神様の外交官

山下小枝子

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第一部 第六章

14 メリルと婦長のやさしさ。

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 それからは、溜息ばかりがもれた。

 不安で胸が重くなる中、それでも仕事はしっかりしなきゃと腹に力を入れ、佐知子は仕事をこなした。

 幸いにも、翌日が軍の帰還だったので、佐知子は半日だけ不安なまま仕事をこなし、夜は不安にかられながらも、無事を祈り、早めに床に就いた。

(明日帰ってくる……きっと……きっと無事に……帰ってくる……)

 不安を誤魔化すように自分に言い聞かせて、佐知子は目をつむって、そんな不安な中でも肉体的疲労でやってくる睡魔に身をまかせ、眠りに落ちた……。


 翌日は夜明けの鐘が鳴る前に目が覚めた。上体を起こし、まだ暗く、皆が寝ている小屋の中を見ながら、ぼんやりとする。

(今日……帰ってくるんだ……)

 そして、ガランガランと、大きな鐘の音が鳴った。


 その日もいつも通り、看護係の仕事はある。

「パレード、だいたい午前中だって~」
「えー、じゃあ見れないじゃん」

 休憩中、佐知子は同じ看護係の女性たちが話しているのを耳にした。どこからそんな情報を仕入れてくるのかと、佐知子には不思議でならないが、その話を聞いて、午前中じゃ、仕事でパレードは見れないな……と、思う。

(いや、パレードを見たいわけじゃないんだけどね……)

 佐知子は熱いシャイをすすった。

 ヨウが無事かどうか……ヨウの姿を確認したいだけなのだ……。

 そう思っていた時、

「サチ、サチ」
「?」

 メリルが入口の布を少しめくり、廊下から自分を呼んでいることに気づいた。佐知子は立ち上がり、近づく。

「サンダル履いて、ちょっと一緒にきて」
「え?」
「早く!」

 メリルは佐知子を急かした。佐知子はあわてて革のサンダルを履くと、廊下に出る。するとメリルは佐知子の手を取り、駆け出した。

「え! ど、どこに行くんですか? メリルさん!!」

 メリルは答えずに佐知子の手を掴んだまま、そのままどこかへと駆けて行った。

 着いた場所は、看護部屋で働いている看護婦長のところだった。

「あの! 婦長さん!」

 メリルが少しきつい性格の、年配の細身の婦長に話しかける。

「え! 何!?」

 婦長は忙しそうに振り返った。

「あの! 私たち、軍に彼がいて……その……仕事があるんですけど! 軍が帰還したら出迎えたいので、仕事抜け出してもいいでしょうか! お願いします!!」

 メリルが頭を下げる。佐知子はメリルの言葉に驚いて少し目を見開く。

 いきなり連れてこられ、婦長のところに来たかと思えば、思いもしないお願いをしている。だが……これは、佐知子も出来ればお願いしたいことだ……。

「お、お願いします!」

 佐知子も頭を下げた。婦長はため息を一つ、つく。

「……しかたないわね、ほかの人には秘密よ」
「!」

 二人は頭を上げる。顔は驚きに満ちていた。

「二人とも……彼、無事に帰ってくるといいわね」

 そしてほんの少し婦長はやさしい笑みを浮かべた。

「ありがとうございます!!」

 メリルと佐知子は思わず声が合わさった。


「やったー! やった!! やった!! パレード行ける! お願いしてみてよかった~!」
「メリルさん!! ありがとうございます!!」

 廊下に戻ると、二人は手を握り合い、跳ねて喜びを分かちあった。

「パレードはじまったら、多分、太鼓の音が聞こえて騒がしくなるからわかると思うから、そしたら用があるんでって、出るんだよ。ちゃんとヨウ副長官、探しに行くんだからね? わかった?」

 メリルはめずらしく真剣な顔をして顔を近づけ、手を握ったまま佐知子に言う。

「は、はい!」
「よっし! じゃあ、休憩室戻ろうか!」
「あ、」

 佐知子は先を行くメリルの背中に声をかける。

「メリルさんも! 彼氏さん見つけ出してくださいね!」

 その言葉に、メリルは振り返り、にっこりとほほえんだ。

「うん!」
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