45 / 51
44-1エリオットはけいれんを起こして
しおりを挟む「エリオット!エリオットしっかり…大変、診療所に連れて行かなきゃ」
エリオットのそばに駆け寄るとエリオットはけいれんを起こしていた。
実はエリオットがけいれんを起こすのは初めてではない。半年ほど前に高熱を出してけいれん発作をおこしたのだ。
診療所で働くエドガーに聞くと小さな子供は時々そんな事があると言った。
あまり心配しなくても大きくなるにつれ治るものだからと言われて安心していた。
今日は熱もなかったのに…さっき恐い目にあって…エリオットに触ってすごい熱だと気づく。
もう、私ったらどうして気づかなかったのかしら。
こんなことはしていられないわ。すぐに診療所に行かなきゃ。
「ラーシャさん診療所に行って来るから」
「ああ、一緒に行ければいいんだけどひとりで大丈夫かい?」
店にはお客さんがたくさんいる。私が抜ければラーシャさんも大変だろうけどそんな事は言ってられない。
「ええ、ラーシャさん忙しいのにごめんなさい。じゃあ、行って来るから」
ラーシャさんがひざ掛けをエリオットにかけてくれて私はそれを巻き付けるようにしてエリオットを抱き上げた。
そのままヴィルの事は忘れて私は急いで表に飛び出た。
「待て、俺も行こう。その子を渡せ!」
後ろから誰かが声を掛けた。
「大丈夫ですから、ご親切ありがとうございます」
私は後ろも振り返らずそう言った。だって、私に頼る人はいないしそんな事を言われる人もいないから。
この3年そうだった。私はいつもエリオットとふたりきりだった。確かにラーシャさんや兄さんはいたけど基本的にいつもふたりきりだったから。
「いいから、俺が抱いて行く」
私の腕を掴んでエリオットを奪う。
「何するんです?」
その相手はヴィルだった。
「どうしてあなたがそんな事をするのよ。いいからエリオットを返して!」
「今はそんな事をしている場合じゃないだろう?早く子供を診療所に…」
エリオットはけいれんは収まっていたがぐったりしていた。
「エリオットしっかりしてすぐにお医者様に診てもらおうね。すぐに良くなるから…」
私たちは話もそこそこに診療所を目指した。
「お願いします。子供がけいれんを起こして…熱も高いんです」
診療所にいたのはエドガー兄さんだった。
「エドガー兄さん…エリオットが…」
「バイオレット。どうした?エリオットか?さあ、ここに寝かせて」
エドガーが胸や喉の中を診察する。
「かなり熱が高いな。困ったな」
「さっきコロケットで酔った客に絡まれてエリオットを捕まえて大きな声で騒いだもんだからきっとエリオット驚いて。それでこんな事に…兄さん?」
「それはわからないが、今日はなぜかたくさん熱のある人が来て、今手元に解熱薬草がないんだ。そうだ。ランドール商会に在庫がなかったか?」
「ええ、きっとあると思うわ。常に在庫は切らさないようにしてるはずだから…」
ランドール商会はモービン兄さんの商会だ。レスプランドール商会は名前が長すぎて覚えにくいと他の国の取引相手から苦情を言われて名前を短くした。ランドール商会と。
「私、今から採りに行って来る。エリオットを頼むわ」
「ああ、任せろ。あの、…えっ?バイオレット、この男…ヴィルフリートじゃないのか?いったいどうして…」
エドガー兄さんが驚くのも無理はない。
そこでやっと私はヴィルの事を思い出す。
そうだった。私だって驚いていたでも、エリオットの事で頭がいっぱいでそれどころじゃなかったもの。
ヴィルはエドガーだと分かったのだろうか?
そう、私の事も覚えていたわよね。でも、ヴィル記憶失くしたはずで…
「あの…確か前に会った事があると思うが…いや、話はまた…とにかく俺も一緒に行こう」
えっ?エドガー兄さんの事も…まあ兄さんに会ったのはコロケットで一度きりだったし…
そんな事より記憶が戻ったのなら聞きたいことが山のようにある。なのに口から出たのは…
「あなたに関係ないじゃない。いきなり現れて一体どういうつもり?ついて来ないで。いいからもう帰ってちょうだい!」
記憶が戻ったのなら連絡ぐらいして欲しかった。
ううん、もういいのよ。ヴィルは死んだものだとずっとそう思って来た。
なのに…今さら現れてどういうつもり!!
それにエリオットが彼の子供だとわかったら…
私の胸は違う意味でぞわりとする。
そうよ。今さらヴィルを見たからって何も感じるはずがないもの。
私を騙していたヴィルの事なんか!!
必死で彼を否定することに全神経を注ぐ。
ったく!何でこんなことしてるんだろう私。
ヴィルの事なんかとっくに忘れたはずなのに…
でも、エリオットは彼の子供なんだしいつかは本当の事を話すときがくるかもしれない。
でも、それは今じゃないから!!
もうこんな時にヴィルに会うなんて…
神様どれだけ意地悪なんです?
11
あなたにおすすめの小説
【本編,番外編完結】私、殺されちゃったの? 婚約者に懸想した王女に殺された侯爵令嬢は巻き戻った世界で殺されないように策を練る
金峯蓮華
恋愛
侯爵令嬢のベルティーユは婚約者に懸想した王女に嫌がらせをされたあげく殺された。
ちょっと待ってよ。なんで私が殺されなきゃならないの?
