この度学園を卒業するために婚約しなければならなくなりまして

はなまる

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48雨降って地固まる?私たち結婚します!最終話


 
 私はそこでやっと自分が結婚したと言った事を思い出す。

 何てこと…

 あっ、もう、ばか!こんな事になるならあんなうそつくんじゃなかったのに…

 ヴィルったら肝心なところは聞いてなかったんだ。

 ううん、ヴィルは息も絶え絶えだったし仕方がないと言えばそうなんだけど…

 その時突然エリオットがくずり始める。

 「いや、パパと遊ぶぅ、ママ、約束、したー。パパと一緒って…あーん。パパここ」

 私はエリオットを椅子から抱き上げる。

 「ごめんなさい。もう眠いらしくって…エリオットごめん。もう帰ろうか」

 「ああ、悪い。お見舞い来てくれてありがとう。俺も傷がもう少し良くなったらリオスに帰るから、忙しいんだろう?もう来なくても平気だから…会えてよかったバイオレット」

 ヴィルは金色の髪をクシャっとかきあげた。

 私の脳内はくらりとする。

 ヴィル。ヴィル。ヴィル。わたし…次の言葉を言おうとした時ヴィルが言った。

 「でも…エリオットって言ったよな。その子。金色の髪に琥珀の瞳。何だか俺とそっくりだよな。あっ、ごめん……」

 私は心臓がドクリと跳ね上がる。

 返事も出来ないままヴィルを見つめる。

 ヴィルは何かを感じたのかもしれない。

 背中に枕を当てて寝転んでいた彼がいきなり跳ね上がって身体を起こした。

 「ぃって!なぁ、バイオレット。まさか…まさか俺の子供じゃないんだよな?」

 私は何も言えなくてエリオットを抱いたまま後ろに後ずさった。

 「あっ、ごめん!冗談。ただの冗談だ。エリオットの父親も琥珀色の目なのか?だよな。そんなばかな事…いいんだ」

 今度は頭をがしがしかきむしる。


 「こんな事聞くべきじゃないよな。ごめん。俺…バイオレットの事忘れてたのに…いいんだ。気にしないでくれ。そんなの俺のただの妄想だから」

 ヴィルは唇をぐっと嚙みしめた後大きくため息をついた。


 私は言ってしまおうかと思う。

 でも、エリオットの事どう思うんだろう。

 彼はいきなり父親だと聞いてどう思うんだろう?

 そんな不安が脳内をよぎると…

 もう、こんな時に意気地なしになるとか。最悪。



 それでもこの場を何とかしなきゃと言葉はどうでもいいことを紡いでしまう。

 「そうよヴィルったら…おかしなことを言うわ。私ずっとこっちで仕事をしてたのよ。も、もちろんあなたが帰って来るとか考えてなかったわ。もうあなたは死んだんだって思うことにしたし…ラーシャさんにはあれからいろいろお世話になってて、妊娠が分かった時からエリオットが生まれてからも赤ん坊の抱き方やおむつの当て方も全部教えてもらって。もう、お世話になりっぱなしなの。だって私、母もなくなってるし一人じゃほんと何もわからなくて…ラーシャさんがいてくれなかったらどうなっていたか…だってあなたは帰ってこないし…あっ!いいの。別に帰って来るなんて思っていなかったのよ」

 「えっ?でも結婚したんだよな?」

 ヴィルの言い方はなぜか意味深で。何だか彼はうそだと知ってるみたいで。

 「あっ、まあそうなんだけど…」

 もう、はっきり言えばいいのに。何してるのよと思う。ほんと。

 「ママ。いやぁ、ママなぃ、ちゃ、やだぁ…パパここ。パパここ」

 エリオット‥今それを言う?

