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6章 未来のためにできること
どう出るか・・・?
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前回訪問したときは分からなかったが、事務所の奥にはパーテーションで区切っただけだが、簡単な応接スペースがあった。
5人が入ったら窮屈に感じてしまうほどの狭さだが、ここまで入れてもらえなかった前回と比べれば、懐に一歩入り込んだと言えるだろう。
伊澤支店長が名刺を渡しながら、先方の二人に挨拶すると、黒岩社長はあきれたようにそれを受け取った。
「前は係長さんが来て、今度は支店長さんが自らですか。どうやら、よっぽど事を荒立てたいらしいな」
「申し訳ありません。御社もお忙しいところにお時間を取らせてしまいまして。担当の安藤はまだ入社一年目の若手でして、弊社としてもこれから大事に育てていきたいと思っている者ですので…私からも今回の件についてお話をうかがえますか?」
伊澤支店長は、社内では見せたことがないような温和な表情で話している。
さらに、安藤が新人ということをあえて教えることで、相手の理解も得ようとしている。
支店長という肩書きがなければできない営業トーク。
この辺り、さすがに長年営業の仕事に携わるだけあるようだ。
「すでにご覧になっておられると思いますが、こちらのご注文についてです。柏木さんから発注いただいた件でよろしいですね?」
伊澤支店長が、注文書を柏木氏に見せた。
柏木氏はずっと決まりが悪そうに目を背けていたが、支店長に話かけられると仕方なさそうにうなずいた。
「ご覧の通り、弊社で保管している注文書にはシームレスの表記がございません。しかし、御社で保管されておられる注文書にはシームレス表記がございます。この辺のご事情を何かご存知でしたら、お話頂けないでしょうか?」
ここまで核心を突然つけるのも、さきほどの柏木氏のやり取りがあってのことだろう。
「いやぁ、ちょっと私には…」
「お分かりになりませんかね?発注担当をされる方は、他にはいらっしゃるんですか?」
伊澤支店長は、控えめな姿勢からも次々に攻撃する。
黒岩社長はと言うと、何かしらの援護をするんだろうと思っていたが、予想に反してムッツリと黙って柏木氏を見つめている。
「弊社としても、相場と著しく違うことに気付かなかった点は、誠に申し訳ないと思っております。しかし発注頂いている金額が金額なだけに、こういった曖昧な事情のまま返品を受け付けることが難しい状況でして。何とか事情を明らかにさせていただいた上で、誠意を持って対応させて頂きたいと考えているわけなのですが…」
伊澤支店長は、自分たちの立場の弱さや、客先の味方でもあるということを強調しながら、徐々に相手の逃げ場を削っていく。
温和な話し方の中にも、計算の上に言葉を発しているのが分かった。
おれであれば、こんな話し方ができるだろうか。密かに舌を巻いた。
困ったようにうつむく柏木氏の様子を見れば、彼のミスであることは明らかだった。
しかし、おれたちがそれを口に出すわけには…
「か、柏木さんが、後から書き加えたんじゃないですか?」
おれはギョッとして振り向いた。
その言葉は、柏木氏をまっすぐ見据えた安藤が発していた。
柏木氏は、まさかというように安藤を見つめる。
客先に向ける言葉としては、ありえない無礼と言えるだろう。
「おい、あんど…」
安藤を遮ろうとするおれを、伊澤支店長が遮った。
伊澤支店長は、そのまま安藤に任せろと言うように、おれを目で制止している。
5人が入ったら窮屈に感じてしまうほどの狭さだが、ここまで入れてもらえなかった前回と比べれば、懐に一歩入り込んだと言えるだろう。
伊澤支店長が名刺を渡しながら、先方の二人に挨拶すると、黒岩社長はあきれたようにそれを受け取った。
「前は係長さんが来て、今度は支店長さんが自らですか。どうやら、よっぽど事を荒立てたいらしいな」
「申し訳ありません。御社もお忙しいところにお時間を取らせてしまいまして。担当の安藤はまだ入社一年目の若手でして、弊社としてもこれから大事に育てていきたいと思っている者ですので…私からも今回の件についてお話をうかがえますか?」
伊澤支店長は、社内では見せたことがないような温和な表情で話している。
さらに、安藤が新人ということをあえて教えることで、相手の理解も得ようとしている。
支店長という肩書きがなければできない営業トーク。
この辺り、さすがに長年営業の仕事に携わるだけあるようだ。
「すでにご覧になっておられると思いますが、こちらのご注文についてです。柏木さんから発注いただいた件でよろしいですね?」
伊澤支店長が、注文書を柏木氏に見せた。
柏木氏はずっと決まりが悪そうに目を背けていたが、支店長に話かけられると仕方なさそうにうなずいた。
「ご覧の通り、弊社で保管している注文書にはシームレスの表記がございません。しかし、御社で保管されておられる注文書にはシームレス表記がございます。この辺のご事情を何かご存知でしたら、お話頂けないでしょうか?」
ここまで核心を突然つけるのも、さきほどの柏木氏のやり取りがあってのことだろう。
「いやぁ、ちょっと私には…」
「お分かりになりませんかね?発注担当をされる方は、他にはいらっしゃるんですか?」
伊澤支店長は、控えめな姿勢からも次々に攻撃する。
黒岩社長はと言うと、何かしらの援護をするんだろうと思っていたが、予想に反してムッツリと黙って柏木氏を見つめている。
「弊社としても、相場と著しく違うことに気付かなかった点は、誠に申し訳ないと思っております。しかし発注頂いている金額が金額なだけに、こういった曖昧な事情のまま返品を受け付けることが難しい状況でして。何とか事情を明らかにさせていただいた上で、誠意を持って対応させて頂きたいと考えているわけなのですが…」
伊澤支店長は、自分たちの立場の弱さや、客先の味方でもあるということを強調しながら、徐々に相手の逃げ場を削っていく。
温和な話し方の中にも、計算の上に言葉を発しているのが分かった。
おれであれば、こんな話し方ができるだろうか。密かに舌を巻いた。
困ったようにうつむく柏木氏の様子を見れば、彼のミスであることは明らかだった。
しかし、おれたちがそれを口に出すわけには…
「か、柏木さんが、後から書き加えたんじゃないですか?」
おれはギョッとして振り向いた。
その言葉は、柏木氏をまっすぐ見据えた安藤が発していた。
柏木氏は、まさかというように安藤を見つめる。
客先に向ける言葉としては、ありえない無礼と言えるだろう。
「おい、あんど…」
安藤を遮ろうとするおれを、伊澤支店長が遮った。
伊澤支店長は、そのまま安藤に任せろと言うように、おれを目で制止している。
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