そして、私は遡る。戻れないタイムリーパーの秘密

藍染惣右介兵衛

文字の大きさ
11 / 47
第二章【動いていない世界】

第五幕『アーカイブ・ホリック』

 私は村山さんに管理局のタワーという場所に連行された。

その建物は私が普段見慣れた町の風景にポツンと立っている。

高さは4階建てぐらい、外観の色は黒っぽい朱色、灯台のような形。



 タワーの中は殺風景な事務所といった感じだ。
デスクがいくつか並び、壁にはヘルメットと青空が写った巨大なポスターが掛けてある。

奥にはいくつかのコンピューターのようなものがあるようだ。



 中央の机に座っていた女性が私に気付く。

「はいはーい!村さん、お勤めご苦労様ぁー!君かぁ、やってくれたねぇ!」

 耳を塞ぎたくなるほどの甲高い大声だ。
それに、村山さんより随分若い。ひょっとして、私より年下か……?

「――なーるほどねぇ……。ふむ、ふむ……」

 この女性は村山さんの上司なんだろうか?
村山さんは、私を連行した経緯を敬語で報告している。

「それでは、失礼します!」

 ビシッと一礼をした後、村山さんはタワーの外へ去って行った。

 すると、女性は席を立ってツカツカと接近して、

「あたしはこの地域を任されているサリー。よろしくね。君の名前は知ってるから自己紹介は省略していーよ」
 
 
 ああ、ツッコミたい。どうしてもツッコまねばならない……。

「……サリーさん、日本人なのにサリーって名前なんですか……?」

 サリーさんは、クスクスクスと笑っている。

「日本人? そうだけど、この領域に国籍や人種なんか関係ないよーだ。名前も適当に付けるしね!」

 ああ、もう一つツッコミたい……。
さっきは机に座っていたせいでよく見えなかったが、この人の作業服の着こなしは…、何と言うかダラしない。

「ええと……。村山さんと違って独特な格好してますよね……?」



 まず、作業服の上着は前が全開で袖すら通してない。
長袖を肩で縛って留めている。その上に白いローブ?パーカー?を羽織っている。
作業ズボンはローライズにも程があるだろうと思うぐらいずり下がっている。この場合、股浅というべきなのか。

「え? そうかなぁ? ずっとこんな感じだけどー。あとこれ下着じゃないからねー」

そう、見えていたのだ。上着は全開なわけで胸元が、ズボンはずれているのでパンツらしきものが。
ランジェリーというより、ブルーのビキニのようなものを付けているようだ。タワーの中は特殊な空間なのか、色が通常に戻っている。

「それでさ、君、なんでここに連行されたか解ってる?」

 まあ、大体は解っている……、つもりだった。

「あれですか? 壁みたいなのを破りそうになったから?」

 サリーさんはニコニコしつつ、鋭い目つきで私を睨みつける。

「君は、になりたいのぉ? もう少しでになるとこだったねぇー」

アホだと? アホになるところだ? なんて失礼な女なんだ。

「アホアホって……、それはちょっと言葉が悪いのでは?」

 私は少しムッとした表情で言い返した。

になるとこだったねって言ってんのー。略してア・ホ」

「は? あーかいぶ・ほりっく? なんですかそれ……?」

「蓄積された記憶ってね、書き綴られた文書みたいなものでしょー。その記憶に縛られて、支配されて、後悔の念で記憶中毒になっちゃうの。そんな人がタイムリープを成功させて、過去へ戻ったらどうなると思う?」

 腕組みをしたサリーさんが小首を傾げながら私に問いかけた。

「タイムリープを成功させたら、人生やり直しが効くんじゃないですか?」

 サリーさんは両手で大きくバッテンをして見せた。

「自分自身を乗っ取ったらさ、タイムリープ前の記憶もすっ飛ぶよ。そんでまたタイムリープしちゃう運命に辿り着く可能性高いよー。それって意味なくない? 繰り返すんだよ、永遠に」

