13 / 47
12.他人が語る夫の話2
「おお、構わないぞ。ダリア殿は苦労されていることだろう。なにせ……シリルのやつはおれと違って、屈折しているからな!」
(屈折……? しているかしら?)
穏やかで、まっすぐな人では……?
私にはそう思える。
彼は理知的な人だから、あらゆることを理路整然と取り仕切っているし。
「星霜の年月蓄えられた万物への対応力……叡星の与える加護というのは、なまじ目端を利かせるゆえに屈折者でも生み出すのではないか。あいつも、もっとまっすぐ人と接することを覚えればいいのにな。おれのように!!」
豪傑笑いをして、サムは胸を張った。
「あ、あの……?」
「ああ、意味がわからないのか」
サムは、横目をして余裕の笑みを浮かべた。
「……巧妙だな。ま、気づいた頃には、あなたはもうドツボだろうな」
なんだか、失礼な人じゃないかしら。友人の気安さってそうなのかしら。
首を捻ったそのとき。
バァン! と、勢いよく扉が開かれた。
「ダリア!!」
息を切らせたシリルが、血相を変えて飛び込んできた。
「シリル様?」
私のところへ急いだシリルは、鋭い視線をサムに向ける。
「僕の妻に会う時は、僕も同席させる約束だったはず。これは作法がなっていないのではないですか。サンヴルタン国王陛下」
「こっ、国王様!?」
ちょっとちょっと。この方、国王様……?
ああ……考えてみれば『パスコヴィラダ公爵』を呼び捨てで親しんで、小馬鹿にすらする方なんて、国内で限られているわよね。
この、ゲストルームに人を呼びつけられるのだって。
「はっは、サムと愛称で呼んでくれと言ったのは、嘘ではないぞ。それくらいおれに親しんでくれるといい。シリルの妻なのだから」
「ダリアは、僕の妻なので。国王陛下に過剰に親しんだりはしませんよ」
あら、さすが友人だけあるのかしら。
シリルがなんだか、皮肉っぽい。
牽制している感じというか。
「シリル、このド面食いめ。今なら理解できるぞ、どうりで数々の縁談を右から左に流していたわけだ」
「サンヴルタン! 興味本位だけで僕の妻を呼びつけるのはやめてくれないか」
「ん? なにか問題でも?」
「……君には常識というものがないのか。……ああ、無かったな。僕としたことが誤算のもとはそこだ」
「はっはっは! これは大正解だった。予定を無理やり開けて、ここに急行してよかったよ。こんなお前が見られる日が来るなんてな」
シリルが私を隠すように国王の前に立つ。
「そのため……? 僕のダリアに余計なことを吹き込んでない? 君の常識はずれがうつったら困るんだけど」
「おれは、国王だぞ。常識的に国家を治めているのに」
「『常識的な国王』が、またずいぶんな人を王妃にすると言っているものですね」
国王が、肩をすくめて喉の奥をクッと鳴らした。
「アルジェンか。仕方ないだろう。愛とは……王であろうと手に負えない」
「それだけ、愛する人がいるのだから。人の妻に興味持たないでください」
親しみと触発が紙一重の会話にハラハラする。
私の動揺を読み取ったのか、国王はにこりと表情を変えて言う。
「すまないな、また手配をするので遊びに来てくれ。次はアルジェンにも会ってほしい」
「は、はい」
サムが国王だとわかったせいで、返事が上擦ってしまった。
けれど、国王は剛毅に笑って退室した。
「僕も今日の仕事は終わらせたから、一緒に帰ろう」
「そうなの? わかったわ」
国王がいなくなったら、シリルはまた素っ気ない。
ううん、それどころか。イライラしているみたい。
帰りの馬車では頬杖ついて、目を合わせてこなかった。
家に着いて、馬車止まりから玄関までの道すがらに訪ねられる。
「ねえ、ダリア。君は……サンヴルタンと楽しそうだったね」
「え? そう……ね。豪快で明るい方だったもの」
「そっか。……ほんとうに、招待されたらまた会う気?」
「ええ、そのつもりよ」
ライラックの眼が、細められた。
なにか、不機嫌……?
