そして、私は遡る。戻れないタイムリーパーの秘密

藍染惣右介兵衛

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第六章【亜空間を翔る者】

第三幕『管理局の機密事項』

 「――ええっ!? 私が元アーカイブ・ホリック? それに、生まれながらのタイムリーパーって以前も言ってましたよね!?」

ただ、驚愕するばかりだ。そもそも、タイムスパイラルから抜け出すのは自ら命を絶ったときだけではないのか……。



 「サリーさん、私はタイムリープを成功させたことはありませんよ?」

「覚えてるかなぁ? あたしがどんな占い師だったのか。人の過去の姿と未来の姿を視ることができる能力だったでしょー?」

確かに占い館ミザリーの老婆は、人の過去と未来の姿が視えると言っていた。



 「あたしは君に言ったよねぇ? 六歳と十歳のときに顔が変わってるって」

「それは覚えてますよ。六歳で小児てんかん、十歳で離人症を患ったとか、成長期だから顏が変わったんだと思うんですけど……、違うんですか?」

 「君は幼い頃からストレスに抑圧されていたんだろうねぇ。だから夢の中で遊ぶようになって、知らず知らずのうちに亜空間へ迷い込むようになったんだと思うんだぁ」

「そして、管理者も気付かないうちに壁を破って十歳から六歳へタイムリープしてるんだよ……」

開いた口が塞がらないという状況はこのような場合に相応しい。



 「――病気ではなく……、タイムリープしたから顏が変わったんですか……?」

「うん、病気で顏が変わったんじゃないんだぁ……。君は六歳から十歳を十一回ループしたんだぁ。憶測でしかないけど、ループを脱出したときの影響で顏が少し変わったんじゃないかなぁ?」

六歳から十歳の四年間を十一回ループ、にわかには信じがたい。信じがたいが、過去の姿を視れる彼女が言うのだから間違いないのだろう。








 「でも、サリーさん。シワシワ占い師のとき、そのことを知ってて教えなかったのはなぜですか?」

「次、シワシワとか老婆とか言ったらぶん殴るよん。あの時点でタイムリーパーでもない君にそれを教えても意味があったのかな? 理解できなかったと思うよぉ?」

やっぱりこの人、自分がタイムリープ前は七十超えた婆さんだったことを気にしてるのね……。

「確かにそうですね。今でこそ理解できるけど、あの頃はなにも知らなかったから、ボケた婆さんの世迷言で処理したでしょうね……あ……」

――その瞬間、避ける間もなく高速の手刀が頬に飛んできた。



 「でも、一番の疑問は絶対に抜けられないタイムスパイラルを抜けてるってことですよね?」

通常、タイムリープを成功させた人間は、ループから抜け出せない。それが、タイムリーパーがアーカイブ・ホリックとなった末路なのだ。抜け出すにはタイムリープを使う年齢までに自死するしかない。

「うん、君がなぜループを終えて、十一歳を迎えられたのか解らないんだよねぇ……」




 「……それで、なんで私が管理局の最高機密に指定されるんです?」

タイムリーパーに認定された時点で監視下にあるのは理解しているが……。

「管理者やstabの上の方では、君がどうやって抜け出せないはずのループを抜け出したのか話題になってるんだよー。個人的にも興味あるなぁ……」



 「興味を持たれても、自覚が全くないんですよ? 偶然抜け出せたんじゃないんですか?」


「偶然タイムスパイラルを抜け出すなんて絶対ないよぉ。それはタイムリーパーになった今の君なら解るでしょ? 遡ればまたタイムリープをする運命が待ってるんだから……」








 サリーさんと仮眠室に入ってどれぐらい経過しただろうか。監視システムの再起動までそれほど時間は残されていないはずだ。

「――偶然タイムスパイラルを抜け出せないって言いましたよね!?」

肝心な部分を見落としていないか。逆転の発想で考えられないだろうか。

「え? うん、偶然で抜けられることなんてないよぉ……」



 「じゃあ、ここの管理者の人たちも偶然で自殺することもないですよね? サリーさんの場合、六十六回もループしてるんですよ? 六十六回目に偶然死ぬ。五回目でも十回目でもなく、六十六回目に」

なぜこんな簡単なことにもっと早く気付かなかったんだろう……。



 「なるほどねぇ。今までそんな考え方したことなかったなぁ……。亜空間《こっち》へ来てからずっと、偶然あの日深酒と睡眠薬で死んじゃったんだって思ってたから……」

溜息をつきながらサリーさんは自分の最期の日を思い出しているようだ。



 「周囲から見れば、深酒と眠剤で自殺したように見えますよね? でも、それってサリーさんから見れば事故死じゃないですか?」

「そうだよぉ……。あんな死に方したら周りは自殺だと思うだろうけどさぁ、あたしからすれば泥酔中に起こった不運な事故なんだよ……」







 ひょっとすると、ここにいる全ての管理者の死因は偶発的な自死ではない?

「村さんの死因はなんだったんですか? 死んだときの話は訊きづらくて……」

「村さんはねぇ、拳銃自殺してここに来たんだよぉ。その拳銃はね、村さんの親方が引出しに入れてた玩具銃《モデルガン》だったのに実弾が発射したんだって」

なんだ……、そのファンタスティックな死に方は!

玩具がモノホンに変わるわけないだろ……。




 「……あの、サリーさん……。村さんにも詳しい話を訊く必要があるようです……」

「うん!あの人がいったい何を考えてあたしに不信感を募らせてるのか、どうして君に近づいて大袈裟な嘘をついたのか、調べる必要があるよねぇ」

すぐにでも調べに行きたいが問題がある。今はタワー内部でカムフラージュされている状態だから問題ないが、外をウロウロすれば広域を監視している管理者に見付かってしまうリスクが生じる。



 「私は今から村さんのいる隣の隣のエリアまで行ってきますね。そこでお願いなんですけど、無線機に侵入者と識別されない方法を教えてもらえませんか? 要するに管理者に化ける方法です」

さて、サリーさんが禁則事項を犯すような冒険をしてくれるかどうかが勝負の分かれ目だ。



 「そんなのは簡単だよん。前にあたしの上着貸したよね? 管理局のマークが入った上着。あれを着てるだけで無線機には反応しないよぉ。だから、下に置いてある作業着を着て行けばいいよー。君、スリムだからサイズ大丈夫だと思うよぉー」

「じゃあ、作業服を借りていきますね!」

「変装だねぇ!探偵さんみたい。完璧な変装するならこれも着て行きなよぉ!」

ベッドから出た私にサリーさんは自分のインナーウェアを放り投げてきた……。

「――ほほう……これは!……って、これ着たら変態まっしぐらじゃないですかっ!」








 階下に降りた私はサリーさんの作業服に着替えた。

「はい、これ。無線機とブルーライトも持って行ってね。一応、広域を監視してるstabの上司はシルフィちゃんっていう知り合いだから連絡入れとくよぉ」

――なんだ、それを早く言ってくれよ。話の通る相手なら全然問題ないじゃないか……。

「それじゃあ、行って来ます!」

「気を付けてね。何か問題が発生したらここに連絡するんだよー」






 村さんのいる場所、隣の隣のエリアというのは二つ県境を跨《また》いだ場所だ。亜空間奉仕活動で村さんに誘導されて失踪《ロスト》した県境を超えて、もう一つ県境を超えないといけない。

「全速力でぶっ飛んで行って、あの村山《おっさん》の真意を暴いてやるか!」




――そして、私は真相に迫る……。
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