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22楽しい時間の邪魔もの
しおりを挟むシルフィが見つめるヴィントへの視線はまさに恋焦がれている乙女の顔みたいで私の胸の中に今まで感じた事のないもやもやした気持ちが起きた。
やっぱりシルフィはヴィントが好きなの?
それとも公爵夫人になりたいからヴィントを狙ってるとか?
学園で見せつけられていた行動を考えればどちらも考えられるわ。
こんな気持ちになるなんて私もしかしてヴィントの事を?
こんな気さくなヴィントを見てしまうと最初に持っていた彼への印象はまったくの勘違いだったと思ってしまった。
でも、もしかしたらヴィントもシフルィの事が好きなのかもしれない。
いくら婚約したと言ってもマリー様があの調子ではいつ婚約解消になるかわからないんだし。
シルフィはそれが分かっているからこうやっていつも私たちの間に割り込んでくるのかも。
私の脳内でさっきまで感じていた淡くて柔らかな思いが書き換えられていく。
「シルフィおかしいぞ。いい加減にしないか」
「だって‥そうだわ。アマリエッタさん!侍女から聞きましたけど、あなたご自分でそれを作られたんですって‥これだから平民上がりの貴族は‥令嬢が自ら料理なんてほんとにあなた常識がなさすぎますわよ。もし、ヴィント様やリビアンに何かあったらどうするおつもりなんですの?」
「私、これでも調理には人一倍気を使ってます。ヴィント様やリビアンもですが自分の弟も一緒に食べているんですよ。そんなものを食べさせるわけがありませんわ」
「まあ!そう言う問題じゃありません事よ。いいわ。マリー様がどうお考えになるか話してみるわ!」
シルフィ様はかんかんに怒ってその場から立ち去った。
気づけば私一人が興奮していたみたい。
「わ、わたし‥ごめんなさい。つい、あんなことを言われて「いいんだ。さっきのは完全にシルフィが悪い。一方的にアマリエッタを悪者扱いして‥本当にすまない!」
ヴィントがガバリと頭を下げた。
「そうだよ。シルフィはどうしてあんなにおこったの?いつもはやさしいのに‥」リビアンも不思議そうに小首をかしげる。
「リビアンほんとに?ぼく、すごくこわいひとかと思っちゃったよ」
「ああ、ロニオ。ごめんな。すっかり食欲がなくなったな。そうだ。デザートにアイスクリームはどうだ?」
「「アイスクリーム?ほしい!」」
ふたりはうれしそうに声を揃える。
単純ね。でも、そんなところが滅茶苦茶可愛いのよねぇ~
私はさっきまでの嫌な気分が少しほぐれた。
「アマリエッタも食べるだろ?バニラ?それともストロベリー。あっ、チョコ味もあるぞ」
私もロニオもリビアンの口角がぐっと上がる。
「ぼく、ストロベリー」
「ぼくも!」
「私はチョコ味で‥ヴィント様は?」
「俺は全部」
みんながきょとんとする。
「そんな贅沢バージョンがあるの?」
「当たり前だろ!俺は侯爵令息だぞ。それくらいの権限はあるぞ」
「「「じゃあ、ぜんぶで」」」
みんなは一気にワクワクした。
アイスが届いてみんなが思い思いに3種類のアイスを食べ終わるころだった。
アイスに釣られたとはいえ‥ヴィントが私との婚約に本気なのかはっきり言ってわからなくなっていた。
そこにマリー様が現れた。
いきなりわたしを指さすと「アマリエッタさん!あなたご自分で作ったものをうちの可愛い孫に食べさせたって本当なの?」
「はい、そうですけど‥」
「あなたって人は!!」
マリー様の顔は鬼の形相に変わった。
「お婆様、そんなに大騒ぎしなくてもいいじゃないですか」
「何を言ってるのよ。まったく、ヴィントあなただってもしものことがあったらどうするつもり?あなたはこの家の嫡男なのよ!こんな非常識な人だなんて思いもしなかったわ。とにかくアマリエッタさん、もう帰って下さらない。こんな非常識な人と婚約なんて!」
マリー様はありったけの罵詈雑言を言いまくると護衛に言った。
「この人を屋敷から追い出してちょうだい!」
護衛が命令を受けて私に近づいて来る。
ヴィントが立ちあがってわたしの前に立つ。
「お婆様いくら何でもやり過ぎだ。いい加減にしてくれないか!」
ヴィントが庇ってくれたが私はショックですぐには言葉も出なかった。
こんな事になるなんて想像もしていなかった。
高位貴族から見れば令嬢が自ら手作りをしたものを食するなんて非常識な事だったんだ。
やっとマリー様に断りを言う。
「申し訳ございません。すぐに失礼します。ロニオもう帰りましょう」
さっとロニオの手を取る。
「もうかえちゃうの?」
リビアンは寂しそうな顔で私達を見た。
「ええ、ごめんねリビアン。今日は楽しかったわ。じゃあ、さようなら」
「アマリエッタおねえさま。また来てくれるよね?」
「ええ、また会えるわ」
こんな小さな子にひどいことを言えるわけもなくそう言って言葉を濁す。
「ぼく楽しみにしてるから‥ロニオもまたいっしょにあそぼうね」
「うん、またあそぼう」
ロニオとリビアンは指切りをして別れた。
ごめんねロニオとリビアン。
でも、こんなお婆様がいては婚約を続けるのは無理かもしれないわ。
でも、断ることも無理なんじゃ?
私の中でヴィントとの距離が急速に冷えて行く。
部屋から出ようと一歩踏み出すとヴィントに手を取られた。
「ヴィント様‥」
「こんな事になってほんとにすまない。埋め合わせはまた今度させて欲しい。俺はアマリエッタが作ってくれたサンドイッチ好きだから、また食べたいから」
「ヴィント様。それは無理かもしれませんわ。では失礼します」
「馬車まで送ろう」
彼は馬車まで手をつないだまま歩いた。
何度もすまない。気にしないでくれと繰り返した。
私は気にしないでほしいと頼んだ。
「では、ごきげんようヴィント様」
私はロニオと一緒に彼の屋敷を後にした。
リビアンはすごく可愛い。
でも、ヴィントを信じていいのかわからない。
こんな状態では出目や確執をうんぬんと言われれば結婚は止めた方がいいのかもしれないな。
私の心は開けかけた扉をまた閉めるような感覚だった。
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