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第一章 転移、そして自立
第七話 抱介の遺品
しおりを挟む寺男は上人様の言いつけを聞くと、また、元来た小屋に入っていった。
少し待つと、肩に木の箱を担いで来た。
大工が仕事道具を入れる箱のようだ。
その箱をここまで持ってきて、上人様の前に静かに置いた。
「これは、そこの葵の遠縁にあたるどアホの抱介(ほうすけ)の持ち物だった。
抱介はそこそこ腕の良い宮大工の棟梁だったでな。
そやつが生前に使っていたものだ。
それこそ、金に変えて葵に持たせようかと思っていたが、ちょうど良かった。
空の欲しい物が入っていることだろう。
宮大工の棟梁をしていた奴が使っていた仕事道具だ。
要らなきゃ売って金にでも替えれば良い。
全て空の思うようにせよ」
「でも、上人様。
これは葵様のものではないのですか。
私が頂く訳にはいかないのでは」
「葵の保護者になる空が使えば良い。
どちらにしても、葵では使えないでな。」
「空様、どうか私のことは葵とお呼び下さい。
様などは不要に願います。
それから、これからお世話になる訳ですので、抱介爺様の遺品については上人様の言うとおり、空様のなさりたいように願います。
私には使えないものばかりですし、仮にお金に変えても、お金を使いこなせる訳もありません。
私どもは空様に保護して頂かねば、このご時世生きてはいけませんので、どうか私と幸をよろしくお願いします」
「あー、分かった。これからは葵さんとでも呼びます」
「その『さん』もいらないのですが…」と最後は小さな声になっていたが葵は言ってきた。
生前にほとんど女性と接点のなかった俺にはいきなりの高いハードルとなるだろう。
「少し抱介について話しておくかの。
抱介は、この願証寺にも出入りする檀家の一人であったのだ。
弟子も少なくない数を抱えておったな。
そやつが遠縁に当たる葵を養っていたのには訳がある。
葵の両親も住んでいた部落が相次ぐ戦乱で、彼女たちの両親やその縁者も犠牲になっての。
辛うじて葵と幸と幸の兄が逃げてきたのだが、幸の兄は尾張に入る寸前に、乱取り中の武者たちにあっさり殺されたのだ。
その後、葵と幸は夢中でその場から逃げ、国境の一向宗の寺に逃げ込んで難を避けおおせたのだ。
そこからは二人の縁続きのものを寺の者と一緒に探し、抱介が葵の遠縁に当たることから二人を保護することになった。
抱介は二人からここまでのことを聞いており、部落を潰したのも乱取りで幸の兄を殺したのも、松平につながる豪族の連中であったことが許せなかったようだ。
三河で我ら一向宗の連中が蜂起する噂を聞き、同じ宗門であるどアホの弟子たちを連れて本宗寺に向かったそうだ。
その際に仕事道具と一緒に葵と幸をワシに預けてな。
そのどアホは、そのまま戻らんかった。
こんな可愛い孫娘のようなふたりを残してな。
何を考えておったのやら、ワシにはわからん。
唯一の救いがふたりを道連れにしなかった事だ。
抱介には息子夫婦がいてな。その夫婦の子供、抱介の孫を大層可愛がっておってな。何度もワシに自慢しに来ておったわ。
その孫も息子夫婦も三河の地で乱取りの犠牲になって亡くなっておる。
葵たちが抱介のところに来るまで抱介のやつは死んだようだったが、二人を引き取ったあとは見違えるように仕事をしておったから吹っ切れたと思っていたのだが、心の奥底で我慢していた鬱屈を、三河の連中に仕返しができそうだということで抑えきれなかったのかの~。
我慢して生き抜くことがお釈迦様の救済に繋がる唯一の道だと思うのにな。
あのどアホは、最後には醜く生き残るより、潔くこの世を去る方を選んでしまったのじゃ。
それが間違いであることを知りながらな。
その証拠に大切な二人をここに残していったのじゃからな。
本当にどアホじゃ」 と、上人様は最後には本当に悔しそうに、寂しそうに話してくれた。
