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47エリオットやらかす?
よく見るとヴィルはあの髪飾りを手に持っていた。
「おれは…おれは…君を…俺達は婚約していて…君を…」
ヴィルはそこまで言うと今度は顔をしかめた。
手の中では蝶の髪飾りがひっきりなしにいじられていて…
「カペラにマリエッタが君を連れて来た。俺は殴られて意識を失っていて…」
ヴィルはそこで黙った。
ヴィルの顔を探るように見つめる。
ええ、そうよヴィル。思い出したの?
私は期待で胸がざわめく。思わずその先を話たてしまいたくなるが…
でも、彼は深刻な顔で考え込んでいる。
あっ、それは私を騙してたから?
私たちは婚約してた。でもそれは私からお金を取るためだったわね。
私はあなたを愛してた。
でも、私たちは愛し合ってなんていなかった。
あの時ヴィルに裏切られたショックを思い出す。
「ええ、あなたは私を騙してたのよ。そして死んで生き返った。その時には私の事はもう忘れていた。しょせんその程度の関係だったのよ。だからもう気にしないで…」
やっぱりもう無理なのかも…私のまぶたは下を向く。
だって、涙腺が壊れてしまいそうなんだもの。
するとヴィルがぎゅっと唇を噛みしめると大きく息を吐きだした。
「ああ、思い出した。いいからバイオレット聞いてくれ!頼むからこっちを見てくれないか?」
私はそう言われて顔を上げる。
ヴィルの顔はものすごく真剣で、私は少し涙目なのを隠す暇もなくじっと見据えられる。
「俺は…やっと思い出した。バイオレット。俺は…君に酷いことをしようとしていたんだ。俺は…ほんとは…金目当てで君に近づいた。でも…途中から本気でバイオレットの事好きになったんだ。やんちゃで勝ち気なのにすげぇ照れ屋で優しくて、涙もろくてそれで…もう訳が分からないくらい可愛いって思うようになった。あの時だって俺は本気で君を抱いた。バイオレットを愛してるって言ったのも嘘じゃない。ほんきだった…んだ」
「ヴィル…ああ…思い出したのね」
私の心は喜びに震える。これ以上ないってくらいうれしくて彼のそばにかけよる。
その距離はほんの歩幅一歩分ほどだろうか。
ヴィルは照れ臭そうに頭をがしがしかく。
「ああ、ひどいよな。俺は…俺は恐かったんだ。俺の母親は父さんがいない間に男を連れ込むような女だった。父さんが死んで男と出て行ったんだ。だから俺は女が信用できなかった。俺が騙してバイオレットに近づいたって知ったら…バイオレットはきっと俺を嫌いになるって思った。愛する女に嫌われるくらいなら黙ってる方がいいんじゃないかって…そんな風にしか考えられなくてもっと早く正直に話をするべきだったのに、ちゃんと本当の事を伝えるべきだったのに…勇気がなかったんだ。だから…」
「そうよ、もっと早く話してくれてたら…でも、あなたは私の事なんか最初は好きでもなかったのよね。どうして私だったの?」
よせばいいのに、調子に乗って聞いてしまった。
「ああ、でもバイオレットほんとに悪かったって思ってるんだ。それは信じてくれるよな?」
「ええ、もちろん」
ヴィルh顔をしかめて言いにくそうに話を始めた。
「あれは…潜入捜査の話が来て君に婚約を申し込んだのはアルクの所に尋ねて来た君を見たことがあったから思いついた。俺は父が亡くなった責任を少しくらいとってもらってもいいんじゃないかって自分のやろうとしていることを正当化した。君が卒業したら婚約を解消して傷つけてやろうって…そんな魂胆で君に近づいたんだ。だからきっと罰を受けたんだろうな。君を忘れるなんて…本気でバイオレットを好きになってしまったのに…ほんとだ。最初は君を騙すつもりだったのにでも君を本気で好きになったんだ。君を思う気持ちに嘘はなかった。でもきっと君は俺の事なんか許してくれないよな。いいんだ。許してほしいなんて言わない。でも、あの時の俺の気持ちは信じて欲しい…」
思っていた通りの事を話されて私は一瞬気落ちした。
だって…本人から騙すつもりだったって言われると傷つく。
でも、今回の事で私はヴィルを許すつもりだったのに…
なのに。もう、やり直す気はないみたいに言われるともうどうしていいかもわからなくなる。
耳殻は、ヴィルの愛してた。本気だった。って言う声だけを妙に拾ってしまうと言うのに。
ヴィルが私とやり直したいって言ってさえくれればいいのに…
「ええ。もう、過ぎたことだもの…気にしてないわ」
私はもうどうでもいい事みたいに言う。
言いたいことはそんな事じゃないのに。
ヴィルが忘れられないくせに。
ぐずぐず心の中に残るわだかまりみたいな何かが私を素直にさせないのだろうか?