「来て」
「ちょっと、シリル……様?」
シリルが、私の手を強く引く。
こんなシリルは、見たことがない。
あなたにおすすめの小説
勘違い妻は騎士隊長に愛される。
更紗
恋愛
政略結婚後、退屈な毎日を送っていたレオノーラの前に現れた、旦那様の元カノ。
ああ なるほど、身分違いの恋で引き裂かれたから別れてくれと。よっしゃそんなら離婚して人生軌道修正いたしましょう!とばかりに勢い込んで旦那様に離縁を勧めてみたところ――
あれ?何か怒ってる?
私が一体何をした…っ!?なお話。
有り難い事に書籍化の運びとなりました。これもひとえに読んで下さった方々のお蔭です。本当に有難うございます。
※本編完結後、脇役キャラの外伝を連載しています。本編自体は終わっているので、その都度完結表示になっております。ご了承下さい。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
【完結】赤ちゃんが生まれたら殺されるようです
白崎りか
恋愛
もうすぐ赤ちゃんが生まれる。
ドレスの上から、ふくらんだお腹をなでる。
「はやく出ておいで。私の赤ちゃん」
ある日、アリシアは見てしまう。
夫が、ベッドの上で、メイドと口づけをしているのを!
「どうして、メイドのお腹にも、赤ちゃんがいるの?!」
「赤ちゃんが生まれたら、私は殺されるの?」
夫とメイドは、アリシアの殺害を計画していた。
自分たちの子供を跡継ぎにして、辺境伯家を乗っ取ろうとしているのだ。
ドラゴンの力で、前世の記憶を取り戻したアリシアは、自由を手に入れるために裁判で戦う。
※1話と2話は短編版と内容は同じですが、設定を少し変えています。
ヤンデレ王子を闇落ちから救ったら愛執まみれの独占欲に囚われました
大江戸ウメコ
恋愛
幼い頃に精霊の祝福である未来視の力が開花し、「夫である第二王子ナハルドに殺される」という己の運命を知った伯爵令嬢ツィーラ。この悲惨な未来を変えるべく、ツィーラは彼を避けようとしたが、ひょんなことから婚約者に選ばれてしまった! ならば、ナハルドが将来闇落ちしないよう、側で彼を支えることを決意する。そんな努力の甲斐あって、ツィーラへの好意を隠さず伝えてくるほど、ナハルドとの関係は良好になった。だけど、彼の並々ならぬ執着心のすべてを、ツィーラはまだ知らなくて――
【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される
奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。
けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。
そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。
2人の出会いを描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630
2人の誓約の儀を描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041
夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い
青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。
神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。
もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。
生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。
過去世と同じ轍を踏みたくない……
辺境伯夫人は領地を紡ぐ
やまだごんた
恋愛
王命によりヴァルデン辺境伯に嫁ぐことになった、前ベルンシュタイン公爵令嬢のマルグリット。
しかし、彼女を待っていたのは60年にも及ぶ戦争で荒廃し、冬を越す薪すら足りない現実だった。
物資も人手も足りない中、マルグリットは領地の立て直しに乗り出す。
戦しか知らなかったと自省する夫と向き合いながら、少しずつ築かれていく夫婦の距離。
これは、1人の女性が領地を紡ぎ、夫と共に未来を作る「内政×溺愛」の物語です。
全50話の予定です
※表紙はイメージです
※アルファポリス先行公開(なろうにも転載予定です)
一夜の過ちで懐妊したら、幼なじみの冷酷皇帝に溺愛されました
由香
恋愛
没落貴族の娘・柳月鈴は、宮廷で医官見習いとして働いていた。
ある夜、皇帝即位の宴で酒に酔い、幼なじみだった皇帝・李景珩と再会する。
遠い存在になったはずの彼。
けれど、その夜をきっかけに月鈴の運命は大きく動き出す。
冷酷と恐れられる皇帝が、なぜか彼女だけには甘すぎて――。