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43-1それから3年が過ぎて穏やかな幸せが続くはずだった
しおりを挟むそれから3年ー
私は男の子を産み名前をエリオットと名付けた。
エリオットはヴィルフリーの金色の髪や琥珀色の瞳をそっくりそのまま受け継いでそれはとても愛らしい子だ。
私はゴールドヘイムダルの事務官として働きながらエリオットを生んで仕事に復帰した。
そして1年前に事務官をやめて兄の商会を手伝う事になった。
子育てに忙しいながらもささやかな幸せを築いていた。
*****
国内の政治は色々ごたついていた。
国王はとても民から慕われていたはずなのに、ある時発表されたのは国王が水晶中毒に犯され執務を続けるのが無理になったというとても信じられない話だった。
その結果、国王の後を継いだのは貴族制度復活を唱えている国王の王弟だった。
それから後も内政は不安定だったし異常気候などあったのだが私はエリオットの事で手いっぱいでそんな話には興味もなかった。
私にとって大切なのはエリオットの事と今の仕事を続けられるかと言う事だけだった。
この国はどんな状態になろうと子供を産んで育てる事に力を入れることは変わらなかった。
子供が国にとっての一番大事な基盤だという考えは変わらなかったから。
産休はもちろんその間の生活費も保証されていたし、産休明けからも職場に保育施設があったので復帰はスムーズに出来たのだ。
この国では仕事をやめても赤ん坊は3か月になれば母親が働けるように街のあちこちに保育設備があって0歳児から6歳児まで預かってくれるので困ることはなかったからとにかく働く事に問題はなかった。
病気をしても診療施設はすべて無料でお金がなくても診てもらえるのってすごいことだ。
とにかく子供は最優先で優遇され育てている親も優遇されるという、それは結婚していなくてもそれは同じ条件と言うところが私にはすごくありがたかった。
妊娠が分かってモービン兄さんは一番に自分の所に帰ってこいと言った。
でも、モービン兄さんは少し前に結婚したばかりだったので、そこに妊婦が帰るのもどうかと思うでしょう。
こっちにはふたりも兄さんがいるし何よりラーシャさんがお産から赤ん坊の世話まで任せろと言ってくれていたので私はそのままゴールドヘイムダルの事務官として働き赤ん坊を産むことにしたの。
お産が終わるとしばらくラーシャさんの所でお世話になってエリオットの抱き方から始まりおむつの交換やお風呂の入れ方など細かいことまで教えてもらってすごく助かった。
ラーシャさんは戦争で一人息子を失くしていたので、私を娘のようにエリオットは孫のように思ってくれて本当にラーシャさんには感謝しかない。
でも、でも、ヴィルの事を思うとすごく腹が立つ。
絶対にあんなろくでもない男と結婚しなくてよかったのだと常々自分に言い聞かせている。
エリオットは私がしっかり育てて見せるんだからって。
それに兄さんたちもエリオットをすごく可愛がってくれるし、そうそうエドガー兄さんは医者になってべズバルドルの街中の診療所で働いている。
うそみたいでしょう?
モービン兄さんの商会は倒産寸前までいったが、水晶の解毒作用があると言うマルケリア国特産のナッシュの実から採れるナッシュミルクと言う果汁の独占売買権を持つことが出来て右肩上がりに商会はうまく行っている。
奇跡みたい。あんなに資金繰りに苦労してたのに…
とにかく水晶の解毒作用のあるのナッシュミルクは水晶中毒者の撲滅を掲げる王国の最重要案件で診療所や警務部、騎士団からも注文が殺到しているって…ありえないって感じで。
そのおかげで兄の商会は右肩上がりに商売が繁盛し他の薬草もたくさん取り扱うようになって私はとうとう兄の仕事を手伝うことになった。
べズバルドルでの注文にこたえるため王都に店を出すことになったのだ。
私は商売に関しては素人なので診療施設を出たアマリにも声を掛けて仕事を手伝ってもらう事にした。
だってアマリは家が商売してたからいろいろ詳しい。
私はあれから何度かアマリの所を訪ねていてアマリが水晶中毒で苦しんでいたことややり直したいと思っているを知っていたからちょうど良かった。
だからこそ彼女を仕事に誘った。
アマリは喜んで仕事を引き受けてくれた。
マリエッタとはあれ以来顔を合わせることもなかった。
私はマリエッタの事を恨んでなどいないと言えばううそになるかな…
マリエッタがヴィルとどんな関係だったのかも気にならないと言えばうそになる。
けど…今は彼女にも幸せになってほしいと思っている。
時の流れってすごいって思う。ほんと!
他にもアルク兄さんは今年警務部の執務官になったしコッズ兄さんも国家警備隊の中部隊の隊長になった。
アルク兄さんに一度ヴィルの事を聞いてみたけど何も言わなかった。兄さんもヴィルのことは知らないみたいだ。
ヴィルの事を詮索するのはもうやめようと思う。
兄たちもそれぞれ出世してラスプランドール家のみんなが幸せだった。
だが、私の日常が一変することが起きた。
それは私が仕事帰りにラーシャさんの店コロケットに寄って手伝っている時だった。
私は仕事が終わるとしょっちゅうラーシャさんのところに行くしエリオットはラーシャさんが大好きだから。
ついでに店の手伝いもする。
その日、王都には北の国境警備隊の部隊がやってきていた。
少し前、北の隣国のアラーナ国で反乱がおきてそのせいで国境の街リオスはアラーナ国からの避難民が流れ込んできてひと騒動あったと聞いた。
それを鎮圧して避難民の救護をした国境警備隊が国王から恩賜おんしを賜ることになってここべズバルドルにやってきていたのだ。
「バイオレットこれ頼んだよ」
ラーシャさんは私が子持ちになってから店でも名前で呼ぶようになった。
エリオットは2歳になり店の一番奥の席でお絵かきをしていい子にしてくれている。
「はい、お待ちどう様。ご注文のポロネーゼです」
「バイオレットこっちビール追加!」
「はい、少々お待ちくださーい」
その日も店は忙しく目が回るほどだった。
そんな店が忙しいときに限って…
「おい、もういっぺん言ってみろ!てめぇ俺を誰だと思ってやがる!!」
隣同士になった相手が悪かったのか。
ひとりは常連でコロケットに来てしょっちゅう喧嘩をするリベロだった。
酒癖が悪くすぐに誰かれ構わず文句を言う男だ。もうひとりは初めて見る顔だ。
よく見ると黒いマントを羽織ってその下は警備隊のような服装だ。
「なんだと!お前が誰だろうと知った事か!何を偉そうに言ってやぁがる!」
もう!リベロったらいい加減にしなさいよ。私は心の中で悪態をつく。
「文句があるならやるか?おい、かかって来てみろ!」
ねぇ貴方、騎士隊か警備隊の人じゃないの?こんなくだらないことで喧嘩するのはやめてよね。
私はやれやれと思う。
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