お父様、ジェフリー様、私は死にたくないから婚約を解消してって言ったよね。
ジェフリー様、必ず守るから少し待ってほしいって言ったよね。
少し待っている間に殺されちゃったじゃないの。
どうしてくれるのよ。
ちょっと神様! やり直させなさいよ! 何で私が殺されなきゃならないのよ!
腹立つわ〜。
舞台は独自の世界です。
ご都合主義です。
緩いお話なので気楽にお読みいただけると嬉しいです。
幼い頃に、大きくなったら結婚しようと約束した人は、英雄になりました。きっと彼はもう、わたしとの約束なんて覚えていない
ラム猫
恋愛
幼い頃に、セリフィアはシルヴァードと出会った。お互いがまだ世間を知らない中、二人は王城のパーティーで時折顔を合わせ、交流を深める。そしてある日、シルヴァードから「大きくなったら結婚しよう」と言われ、セリフィアはそれを喜んで受け入れた。
その後、十年以上彼と再会することはなかった。
三年間続いていた戦争が終わり、シルヴァードが王国を勝利に導いた英雄として帰ってきた。彼の隣には、聖女の姿が。彼は自分との約束をとっくに忘れているだろうと、セリフィアはその場を離れた。
しかし治療師として働いているセリフィアは、彼の後遺症治療のために彼と対面することになる。余計なことは言わず、ただ彼の治療をすることだけを考えていた。が、やけに彼との距離が近い。
それどころか、シルヴァードはセリフィアに甘く迫ってくる。これは治療者に対する依存に違いないのだが……。
「シルフィード様。全てをおひとりで抱え込もうとなさらないでください。わたしが、傍にいます」
「お願い、セリフィア。……君が傍にいてくれたら、僕はまともでいられる」
※糖度高め、勘違いが激しめ、主人公は鈍感です。ヒーローがとにかく拗れています。苦手な方はご注意ください。
※『小説家になろう』様『カクヨム』様にも投稿しています。
【完結】 異世界に転生したと思ったら公爵令息の4番目の婚約者にされてしまいました。……はあ?
はくら(仮名)
恋愛
ある日、リーゼロッテは前世の記憶と女神によって転生させられたことを思い出す。当初は困惑していた彼女だったが、とにかく普段通りの生活と学園への登校のために外に出ると、その通学路の途中で貴族のヴォクス家の令息に見初められてしまい婚約させられてしまう。そしてヴォクス家に連れられていってしまった彼女が聞かされたのは、自分が4番目の婚約者であるという事実だった。
※本作は別ペンネームで『小説家になろう』にも掲載しています。
【完結】転生したら悪役継母でした
入魚ひえん@発売中◆巻き戻り冤罪令嬢◆
恋愛
聖女を優先する夫に避けられていたアルージュ。
その夜、夫が初めて寝室にやってきて命じたのは「聖女の隠し子を匿え」という理不尽なものだった。
しかも隠し子は、夫と同じ髪の色。
絶望するアルージュはよろめいて鏡にぶつかり、前世に読んだウェブ小説の悪妻に転生していることを思い出す。
記憶を取り戻すと、七年間も苦しんだ夫への愛は綺麗さっぱり消えた。
夫に奪われていたもの、不正の事実を着々と精算していく。
◆愛されない悪妻が前世を思い出して転身したら、可愛い継子や最強の旦那様ができて、転生前の知識でスイーツやグルメ、家電を再現していく、異世界転生ファンタジー!◆
*旧題:転生したら悪妻でした
最愛の番に殺された獣王妃
望月 或
恋愛
目の前には、最愛の人の憎しみと怒りに満ちた黄金色の瞳。
彼のすぐ後ろには、私の姿をした聖女が怯えた表情で口元に両手を当てこちらを見ている。
手で隠しているけれど、その唇が堪え切れず嘲笑っている事を私は知っている。
聖女の姿となった私の左胸を貫いた彼の愛剣が、ゆっくりと引き抜かれる。
哀しみと失意と諦めの中、私の身体は床に崩れ落ちて――
突然彼から放たれた、狂気と絶望が入り混じった慟哭を聞きながら、私の思考は止まり、意識は閉ざされ永遠の眠りについた――はずだったのだけれど……?
「憐れなアンタに“選択”を与える。このままあの世に逝くか、別の“誰か”になって新たな人生を歩むか」
謎の人物の言葉に、私が選択したのは――
好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】
皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」
「っ――――!!」
「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」
クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。
******
・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
さようなら、私の愛したあなた。
希猫 ゆうみ
恋愛
オースルンド伯爵家の令嬢カタリーナは、幼馴染であるロヴネル伯爵家の令息ステファンを心から愛していた。いつか結婚するものと信じて生きてきた。
ところが、ステファンは爵位継承と同時にカールシュテイン侯爵家の令嬢ロヴィーサとの婚約を発表。
「君の恋心には気づいていた。だが、私は違うんだ。さようなら、カタリーナ」
ステファンとの未来を失い茫然自失のカタリーナに接近してきたのは、社交界で知り合ったドグラス。
ドグラスは王族に連なるノルディーン公爵の末子でありマルムフォーシュ伯爵でもある超上流貴族だったが、不埒な噂の絶えない人物だった。
「あなたと遊ぶほど落ちぶれてはいません」
凛とした態度を崩さないカタリーナに、ドグラスがある秘密を打ち明ける。
なんとドグラスは王家の密偵であり、偽装として遊び人のように振舞っているのだという。
「俺に協力してくれたら、ロヴィーサ嬢の真実を教えてあげよう」
こうして密偵助手となったカタリーナは、幾つかの真実に触れながら本当の愛に辿り着く。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる