そして、私は遡る。戻れないタイムリーパーの秘密

藍染惣右介兵衛

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第四章【時空の漂流者】

第四幕『真実のタイムリープ』

 「――起きろっ!」

「――――いい加減に、起きろ!!」

女は耳元で叫ぶ大声に驚いて飛び起きた。



 「……わあっ!誰なの!?」

目の前に小さなの女の子が座ってジィッと見つめている。歳は十歳前後だろうか。



 「お前、死んだの。解る? 酒と薬、ガブ飲み自殺ね」

「お嬢ちゃん、どこから入ったのぉ? それにいきなり死んだとか不吉だなぁ……」

女は欠伸と背伸びを同時にした。



 「占い館ミザリーの経営者、二十歳で田舎から都市部へ出てキャバレーで働く……。以降、結婚せず独身のまま還暦を迎え、七十歳でタイムリープ……」

女は目の前に現れた幼い子が何を言っているのかしばらく理解出来なかった。



 「タイムリープで二十歳に戻り、また田舎から都市部へ出てキャバレーで働く。以降、六十六回目のループで運悪く深酒と合わせた眠剤で死亡」

 女は何もかも思い出し始めた。想像を絶するような長い人生、長いループの記憶。

「嘘でしょー……あんなにシワシワのお婆ちゃんだったのぉ? 六十六回も同じような人生を歩んで来たって言うの!?」

「残念ながら、その通りだ。記憶はもう再生されてるよな?」

小さな女の子は淡々と語る。










 「ここはどこなのかなぁ? 天国? 地獄? お嬢ちゃんは誰?」

風景は眠りにつく前とほとんど変わりない。少し色彩が強く、青みがかっているだけだ。



「ここは時間と時間の間、亜空間とでも呼べばいい。タイムリープを使って過去に遡って、自ら命を絶った者がここに落される!」

「じゃあ、お嬢ちゃんも同じ理由でここに?」

「お嬢ちゃんって呼ぶな! ここではシルフィって名前だ」



 女はようやく事態が飲み込めてきた。自分は、死んだ。
浴びるように深酒をした挙句、許容量の三倍は薬を飲んだ。傍目から見れば自殺と断じられるだろう。

「それで汁子ちゃん、あたしは何をどうすればここから出られるのかなぁ?」

「お前、今シルフィって自己紹介しただろ? お汁粉みたいに呼びやがって!」



 「まあ呼び方なんてどうでもいい! ここから早く出て、あの世なり天国なり行きたいなら言うことをしっかり聞きな!」

女は記憶を取り戻して、少し安堵していた。六十六回の繰り返し、その無限とも言える地獄から解放されたのだと……。



 「わかったぁ! 汁子ちゃんの言うことを聞く! それであたしの名前は……」

よく考えてみると名前だけが浮かんでこない。

「ここでは生きてる時の名前が使えない奴がいるんだ。そのうち思い出すだろうけどな。お前の名前か……そうだな、あのペンキでイタズラ書きされた店の名はどうだ?」

「あれね……占い館……ミザリーの字が、ミとザの濁点が消されてサリーになっちゃってたよねぇ」

女は思い出していた。接触の悪い看板を毎晩蹴飛ばしていたことを。



 「じゃ、お前はサリーだ。決定だな! 異論は許さない!」

「うん、いいんじゃないかなぁ。サリーかぁー」








 そして、シルフィはサリーに亜空間の説明を始めた。

「まず、この服を見ろ」

シルフィはすくっと立ち上がってクルリと一回転してみせた。

「軍服? それに肩口の不細工な太陽は汁子ちゃんの裁縫なのぉ?」

近くで見ると何色なのか形容し難い色の服だ。



 「……これはここでの作業服だ。必ず着ないといけない決まりがある。お前もさっさと着替えるんだ」

どこからかシルフィは作業服の上下を出している。



 「これでいいかなぁ? 似合う?」

サリーは作業服に着替えた。少し、上着が大きめのようだ。

「全っ然似合わない! だけど、それ以外の服は禁止だからな!」

 「汁子ちゃん、この服替えはないのかなぁ? サイズも合ってないような……」

「今は我慢しな! そのうち替えも持ってきてやる。それよりもここでの過ごし方を説明するから」








 「お前の言い方で説明するなら、ここは音無しの世界だ。そして、我々は番人、管理者、タイムキーパーと呼ばれる者だ。お前はタイムトリップで何度も繰り返し二十歳から七十歳を生きたが、六十六度目で自ら命を絶った。だからここで強制労働することになった」

「はいはーい! それ同じような話さっきも聞いたぁー」

話の腰を折るようにサリーは挙手をしてみせた。



 「黙って最後まで聞け!ここでの仕事は大きく分けて二つ。一つ、タイムリーパーの阻止だ。お前みたいなアーカイブ・ホリックになる前に一発目のタイムリープを阻止する」

「あーかいぶ・ほりっく……? なにそれ?」

「アーカイブ・ホリックは記憶に縛られて、支配されて、後悔の念で記憶中毒になってタイムリープを繰り返す連鎖から抜けられなくなった奴のことだ! 略してア・ホだ!お前のことだ! ドアホ!」

まくし立てるようにシルフィーが説明する。



 「二つ目、時々ここにタイムリーパー以外の奴も迷い込む。ガキも大人もだ。そんな奴《アウター》を現実世界に帰してやる。ついでに時間の壁の修復もする。稀にぶち壊す馬鹿がいるんだ、お前みたいな救い様のないタイムリーパーなんかがそうだ」

「うう……汁子ちゃん、もうちょっと優しい言い方はできないのかなぁ……」

「うるさいっ! タワーへ行くぞ。ついて来い!」







 「こんな場所、町にあったっけ……?」

タワーと呼ばれる場所は普段見慣れた町の風景にポツンと立っている。高さは4階建てぐらい、灯台のような形だ。



 「ここが我々の拠点になる場所だ。寝食はここで行う。ここだけは特殊な空間で緩やかに時間が流れている。亜空間で仕事をしていると、意識体が疲労する。生きている時と同じで、疲れたら眠って英気を養わなければいけない。飲食は肉体の名残だ、どちらでも構わない。希望すれば大概のものは用意されるだろう」

難解な説明にサリーは戸惑うばかりだ。



 「うーん……、要するにしっかりお仕事して、疲れたら寝ろってことね。そうしていつかはここから出られるのかなー?」

「亜空間にいる管理者の人数は不変だ。不変だが入替わっている。新しい奴が入って来るたびに、誰かが抜けていく。順番はよく解らないんだ。古株からってわけでもないらしい」

「ええー……困ったなぁ、早く出たいんだけどなぁ……」

「お前、解ってるのか!? もう死んでるんだ。お前の肉体は既に燃やされて墓の下だ! ここから出てもどうなるか解らないんだぞ!」








 サリーはあることに気付いた。

「それじゃあ、汁子ちゃんはいつの時代からいるのぉ?」

「現実世界の時間で言えば、百年近くここで強制労働している」

「百年以上もここで作業しないといけないのぉ……嘘でしょー……」

「それがタイムリープを駆使して、アーカイブ・ホリックになった者の咎《とが》だ。末路だ!」



 「さっそく仕事を始めながら道具《ツール》の使い方を教える」

「えっとぉ、それでお給料とか、休日はいただけないのぉ?」

サリーが問うと、シルフィはこめかみに青筋を立てて笑っている。

「どこで金を遣うんだ? 休みたければ永遠に休め! 休めばその分、ここに居続ける時間が長くなるだけだ!」









 ――そして、サリーは管理者となる……。
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