47 / 51
45どうして私をかばったりなんか
しおりを挟むランドール商会に着くと私は急いで店の中に入った。
もちろんヴィルには外で待ってもらう。
ランプを付けて灯りをともすとぼんやりと店が照らし出された。
「あっ!誰、そこにいるのは?」
人影が見えて私は声を上げた。
「あの…私です。バイオレットすみません。驚かせて…」
「アマリじゃない。どうしたの?明かりもつけないで驚いたわ」
「いえ、ちょっとお腹の具合が悪くてそれで薬草を少し頂こうと思って…」
「そう、ヨモギがいいのよ。知ってる?ヨモギは確かこの棚の…」
「ガタン!…痛い!」
大きな音がしてアマリが声を上げた。
「アマリ大丈夫?」
私はアマリに近づく。アマリは後ろに手を回して不自然な格好をしている。
「何を隠してるの?」
「いえ、これは…何でもないんです。バイオレット早くここから出て行って…お願い。早くここから…」
アマリの顔が強張る。
その途端男が飛び出して来た。きっとアマリに付いてきたんだろう。
いきなり男に飛びつかれて私は床に倒れ込んだ。男が飛びついて来て口をふさぐ。
「きゃ…」すぐに手で口を抑え込まれ声も出せない。
私は必死でもがく。
身体を半身ひねり肘で男の身体をつく。脚に反動をつけて何とか男をはねのけようと試みる。だが、力のある男に抑え込まれていてなかなか反撃できない。
「なんだ今の音?…おい、バイオレット大丈夫か?くっそ!こいつ!」
ヴィルがおかしいと気づいて飛び込んで来た。
男はヴィルに蹴り飛ばされて後ろにひっくり返った。私は急いで起き上がる。
アマリに駆け寄るとアマリは店の大切な水晶解毒薬の販売許可証を持っていた。
「アマリ。あなたまさかこれを?どうして…」
実は水晶中毒は深刻な問題で王都では偽物の水晶解毒薬がたくさん出回っていた。行政府はそれを深刻に受け止めランドール商会のナッシュミルクだけが水晶解毒薬に効くことの証明書を発行してくれたのだ。
そのおかげでこれがない店の商品はすべて偽物と判断できるようになった。
「父がこれを持って来いって…でなければ私が水晶を学園で売っていたことをばらすって脅されて…私…」
「アマリのお父さんが?でもボルガータ商会は潰れてなくなったはずよね?」
「でも、父は逃げてそれでアラーナ国でまた商売を始めてまた王都にも店を出したいからって言って…」
「そんな理由でこれを?アマリそんなお父さんの言うことを聞いちゃダメよ。一度そんな事をしたらまた利用されるわ。そんな心配しなくてもいいからアルク兄さんにそのことは話すから心配しないできっと何とかしてくれる」
「ええ、そうですよね。私…ごめんなさい。どうかしてました」
アマリは私の言った事をわかってくれたらしく、その証明書を私に差し出した。
「おい、そんな事をしてみろ。ただじゃすまないぞ」
さっきの男が走り寄って来た。
「きゃーやめて。私に近づかないでよ」
アマリは叫んだ。私はアマリの前に立ちはだかってそばにあったほうきを持って構える。
殺すことは出来なくても男に一撃を与えればこっちにもチャンスはあるはず。
そんな私を見て男は素手では無理だと思ったのか腰に下げていたらしい短剣を手にした。
「こうなったら死んでもらう」
男は怪訝な顔をして私に短剣の刃先を突きつける。
私はそれをほうきの柄で薙ぎ払う。男がバランスを崩すが立て直しもう一度短剣を持って正面から突き進んで来た。
「バイオレット、危ない!!」
目の前に影が被さるのと男が短剣を突き出すのがほぼ同時だった。
「グフッ」
奇妙な声がしてその黒い影が目の前でどさりと倒れ込んだ。
それと共にさっきの男も倒れている。
