猫と横浜

のらしろ

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第15話 屋敷の掃除

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 結局、ベッドなどを含めて寝室の掃除をしただけで昼過ぎになった。
 流石に今日だけで、入居の準備が整いそうにないな。

 いや、明日も屋敷の広さを考えると難しそうだ。
 やはり、初日に宿を10日も押さえたことは良かった。
 文芸部の先輩の言っていたことは、ここでも役に立った。

「明日香さん。
 今日はここまでにしようか」

「それは……」

「空気の入れ替えのために開けた窓を全て閉めたらホテルに戻ろう。
 多分これからしてもホテルに戻るのは夕方になりそうだな」

「ここに住むのでは」

「ああ、ここで生活をするけど、流石に今日だけでは住める状態じゃなさそうだ。
 寝室以外の掃除も手つかずだし、ホテルも10日を押さえて既に支払いもしてあるから、ホテルで残りも生活していくつもりだ。
 と言ってもすでに今日で5日経ったので、あと5日で完ぺきにここを準備しないとね」
 
 俺は明日香さんにはこう言ったが、本当に後4日でここが使えるようになるのか少し心配していた。
 何せ、掃除をしていて判ったことなのだが、確かに居抜きでこの屋敷を買ったことにはなっているが、細々したものは当然無いか、あるいは使えない状態だ。

 確かに、この屋敷の状態は良いことから、ここが留守宅になってからそれほど時間は経っていない事がわかる。
 廃墟にありがちな破れたカーテンなどが雰囲気を出していることはなかったが、雰囲気ってなんだよってか。
 俺は正直ホラーが苦手でそのあたりのお約束には詳しくはないが、幸いそのもののカーテンがない。

 大きな家具類は残っているが、生活するうえでは足りないづくしだ。
 今日のところは、契約に時間を取られてこともあり、空気の入れ替えくらいしかできそうにないが、本格的な掃除は明日以降になる。
  
 簡単に屋敷の掃除をしていたら、夕方に近くなっている。
 腕時計を見たら3時を少し回ったくらいか。
 これが現代日本ならば、まだまだ暮れからと言った時間だろうが、ここでは違う。
 まず街灯がないから夜道どころか夕方をすぎると街歩きも少し怖いくらいだ。
 それに、この屋敷の中では、まだ明かりが全く使えない。
 電球は天井にそのままあるのだが、電気のほうがつながっていないのでそちらの契約もしないとまずそうだ。
 そのあたり明日、一通り屋敷内を確認したら、またあの店に行って相談しよう。

「明日香さん。
 今日は、終わりましょう」

「え?
 終わりにするのですか。
 まだ、ここで寝るには……」

「ええ、ですので、今日のところは一旦ホテルに戻って、明日またここの掃除をしましょうか」

「それですと……」

「大丈夫ですよ。
 もともとあのホテルには10日分の宿泊料は払っておりますしね。
 もともとからそのつもりですので、ゆっくりとここを整備してまいります」

「判りました、一様。
 では、この後はいかがしますか」

「そうですね、開けた窓だけは締めて置きましょうか。
 施錠も忘れずにお願いします」

 俺達は自分が開け放った窓を締めていった。
 最後に屋敷の扉の鍵そして手からあの坂を下ってホテルに戻っていった。

 声をかけてからホテルに着くのに2時間近くが経っていた。
 なので、あたりはすっかり夕方になっている。
 まだ薄暗くはないが、西の空には夕焼けが鮮やかに見える。

 あれ、夕焼けって雨の予兆だと言ってなかったけ……朝焼けだったけかな。
 まあ、あそこまで空気の入れ替えをしたのだから、明日は雨でも屋敷の中だけは掃除ができそうだ。
 その日はホテルの食堂で二人してディーナーを楽しんだ。

 食堂すぐそばのラウンジでは今日も美女たちがどんどん集まってきている。
 あの中で何人が明日香さんと同じ病を発しているか、俺はハードボイルドの世界というのを現実で再現するには病気との恐怖に打ち勝たないとできないと、この時にはっきりと認識していた。
 正直言って俺には、無理だ。

 その日も日常となっている治療という名のセクハラを楽しんでから横になった。
 
 翌日も、昨日同様に朝のルーティンををこなしてからあの坂道を登って屋敷に向かう。

 でも良かった。
 昨日の夕方見た夕焼けがやたらときれいだったので、雨かと思ったのだがそれはなかった。
 今朝もよく晴れているが、流石に春先だけあって気持ちの良い青空とは行かないようだ。
 春霞とか言ったやつか。
 今日は昨日ほどここからの景色はきれいではないが、別に俺は景色を見に来たのでないので構わない。
 
 俺が屋敷の扉のカギを開けると明日香さんは中にはいって屋敷の窓を開けていく。
 ベッドマッドは、確か部屋干しのままのはずなので、そのままにしておいて、俺は明日香さんに声を掛ける。

「今日は屋敷の掃除を任せてもいいかな」

「はい、私にお任せください。
 一様はお出かけですか」

「いや、離れにおいてあるという家具類の確認をしておこうかと思ってな」

「判りました」

 俺は、屋敷に入らず、庭先にある離れに向かった。
 ここは倉庫代わりにでも使っていたようなのだが、どう見ても倉庫には見えない。
 流石に屋敷ほど大きくはないが立派な家だ。

 人だって十分に住める。
 令和の俺の家と比べても俺だったら少なくとも5人は暮らせそうなくらいの台所を除くと三部屋ある日本家屋だった。

 倉庫として使っていたようなので、最近開けた形跡のない雨戸がしっかりと窓を塞いでいたので、俺は端から雨戸を開けていく。

 今日が晴れていてよかった。
 雨戸を開けると家の中に光が入り、中の物を照らしていく。
 
 本当に倉庫として使っていたようなので、診療所で使っていたと思われる机や椅子の他に治療用の簡易ベットまで見つかった。
 流石に顕微鏡などの高価な機材はおいてはなかった。
 それにガラスのビン類も少し残されたようで、殆ど無い。

 薬を入れて持ち帰ったのだろう。
 俺は、丁寧にそれらの確認をしていく。

 部屋の本当に端に木の台の上に置かれた金属製のやや大きめの箱のようなものを見つけた。
 俺にはこれを見た記憶がある。
 いや、これではないが同じようなものを何処かで見た。
 それが思い出せない。
 
 俺はどうしても思い出せなかったので、屋敷に戻りリュックの中からPCを取り出した。
 これがネットにでも繋がっていれば、写真を直接検索できるのだが、平成の技術ではそこまで便利にはなっていない。
 
 とりあえず民俗学あたりの検索で、明治から昭和にかけての生活一般や病院関連での道具類を調べてみた。

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