ゴーレムマスターの愛した人型兵器

お化け屋敷

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第13話:宇宙の果て

Fパート(2)

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 アルテローゼレイフが噴射を初めて五分程したところで、

『よし、これでレッドノーム号の地上落下は阻止できたぞ!』

 ディビットがモニターでそう叫ぶ。それとほぼ同時に、アルテローゼの燃料計は0を示していた。

『ふぅ、ギリギリだったな』

 アルテローゼレイフは出るはずもない汗を拭う。

『レイフの旦那のおかげで地上への被害は免れたぜ。これで後は地上に帰るだけだが…』

 レイフはディビットの節目を聞き流しながら、レッドノーム号から手を離そうとしていまだにメインスラスターが噴射していることに気付いた。このまま手を離してしまうと、アルテローゼはレッドノーム号から取り残されてしまう。レイフは外装をしっかりと掴むと、機体をレッドノーム号に固定させた。

『おい、ディビット。このままメインスラスターは噴射したままなのか?』

『なに? ちょっと待ってくれ』

 ディビットはレッドノーム号の軌道を再度計算する。

『…もう、軌道は地上への落下コースから外れたんだ。レッドノーム号のメインスラスターは切って良いんだが。このまま噴射し続けても地上へ落下するような事にはならない…が…』

『…が?』

『このまま噴射が続くと、レッドノーム号は火星の周回軌道を外れてしまう…な』

『それはどういうことだ?』

 レイフの問いかけにディビットは顔をしかめる。

『つまり、このままだとレッドノーム号は宇宙の果てに飛び去ってしまうと言うことだ』

『…本当か?』

『ああ、だが火星にも落下しないし、地球や月、そのほかの惑星にも衝突することは無い。適当な位置でレッドノーム号から離脱すれば…』

『レッドノーム号にはレイチェルが乗ったままだ。それはできない』

『そうだったな…』

『…』

 ディビットとレイフの間に気まずい沈黙が流れた。

『レイフの旦那、すぐにレイチェルさんを起こすんだ。このままだと、アルテローゼはレッドノーム号と共に宇宙のちりになってしまうぞ!』

『分かった!』

 レイフとディビットは慌てて

『レイチェルさん、起きて下さい』『レイチェル、起きるんだ!』

 レイチェルに向かって呼びかけ始めるのだった。


 ◇


『…チェル、レイチェル』

『…う、うん? ここは? 私は一体どうしていたのかしら…』

 宇宙服の通信機から聞こえる呼びかけに、ようやく意識を取り戻したレイチェルはうっすらと目を開けた。その目には真っ暗な制御室の天井が見えていた。

『知らない天井だわ…』

『レイチェル、何を馬鹿なことを言っているんだ! 早く目を覚ませ!』

『レ…レイフ? 一体どうしたの? …そういえばレッドノーム号この船は今どうなっているの? クッ…』

 ようやく状況を思い出したレイチェルは、Gによって押しつけられていた壁から起き上がろうとして苦痛に呻いた。痛みは脇腹から発しており、肋骨が骨折かヒビが入っているようだった。

『レイチェル、どうした大丈夫なのか?』

『レイチェルさん、動けないのか?』

『だ、大丈夫ですわ。それより状況は?』

 痛みに耐えながら立ち上がり、レイチェルはレイフとディビットに状況説明を求めた。

レッドノーム号この船が火星に落下することは阻止できた。つまり作戦は成功したのだ』

『…良かったですわ。これで火星は救われたのですね』

 作戦が成功したことに、レイチェルは喜びの声を上げる。

『レイチェルさん、作戦は成功しました。ですが、レッドノーム号その船のメインスラスターはいまだ噴射し続けています。このままでは、いや既に船は衛星軌道を離脱しつつあるのです』

『…それは良いことでは? はっ、もしかして他の惑星に落下してしまうのですか?』

『今の軌道なら、宇宙の果てに飛び去る…いや、その前に燃料が切れて、太陽系をまわる長楕円軌道に入るか。恐らく他の惑星と交差するのは早くて数百年後でしょうね』

『では、問題無いと言っても良いのでは?』

 ディビットの説明にレイチェルは小首をかしげた。彼女にはディビットの説明が今ひとつ理解できていなかった。

『…レイチェル。このままでは儂らはレッドノーム号と共に宇宙の旅に出てしまうのだぞ?』

『……なるほど!』

 レイフの指摘にレイチェルはぽんと手を叩いて、ようやく状況を理解したのだった。


 ◇


『どうですか、設定はできますか?』

 メインスラスターの制御パネルにたどり着いたレイチェルにディビットが尋ねる。

『えーっと、まずはスラスターの出力を落としますわ』

 レイチェルはスラスターの出力を落とすためにパネルをタッチするが、出力制御は反応しなかった。

『は、反応しない? というか、ブルースクリーンになってしまいましたわ』

 パネルは表示が青くなり、システムエラーを示す青い文字列が表示されていた。レイチェルは見たこともない状況にパニックを起こしそうになっていた。

『くそっ、システムアップデートしていないからか…。リブートしようにも、サブシステムだけでやるにはかなり手間だぞ』

 レイチェルの悲鳴のような説明を聞いて、ディビットはモニターで頭を抱えた。このままではメインスラスターを停止させることはできない。

『レイチェル、一旦アルテローゼに戻ってくるんだ』

『…分かりましたわ』

 何度かパネルを叩いて状況が変わらない事を確認したレイチェルは、レイフの言葉に従いアルテローゼに戻った。

『ディビット、メインスラスターを止めることはできないのか』

『ああ、サブパネルを再起動するにはメインシステムと接続しなければならないのだが、システムアップデートをしないと接続できない。そしてアップデートするには再起動が必要なんだが…』

『それは…どうしようもないな』

 レイフとディビットは、このようなシステムを作ったメーカの設計者を呪っていた。

『…こうなったら姿勢制御スラスターで軌道を変えて、この船をもう一度火星の衛星軌道に戻すしか無い。そして衛星軌道に乗った瞬間にアルテローゼは飛び出すしかないな』

 気を取り直したディビットは、幾つかの計算の後にアルテローゼに一つの案を送ってきた。

『…この案、離脱するタイミングが非常に難しいですわ』

 ディビットが送ってきた案では、1ミリ秒というタイミングで船から飛び出すという物だった。これをレイチェルがやるとなると非常に難しいが…

『心配するな。儂なら大丈夫だ』

 AIであるレイフにとって1ミリ秒というタイミングを合わせることなど朝飯前である。

 胸をどんと叩くアルテローゼレイフ

『レイフに任せますわ』

 とレイチェルは頷くのだった。
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