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第13話:宇宙の果て

Fパート(1)

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『制御パネルがありましたわ。えっと制御コードを入力して…』

 メインスラスターの上部に跳んだレイチェルは、制御パネルを見つけた。操作するには制御コードが必要だったが、火星司令部の制御コードで対応可能であった。

『レイチェルさん、パネルを操作してメインスラスターの制御を第二艦橋に回してくれませんか』

『駄目だわ、ここからしか操作できないようですわ』

 レイチェルは第二艦橋にメインスラスターの制御を回そうとして、それができないことに気付いた。原因はサブの制御パネルのプロトコルがアップデートされていない事だった。

『くそっ、こまめに更新しておけって!』

 ディビットが罵るが、今更どうしようもない。

『こちらで操作するしかないのであれば、私がやりますわ』

『…お願いします。全部手入力ってどれだけ原始時代だよ…』

『大丈夫ですわ。私、父のお手伝いをしていたので入力作業は得意ですの』

 ディビットはそう言いながらも、メインスラスターの設定値を読み上げていった。レイチェルは得意という言葉通り、その数値を流れるようなブラインドタッチで入力していった。

『これで、データは設定されたはずです。レイチェルさん、パネルでスラスターの出力を操作してください』

『ええ、やってみますわ』

 レイチェルはパネルに表示されている出力のスライドバーを指先で操作して、指定された推力まで一気にスライドさせた。当然メインスラスターはレイチェルの操作通りに出力を上げていく。

『キャァッ! 体が…』

『レイチェルさん、どうした!?』

 メインスラスターの噴射が始まると当然水力に応じたGが発生する。そのことが完全に頭から抜け落ちていたレイチェルは、コンソールから壁に向かって落下・・していった。

『レイチェル!』

 レイフも通信を送るが、レイチェルは壁に激突した衝撃で気絶してしまい返事は無かった。

『レイフの旦那、レイチェルさんは気絶しているだけで命に別状はない』

 宇宙服のバイタルチェックでレイチェルが生きており、気絶しているだけとディビットはレイフに伝える。レイフもデータを見てほっとするが、宇宙服のデータでは骨折などの怪我を知ることはできないと思いなおす。

『いや、怪我をしているかもしれない。すぐに助けないと…』

『いやいや、旦那の機体じゃ中に入ることはできない。…それより重大な問題が発生した』

 ディビットがモニターの中でデータを見て真剣な顔をする。

『何が起きたのだ?』

『レイチェルさんがメインスラスターを噴かしてくれたおかげでレッドノーム号の軌道はずいぶん良くなった、だが設定した出力が足りなかった。このままじゃヘリオス首都への落下は避けられても、この船は地上に落下する』

『…本当か?』

本当マジだ』

 ディビットは今までにないぐらい真剣な顔をしていた。

『回避する手はあるのか?』

 レイフがディビットに問う。

『レイチェルさんにもう一度操作をしてもらえばだが…気絶からいつ目覚めるかは分からない。そして残された時間はほとんど無い。となると…』

『となると?』

 レイフの問いかけにディビットは大きく息を吐くと、

『はぁ、残された手は一つだ。アルテローゼレイフレッドノーム号この船を持ち上げるんだ。お約束な話で申し訳ないが、それしか手が残されていない』

 そう告げるのだった。


 ◇


 メインスラスターの制御室から離れたアルテローゼレイフは、ディビットが指示する箇所に向かって飛んだ。

『レイフの旦那、送ったデータ通りの場所に取り付いたか?』

『ああ、指示通りレッドノーム号の機体上部に取り付いた』

『その場所なら、大気圏突入の影響を受けづらいはずだ。そこでアルテローゼのスラスターを全力で噴かしてほしい』

『分かった。アルテローゼは伊達・・じゃないって所を見せてやるぜ』

『おーけー。お約束・・・ありがとうだぜ。それじゃ、全力でいってくれ』

『おう』

 レイフはレッドノーム号の機体に機体を押しつけると、アルテローゼのスラスターを全開にした。リミッターなども外して全力噴射することで、スラスターのセンサーが警告を上げるがそれもカットしてしまう。

『(これで地上に戻るための燃料は無くなるな)』

 アルテローゼの燃料系はどんどん0に近づいていった。しかしその甲斐あってか、レッドノーム号の軌道は火星への落下コースから周回コースに遷移していった。
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