そして、私は遡る。戻れないタイムリーパーの秘密

藍染惣右介兵衛

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第三章【管理局の仕事】

第三幕『タイムリープを語る』

「亜空間管理局の者です。そのままだと時間の壁が破損してしまいます。すぐに止めてください!」

 一人プロレスごっこ。いや、必死に時間の壁を破ろうと足掻いている中年男に話しかけた。



「ふ、はは……。君か、君なのか? ここを見ろ、1年前の家族団らんだ!娘もあんな笑顔で…ううっ…グスッ……」

 残念ながら他人の記憶にある過去は見えない。
嗚咽する男が指差した先は何もない空間だった。

「……山崎部長……」

「どうせ夢なんだろ! 夢ならいいじゃないかっ!? 何が悪いんだ!? タイムリープ? 明晰夢で過去へ飛ぶ? 自分を乗っ取る? はは……すぐそこに娘がいるんだぞ! 手を伸ばせば……届きそうなんだ……」

 山崎部長は相当混乱している。
無理もない、おそらく過去が見えているんだろう。
娘さんが元気に生きていた頃の……。

「部長、そのままタイムリープして過去へ戻っても、娘さんが亡くなる事実は変えられないんです!」

 そうだ、これが事実なのだ。
10年前、占い師も言っていた。死期は滅多に変動しない。

「免許を取らせないっ! 車も買わない! 死なせない……!!」

「部長! 事故を回避できても、別の原因で亡くなります! これは変えられません……娘さんの寿命なんです」

「そんなはずないだろう!! それなら娘を家から出さん!」

 現実世界では見たことのないような取り乱しようだ。

「そんなことをしても無駄なんです! 死因が変わるだけです! あなたは……あなたは、タイムリープして、もう一度娘の死に様を見たいのかっ!!」

「お前に解るものかっ! 遺体安置室で崩れた娘と対面する親の気持ちが……! 解るものか……」

 どうすればいいんだろうか。この人の心はもう崩壊寸前だ。




「――それなら部長、タイムリープしてください……。娘さんに会って、また奥さんと家族3人で暮らしてください」

 山崎部長はズルズルと膝から地面に崩れ落ちていく。

「……グス……グスッ……うわあぁぁぁ!」

 頑固だが、この人は馬鹿ではない。おそらく本能的に理解しているのだ。
タイムリープして戻れば、娘の死が待っている。
そして、またタイムリープする未来に辿りつく。
その繰り返し、アーカイブ・ホリックになってしまう。







「ここは夢に似ているんですけど、夢とはちょっと違うんです……」

 この世界は何なのか?
それを完璧に説明するのは私にも無理だ。

「うむ、それは何となく理解している。しかし……、君がいるとはな」

 部長は泣くだけ泣いて少し冷静さを取り戻したようだ。

「私も部長と同じように過去に戻ろうとして、壁を壊したから罰を受けているんですよ。だから、ここで部長を止めたんです」

「ほう! 君もやはり昔に戻りたいと思ったんじゃないか!」

「はい…。学生の頃、私は横着をしてランクの低い高校へ入りました。単に3年間勉強せずに遊びたかっただけで、楽な道を選んで後悔しているんです……」
 
「さっきのお返しだ。それは大きな間違いだぞ! 君はランクの低い高校出身かもしれんが、今はうちの社員じゃないか。君は優秀な部下だと思うが?」

 これは思わぬ賞賛だ。現実世界ではありえないセリフが飛び出したな。

「では、その優秀な部下のお願いを聞いて、元の世界へ戻っていただけますか?」

「はははっ! 君も現実世界では謙虚なくせに、ここでは威勢がいいな!」

「部長、このライトを見てください。これで元の世界へ戻ります」

 私はサリーさんに預かったブルーライトを部長の顔に照射してみた。

「ここで……ここで君に止められてよかった。目覚めたら全て忘れているかもしれんが……もし、覚えていたら酒の席で語り明かそう。」

 部長の姿は少しずつ薄れて、最後にフッと消えていった。
一粒の大きな涙を地面に落して……。

「すみません、部長。私も今後、後悔は一切しません」

 そうだ、後悔しない。
タイムリープで戻る必要なんかない。

「ふう……。これが管理局の役割なのか。なかなか大変だなぁ……」

 迷い込むだけならまだいいかもしれない。
山崎部長のように、タイムリープを試みる人もいるのだ。

「――あっ。サリーさんに報告しないとな」

一言も口を出さずに傍観していただけなんだろうか。







「サリーさん! 終わりました!部長を無事元の世界に帰し……」

 ――バッチーンッ!!

 ――――バッチーンッ!!!

 痛くはない。痛くはないが……
二連発で高速ビンタを喰らった。

「どうして二度打ったか解ってるかなぁ?」

「……いえ……」

「一つ、タイムリープを止める側が勧めてどうするのぉ? あれ、ここでは重大な違反行為だよん。stabの上が監視してるんだから気を付けないとねぇ……」

「もう一つ、君は昼間、あの上司に呼び出されてるよね?」

そこまで知っているのか……。
現実世界も監視してるってわけか?

「君はデスクの上のノートPCが見えていたはず。違う? 検索ワードも全部見えていて、知らんふりをして部屋を退出したんだよねぇ? 見て見ぬふり、事なかれ主義。あの時、しっかり向き合って話せば、こんな手間なことは起こらなかったんだよ……」

「――うっ……、その通りです。というか、監視してるんですか? そこまで知っているなんて……」

「君をタイムリーパーとして全世界のタワーに通告したって言ったよねぇ? その時点で君は監視下にあるんだよぉ」

「そんな…! 〇〇〇の時や△△△△の時も監視してるんですか!?」

「うひゃぁー。気にするトコそこ? 君、もう一発グーで殴ろうかぁ?」

 ブンブンと素振りするサリーさんはやる気満々だ。
これ以上フザけない方が賢明だな。

「でも、君の説得文句はなかなか良かったよー。ボロカス悪態付けられて壁壊されて、タイムリープされちゃうこともあるからねぇ……」

 やっぱり、強引に行っちゃう奴は行っちゃうのね。

「私のときみたいに撃ち落とせばいいんじゃないですか?」

そういえば私は背中を何かで撃たれて壁から落とされたのだ。

衝撃銃ショックガンね、あれは最終手段なんだぁ。君はもう壁を壊していたからねぇ。撃ち落とさないと過去へ行ってたよねー。本当にごめんねぇー」

なんというか、すごく申し訳なさそうな顔をしている。撃たれても怪我しないんだからいいのでは?

「そんじゃ、次行ってみようー」

 次って……、まだあるのか。
部長のタイムリープを阻止しただけで一大イベントだったのに。

「えっとねぇ、移動しながら衝撃銃の説明をするねぇ!」

 衝撃銃《ショックガン》……銃というより、ドライヤーにしか見えん……。

「衝撃銃に撃たれるとね、痛みはないけど一つだけ弊害があるんだぁ……」

 おい、それをもっと早く教えておいてくれ!
というか、教えた上で撃ってくれよ。

「……なんですか? その弊害って?」

「このままじゃ君は……、君は、いずれ亜空間の管理者となってしまうんだよぉ……」



「――は……?」
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