そして、私は遡る。戻れないタイムリーパーの秘密

藍染惣右介兵衛

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第二章【動いていない世界】

第三幕『タイムリープを知る』

 ――――――約十数年前、某日――――――



「あたしはね、お客さんの過去から未来の姿が見えんの。どうも目が良過ぎてねぇ」

 もし、こんな占い師がいたらどうだろうか。手相も見ない、タロットカードも使わない、ただジッと顔を見てくるだけの占い師だ。年齢は七十歳前後の老婆だった。

「アンタ、六歳と十歳ぐらいの頃に顔つきが変わってるねぇ。何かあったのかい?」

私は自室に保管しているアルバムを思い出した。六歳で小児てんかんを患った後、顔つきが確かに変わっていた。これは親にも言われたことがある。

「六歳の頃は病気で顔つきが変わったかもしれなけど、十歳はどうかなぁ……」

 確かに10歳で離人症を引き起こしている。しかし、顔つきが変わっただろうか?

「アンタの顔、昔はもっと色白だったんじゃないかい? 十歳を境にちょっと顔色が濃くなってる」

 顔色が濃くなって?顔色……顔色……ああ、そうだ。

 私はアルバムの写真を思い出した。小学四年生の写真と五年生の写真を比べてみると、確かに顔色が違っているかもしれない。
わずかだが、顔も変わっている。この時、離人症というより、第一次性徴期の真っただ中だ。

「未来はどうかな? 老けていくから顔が変わるのは当然か」

占い師は目をカッと見開いて私を凝視している。

「まだ十代だからねえ、未来って言っても無数にあるのよ」

 未来は分岐する。無限に近い選択肢によって細かく細かく分岐する。
だから、確定済みの過去のことは当てられても、未来については何歳で顔つきが変わって、何が起きるなどと一概に言えないらしい。


 一つだけ未来に確定していることがある。それは、生きている限り避けられない死だ。
死期を占うのは占い師の業界ではタブーらしい。もっとも、死期を占える占い師が少ないのだが。
当然、普通に訊いても絶対教えてくれないが、この占い師には視えているらしい。

『目の前に座っている客の未来像を視たとき、ある年齢を境に消えている』

つまり、それはこの世界からの消失、死を意味している。

 私は一計を案じた。あの時空間に落ちた話をすればいい。
私は自分の死期を時空間に落ちたときに知ってしまった。だから、死期を教えても大丈夫だと。
ダメ元でこの話をすると、占い師は予想に反してたいそう驚いた表情を見せた。

「アンタ、音無しの世界に行ったことがあるのかい? へぇー、あそこに入ったことがあるなら死期を知っていてもおかしくはないけどねえ」

 今度は私が驚いた。

「音無しの世界! 知ってるの? 音がなくて、人もいない時間の狭間にある世界を」

 そう訊ねると占い師はじぃっと私の目を視ていた。



「アンタ、死ぬね。数十年後だけどね」

そりゃそうだ。誰だって生きてりゃ数十年後に死ぬさ。

「死期も無数に分岐する未来の一つだからねえ。ただ、死期ってのはあんまり変動しない」

その後、私は自分自身がこの世界から消え去る年齢を知った……。


「音無しの世界に行けるってことは、別の時代を見ることができるってことだね?」

 占い師が何を言っているのかよく解らなかった。

「……あの何もない世界から? 別の時代を見る? どうやって……?」

 ダメだ。折角、自分の寿命を聞き出したのに早くもボロが出そうだ!


 「音無しの世界はねえ、中間なのさ。時間と時間の間に位置しているから動いていない世界なの。別の時代へ入る前に必ず通過する世界。知らなかったのかい?」

 少しばかり動揺したが、私は管理局の人間に会ったことも話した。


 「そんなことも知っているとはね。たまげたよ。アンタはなにかい? ひょっとして周りとは違う、変なチカラがあるんじゃないのかい?」

変なチカラは……無い。無いが夢の中で自我を保っていることが多いと話した。

「――その夢ってのは、色付きかい?」

色付きの夢だ。かなりカラフルな夢を見ることがある。

「それがアンタの変なチカラだって言ってるんだよ。普通の人間は夢で自我を保ってないし、色付きの夢を滅多に見ないのさ」




 占い師と動いていない世界、つまり時空間=音無しの世界について暫し語り合った。

「この手順で練習してみな。うまくいけば過去を垣間見れるかもしれないよ」

スッと一枚の紙切れを渡された。そこにはいくつかの手順が書いてある。

「これ、ちゃんと元の時代に帰って来れるの?」

「アンタねぇ、あたしが書いた手順ちゃんと読んでないだろう? 肉体は持って行けないから戻るも何もないのさ。元いた場所に絶対帰って来る。そういう引力みたいなものがあるのさ」


「言っておくけど、タイムトリップができるようになっても一銭の得にもなりゃしないよ」

この占い師はタイムリープをタイムトリップと言っていた。
タイムトリッパーか……。ストリッパーみたいな響きだから却下だな。

「要するに、肉体を持って行かないから過去へ飛んでも他人に見られる心配がないってことか」

 なるほどなるほど、と感心していると、

「だからSF映画なんかでよくある過去改変やタイムパラドックスなんて嘘っぱちなのさ」

占い師がそう付け加えた。







 私はタイムリープの方法を初めて知った。
そして、教えられた手順を訓練して実践することにしたのだ。
過去を見たいから?そんなものじゃない。その頃の私は禁則事項など知らない。

 本気で過去に戻ってやろうと思っていた。

「絶対にやってはいけないこと。過去の自分の意識を乗っ取ってしまうこと……」

 占い師が書いたタイムリープの手順、注意事項の一つをビュッと二本線でかき消した。





 


 ――そして、私は遡る……。
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