ヴィルはバツが悪いのかそれ以上の事は何も言わなかった。
むしろその逆で…
「あの…バイオレット。数日前に店に薬草を取りに行ってそこに男がいて襲われて俺が助けに入っただろう…それで刺された事は気にしないでくれ。だからってどうかしようなんて思ってないから安心してくれよ。だってそうだろう。俺の事許せるわけないしな…」
ヴィルはそれだけ言うと話は終わったとばかりに顔を背けた。
そこにエドガー兄さんが入って来た。
「あっ、邪魔したかな?でも意識が戻ったって聞いたから様子を見に来たんだ」
「ええ、どうぞ。じゃあ、私は外で待ってる」
私は何て言ったらいいか戸惑った。
大きなため息をついてくるりと向きを変えた。
「ママ…いや。ここ。いるぅ。パパここ。パパといっしょ。いいー」
腕に抱いていたエリオットがとんでもないことを言った。
最近の若い親は子供にママ、パパと呼ばせることが多いみたいで私もエリオットにママと呼ばせていたのだけど。
驚く。エリオットったらもうこんな時に…
えっ?というような顔でヴィルが目を見開いてこちらを見た。
「エリオットだったよな?今なんて?パパ?パパって…もしかして俺の事なのか?えっ?どういうことだ?バイオレットそれって?」
ヴィルは口早に疑問を投げつける。それに脳内では瞬時に計算が出来たみたいで…
「ち、違うの!何でもないったら!もぉ!エリオットったら勘違いしてるのよ。最近パパって言えるようになったから男の人を見たらパパ。パパって言うの。いいからエドガー早く見てあげて…」
もう、エリオット。なんてことを…
私は冷や汗をかいて急いで部屋を出る。
ヴィルにあんな風に告白されたのに。
一時は命の心配もあったけど、翌日には峠を越したからもう心配ないだろうとエドガー兄さんから聞いて私はすっかりヴィルとやり直す気になっていたのに。
だから、ヴィルが気が付いたらエリオットにパパって呼ばせて驚かせてやろうと思っていたのだ。
なのに…ヴィルは私をやり直す気はないって?はっ!もう、どうずればいいの?
籠の中には思い出のラムサンドも入っていたのだが。
「バイオレット?」
「アマリどうしたの?」
廊下をアマリが歩いて来る。
「私も心配でお見舞いに…あの…お加減はいかがなんです?本当にすみません私があんな事したばっかりに大切なヴィルフリートさんをあんな目に合わせてしまって」
私は首を横に振る。アマリもある意味被害者なのはわかっている。
あれからアマリの父親は警ら隊に連行されて詳しい取り調べを受けている。もちろんヴィルを刺した男も捕まった。
今度こそアマリの父親も刑に服することになるだろう。
「ううん、そんな事は…それにヴィルも気が付いたし、もう大丈夫だから…あっ今、先生が診察してる所」
「そうなんですか。じゃあ、この後お見舞いいいですか?」
「ええ、もちろん」
しばらくするとエドガー兄さんが診察を終えて出て来た。
「もう、心配ないから、傷は順調に回復してる。後はしっかり栄養のあるものを食べて静養すれば大丈夫だ。バイオレット良かったな」
エドガー兄さんがにやりとした。
「もう、兄さんそんなんじゃないから」
「ああ、わかってる。エリオットを合わせたいんだろう?」
「まだ、そういう段階じゃないから!」
私は慌てて否定する。
だって…
兄たちはもちろんヴィルの子供だと知っている。ただ、彼がいなくなって彼の事をすごーく怒ってはいたが…私を庇ってこんな怪我をしたと分かった途端みんなの態度は急変した。
それは私もだ。
でも、肝心のヴィルは…はぁ…
「バイオレット、私、お見舞い済ませてもいい?」
「あっ、いいけど」
「ママ、おしっこ」
「エリオットちょっと待って、すぐに行くから。じゃあ、アマリ先に行ってて…」
私はエリオットを連れてその場を離れる。
何しろ最近おむつを取ったばかりで時々失敗するから焦るなんてもんじゃない。
エリオットのお手洗いを済ませてやっとヴィルの病室に戻る。
アマリはもう帰ったのか部屋にはいなかった。エリオットは少し眠くなったのか私に抱かれて大人しくなっていた。
「あの…アマリはもう?」
「ああ、悪かったってすげぇ勢いで謝られた。もう、いいって何度も言ったけど。バイオレットからも気にするなって言っといてやって。何だか気の毒だし…」
「ええ、3年前は婚約者で今度はお父さん。アマリもいい肉親に恵まれないわよね」
「あの、さっきの話だけど」
ヴィルはなぜか顔が赤くなったり青くなったりしている。
それになぜかわたわたと落ち着かないらしく。
「えっ?何の事かしら?」
「いや、バイオレット結婚したって言ってたよな」
「えっ?あっ、そうだったわね。私、結婚したって…ええそうだったわ」
「でも…」
ヴィルは、から元気とでもいうのだろうか。
無理やり笑みを顔に張り付けた。
あの…私なんて言えばいいの?
うそだったって早く言わないと…
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