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1、我儘聖女ヒナ

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「私ねえ、ほんとーはあなたのことが大っ嫌いだったの。
あんたは私が欲しかったものを全部ぜーんぶ持っていたんだもの。
おかしくない?聖女の私が持ってないものをなんであなたが持ってるの。
ねえ、ねえ、この大陸でこの世界で一番偉いのは私なんだよ。
あんたなんかが私より幸せなんて許せない。
幸せになっていい、人々を幸せにしていい女の子は私だけなの。
あんたなんかじゃダメなの。                    」

そういって聖女ヒナ。いいや、悪女ヒナは私に唾をかけ牢屋から立ち去って行こうとした。

「ふざけないでくださいまし!そんなのただの当てつけでございますわ‼︎あなたのような悪魔が聖女だなんてあり得ませんことよ!衛兵、そこの魔女を捕えなさい!」
「黙れ、悪女め!聖女様がせっかくお前なんかに声をかけてくださったのにその反応はなんなんだ!」
そういって衛兵はわたくしのことを蹴り飛ばした。
ヒナは聖女という名を抱いているのにわたくしに暴力を振るった衛兵を労った。
意味がわからない。
この世界はヒナのせいで全てが狂ってしまった。

思えばこんなことになったのは我が国がヒナを招いてから。
この大陸にヒナが降臨してきて6年目。降臨当時12歳だったヒナが成人した年だった。
ずっと神殿にいてばかりでつまらない。アンサン王国に住みたいと言い出したのだ。
もちろんそれを止めることのできるものなどおらず、わが国はヒナを迎え入れることになった。
うちにきたヒナは我儘を連発した。
あれが欲しいこれが欲しいといい、私たち姉妹のものを横取りしていき、皇太子であり、婚約者もいるお兄様に結婚を申し込みゴリ押そうとしたり、料理が気に食わないといって料理人をなん度も入れ替えたり、メイドが自分のドレスにお茶を誤ってかけたからといってクビにしたり……
学院では私のことを散々罵り、当時の彼氏を略奪したり、何でもかんでも私に罪を着せようとした。
怪我をしたら「アンナマリーが意図的に怪我をさせた。」
テストで悪い点を取ったら「アンナマリーに答案用紙を交換させられた。」
魔法を失敗したら「アンナマリーの魔力が邪魔をした。」
花瓶を割ったら「アンナマリーが割った罪を私に着せようとしている。」
他人の持ち物を盗んだのが発覚したら「アンナマリーが盗んだ」
そんなヒナに嫌気を刺した令嬢たちが避けたら「アンナマリーがいじめを強要している」
私の恋人を奪った時は「アンナマリーが彼に惚れ薬を持っていた。」

といった調子なのである。
教師陣や男子学生の皆さんはヒナの味方をし、女子生徒は私の味方をした。
そうして、学院内には二つの派閥が完成し、毎日のように争いが起きた。



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