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39何だかまずい状況です
マリエッタは男たちを押しやってまた話を始める。
「あなたをここに連れて来たのはお金を都合してもらうつもりだからよ」
彼女は腹立たしげに言葉を吐いた。
「なんの事?」
「あなたにお金がないのならお兄さんに都合してもらえるでしょう?」
「だから、あなたの為にどうして私がお金を都合つけなくちゃいけないよ!」
「お兄さんたちはみんなエリートじゃない。国家機関で働いてお金がないなんて…あり得ないわよね?」
彼女は相変わらず私を睨みつけてせせら笑った。
マリエッタは何を勘違いしてるんだろう?
それともヴィルが彼女にそんな事を言ったのだろうか?
本当にそんな事をするつもり?
私はマリエッタの態度があまりにも自信たっぷりなのででだんだん心配になって行く。
そんな彼女は人を馬鹿にしたような笑みを浮かべ腰に手を当てて「ふん、なによ!」とでも言いたげにつんと顔を反らした。
「マリエッタ?ヴィルから何を聞いたか知らないけど私や家族にはそんな余分なお金はないのよ」
「うそよ!」
「うそじゃないわ。ほんとに私やわたしの家族にはおかねはないのよ。ヴィルはそれが分かったから私にはお金の事なんか相談しなかっんだと思うわ」
マリエッタは唖然とした顔をした。
そして腕を組んでさらに背筋をぐいっと伸ばした。
私を見据えるようにして話を始める。
「よく聞いて。あなたは騙されてるのよ。婚約者気取りはもうやめたら?ヴィルは約束してくれたの。私をここから連れ出してくれるって」
「それって…」
それって…ヴィルはマリエッタが好きなの?私は騙されたって事?
そんな考えが浮かぶと胸の中にメラメラと嫉妬の炎が燃え上がった。
ヴィル?
私はそれでも不安と怒りで押しつぶされそうな気持をぎゅっと押し込んだ。
マリエッタの前でそんな醜態を見せたくない。
唇を噛みしめたくなくて口の中で歯をぎりっと鳴らす。一緒に舌を噛んで痺れと痛みが脳内を支配した。
そのおかげで理性を取り戻せたかもしれない。
私は背筋を伸ばして顎を突き出す。
「そんな事知ってるはずがないじゃない。それに私がどうしてあなたにお金を出す必要があるのよ」
つんと顔を反らす。
今の私にはこれが精いっぱいの虚勢だった。
マリエッタは完全に切れたらしい。
「あなたみたいに素敵な家族がいてあんないい学園に通っている人にわかるはずはないわ。あなたに教えてあげましょうか。私がどんな酷い目にあったか、ううん、今もひどい目にあってるって事を!」
マリエッタの言葉がかみつくように吐き捨てられる。
ほんの少し間を開けて。
この話をしようか迷っているみたいだった。
腰に当てていた腕を胸の前で組むと顔をうわ向かせ息をゆっくり吐いた。
私と目が合ってマリエッタは一度まぶたをぎゅっと閉じてパッと見開いた。
彼女はとてもきれいな人だと思った。
金色の髪はきれいにカールして琥珀色の瞳は光が反射するとキラキラ輝いて瞳の周りのまつ毛は長くきれいで唇だってきれいな形をしていて…
やっぱりマリエッタの話は本当なのかなって、まるで足元の悪い上にはしごを立てて脚をかけているみたいに頭がぐらぐら揺れている。
マリエッタはもう一度息を吐くと話を始めた。
「私は孤児だった。養護施設を出て15歳で働き始めたわ。王都のパン屋で働き始めてすぐの事だった。そこの主に乱暴されたのよ。家族がいればきっとそんな事はおこらなかったはずよ……」
マリエッタは握っていた拳を開いたりまたぎゅっと握ったりしている。
まるでこらえきれない怒りを抑え込もうとでもしているかのように。
「その後、私はそのパン屋から逃げ出した。頼れる人もいなくてそして街をさまよっている時ろくでもない男に引っかかって…騙されたのよ!こんな所に売られるなんて…それからここでずっと嫌な男の相手をさせられて…それがどんな気持ちかあなたにわかる?私の人生はこんなはずじゃなかったのよ。家族と一緒に暮らして働きながらいずれは好きな人が出来て結婚して幸せな家庭を築いて…」
目の前のマリエッタの金色の瞳は涙の膜で覆われて眦を涙が伝い落ちた。
彼女は泣いていた。
「だからって私にどうしろと?」
だって私だってどうしていいのかわからない。責任?そんなの…
マリエッタが辛かったのは確かよ。でも、そんな事どうしろと?どうにもしてあげれなかったじゃない。
今だって私にどうしろと言うのよ。と私は聞きたかった。
その答えはすぐに分かった。
「決まってるじゃない。お金が出来ないならあなたにはここで働いてもらう。代わりに私は自由になる。それだけの事よ。あなたと私が入れ替わればいいのよ」
マリエッタが薄ら笑いを浮かべる。
「私はヴィルを信じてたのにあなたにいいように騙されるなんて…だから仕方ないじゃない。あなたが私に変わってくれればいいのよ」
「マリエッタ正気なの?そんなこと出来るはずないじゃない。ヴィルはどこ。ヴィルに合わせてよ!」
「ヴィルは殴られて気を失ってるわ。奥の部屋に転がってるはずよ。お金を持ってくるって言っておきながら何も持たずに来たの。だから相当殴られたみたい。あなたヴィルの事が好きなんでしょう?じゃあ、ちょうどいいじゃない。ヴィルを助けたいならあなたがここで働くべきよ!」
マリエッタの唇の端が持ち上がる。
「そんな!」
私はあまりにも驚いて何も言い返せない。
マリエッタあなたどれだけ無茶なことを言ってるかわかってるの?
