この度学園を卒業するために婚約しなければならなくなりまして

はなまる

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33いよいよ夜会の始まり


  私はそれからヴィルに付き添われて階段をおりる事に。

 ヴィルは私を抱いておりたくてうずうずしていたが私は間違いは犯さなかった。

 そうでなくても今日の女子寮はみんなが夜会の行く支度で右往左往していて人が入れ替わり立ち代わり出入りしているのだ。そんなところで男性に抱いてもらって夜会の会場に行くなんて出来るはずがない。

 「いいから、私は絶対に歩いて行くの。間違ってもあなたに抱かれれなんて無理だから」

 「でも、捻挫がひどくなったらどうするんだ。いいから俺の言うことを聞けよ」

 ヴィルはすぐにでもわたしを抱え上げようと手を伸ばして来る。

 私はそんな彼を見ていたら…ええ、お願いって言いたくなる。けど…

 ううん、だめよ。ここはきっちり断らなきゃ。

 でも…

 「ヴィル。私、抱いてもらうのは恥ずかしくて…あなたがそばで寄り添って一緒に歩いてくれたらすごく助かるんだけど…だめ?」

 私は自分でも驚くほど上目遣いに彼を見た。

 だってこんなにわたしの事を思ってくれてるんだもの少しくらいはヴィルを立ててあげなきゃ。

 「ああ、もちろんだよ。そうだよな。バイオレットも恥ずかしいよな。それにドレスも乱れるし…さあ、俺の肩につかまれ」

 ヴィルは私を立たせるとドレスの上から腰にぎゅっと手を回した。

 薄い生地から彼の温もりが直に伝わるみたいでドキッとする。

 そっとではなかったのがなおさらうれしいなんて…

 一瞬戸惑って私はヴィルの身体に手を回してゆっくり一歩踏み出してみた。

 昨日ほど痛みはなくこれなら自分一人でも歩けるかもしれないほどだったが。

 まあまあ、そこはヴィルを立てて、って言うより私もヴィルにこんなふうにしてもらって嬉しかったからそのまま黙ってヴィルと一緒に歩いて会場に行った。



 アーチは美しい花々でかがりつけられ色鮮やかなリボンが華やかさを演出していた。

 ランプの灯りも工夫して色とりどりの紙を張り付けたので赤色や青色、黄色や緑色などホールへの道は賑やかな色合いに満ちていた。

 「すごくきれい。思った以上にこのランプ良かったわ」

 「ああ、まるで夢の世界に導かれるみたいだな」

 「今日のヴィルったらロマンチックね」

 「そうか?そんな事始めて言われた。何だか照れるなぁ」

 ヴィルはすごく照れて笑った。

 

