名もなき民の戦国時代

のらしろ

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第五章 群雄

第百八話 本多様が幕府のお遣い

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「殿、大和の弾正様からお遣いで本多様が見えております。
 ご一緒していただけますか」

 半兵衛様が俺を探して本多様が見えていることを伝えてきた。

「本多様が……何だろう。
 でも最近よく会うようになったな。
 わかりました。
 それで本多様は今どこに」

「はい、現在九鬼様と藤林様との面談中です。
 その場に来て欲しいとのことだったので私が」

「家老職でもある半兵衛様がわざわざ来ることでもないでしょうに。
 わかりました一緒に行きましょう」

「ちょっとこの後について相談したかったこともあったので、あの場から抜け出る言い訳に使わせて頂きました。
 殿はこの後どのようにするおつもりですか」

「どのようにって言ったって、会議でもお話したようにこの紀伊半島から敵対勢力を排除して、ここだけでも戦の危険をなくしたいとは思っているけど」

「その方法ですが、我々独自だけとは考えてはいませんよね。
 弾正殿との同盟は既定路線でしょうが、その後が私には見えていません。
 なのでこの後、本多様との話し合いにおいてその方向性が弾正殿の都合で決められるのは避けたいと思っております。
 ですから殿にお考えがあればお聞かせください」

「松永様がその気になれば今の我々がどう足掻あがこうとも如何ともしがたいとは思っていますよ。
 しかし、全くの無策で向こうに振り回されるのも面白くはありませんね。
 半兵衛様の危惧もわかります。
 私としては、最優先で前に話した紀伊半島だけに限定された平和を実現することは変わりませんが、その後については、この日の本の置かれている状況次第でいかようにも変わってきます。
 しかし、いつまでも戦ばかりの状況をほっておくわけにも行きません。
 弾正様にも言われたのですが、誰かがこの日の本を強力な力で治めないと日の本全てが外国勢力によって滅ぼされてしまう危険性は理解しております。
 みかどによって治めるのが本来の筋でしょうが、源平の頃より武士によって政治が行われてきており、早々にはこの状況は変えられないでしょう。
 かと言って今の幕府にはその力は既にありません。
 誰かが代わって政治を取らないと収まりがつかないとは思っております」

「誰かが代わって…それって幕府を倒すということでしょうか。
 誰がその役目を。
 まさか殿みずからこの日の本をと」

「まさか。
 私なんかが出来る訳ないでしょ。
 前に弾正様に会った時にも弾正様から『貴様が幕府に代わって治めるのなら俺は貴様について協力するぞ。』と言われましたが、その場で断りましたよ。
 私にはそんな野心も実力もありませんしね。
 そうかと言って弾正様にもそんな野心は無いようですし」

「そうなると誰が幕府を倒すかということですが」

「幕府はじきに倒れますよ。 
 というか既に倒れても不思議のない状態のようですよ。
 倒れなかったのは先代の三好様が陰ながら支えていたからに過ぎません。
 その三好家もおかしくなり始めているようで、弾正様は手を切る決断をしたようですよ」

「それは真ですか」

「多分、今回の本多様の訪問も正式に同盟を結ぶこともあるためでしょうね。
 前にそんなことも言っていたから」

「だから、紀伊半島での話につながるのですね」

「既に弾正様と三蔵の衆とは同盟関係にありますから、それが公になるだけで現状は変わらないとは思いますよ」

「そうですか……
 殿、話を戻すようで申し訳ないのですが、それならば誰が倒幕……いや、次の将軍となるとお考えでしょうか」

「将軍とは限らないでしょ。
 鎌倉幕府は執権が政治を仕切っていたわけだから、なので、今後どういう形態になるかはわかりませんが今の足利幕府から変わることは既に決まったことでしょう。
 その誰かがとなりますが……正直私にも分かりません。
 三好の先代様がご健在ならば十分にその力がお有りだったでしょうが幕府に取り代わって政治をするつもりが無かったようで、さらに悪いことに後を継いだ三好様では能力的に絶望的なのでしょう。
 でないと弾正様が手を切ることなどありえませんから。
 となると誰がということになりますが……山陽山陰で最近力を付けてきている毛利なのか、甲斐の武田なのか、それとも後北条と言われる相模の北条なのか、もっと意外性のある人物なのかは分かりません。
 なので我々はより広くこの日の本を見ていく必要があるのです。
 そして、この日の本に住まう民にとって、最もふさわしい勢力と判断できれば率先して協力していきたいとは思っていますよ」

「殿のお考えがわかりました。
 ありがとうございます。
 着きました。この奥で皆様がお待ちしております」 と言って奥まった部屋に案内された。

 公式の使者という訳ではなかったので、形式ばった様は取らずに奥の部屋に必要最低限の人間だけが詰めていた。
 もっとも形式をきちんと取られると俺なんかが入り込めなくなるのも理由の一つであろう。
 俺は部屋に入るとすぐに本多様に挨拶をした。