その時また男の一人がマリエッタの前に割って入って来た。
「おいおい、マリエッタ。お前が自由になれるとでも?お前はもうマルケリア国の商人に買い取られてるんだぞ。お前はあのデブった男のおもちゃになるって決まってるじゃねぇか。ひぃひぃひぃっ」
気持ちの悪い笑いでマリエッタを見据えると彼女の手をひねり上げた。
「冗談?私の代わりにこの女を渡せばいいじゃない。だってバートだっていいって言ったわ。私の代わりを連れて来ればお前は自由にしてやるって」
男たちはクッと笑った。
「おいおい、そんな話信じたのか?バートがそんな男じゃないって知ってるはずだろう?マリエッタお前には大金が掛かってるんだ。それをきちんと払えないうちは自由なんてない。そうだろう?」
そこに大柄な人相の悪い男が奥から出て来た。
「さっきから何を騒いでる?ここは店先だぞ。お客が逃げたらどうすんだ?」
どすの聞いた低い声に男たちが顔色を変えた。
「バート、わかってるって、すぐに連れて入る。おい、女。こっちへ来い!」
「お前ら、誰がバートって?俺はこの宿の主人なんだ。店では名前で呼ぶなって何度言えばわかるんだ?」
「あっ、いけね。はいはい、旦那すぐに」
男たちはこのバートと言う男にかなわないのだろう。すぐに言われた通りに言い換えた。
私はこの大きな男がここの主人だと知る。
この人はヴィルの事を知っているはずだろう。
「あの…バートさん?あなたがここのご主人なんですよね?ここにヴィルフリートって人がいますよね?私、その人に話があるんです。ヴィルを呼んでもらえませんか?」
「お前は誰だ?」
「旦那、こいつはマリエッタが連れて来たんです。何でもあのヴィルの婚約者だとか、上玉ですぜぇ」
バートは私を見て次に男たちを見た。
「なんだ。ヴィルの奴。そうならそうと言えば殴られなくても済んだものを…ったく。無駄に殴らせやがって」
バートは右手の赤くなった拳を左手で撫ぜた。
「クッソ!」
大きくため息を吐くと今度は男たちを見た。まるでお前たちのせいだとでも言いたげに…
男は顔色が変わって慌てる。
「旦那。マリエッタはそう言ってますが、マリエッタがあの商人のところに行けばこの店には女が必要でしょう?ちょうどいいじゃないですか。こいつをマリエッタの代わりに使って、マリエッタにはマルケリア国に行ってもらえば」
男たちはにやつきながら私の腕を両方から抱えた。
「何するのよ!離して!私がそんな事認めるはずがないじゃない。こんな所で働くわけがない。いいからヴィルに合わせてくれないならもう帰らせて!」
「そういうわけにも…なぁお前たち」
バートが言う。やっと機嫌が直ったのかバートはにやりと笑って私を見た。
瞳の奥に情欲が沸き上がったようないやらしい目で私を見る。
気持ちの悪い悪寒が肌を駆け抜けた。
そのせいで私はごくりとつばを飲み込んだ。
マリエッタはまずいと思ったのか逃げ出そうと店の出口に走り出す。
「おっと、マリエッタどこに行くつもりだ?お前は大事な売り物だ。大人しくしてろ!!」
バートの太い腕がマリエッタの手を容赦なく後ろに捻り上げてマリエッタはあっという間に拘束された。
「いや!いやよ。放して。私はこの女を連れて来たじゃない。私を自由にしてよ。バートお願い。私をもうここから自由にして…お願いよ。あんな豚みたいな男のものになるくらいなら死んだほうがましよ。いや!いやよ」
マリエッタは泣きながらバートに懇願する。
「それは無理だ。わかるだろう?マリエッタ」
その声は気味が悪いほど優しい。
私は身体中にぞわぞわと虫唾が走る。
そこに突然ガタンと音がして奥の部屋からヴィルが現れた。
彼はまぶたや頬を腫らしてそこは真っ赤になっていて、唇の端には血がこびりついている。
私の胸は焼け付くほど痛くなった。
それが会いたかった。心配してたの。って言う感情なのか、信じた人に裏切られたって言う喪失感なのかわからなかった。
ただ訳の分からない激しい感情が脳内で渦巻いていた。
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※「小説家になろう」「ベリーズカフェ」「ノベマ!」「カクヨム」にも掲載しています。