男はもがきながら逃げ出そうとするが倒れたヴィルが男に食らいついたまま離そうとしない。
「ひぇ~助けてくれー」
男は足をばたつかせヴィルから無理やり体を引きはがすと脚をもつれさせるようにして逃げ出した。
「バイオレット!?無事か」
私はやっとヴィルが刺された事に気づいた。
床には赤黒い液体が流れ出ている。
「ヴィル?しっかり…もうどうして私をかばったのよ。ばかよ。あなた。大ばかよ」
「な、何を…俺は警備兵だ。これはとうぜ、んの…」
ヴィルは意識を失ってしまう。
私はヴィルの刺された傷口を両手でしっかり抑え込む。
「アマリ急いで診療所に走ってここで人が刺されたことを知らせて…診療所にはエドガー兄さんがいるから、あっ、それからその間あなたはエリオットに解熱薬草を持って行って飲ませてついていてくれない?お願い。急いで!」
「はい、すぐに…こんなことになってごめんなさい。私…」
アマリは怯えている。
「いいから、誰もあなたを責めたりしないから、早く行って!」
アマリは返事もそこそこに表に出た。
「ヴィル!ヴィル!しっかりして。すぐに医者が来るから。大丈夫だから」
「ばいおれ、っと…おれ…何でか君の事が…何か大切な、こと…」
「いいから、もう喋らないで」
「でも、死んだら言えない。知らないかバイオレット。俺は何を忘れてるのか?」
息を継ぎながらヴィルが真剣に言う姿に胸が震える。でも、こんな状態の彼にほんとの事なんか言えるはずもない。
「わかった。わかったから、もう喋らないで…今は手当てが先よ」
「ああ、そう‥だろう、な…じゃあ、手当てが…済んだら教え、てくれる…?」
ヴィルは虫の息の状態でもしゃべるのをやめなかった。
「ええ、わかったから…いいからもうっしゃべらないで…」
私はヴィルの出血部分をまた強く抑える。
流れ出る血はかなりでヴィルの身体から熱を奪っていく。
「なんか…目が見えなくて…ひゅー」
ヴィルが大きく息を吸い込んだ。指先が小刻みに震えていて私はその手をぎゅっと掴む。
「死なないで。ヴィル。死んじゃ駄目!やっと会えたんだから…ずっとずっと会いたかった…ヴィル。だから死なないで…」
「ほ、んとに?俺にあい、たか、った?」
ヴィルの声は弱々しくてほとんど聞こえないほど小さくて…
「ずっと忘れられなかった。あなたをずっと…結婚なんかしてないの。ヴィル!」
「…あなたを愛してたの…」
そこからはもう涙腺が決壊して嗚咽と鼻水と泣き声が部屋にこだました。
ヴィルの意識が遠ざかって行く。
私はヴィルに縋りついた。
彼の腕が無意識に私を慰めるようにゆっくりと回されて行く。
彼は私をぎゅっと力なく抱きしめたみたいに思えた。
「ああ…ヴィル。あなたを愛してる。ずっと、ずっと心から愛していたのよ」
私は彼の耳元でそう囁いた。
14
あなたにおすすめの小説
【本編,番外編完結】私、殺されちゃったの? 婚約者に懸想した王女に殺された侯爵令嬢は巻き戻った世界で殺されないように策を練る
金峯蓮華
恋愛
侯爵令嬢のベルティーユは婚約者に懸想した王女に嫌がらせをされたあげく殺された。
ちょっと待ってよ。なんで私が殺されなきゃならないの?
お父様、ジェフリー様、私は死にたくないから婚約を解消してって言ったよね。
ジェフリー様、必ず守るから少し待ってほしいって言ったよね。
少し待っている間に殺されちゃったじゃないの。
どうしてくれるのよ。
ちょっと神様! やり直させなさいよ! 何で私が殺されなきゃならないのよ!
腹立つわ〜。
舞台は独自の世界です。
ご都合主義です。
緩いお話なので気楽にお読みいただけると嬉しいです。
【完結】 異世界に転生したと思ったら公爵令息の4番目の婚約者にされてしまいました。……はあ?