少し間を空け、玄奘様が二人に、 「ここからそうは遠くないが、早々に行き来ができない処に行くでな。お前たちは出立の準備をしておくれ。」
「そうさな、今日は明るいうちに向こうに着かんじゃろ。
幸い空いている宿坊があるでな。そこに空たちは今日は泊まれ。
明日、彼女たちを連れて行けばよろしかろ」
「ありがとうございます、上人様。
そのようにさせていただきます」 と言って、抱介の遺品である大工道具の入った箱を持とうとしたら、重くて持ち上がらない。
それを見ていた珊さんが、 「お、俺が、も、持つ」と言って、ヒョイっと持ち上げた。
すごい!、本当に珊さんはフィジカル的にすごい。
さすが海の男だって感じだ。
何でも漂流前には優秀な水夫だったそうな。
珊さんが、また海で活躍できるようになると良いのにな。
「葵、幸、準備が出来たら宿坊に来なさい。
今日から空たちと一緒に居るように」 と、上人様はさっさと宿坊の方へ歩いて行った。
俺らは、遅れないように上人様について宿坊に向かった。
宿坊で玄奘さんや上人様と色々世間の出来事などを話していると、用意を済ませたふたりが合流してきた。
そこで改めて、仲間の紹介を始めた。
なんと葵は12歳になっているし、幼そうだった幸も10歳だった。
俺は一応10歳と称しているので、なんで保護される方が保護する方より年上なんだって思わなくはなかったが。転生前に既に22歳になっていたので、よしとした。
深く考えると負けのような気になってくる。
ふたりは栄養の状態が悪かったのか今はやつれてはいるが、十分に栄養を摂れば、すこぶる美少女になるだろうと思われる。
これで少しは名探偵に近づけるかな……もういいって、本題に戻ろう……。兎にも角にも、まずは食べ物の充実からだ。
生活の自立が最優先であることは、俺がこの世界に転生してから全く変わっていない。
しかしここに来て、玄奘さまだけでなく上人様の協力を得られることになり、門前で商いが出来ることになったのは大きな収穫だ。
また、人手も女の子だけれど二人増え、やれることが増えてきた。
大工道具も手に入ったことから、珊さんに力仕事は協力してもらわなければならないが、炭を増産してお金を稼ぐことが出来る。
今度は塩の生産にも挑戦していきたい。
なんだか体の芯から力が沸いてきたぞ。
単に可愛い女の子にいいところを見せたいんじゃないからな。
俺はロリコンじゃないし……、俺は10歳だから大丈夫か??
とにかくこれからは、持っている知識を使ってチートしていくぞ。
守るものが増えたが協力してくれる人も増えたし、この世界でもやっていけそうだと感じてきた。
少なくとも今まで生きてきた22年間より、充実した時間が持てそうだった。
当然、苦労も今までの比ではないだろうが、全く嫌な気持ちではない。
それにしても、あのお侍さんは本多正信と言っていたな。
本多正信って俺の中では陰険な悪役だったのだけれど。
家康の謀臣で色々悪巧みをしていた印象が強かったが、同じ本多一門で徳川四天王のひとりである本多忠勝の方が、気持ち良い武将のイメージがあった。
聞く所によると、同じ血族でも性格の違いから忠勝とは仲が悪かったとも聞いていたが、これはゲームの世界の話しだからかな。
実際に会ってみると陰険ヤローの面影は全くなかったのだが、俺の知っている正信とは違うのかな。
いや、三河の一向一揆に一揆側で参加し、徳川、当時は松平を出奔して十数年後に帰参しているはずだから、同じ人物なはずだ。
そういえば本多正信は、領民だけでなく他国の民にも、悪政につながることはしていなかったよな。
悪になることを恐れず自分の信じたことをやり遂げたから、後にあまり良く伝わっていないのかもしれない。
記憶の中で彼のことを悪く伝えているものがラノベやゲームなのであてにはならないが、また自分に関わってくるような気がする。なるようになれだ。
そんなこんなを考えながら、宿坊で一夜を明かしていった。
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