 私はぐずるエリオットを抱いてぎょっとする。

 ヴィルの顔色がさっと変わる。

 エリオットの顔をじっと見つめている。エリオットはヴィルにそっくりだ。

 髪や瞳だけじゃない。目の形だって鼻筋だって唇だって耳の形でさえ、まるでちっちゃいヴィル。

 これでも気づかないって…やっぱり父親になるのが嫌なのかも。

 何だかばかみたいに思えてくる。



 「バイオレット!おい、いいから本当の事を教えてくれ。エリオットは俺の子なのか?」

 ヴィルが目を引ん剝く。その驚いた顔といったら…

 私はもうどうしていいかわからなくなって。

 瞳にはいつの間にか涙がいっぱいに溜まっていて。

 喉の奥は泣くのをこらえようとキュッと締まって声も出せなくなってて。

 それでもやっとヴィルが気づいてくれたのが。

 何でか。どうしてだか。

 もう、嫌になるけどうれしくて。

 私の首は自然にこくんと折れ曲がる。

 そのせいで目の表面張力が崩れて涙がポロリって零れ落ちた。

 「ママ。ママ…」

 エリオットがそんな私の涙を小さな手で拭ってくれて。

 ありがとう。私の天使。

 また涙がこぼれた。



 「ドタ!バゴン!ドゴン!ドス…」

 ばたばたベッドを飛び降りる音がしてヴィルが走り寄った。多分一度転んだと思う。

 傷大丈夫?って思うけど。それどころではなくて…

 ヴィルの手が私の両頬をそっと包み込むと顔を上げさせた。

 「俺はばかだ」

 ヴィルは首を激しく左右に振った。一瞬唇からは笑みがこぼれ落ちた気がして。

 「バイオレットどうして……結婚したなんてうそなんだろう?いいからもう本当のことを言ってくれ。アマリから聞いたバイオレットは結婚していないって…でも、そんな嘘をつくのは俺とはやり直す気がないからだろうって思った。それに俺は君ともう一度やり直すなんて言える立場じゃないって思ったから…だから…だから俺は…バイオレット頼む。ほんとうのことを言ってくれ」

 彼の瞳は美しく一点の曇りもない。透き通るような琥珀色の瞳で私を見つめる。

 またしても…

 私の首はこくんと折り曲がる。

 こら!私の身体。”勝手にばらすんじゃないわよ。”なんて言わないから。

 それにアマリ”余計なことを”なんて思わないから。

 「ごくり」

 ヴィルがつばを飲み込んだ音がやけに部屋に響いた。

 彼は切羽詰まったように。

 怯えた子猫みたいに身体をぶるっと震わせて。

 それでも決意を込めた声で。

 「バイオレット。俺と、俺とやり直してくれ!二度といなくなったりしない。もう絶対に手放したりしない。だから、俺ともう一度やり直してくれないか?頼むバイオレット」

 拒めるはずないじゃない。

 私は…ヴィル。あなたがあなたの事が今でも死ぬほど好きなんだから。

 でも、これだけは譲れない。

 「ヴィル。もう、絶対に私から離れないって約束できる?」

 「約束する。二度と君から離れないって」

 私たちは互いを見つめ合う。自然に身体が引き合うように近づいた。

 そして熱い熱い口付けを交わした。



 「ママ。ママ。たい。たいよー。パパ。パパここ」

 「エリオットごめん。これからはずっと一緒だからな」

 ヴィルがエリオットを抱き上げた。

 「うぐぅ」

 「ヴィル?ああ、もう傷。エリオットこっちにおいで」

 「やぁ。パパいい。パパー」

 エリオットはきゃっきゃっとして大喜びだ。

 ヴィルは傷などお構いなしにエリオットをあやす。

 やっぱりわかるのかしら?

 ひとしきり親子の体面をするとやっとエリオットが大人しくなってヴィルはベッドに戻りエリオットをそばに座らせた。

 私は持って来た籠からラムサンドやオレンジ果汁を出して3人で一緒に食べた。

 「バイオレットもう絶対離さないからな。俺、本気にしたんだからな。バイオレットが結婚したって話。もう、記憶が戻った途端、死んでしまいたいって思った!悪い冗談はもうやめてくれよ。ったく!」

 ヴィルはふてくされてそんな事を言った。
 

 「だって…あなたの気持ちわからなかったし。つい…」

 「こうなったらすぐに結婚誓約書を書くから安心してくれ」

 「もう、ヴィルったら…」

 私はクスクス笑う。何だかヴィルらしくって。

 「あっ、そうそう婚約してたからエリオットの父親は心配しなくてもヴィルフリートになってるのよ」

 「ったく。早くそれ教えて欲しかったよ」

 「あら、調べればすぐにわかることなのに」

 「バイオレットもう許してくれよ~なぁいいだろう?」

 「私を生涯愛するって誓うならね」

 ヴィルは返事のかわりに私を引き寄せ熱い口づけをした。


 それからヴィルは枕の下をごそごそ探して何かを取り出した。

 「ずっと手放せなかった理由がやっとわかった。バイオレット心から愛してる」

 ヴィルが手にしていたのはさっき彼が手に握っていた蝶の髪飾りだった。

 「ヴィルったら。でもそれどこで?」

 「3年前マリエッタの働いていた店で殴られて倒れただろう?それで意識が戻った時指先にこれが触れて思わず手に握りしめてた。その時はもうバイオレットの記憶がなかった」

 「……ええ、もうわかったから」


 「俺、あっ、バイオレット。マリエッタとは何もない。それはマジほんとだからな」

 ヴィルは慌ててそう言った。その姿も可愛くて胸が疼く。

 「うん、信じる。私はずっとあなたの事が忘れられなかった。思い出してくれてうれしい」

 ヴィルはたまらないって顔をして私の髪にそっと口づけを落とすとその髪飾りを付けてくれた。

 「バイオレット…今すぐ抱きたい。もう、俺…愛してる」

 「もう!ヴィルあなたがエッチなことはもう知ってる…」


 私たちやっと結婚します!!

 今度こそ幸せになります!!


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