「本多様、こんにちは。
 最近はよくお会いしますね」

「空か。
 確かに久しぶりじゃないわな」

「で、今日はどんなご要件で。
 まさか干物を寄越せと言う訳じゃないですよね。
 もっとも言われても、干物の在庫がないのでご希望には答えられませんが」

「言ってくれるな。
 三蔵の衆に用があれば寺に行くよ。
 今日はまつりごとの関係だ。
 前に会った時に言っていただろ。
 我殿も決心がついたようで、三好とは事を構えても良いと判断なされた。
 そのような訳なので、前に空が希望していた同盟についても今回きちんとしておくことになった。
 その相談にお邪魔した訳だ。
 尤も、今回の訪問の表向きは先の『伊勢の乱』平定の恩賞についてどこでどのように上使を迎えるかということだ。
 この件についても詰めておかねばならないが、朝廷より役職を貰う手はずもあるしな。
 一度誰かしら上洛する必要があるとは考えているが、その辺をどうするつもりだ」

「どうしましょうかね。
 九鬼様が落ち着けば、大和を通って上洛するのは悪い考えじゃないとは思っております。
 その時に大和で弾正様に後詰のお礼のために訪問して、その場にて伊勢志摩を領する我々と弾正様との同盟を結ぶのはどうでしょうか。
 できれば同盟締結後揃って上洛すれば色々とめんどくさいことは弾正様の方に任せられそうなので。
 こんな感じを考えていたのですが、どうでしょうか」

「流石だな、殿と一緒のことを考えているようだな。
 我々にはそれで異存はない。
 なれば明日にでも九鬼様に正式に幕府より上洛の依頼という形で訪問することとしよう。
 それで問題はありませんか」

 九鬼様が周りを見渡すと、半兵衛様が代表して答えてくれた。

「わかりました。
 明日、この寺の本堂にて面会をしましょう。
 我々もそれなりの人数を揃えてお待ちする形で幕府からのお遣いをお迎えします」

「お~~そうだ。
 今後、我々と空たちとの連絡役に正式に俺が就いた。
 空というより60数万石の大名である九鬼氏との連絡役に俺が正式に付くことになった。
 なので、これからも頻繁に訪れる事になるが……それにしても、そろそろいい加減にどこかに落ち着いてくれないかな~」

「へ、俺は三蔵の村に住んでいることになっているはずだが……そうか、九鬼様の居城の件ですね。
 確かにそうですね。
 私も一箇所にいませんでしたが、九鬼様も伊勢の対応であちこちに居りましたからどこにいるかわかりにくいですよね。
 本来、現状では賢島が居城にあたりますが、伊勢まで勢力下に置きましたから大湊に新たに居城を築くことにしました。
 今度は大湊でお会いすることになると思いますよ」

「大湊?
 ここ安濃津ではないのか」

「はい、安濃津も良い港ではありますが、色々と考えた結果大湊がふさわしいかと思いましたので。
 拠点を置くことにした大湊は、この日の本の神様の中心である伊勢神宮の玄関口でもありますし、志摩にも近いという利点があります。
 なにより長島より十分に距離があるのが最大の魅力でしょうか」

「………
 そうか……
 長島はまだ落ち着かんか」

「上人様が頑張ってはおりますが、上人様の言では時間の問題かと」

 少々話題が暗くなってきたがそのあとも色々と話し合いその場を終えた。
 翌日には寺の境内に伊勢の主だった豪族たちが集まり本堂には侍大将格以上の武将を集めた席で幕府からのお遣いである本多様を迎えた。
 恩賞の授与のために上洛を促す言葉を伝えた。

 この政治パフォーマンスは我々にはかなり効果があった。
 服属間もない豪族たちに我々の力を誇示できたのが大きかった。
 本多様の退出後に上洛の編成についてもその場で話し合われたようだった。

 関氏や長野氏を中心に600~800名近くの兵士を出してもらい九鬼勢から100名位だして準備が出来次第上洛する運びとなった。
 藤林様と雑賀党の皆様には残ってもらい伊勢の治安を守ってもらう。

 北畠や神戸が完全に力を失っている現状では関氏と長野氏の両名を押さえておけばとりあえず問題なさそうだ。
 仮に個別に反乱が起こっても雑賀党と藤林様率いる人たちだけで十分に対応ができるのだ。
 仲の悪い北伊勢48家がまとまって反乱される心配もなさそうなので、藤林様だけでも十分な上に雑賀党もいるのだから、万が一まとまって反乱が起こっても対応が可能だ。

 もっとも彼らの治める村の民は既に我々になびいているので、彼らが反乱に走っても住民の協力を得られるはずがない。
 仮に反乱に走っても北畠の二の舞は必至だ。

 それが分かっているのか、それともただ単に将軍様に拝謁できる栄誉を欲しているのかはわからないが、上洛組に参加したいとその北伊勢の勢力からも希望が出ているそうなのだ。
 そのあたりは半兵衛様を中心に調整を付けてもらいましょう。

 俺は本多様にこのあとの予定について聞いたが、ただ帰るだけとの返事なので、堺経由でよかったら送ると言ったら是非にとのお願いをされた。

 そんな状況であり、俺は張さんたちに出発の準備をしてもらっていた船に本多様を案内して、翌日には安濃津を発った。

 今日は賢島で一泊する予定だ。
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