この度学園を卒業するために婚約しなければならなくなりまして

はなまる

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エピローグ やっぱりお互いの気持ちはちゃんと話すべき!

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 そこに扉をノックする音がした。

 「失礼する。隊長。怪我の具合はどうなんです?」

 「みんなどうしたんだ?」

 入って来たのは北の国境警備隊のみなさん。

 「どうしたって?隊長こそ俺達驚きましたよ。どうしてこんなことになったんです?」

 ヴィルはそれから長ーい説明をして国境警備隊をやめると言った。

 「まあ、そういう事情なら仕方ないですけど。それにしても可愛らしい子ですね」

 エリオットは警備隊の皆さんに抱かれてご機嫌だ。

 髭を引っ張ったりマントを掴んだりとやりたい放題出来てはしゃいでいる。


 それからしばらく隊員たちと一緒に過ごしていた。

 「あのな。いいからお前たち…」

 「エリオット。ほら、高いだろう?」

 「うん、もっと~もっとしてぇ」

 エリオットは隊員の一人に抱え上げられて楽しそうにキャッキャッと声を上げる。


 ヴィルはいい加減にして欲しいと大きくため息をつくととうとう我慢できなくなったらしい。

 「あの…そろそろ帰ってくれないか?やっと愛する妻と再会したところなんだぞ」 

 ヴィルは少し不貞腐れている。

 「えぅ?隊長いつ結婚したんです?」

 「まあ、これからだが、すぐだ」

 「ったく。やってられません。エリオットまたな。おい、みんな帰るぞ。俺達は明日王都を出発しますから、隊長の荷物はまとめて送ることにしましょうか?。でも、その前にきちんと手続きして下さいよ」

 「ああ、すぐにやる」

 そして国境警備隊の皆さんは帰って行った。


 ヴィルはみんなが出て行くと満面の笑みを浮かべた。

 そのとろけるような微笑みに私の心はトロトロに溶けていく。

 「バイオレット愛してる。なぁ、ここに来ないか?」

 「ほんとにヴィルったら!記憶がなくなった後どこにいたのよ…」

 私はこぼれそうになるうれしさをこらえながら少し唇を尖らせるとエリオットと一緒にヴィルの横に滑り込んだ。

 ヴィルはㇰッㇰッと笑いながらふたりを包み込むように腕をまわす。

 そして話を始めた。

 「まずは俺の過去から…さっきも言ったけどバイオレットと出会うまで女の事は信用していなかった。母の事もあるがそれ以上に俺が付き合った女はどれもみんな金や名誉になびくような女ばかりで、まあ、俺自信が女の事をそんな目で見ていたからかもしれないが…だからバイオレットと婚約して金をせしめる事にあまり躊躇しなかった。でも…」

 ヴィルはそこまで言うと私をじっと見つめた。

 愛しそうに髪を撫ぜつけられて私はヴィルの肩に引き寄せられる。

 「ごめんな。バイオレットを傷つけるつもりだった。俺は君を傷つけたままでいなくなったんだよな…ほんとにごめん。謝ってもすむことじゃない。けど、きちんと謝らせてくれ。ほんとに悪かった。二度と君を騙すようなことはしないと誓う」

 私はふっとヴィルの顔を見あげた。

 ヴィルは辛そうに眉を寄せて唇を噛んでいた。

 私はそんなヴィルの唇にそっと指を当てる。噛みしめた唇をそっと解きながら話を始めた。

 彼の肩から胸のあたりに頭を乗せて。

 もちろん怒ってなんかいない。

 そして少し甘い声色で。

 ふたりの間にはエリオットもいると言うのに。

 「そうよ。あの時は死んでしまいたいって思ったわ。ヴィルの本心もわからないまま中途半端に放りだされて…でも、妊娠してるってわかってすごくうれしかったのよ。エリオットは私の命綱だったわ。あなたの分身がお腹に宿っているって思ったら…また生きる勇気が湧いてきて…だから頑張れたのよ」

 私はあの時の気持ちを素直に話せた。

 だってもう遠慮はなしにしたいって思った。

 彼の指はひっきりなしに私の髪や耳に触れて時々ぎゅっと私の肩を抱く。

 例えなんでもない風に言ってもこんな話を聞かされてヴィルは辛いだろうと思う。

 「ヴィル?」

 私はヴィルと目を合わせる。

 「ああ、バイオレットすごく頑張ったんだな。俺はバイオレットを騙すつもりで近づいたって言うのに。でも、信じて欲しい。途中から本気でお前を好きになったこと。その気持ちに嘘はない。俺は記憶をなくして3年の間苦しむこともなかった。バイオレットはすごく苦しかったと思う。でも、もうすべて思い出したから…これからはずっとそばにいるから…バイオレットお前を愛してるんだ。だから俺を許してほしいなんて言わない。これから今までの分までお前を愛するから…」

