この度学園を卒業するために婚約しなければならなくなりまして

はなまる

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45どうして私をかばったりなんか

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 ランドール商会に着くと私は急いで店の中に入った。

 もちろんヴィルには外で待ってもらう。

 ランプを付けて灯りをともすとぼんやりと店が照らし出された。

 「あっ!誰、そこにいるのは?」

 人影が見えて私は声を上げた。


 「あの…私です。バイオレットすみません。驚かせて…」

 「アマリじゃない。どうしたの?明かりもつけないで驚いたわ」

 「いえ、ちょっとお腹の具合が悪くてそれで薬草を少し頂こうと思って…」

 「そう、ヨモギがいいのよ。知ってる?ヨモギは確かこの棚の…」

 「ガタン!…痛い!」

 大きな音がしてアマリが声を上げた。

 「アマリ大丈夫?」

 私はアマリに近づく。アマリは後ろに手を回して不自然な格好をしている。

 「何を隠してるの?」

 「いえ、これは…何でもないんです。バイオレット早くここから出て行って…お願い。早くここから…」

 アマリの顔が強張る。


 その途端男が飛び出して来た。きっとアマリに付いてきたんだろう。

 いきなり男に飛びつかれて私は床に倒れ込んだ。男が飛びついて来て口をふさぐ。

 「きゃ…」すぐに手で口を抑え込まれ声も出せない。

 私は必死でもがく。

 身体を半身ひねり肘で男の身体をつく。脚に反動をつけて何とか男をはねのけようと試みる。だが、力のある男に抑え込まれていてなかなか反撃できない。

 「なんだ今の音?…おい、バイオレット大丈夫か?くっそ!こいつ!」

 ヴィルがおかしいと気づいて飛び込んで来た。

 男はヴィルに蹴り飛ばされて後ろにひっくり返った。私は急いで起き上がる。

 アマリに駆け寄るとアマリは店の大切な水晶解毒薬の販売許可証を持っていた。

 「アマリ。あなたまさかこれを?どうして…」


 実は水晶中毒は深刻な問題で王都では偽物の水晶解毒薬がたくさん出回っていた。行政府はそれを深刻に受け止めランドール商会のナッシュミルクだけが水晶解毒薬に効くことの証明書を発行してくれたのだ。

 そのおかげでこれがない店の商品はすべて偽物と判断できるようになった。

 「父がこれを持って来いって…でなければ私が水晶を学園で売っていたことをばらすって脅されて…私…」

 「アマリのお父さんが?でもボルガータ商会は潰れてなくなったはずよね?」

 「でも、父は逃げてそれでアラーナ国でまた商売を始めてまた王都にも店を出したいからって言って…」

 「そんな理由でこれを?アマリそんなお父さんの言うことを聞いちゃダメよ。一度そんな事をしたらまた利用されるわ。そんな心配しなくてもいいからアルク兄さんにそのことは話すから心配しないできっと何とかしてくれる」

 「ええ、そうですよね。私…ごめんなさい。どうかしてました」

 アマリは私の言った事をわかってくれたらしく、その証明書を私に差し出した。


 「おい、そんな事をしてみろ。ただじゃすまないぞ」

 さっきの男が走り寄って来た。

 「きゃーやめて。私に近づかないでよ」

 アマリは叫んだ。私はアマリの前に立ちはだかってそばにあったほうきを持って構える。

 殺すことは出来なくても男に一撃を与えればこっちにもチャンスはあるはず。

 そんな私を見て男は素手では無理だと思ったのか腰に下げていたらしい短剣を手にした。

 「こうなったら死んでもらう」

 男は怪訝な顔をして私に短剣の刃先を突きつける。

 私はそれをほうきの柄で薙ぎ払う。男がバランスを崩すが立て直しもう一度短剣を持って正面から突き進んで来た。

 「バイオレット、危ない!!」

 目の前に影が被さるのと男が短剣を突き出すのがほぼ同時だった。

 「グフッ」

 奇妙な声がしてその黒い影が目の前でどさりと倒れ込んだ。

 それと共にさっきの男も倒れている。

 男はもがきながら逃げ出そうとするが倒れたヴィルが男に食らいついたまま離そうとしない。

 「ひぇ~助けてくれー」

 男は足をばたつかせヴィルから無理やり体を引きはがすと脚をもつれさせるようにして逃げ出した。


 「バイオレット!?無事か」

 私はやっとヴィルが刺された事に気づいた。

 床には赤黒い液体が流れ出ている。

 「ヴィル?しっかり…もうどうして私をかばったのよ。ばかよ。あなた。大ばかよ」

 「な、何を…俺は警備兵だ。これはとうぜ、んの…」

 ヴィルは意識を失ってしまう。


 私はヴィルの刺された傷口を両手でしっかり抑え込む。

 「アマリ急いで診療所に走ってここで人が刺されたことを知らせて…診療所にはエドガー兄さんがいるから、あっ、それからその間あなたはエリオットに解熱薬草を持って行って飲ませてついていてくれない?お願い。急いで!」

 「はい、すぐに…こんなことになってごめんなさい。私…」

 アマリは怯えている。

 「いいから、誰もあなたを責めたりしないから、早く行って!」

 アマリは返事もそこそこに表に出た。


 「ヴィル!ヴィル!しっかりして。すぐに医者が来るから。大丈夫だから」

 「ばいおれ、っと…おれ…何でか君の事が…何か大切な、こと…」

 「いいから、もう喋らないで」

 「でも、死んだら言えない。知らないかバイオレット。俺は何を忘れてるのか?」

 息を継ぎながらヴィルが真剣に言う姿に胸が震える。でも、こんな状態の彼にほんとの事なんか言えるはずもない。

 「わかった。わかったから、もう喋らないで…今は手当てが先よ」

 「ああ、そう‥だろう、な…じゃあ、手当てが…済んだら教え、てくれる…?」

 ヴィルは虫の息の状態でもしゃべるのをやめなかった。

 「ええ、わかったから…いいからもうっしゃべらないで…」

 私はヴィルの出血部分をまた強く抑える。

 流れ出る血はかなりでヴィルの身体から熱を奪っていく。

 
 「なんか…目が見えなくて…ひゅー」

 ヴィルが大きく息を吸い込んだ。指先が小刻みに震えていて私はその手をぎゅっと掴む。

 「死なないで。ヴィル。死んじゃ駄目!やっと会えたんだから…ずっとずっと会いたかった…ヴィル。だから死なないで…」

 「ほ、んとに?俺にあい、たか、った?」

 ヴィルの声は弱々しくてほとんど聞こえないほど小さくて…

 「ずっと忘れられなかった。あなたをずっと…結婚なんかしてないの。ヴィル!」

 「…あなたを愛してたの…」

 そこからはもう涙腺が決壊して嗚咽と鼻水と泣き声が部屋にこだました。

 ヴィルの意識が遠ざかって行く。

 私はヴィルに縋りついた。

 彼の腕が無意識に私を慰めるようにゆっくりと回されて行く。

 彼は私をぎゅっと力なく抱きしめたみたいに思えた。

 「ああ…ヴィル。あなたを愛してる。ずっと、ずっと心から愛していたのよ」

 私は彼の耳元でそう囁いた。

 

 
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