 学園の大ホールにはぞくぞくと3年生が集まっていた。

 それぞれ思い思いに着飾った姿はいつものみんなとは違って大人びて見えた。

 それにほとんどの生徒が婚約者と同伴していてそれぞれ席について行く。

 婚約者がいなくなった女生徒は先生に言われた席に着いたみたいだった。

 
 「うわぁ、みんな素敵。何だかすごく大人っぽく見える。私、大丈夫かな?」みんなの素敵なドレス姿に圧倒される。

 でも内心は私もまんざらじゃないわよね。などと思っていたが…だってこのドレスがすごく素敵だから。

 「バイオレットばかだな。そんな心配するなんて、俺から見ればお前が一番きれいに決まってる。今夜の主役はバイオレットだからな」

 「もう、今日のヴィルってやっぱり変よ…」

 「今夜は特別だろう?いい思い出にしようなバイオレット」

 「でも、ダンスも出来ないのよ。残念だわ。ヴィルはダンスはどう?」

 「俺?無理。だからこんな事言ったら怒られるかもしれないがバイオレットが脚、痛めてて良かったかな。まじリードなんかとれないと思うからさっ」

 「そう?まあ、私もダンス得意じゃないし。じゃあ、お互い様って事で」

 「ああ、バイオレット席はここにしろ。ここなら先生や来賓に近いから、友達はみんなダンスで席立つだろうから」

 「ええ、ありがとうヴィル」

 私はヴィルの言ったように一番先生に近い席に座った。

 ここなら飲み物や軽食もすぐ目の前にある。ヴィルはちゃんと考えてくれたんだと思った。

 「ここで待ってろ。俺は準備を手伝ってくるから」

 「ええ、みんなに手伝えなくてごめんって謝っておいてくれる?」

 「誰も気にしないさ。すぐに戻るから」

 ヴィルは足取りも軽く手伝いに行った。


 私が席に着くと次々に来賓のロガレナート侯爵や学園長や先生が席に着き始めた。

 フィジェル公爵は欠席することになった。ヨハンのお父様だ。

 しばらくして…あっ、ヨハンとマーリン先生も来たわ。良かった。それにヨハンもマーリン先生もすごく素敵。

 ヨハンは銀色のスーツを着てマーリン先生はそれに合わせるように銀色のドレス。ウエストからたっぷりギャザーを寄せたフレアドレスでとっても似合っている。

 私はふたりに視線を送るとヨハンたちも私に微笑んだ。


 それからフローレン達、婚約者がいなくなった女子生徒の席に美しい金色のマントを羽織った男性たちが案内されて来た。

 少し緊張した顔をした騎士たちは皆マントの下には騎士隊の正装で会場がさらに華やかさを増したようだった。

 フローレンたちはみんなにこやかな笑顔で騎士隊の男性を迎えていた。

 私はほっとしてフローレンに微笑みかけた。

 彼女はドンとの婚約が亡くなって良かったって言ってたからもしかしたら今日新しいカップルが生まれるかもしれないのだ。


 「こんばんは、こちらの席は空いてますか?」

 「はい、どうぞ」

 私は声を掛けられてその人を見た。

 騎士隊と同じ金色のマント。その下には騎士隊の正装だ。だが、この人は普通の騎士でなくもっと上の位の人らしい。

 金色のマントは他の隊員とは格段上の二重の金糸が縁取りされていて、白いダブルブレストにはあちこちに金色の刺しゅうが入っていて肩章や勲章が付けられている。

 「失礼。私はゴールドヘイムダルの大隊長しています。レオン・ヘンドリックと言います。今夜は特別なご招待を頂いて参りました」


 「まあ、そうでしたか、これは失礼しました」

 礼儀正しい挨拶をされた。

 ヘンドリック家と言えばロガレナート侯爵家と並ぶ元侯爵家の家柄だったはず…

 私は脳内で失礼があってはと急いで立ち上がる。

 「あの、私はこの学園の3年生のバイオレット・レスプランドールと言います。今日はお忙しい所、卒業記念の夜会にご参加いただきありがとうございます」

 久しぶりに丁寧な所作であいさつをする。

 「あなたは生徒だったんですか?いや、失礼こちらは来賓席かと思ったもので」

 私は来賓席を見た。席はすでに埋まっていた。

 「いいえ、構いません。どうぞこちらにお座りになって下さい」

 「ですが、あなたのお相手がいらっしゃるでしょう?」

 「ええ、でも私の婚約者もここの講師ですので構いません。どうぞ」

 私はさらに席に座るように勧める。

 彼はそこまで言われてはとどっしりと逞しい身体を椅子に下ろした。


 夜会の挨拶が学園長からあっていよいよ夜会は始まった。

 まずは飲み物をと生徒が立ち上がって動き始める。音楽が奏でられ夜会のムードは盛り上がった。

 「先ほどお名前を伺った時、確かレスプランドールとおっしゃいましたか?」

 「はい、そうです」

 「もしやあなたはレーモン・レスプランドールのお嬢さんですか?」

 「えっ?はい、そうですが…あのヘンドリック隊長は父をご存知なのですか?」

 「はい、私の祖父がもと北のブラックヘイムダルの騎士隊長をしていまして、その関係であなたが小さいころ私も何度かお宅にお邪魔したことがあったと記憶しておます」

 「まあ、そうでしたか。では兄たちとも?」

 「はい、アルクはべズバルドルにいるので時々顔を合わせますしモービンとは年に何度か…」

 「まあそうだったんですか。私全然知らなくて失礼しました。こんな所でお会いできるなんて兄が聞いたら驚きますね」

 「ええ、そうですね。そうだ。何か飲み物を取って来ましょうか?」

 「とんでもありません。私こそ気が付かなくて」

 私はいきなり立ち上がってうぎゃと声を上げた。

 「どうかされましたか?」

 「いえ、何でもありません。少し脚を痛めていて…」

 「それは気が付きませんで申し訳ありません。ではここで待っていてください。飲み物は何にしますか?バイオレットとお呼びしても?」

 「ええ」

 「私の事はレオンと呼んで下さい。今日はとてもいい夜になりそうです」

 レオンはにっこり笑って私を見た。

 彼は錆さび色の髪をしていて瞳は瑠璃色だった。端整な顔立ちとまではいかないがやはり騎士隊長をしているだけに私たちの年代にはないベールに包まれたような雰囲気が醸し出されていてそれはかなり魅力的に見えた。

 私は少し恥じらいを覚える。喋り方も何となく品よくしなくてはと。

 「ではレオン様、果実水をお願いします」

 レオンは眩い笑みを浮かべ流れるような所作で飲み物を取りに行った。



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