 「違うの。あなたを責めようと思ったんじゃないの。ただ、私の今までの事を話しただけ。こんな話してごめんね。でも、これからは何でも言いたいことを言ってお互いに分かり合える夫婦になりたいの。私たち、うそのない関係になりたいって思うから」

 「ああ、俺もそう思う。ずっとうそにまみれた人生だった。でも、バイオレットに出会って俺はもううそはいやだって思うようになっていた」

 ヴィルはたまらないように私の唇に口づけを落とした。

 彼の熱が伝わってすごく気持ちが高揚していく。

 ものすごく幸せだって身体じゅうから光の粒が沸き上がるみたいに。

 唇が離れると私の周りをすぐに現実が取り巻く。

 「もう、ヴィルったら、ここは病室よ」

 「…私あなたの事を忘れたことはなかったわよ。でもあなたは死んだと思えって言われてほんとに辛かった。でも、こうやって再会出来てものすごくうれしい。ねぇ、ヴィル。3年間の辛い記憶はこの日のためだったって思うことにしない?」

 「ああ、こうやって出会えて俺の記憶も戻ってこれほどうれしいことはないよな」

 私たちはふたりの間にいるエリオットに互いに口づける。

 「それにしてもヴィルこの3年何してたの?」

 「それはもう大変だったんだ。国中のほとんどは知らないだろうがこの国が滅びるような危険なことが起きたんだ。それを悪用しようとする奴らもいて…俺はそんな狭間で死にかけて生き返ったらしい。大司教が俺を救ってくれたのは偶然なのか必然だったのかはわからないが今なら生き返って良かったって思うよ。ほんと。俺は大司教から大切な任務を受けて…」

 その先はとてもいいにくい事らしくヴィルは口ごもった。

 「いいのよヴィル。それって国家機密ってやつなんでしょう?」

 私は彼が言えないことを察する。

 「ああ、ごめんな。でも、絶対に変な事じゃなくて任務だったんだ。信じてくれる?」

 「もちろんよ。さっきも言ったでしょう。これからは信じあって行こうって言ったんだから」

 「ああ、ありがとう。絶対バイオレットをがっかりさせるようなことはないから。俺、誓うから」

 ヴィルの手が私の身体をぎゅってすると唇が髪の毛にキスを落とした。

 「わかってる」

 私はヴィルの顔をまじまじと見る。

 ふたりの視線が絡み合ってお互いに唇がほころんだ。

 それだけで胸が熱くなって彼が嘘を言ってないってわかる。

 「とにかくその役目が終わると国を守る仕事が続けたいって思って国境警備隊に入ったんだ。その時バイオレットの事はまだ思い出せていなかったから…ごめんな」

 「ううん、仕方ないじゃない。でも、こうやって出会えたじゃない」

 私たちはまた顔を見合わす。

 互いに微笑みがこぼれる。

 「ああ、生き返ってまたバイオレットと再会できたんだもんな。俺すげぇうれしい。でも、もっと早く出会えてたら…なぁ」

 「だってあなたは国の為に素晴らしい仕事をしてたって事だもの。もう、いいのよ。そんな事よりあなたが生き返ったって方が私はうれしいもの」

 「ああ、そうだよな」

 「じゃあ、大司教にお礼を言わなくちゃね」

 「バイオレット。本気でそう思ってくれる?俺のこと許してくれる?」

 「当たり前じゃない。あなたにこうやってまた会えるなんて夢みたいなんだから」

 「俺も夢みたいだ」

 うなずいたヴィルの顔は輝くような笑顔だった事は言うまでもない!!


 その後ヴィルから熱い口づけをたっぷり受けて。いえ、それ以上の事も…

 もちろん拒む理由もないので。

 私は彼に2か所の傷を見せてもらいました。3年前の傷は背中に痛々しいほどの後を残していて私は思わずそこに口づけをしていました。

 新しい傷もほんとに痛々しくて、胸が震えるって言うけどほんとに震えるんですね。

 「ヴィル二度も私を救ってくれてありがとう。あなたを心から誇りに思うわ。愛してるヴィル」

 今度は私からヴィルに口づけしていました。

 私たちの離れていた3年間は長かったけど、これから今までの分もたっぷり取り戻すつもりですから。



 エリオット?

 疲れてぐっすり眠ってましたよ。

 ほんとに親孝行な息子です。









                       ーおわりー


 今回もたくさんの方に読んでいただき本当にありがとうございました。次回作はティアナ国のお話をただいま奮闘中です。次回もどうかよろしくお願いします。はなまる

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