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44-1エリオットはけいれんを起こして
「エリオット!エリオットしっかり…大変、診療所に連れて行かなきゃ」
エリオットのそばに駆け寄るとエリオットはけいれんを起こしていた。
実はエリオットがけいれんを起こすのは初めてではない。半年ほど前に高熱を出してけいれん発作をおこしたのだ。
診療所で働くエドガーに聞くと小さな子供は時々そんな事があると言った。
あまり心配しなくても大きくなるにつれ治るものだからと言われて安心していた。
今日は熱もなかったのに…さっき恐い目にあって…エリオットに触ってすごい熱だと気づく。
もう、私ったらどうして気づかなかったのかしら。
こんなことはしていられないわ。すぐに診療所に行かなきゃ。
「ラーシャさん診療所に行って来るから」
「ああ、一緒に行ければいいんだけどひとりで大丈夫かい?」
店にはお客さんがたくさんいる。私が抜ければラーシャさんも大変だろうけどそんな事は言ってられない。
「ええ、ラーシャさん忙しいのにごめんなさい。じゃあ、行って来るから」
ラーシャさんがひざ掛けをエリオットにかけてくれて私はそれを巻き付けるようにしてエリオットを抱き上げた。
そのままヴィルの事は忘れて私は急いで表に飛び出た。
「待て、俺も行こう。その子を渡せ!」
後ろから誰かが声を掛けた。
「大丈夫ですから、ご親切ありがとうございます」
私は後ろも振り返らずそう言った。だって、私に頼る人はいないしそんな事を言われる人もいないから。
この3年そうだった。私はいつもエリオットとふたりきりだった。確かにラーシャさんや兄さんはいたけど基本的にいつもふたりきりだったから。
「いいから、俺が抱いて行く」
私の腕を掴んでエリオットを奪う。
「何するんです?」
その相手はヴィルだった。
「どうしてあなたがそんな事をするのよ。いいからエリオットを返して!」
「今はそんな事をしている場合じゃないだろう?早く子供を診療所に…」
エリオットはけいれんは収まっていたがぐったりしていた。
「エリオットしっかりしてすぐにお医者様に診てもらおうね。すぐに良くなるから…」
私たちは話もそこそこに診療所を目指した。
「お願いします。子供がけいれんを起こして…熱も高いんです」
診療所にいたのはエドガー兄さんだった。
「エドガー兄さん…エリオットが…」
「バイオレット。どうした?エリオットか?さあ、ここに寝かせて」
エドガーが胸や喉の中を診察する。
「かなり熱が高いな。困ったな」
「さっきコロケットで酔った客に絡まれてエリオットを捕まえて大きな声で騒いだもんだからきっとエリオット驚いて。それでこんな事に…兄さん?」
「それはわからないが、今日はなぜかたくさん熱のある人が来て、今手元に解熱薬草がないんだ。そうだ。ランドール商会に在庫がなかったか?」
「ええ、きっとあると思うわ。常に在庫は切らさないようにしてるはずだから…」
ランドール商会はモービン兄さんの商会だ。レスプランドール商会は名前が長すぎて覚えにくいと他の国の取引相手から苦情を言われて名前を短くした。ランドール商会と。
「私、今から採りに行って来る。エリオットを頼むわ」
「ああ、任せろ。あの、…えっ?バイオレット、この男…ヴィルフリートじゃないのか?いったいどうして…」
エドガー兄さんが驚くのも無理はない。
そこでやっと私はヴィルの事を思い出す。
そうだった。私だって驚いていたでも、エリオットの事で頭がいっぱいでそれどころじゃなかったもの。
ヴィルはエドガーだと分かったのだろうか?
そう、私の事も覚えていたわよね。でも、ヴィル記憶失くしたはずで…
「あの…確か前に会った事があると思うが…いや、話はまた…とにかく俺も一緒に行こう」
えっ?エドガー兄さんの事も…まあ兄さんに会ったのはコロケットで一度きりだったし…
そんな事より記憶が戻ったのなら聞きたいことが山のようにある。なのに口から出たのは…
「あなたに関係ないじゃない。いきなり現れて一体どういうつもり?ついて来ないで。いいからもう帰ってちょうだい!」
記憶が戻ったのなら連絡ぐらいして欲しかった。
ううん、もういいのよ。ヴィルは死んだものだとずっとそう思って来た。
なのに…今さら現れてどういうつもり!!
それにエリオットが彼の子供だとわかったら…
私の胸は違う意味でぞわりとする。
そうよ。今さらヴィルを見たからって何も感じるはずがないもの。
私を騙していたヴィルの事なんか!!
必死で彼を否定することに全神経を注ぐ。
ったく!何でこんなことしてるんだろう私。
ヴィルの事なんかとっくに忘れたはずなのに…
でも、エリオットは彼の子供なんだしいつかは本当の事を話すときがくるかもしれない。
でも、それは今じゃないから!!
もうこんな時にヴィルに会うなんて…
神様どれだけ意地悪なんです?
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