この度学園を卒業するために婚約しなければならなくなりまして

はなまる

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43-2それから3年が過ぎて穏やかな幸せが続くはずだった


 
 「やってやろうじゃねぇか!」

 ったく。売り言葉に買い言葉。ほんとにいい加減にしてよ。って言ってる場合じゃないか。


 私は急いでふたりの間に入って止めに入る。

 「はい、そこまでよ。リベロいい加減にして!ほら、他にもお客さんがいるからやめないなら店から追い出すわよ!!」

 「でもバイオレットこいつが…」

 「なんだ?俺が悪いってのか?クッソ!」

 そう言ってマントの男が手を上げた。

 「もう、いい加減にして!」

 私はその手を掴み上げて後ろに捻りあげる。

 「いいぞ。バイオレット。「「やれ、やれ!!」」周りの客から歓声が上がる。

 それがいけなかった。

 その男は逆上し始める。

 「クッソ、俺を馬鹿にしやがって!!」

 男は持っていた剣を手にしたと思ったらその剣が私の頬をかすめた。

 シュッ!刃先は頬をかすめて空を切る。

 思わず掴んでいた男の手を離してしまう。

 「卑怯よ。そんなものを使うなんて。もう、許さないから!!」

 私は本気になって男を封じ込めようとじりじり近づく。

 「近づいてみろ。これでブスリだからな」

 興奮した男は剣を構えたままで…

 「あなた騎士隊なの?それとも警備隊?そんなものを振り回すなんて卑怯よ!」


 だが、そこにエリオットが走り寄って来た。

 「ママー見てみて」

 エリオットは一生懸命書いた絵を見せようとしたらしい。

 「だめ!エリオット。来ちゃだめー!!」

 「おっとっ!坊主いいところに来たな」

 エリオットが男の腕に絡めとられた。

 「あっ、やだぁ。ママーいやだ。いやだ。放してよーあぁぁぁーん」

 エリオットは驚いて足をバタバタさせて泣き出した。

 「エリオットを放して!放さないと後悔するわよ」

 「後悔するのはお前の方だ。だろ?」

 男はエリオットの頬に短剣の刃先を当てる。

 「お願い。エリオットはまだ小さいのよ。そんな子を恐れさせないで。もういいからあなたには負けたわ。さあ、もう出て行ってくれればそれでいいから…ねえお願い」

 「出ていけ?俺はまだ酒が飲みたいんだ。おい、お前。バイオレットとか言ったな。俺に酌を知ろ。いいかわかってるのか?」


 男は相当酔っているらしい。

 「わかったわ。言う通りにするから。エリオットを放して。ねっ」

 私はゆっくり男に近づいてエリオットを受け取ろうとする。


 男はエリオットを片手に抱えたまま剣を鞘に収めた。私はほっとしてエトオットを抱き寄せようと手を伸ばした。

 「おっと、バイオレットここに座れよ。俺に酌をするのが先だ。だろう?」

 「やだ。やだぁ。ママ、ママ、ママー」

 「お前もママといたいんだろう。だったら大人しくしてろよ。いいからここにじっとしてろ!!」

 男は長椅子に座ってエリオットをすぐ横に座らせる。だが片腕はまだエリオットをしっかりつかんでいてエリオットは嫌がっている。

 「わ、わかったから。お酌はするから…ねっ、まあ落ち着いてよ」

 ラーシャさんも騒ぎに気付いて厨房から駆け付ける。その手にはちゃんとビールがある。

 「大丈夫かい?警ら隊を呼んだ方が…」

 「ラーシャさん、でも、もう少し待って…」

 この店で騒ぎを起こしたくはない。


 私はビールとコップを受け取り男の横に座った。

 「そうだ。俺はさぁ最初からこうしたかったんだ。やっぱり王都にはいい女がいる」

 男は差しだされたコップを受け取る。私はちらりとエリオットを見る。

 エリオットの瞳からは大粒の涙が溢れていて胸が苦しい。

 しっかりしなきゃ。エリオットのためなんだから。

 ぎゅっとビールの瓶を握りしめて差しだされたコップにビールを注ぐ。

 トクトク…ビールが注がれる音だけが店に響く。みんなが固唾をのんでそれを見守る。

 男がビールをうまそうに飲み干してコップをテーブルに置いた。