「――すみません。少しぐらい記憶を持ったまま戻れるんだと思ってました……」

 これが私の、いやタイムリープを目指す者すべての勘違いだろう。

「タイムリープはねぇ、成功させたらダメなの。に巻き込まれちゃう。そうやって何回も抜け出せずに『タイムリープを繰り返す人のことをアーカイブ・ホリック』って言うのよー」

「タイムスパイラル……ですか……」

「まあ、いいやー。これに目を通してくれるかなぁ!」

 バンッと机の上に一枚の紙が置かれた。
そこには何行か箇条書きで注意事項が書かれている。

「これねぇ、君たちタイムリーパーの禁則事項だから絶対守ってね!」

「えっ……? 私がタイムリーパー?」

「うん、君を正式なタイムリーパーとして全世界のタワーに通達したからねぇ。あっ、目を通したらサイン忘れないでね。一番下の欄に名前書いてねー」

「ええと、名前名前……。ん? んん? 私の名前……」

 私は現世と違う名前を勝手に書き出した。
いや、無意識にその名前が自分の名前だと思っていたのだ。

「うんうん、これでいいよん。ここでは現実世界の名前使えない人もいるらしいからねぇー!」

「……意味が解らないんですけど……。なんで、この名前なんですか? しかも、何故かシックリくる」

「んー、それが君のここでの名前だからだけど? 親から付けられた姓名が本当の名前なわけないよぉー」

それは……、なんというか驚愕の事実だな。
いつか観た映画のような設定だ。

「それじゃあ、簡単にあたし達のやってることを説明しておくねー」

「はい……」

 小さなホワイトボードにヘタクソな絵を描き始めた。

「まずね、村山さんとわたしはこの辺り担当の管理者ねー。タイムリーパーの人達からは、タイムキーパーとかキーパーって呼ばれてるのね」

 キュコキュコとホワイトボードに文字が付け加えられていく。
正直、絵は全く参考にならない。

「キーパー?」

 「あたし達の役割なんだけどねぇ、大まかに2つあるのー。君みたいにタイムリープを初めて成功させようとしている人の阻止が一つね」

「阻止ですか……」

「それからもう一つ、君が壁にヒビ入れたでしょー。あれの修復ね。今頃、村さんがやってるんじゃないかなぁ」

 ――うぅ、村山さん、再び面倒かけてごめんなさい。







 「じゃあ今回はもう帰ってもいいよーん。次、いつ来て貰おうかなぁ……?」

 ふぅ……。やっと解放されるのか、って次って何だ?

「……あの、次って何ですか? ここ禁足地ですよね?」

「うん、本当は入っちゃダメよー。でも、君は禁則事項を3つ破ってるから罰として管理者の仕事を手伝ってもらうからねぇ!」

「3つも禁則を犯してるって言うんですか……?」

「一つ、タイムリープを習得したことね。二つ、時間の壁を大きく歪ませたこと。三つ、壁を破損させたことだよー。特に3つ目はダメダメだよねぇ!」

「は? タイムリープができるようになったこと自体が禁則事項に当たるの?」

 それはないだろ……。
どうして、普段不可視な世界から禁則事項を与えられないといけないのだ。

「ごめんねぇ。でも、そういう決まりなんだー。今度来てもらう時期はこっちで選んで呼ぶからね」

 やれやれ、タイムリープの失敗は思わぬ面倒事を呼び寄せたみたいだ。





「そろそろいいかなぁ? そんじゃあこっち見て!」

 サリーさんはどこからかブルーライトのようなものを出している。

「うわっ、まぶしっ……」

 そこからは覚えていない。
気付くとベッドの上で朝のお目覚めだったからだ。

 とにかく、私はいずれまた、あの音無しの世界に行かないといけないらしい。
次、村山さんに会ったら謝っておかないとな……。
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

母の下着 タンスと洗濯籠の秘密

MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。 颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。 物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。 しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。 センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。 これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。 どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。

意味が分かると怖い話(解説付き)

彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです 読みながら話に潜む違和感を探してみてください 最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください 実話も混ざっております

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

還暦の性 若い彼との恋愛模様

MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。 そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。 その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。 全7話