はもう充分だから行って」
「そうね。迎えはバルガン先生が来るのよね?」
私はああ、そうだったとうなずいた。
「じゃあ、安心ね。じゃあ、会場でね」
「ええ、ありがとう」
ふたりは私の部屋を後にした。
しばらくするとサリエル先生が扉をノックした。
「バイオレット準備はどう?」
「はい、出来てます」
サリエル先生が部屋に入って来る。先生も夜会に出席するので美しいグリーンのドレスに身を包んでいる。先生は結婚してもこうやって見るとすごくスタイルが良くてきれいだなって思って見とれてしまう。
「良かったわ。まあ、すごくきれいよバイオレット。じゃあ、バルガン先生を呼んで来るわね」
「えっ?もうヴィルが来たんですか?」
嘘うそ。まだ心の準備が、あの話をする準備が…そんな準備いるわけもないのに…
もう、どうしたんだろう私。
「ええ、でも、もうみんなそろそろ会場に集まり始めている頃よ。どう?緊張してる?」
「してますよ。もうおかしくなりそう。それより先生のドレスすごく素敵。ドレスとっても似合ってます」
先生にそんな事を言いながらも胸の奥がつかえたような、反対にそれを押し出したいようなおかしな気分。
「ありがとう。バイオレットもすごくきれいよ。とっても似合ってるわ。それは彼からの?」
「はい、一緒に選びに行って…」
あの時のすごく幸せな気持ちが蘇って苦しくなる。
「そう、今日はダンスは無理かもしれないけど楽しんで。さあ、急いで呼ばないと…ふふ」
そう言ってサリエル先生が出て行ったと思ったらすぐに扉がノックされた。
「サリエル先生、まだなにか?」
「俺だ。バイオレット…」
扉の向こうにヴィルが立っている。
彼は扉を開けたままでその場に立ち尽くしている。
「もう、ヴィルったら!早すぎ…」
そう言う私もヴィルの姿を見て驚いた。
彼は私のドレスと同じような色合いの濃紺のウエストコート腰の中ほどから裾にかけて金色や銀色の刺しゅうが施されて胸元にはクラバットがありトラウザーズを履いている。
そして金色の髪はきちんと分けて整えてあった。
「……」
私は思わず見惚てしまう。だってあまりにも端整な顔や服装が際立っていて…いつにもまして胸が高鳴った。
もう!そんな場合じゃないのに…
私はヴィルに問いたださなければならないことがあるじゃない。
はぁ…でも、どう切り出せば……
心臓が飛び出すんじゃないかって言うほどバクバクしてきた。
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※「小説家になろう」「ベリーズカフェ」「ノベマ!」「カクヨム」にも掲載しています。