はくら(仮名)
恋愛
ある日、リーゼロッテは前世の記憶と女神によって転生させられたことを思い出す。当初は困惑していた彼女だったが、とにかく普段通りの生活と学園への登校のために外に出ると、その通学路の途中で貴族のヴォクス家の令息に見初められてしまい婚約させられてしまう。そしてヴォクス家に連れられていってしまった彼女が聞かされたのは、自分が4番目の婚約者であるという事実だった。
※本作は別ペンネームで『小説家になろう』にも掲載しています。
【完結】転生したら悪役継母でした
入魚ひえん@発売中◆巻き戻り冤罪令嬢◆
恋愛
聖女を優先する夫に避けられていたアルージュ。
その夜、夫が初めて寝室にやってきて命じたのは「聖女の隠し子を匿え」という理不尽なものだった。
しかも隠し子は、夫と同じ髪の色。
絶望するアルージュはよろめいて鏡にぶつかり、前世に読んだウェブ小説の悪妻に転生していることを思い出す。
記憶を取り戻すと、七年間も苦しんだ夫への愛は綺麗さっぱり消えた。
夫に奪われていたもの、不正の事実を着々と精算していく。
◆愛されない悪妻が前世を思い出して転身したら、可愛い継子や最強の旦那様ができて、転生前の知識でスイーツやグルメ、家電を再現していく、異世界転生ファンタジー!◆
*旧題:転生したら悪妻でした
そんなに義妹が大事なら、番は解消してあげます。さようなら。
雪葉
恋愛
貧しい子爵家の娘であるセルマは、ある日突然王国の使者から「あなたは我が国の竜人の番だ」と宣言され、竜人族の住まう国、ズーグへと連れて行かれることになる。しかし、連れて行かれた先でのセルマの扱いは散々なものだった。番であるはずのウィルフレッドには既に好きな相手がおり、終始冷たい態度を取られるのだ。セルマはそれでも頑張って彼と仲良くなろうとしたが、何もかもを否定されて終わってしまった。
その内、セルマはウィルフレッドとの番解消を考えるようになる。しかし、「竜人族からしか番関係は解消できない」と言われ、また絶望の中に叩き落とされそうになったその時──、セルマの前に、一人の手が差し伸べられるのであった。
*相手を大事にしなければ、そりゃあ見捨てられてもしょうがないよね。っていう当然の話。
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
幼い頃に、大きくなったら結婚しようと約束した人は、英雄になりました。きっと彼はもう、わたしとの約束なんて覚えていない
ラム猫
恋愛
幼い頃に、セリフィアはシルヴァードと出会った。お互いがまだ世間を知らない中、二人は王城のパーティーで時折顔を合わせ、交流を深める。そしてある日、シルヴァードから「大きくなったら結婚しよう」と言われ、セリフィアはそれを喜んで受け入れた。
その後、十年以上彼と再会することはなかった。
三年間続いていた戦争が終わり、シルヴァードが王国を勝利に導いた英雄として帰ってきた。彼の隣には、聖女の姿が。彼は自分との約束をとっくに忘れているだろうと、セリフィアはその場を離れた。
しかし治療師として働いているセリフィアは、彼の後遺症治療のために彼と対面することになる。余計なことは言わず、ただ彼の治療をすることだけを考えていた。が、やけに彼との距離が近い。
それどころか、シルヴァードはセリフィアに甘く迫ってくる。これは治療者に対する依存に違いないのだが……。
「シルフィード様。全てをおひとりで抱え込もうとなさらないでください。わたしが、傍にいます」
「お願い、セリフィア。……君が傍にいてくれたら、僕はまともでいられる」
※糖度高め、勘違いが激しめ、主人公は鈍感です。ヒーローがとにかく拗れています。苦手な方はご注意ください。
※『小説家になろう』様『カクヨム』様にも投稿しています。
さようなら、私の愛したあなた。
希猫 ゆうみ
恋愛
オースルンド伯爵家の令嬢カタリーナは、幼馴染であるロヴネル伯爵家の令息ステファンを心から愛していた。いつか結婚するものと信じて生きてきた。
ところが、ステファンは爵位継承と同時にカールシュテイン侯爵家の令嬢ロヴィーサとの婚約を発表。
「君の恋心には気づいていた。だが、私は違うんだ。さようなら、カタリーナ」
ステファンとの未来を失い茫然自失のカタリーナに接近してきたのは、社交界で知り合ったドグラス。
ドグラスは王族に連なるノルディーン公爵の末子でありマルムフォーシュ伯爵でもある超上流貴族だったが、不埒な噂の絶えない人物だった。
「あなたと遊ぶほど落ちぶれてはいません」
凛とした態度を崩さないカタリーナに、ドグラスがある秘密を打ち明ける。
なんとドグラスは王家の密偵であり、偽装として遊び人のように振舞っているのだという。
「俺に協力してくれたら、ロヴィーサ嬢の真実を教えてあげよう」
こうして密偵助手となったカタリーナは、幾つかの真実に触れながら本当の愛に辿り着く。
英雄の可愛い幼馴染は、彼の真っ黒な本性を知らない
百門一新
恋愛
男の子の恰好で走り回る元気な平民の少女、ティーゼには、見目麗しい完璧な幼馴染がいる。彼は幼少の頃、ティーゼが女の子だと知らず、怪我をしてしまった事で責任を感じている優しすぎる少し年上の幼馴染だ――と、ティーゼ自身はずっと思っていた。
幼馴染が半魔族の王を倒して、英雄として戻って来た。彼が旅に出て戻って来た目的も知らぬまま、ティーゼは心配症な幼馴染離れをしようと考えていたのだが、……ついでとばかりに引き受けた仕事の先で、彼女は、恋に悩む優しい魔王と、ちっとも優しくないその宰相に巻き込まれました。
※「小説家になろう」「ベリーズカフェ」「ノベマ!」「カクヨム」にも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる