そして、私は遡る。戻れないタイムリーパーの秘密

藍染惣右介兵衛

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第七章【時空間を欺く者】

第五幕『ストロング・サスピション』

 「この病院でいいんだっけ? ミツが〇〇〇記念病院って言ってたよな」

自宅から車で十五分ほど北上した場所に市内で一番大きな総合病院が建っている。



 やはり、疑惑の種と言うのは回りくどいことをするよりも本人を当たった方が早い。

例えそれが敵で、タイムリーパーだとしてもだ。タイムリープは武器ではない。
それに、病院には人目があるし、最悪の場合は逃げればいいだろう。



 「やれやれ……探偵ごっこも筋者《やくざ》相手じゃやり方考えないとなぁ……」

下手なことを下手に訊くことができない。怒りを買って追い出されるのがオチだ。






 「長岡さんの病室は、六階の二十三号室でしょうか?」

「はい、そうですよ。あちらのエレベーターを上がって突き当りを左に曲がった奥の個室が長岡さんの病室です」

私は病院一階の受付で看護師に長岡親方の病室を確認した。



 エレベーターで六階まで上がり、廊下を真っ直ぐ歩いていくと左側に別館へ行く通路が伸びている。

「えっと、一番奥の個室って言ってたよな……」

左側の別館へ入り、一番奥のドアの前で三度ノックをしてみると……。

「――どうぞ」

低くはっきりとした声で中から返事が戻ってきた。




 「失礼します!」

挨拶をして中へ入ると、ベッドの上に八十歳前後の老人が寝転んでいる。
昔よりは随分痩せてしまったが、着流しで寝転ぶ姿はいかにもという感じだ。

「あれ? うちの若いもん違うな? あんた誰だ?」

もちろん、ヒットマン……ではない。ただのタイムリーパーです……。


 「昔、若松商店で玉成と働いていた者です。親方の屋台には若松からヘルプで行ったことがありまして……。なんでも私の人相を褒めてくださったとか」

とにかくなにか訊き出すためには知り合いだと思わせるしかない。
実際会ったことがあるのだから……。

「おうおう、見たことあるぞ!玉成の友人の龍顔の子だろ? 人相見りゃ解るんだよ」




 「親方のお加減があまりよろしくないと聞いていたので見舞いに参上しました。親方のことは村山さんの奥さんや玉成に聞いたんです」

村山さんと名前を出した瞬間、長岡親方の動きが止まった。

「村山の嫁さんを知ってるのか? もう何年も前だが娘が結婚するって報告してきたっきりだな」

「はい。私は仕事関係で偶然知り合いまして、親方のことや旦那の徹さんのことを聞きました」

親方は一言、そうかと言うとベッドの枕元をリクライニングさせて窓の外に目をやった。









 「村山の嫁さん、やっぱり納得はできねえよな。わしの引き出しにあった拳銃は玩具《おもちゃ》だったってのに、村山は銃で自殺してたんだからよ。嫁さんからしたらわしは嘘つきだろうな」

「村山さんの奥さんも娘さんも、村山さんが自殺したことが未だに信じられないと嘆いておられました……」

実は娘には会ったことがないのだが、ここは話の流れに合わせておこうか。



 「実は長岡親方、村山さんの奥さんがそのことについて知りたがっているんです。あの夏祭りの晩、花火会場から撤収したとき、いったいなにがあったんですか?」

知りたいのは私だが、奥さんの名前を出しておけば断わりにくいだろう。

「お前ら若松の若いもん二人を先に帰した後、わしは若い衆と片付けをして事務所へ帰った。電気が消えてたからな、村山は自宅に帰ったと思ったな。若い衆のひとりが電気を点けたときに村山の遺体を発見したんだ。わしの机に突っ伏して、右手には銃を持っていた」

さて、ここからどうやってこの男を切り崩すかが勝負の分かれ目か。








 「あの……村山さんは玩具銃《モデルガン》が引き出しに入っていることを知っていたんですかね?」

施錠した引き出しをわざわざ開ける理由、それは他にもあるはずだ。

「おう、知っていた。玩具銃《モデルガン》を入れる場所というより、売上金を保管する金庫みたいなもんだったからな」

なるほど、金庫なら親方自身が信頼する人物にしか預けないのは道理が通るな。




 「警察にしょっ引かれて散々訊かれたんだが、玩具銃《モデルガン》を買った覚えはあるが、弾丸が出る銃は買わねえよ。情けねえ話だが、うちは弱小で揉め事とは無縁だったからな」

「それでは、親方は村山さんがわざわざ銃をすり替えてから自殺したと?」

親方の目つきが一段と鋭くなった。質問の意味が解っているのだろう。


 
 「あいつがわしを殺人犯に仕立て上げるためにか? 恨みを買う覚えがまるでない。それどころか村山には全幅の信頼を置いて、わしの跡目《あと》を任せようと思っていた……」

もちろん、そんなことは解っている。親方《あなた》と村さんの信頼関係の度合いを推し量ったのだ。









 「村山さんが使用した拳銃は鑑識に回されたんですよね? 親方は銃刀法違反で拘留されたと聞きました。鑑識が入手経路を調べたのなら、親方の拳銃ではないと判明するはずなのになぜですか?」

そう、村さんが死亡したときの拳銃が本物なら、入手経路があるはずだ。

「入手経路は解らなかったぞ。お前、さっきからなにか勘違いしてるようだが……?」

ん?なにかボロを出してしまったのだろうか……。



 「村山が自殺に使用した拳銃は改造銃ってやつだ。本物じゃねえからな、シリアルもない。ただ、わしが持っていた玩具銃《モデルガン》と同じ色、同じ材質だった」

「え!? 玩具銃《モデルガン》が、弾丸を発射する玩具銃《モデルガン》にすり替えられていた!?」

「そういうこった!あんなリボルバー式の玩具銃《モデルガン》なんて、専門店にいくらでも売ってるからな。銃身《バレル》に穴開けて、弾丸をちょいと改造すりゃ撃てるぜ」

なるほど、玩具銃《モデルガン》を装った本物ではなく、元々、玩具銃《モデルガン》だったのだ。玩具銃《モデルガン》を改造、所持すれば銃刀法違反で逮捕される。







 しかし、銃が本物だろうが改造銃だろうが、村さんが頭を撃ち抜いて死亡した事実は変わらない。

重要なのはそこではない。誰がいつ、弾丸を発射する玩具銃《モデルガン》にすり替えたのか?

「確かにそれならぱっと見は、いつも引き出しに入っている玩具銃《モデルガン》ですね。銃口も銃身《バレル》を削ったときに出るカスを再利用すれば上手に塞ぐことができる」

「だがな、わしには村山が玩具銃《モデルガン》なんかをこめかみに当ててた理由が解らん。ロシアンルーレットごっこでもしてたって言うのか……」

……ロシアンルーレットごっこ、実はその通りなんですよ。

――そして、それを知っていたのはあなたなのか?






 「長岡親方、今日は長居してしまって申し訳ございません。私はそろそろ帰宅しますね。どうかご自愛ください」

「おう、すまんな。わざわざ見舞いまで貰っちまって!またいつでも来いよ」

ここへ来る途中、デパートで果物の詰め合わせを買っておいたのだ。

「それでは、失礼します!」







 挨拶を済ませて病室のドアノブに手をかけたときだった。

私は長岡親方の方を振り返り、こう切り出したのだ。

「――親方、最後に二つだけ質問してもよろしいでしょうか?」







 ――そして、私は全ての真相に辿り着いた……。
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