 「いやぁすまなかった。あの男に絡まれてつい興奮しちまったんだ。俺だって女を怖がらせる趣味はないんだ」

 男が私を覗き込むように見つめた。

 私はきっと悔しさと腹立たしさですごい顔をしていると思う。でも、エリオットのためならと力なく首を横に振った。

 男は優しそうな頬笑みを浮かべた。

 「俺はトビーっていうんだ。こんな事したけどほんとは真面目なんだ。信じてくれるか?」

 トビーはテーブルの上にあった私の手にそっと手を乗せた。

 大きく剣だこの出来た手だった。少しかさついた手には小さな傷がいくつもあった。

 私の父や兄も元騎士隊だったからこんな手をしていたが、その男にぎゅっと手を握られると身体がビクリと震えた。

 私はヴィルと離れてから男に触れられたことはなかった。

 ふとヴィルに触れられた時の事が頭をよぎった。

 あんなに優しかったヴィル。いつも私に優しかったヴィル。彼の手の感触が思い出されていきなりその男の手の感触に嫌な感じを覚えた。


 でも、ここで離して何て言ったらまたエリオットを怖がらせてしまう。

 私は俯いて唇をぎゅっと噛みしめる。

 「なんだよ。顔を上げろよ。せっかくの美人が見えないじゃないか!!」男の声が大きくなる。

 私は仕方なく顔を上げた。

 その時だった。


 店の扉が開いて黒いマントの男達が数人入って来た。

 「おい、いたぞ。ったく。トビーいきなりいなくなるから探したんだぞ!」

 トビーは振り返って大きな声で仲間を呼んだ。

 「ああ、すまん。酒が早く飲みたくってなぁ。この店結構いいぞ。美人がいるんだ。今、酌をしてもらってる所だ」

 トビーの仲間だろうか。同じ黒いマント。その下には警備隊のような服の男達ががやがやテーブルに近づいてきた。

 そして私を取り囲むように男が座り込んだ。


 私はこの隙にとエリオットを呼んだ。

 「あの、私はまだ仕事があるので…さあ、エリオットこっちにおいで」

 「ああ、ビールを頼む」男が注文をした。

 私はエリオットを抱き上げるとすぐに席を立った。

 「はい、すぐにお持ちします」

 私はエリオットを厨房にいるラーシャさんに渡した。

 ラーシャさんはすぐにエリオットを奥に連れて行った。


 「隊長いつまでそこにいる気なんです?早く入って来て下さいよ!」

 男が入り口でたたずんでいる男に声を掛けた。

 「いや、お前らだけで。俺はもう帰る!」

 そんな声が聞こえる。

 一人の男が立ち上がって隊長と呼ばれた男を引き留めに行く。

 「いいじゃないですか。褒美もたんまり出たんです。たまには王都で酒くらい…なぁみんな」

 「いや、俺はいいんだ…酒は飲みたくな…」

 私はそのやり取りをカウンターの辺りでじっと見ていた。

 隊長と呼ばれた男が引っ張られて入って来た。

 その髪は長く伸びて後ろで束ねてある。髪の色に驚く。何しろ毛先は金色だったがそこから根元に向かって橙色、赤色にと変化していた。

 こんな髪色初めて見た。

 そんな彼が顔を上げた。瞳は琥珀色。


 私はその男の顔を見て固まる。しばらく息をするのも忘れてやっと声を上げる。

 「あ、あなた!」

 まるで幽霊でも見たみたいに声がかすれた。

 「…ばいお、れ、と…」

 彼はとっさにそう言った。そしてその顔は驚きで蒼白となる。

 「今なんて?俺は…俺は君を知っているのか?」

 「やぱっり。やっぱりヴィルなの?私がわかるの?」

 私の背中は冷水を掛けられたみたいにヒヤッとなる。


 「バイオレット。大変。エリオットが…すぐに来て!!」

 「ラーシャさん何があったの?エリオットが?」

 私はラーシャさんの叫び声に急いで厨房に走った。

 その間もヴィルの事が頭から離れない。ヴィル今私の事バイオレットって言った?

 記憶が戻ったの?ヴィル?

 「バイオレットはやく!!」

 再びラーシャさんの声がして私の思考はすべてエリオットに向かう。





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