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第五章 群雄
第百二十九話 仲間となった熊野水軍
しおりを挟むその救世主は持てる力の限りを尽くして、自身の守るべき民を守らんと奮闘していた。
それこそ毎日のように荒れ狂う悪意に対して、だが、しかし………
なんじゃこりゃ、もういいって。
俺たちが前から進めていた搬送能力の強化は、開発中の2本マストの船の建造に一定のめどが立つことで、一筋の光明が見えた。
現行使っている主力船をこちらに代えるだけで搬送能力が2.5倍まで増える計算だ。
最もそれに伴い水夫も1.5倍まで必要とされるが、こちらの方は子供たちが徐々にではあるがどうにかなりそうだ。
あとはその船の就航までどうやって保たせるかだけの問題だ。
現在、九鬼水軍の実質的な長である豊田様と張さんそれに珊さんに集まってもらい協議中だ。
「直通での運行を減らして、とにかく各港に入る船の数を増やすしかないでしょう。」
「それは意味が無いのではないでしょうか。
だって、どの船も積荷でいっぱいなのですよ。
港に寄っても荷下ろしや荷積みなどできませんよ。」
「ではどうしろというのか。」
今集まった人たちの英知を集めるべく意見を戦わせているのだが、『無い袖は触れない』といったところから一向に話し合いは進んでいない。
「とにかく新造船ができるまでは待ってもらうしかないな。」
「豊田様、水軍から回してもらうわけにはいきませんか。」
「それは無理だ。
今でも一杯一杯なのだ。
これ以上は九鬼の殿様の政に影響が出ちまう。
そうでなくとも政の連絡用に1艘しか割り振れていないので、半兵衛殿あたりからもあと1艘増やせないかと言われているくらいなのだ。
これは常日頃から空殿が『情報は鮮度が命』とか言われているのに、各地の連絡にも足りないと零しておられたからな。」
「事業化は失敗だったかな。」
「空さん、それは無いでしょう。
遅かれ早かれ、これはわかりきっていたことでしょ。
それに、今の問題は清須屋さんが加わったことじゃなく、堺との商いが盛んなことによって織田様の勢力の先行きに光明がさしたために、堺からの荷が動いているせいですよ。
それに昨日聞いた話ですが、八風峠の馬借もそろそろ限界が近づいているようで、とにかく荷が西から東に動いているからです。
気になさらなくてもいいかと。」
「そうですよ、そんなことを気にするくらいなら一つでも多くの案を考えてくださいな。」
追い打ちをかけられ、おちおち落ち込んでもいられないようだ。
それに、恐ろしいことを今聴いた気がする。
馬借も限界だと。
表面的に考えれば、運送業としては稼働率100%で商売繁盛だって喜べそうなものだが、現実は上手くはいかない。
「そうですね、どうしたものかな。
そもそもばら積みだから問題になるのかな、いっそのことコンテナ化を考えるか。
そうすれば船の経由地を増やしてもどうにかならないかな。」
「何ですか、良き案が出ましたか。」
「いや、とにかく、今は現状を調べましょう。
どの港から、どれくらいどこの港に荷が動いているか。
それにかかる時間なども調べましょう。」
「それなら私のところでやりましょう。」
「助かります、豊田様。
それを見た上でもう一度話し合いをしましょう。
それまでは、これ以上は無理だと周知に留めていくということで。」
話し合いは伝家の宝刀である『ザ・先送り』で解決?した。
ま~とにかく忙しい人たちばかりなので、解決する見込みのない会議に時間を取らせてもというので、一旦会議を解散させた。
とにかく現状では我々の造船能力はかなり上がってきているので、一旦造船が始まれば比較的短い時間で置き換えはできそうだ。
となると近い将来的にはまた人の問題となる。
これは計画を進めて、熊野水軍の完全な取り込みを急いだほうがいいかも知れない。
やはりまた政治問題化となった。
「俺はこれから大湊の九鬼さんの所に行ってくるよ。」
「どうしてですか。」
「人の問題で、熊野水軍も仲間にできないかと相談してくる。」
「わかりました。
それはいいとして、熱田の方はどうしましょう。」
「熱田?」
「空さん、忘れていますね。
先日丹羽様から連絡を頂いたばかりじゃないですか。
返事をそろそろ出されたほうがいいかと。」
「?、あ~~~~~~~、思い出した。
ど、どうしよう。」
「とにかくすぐに準備をさせるということで待ってもらいましょう。」
「頼めますか、張さん。」
「ハイはい、わかりました。
お返事はすぐに手紙をしたためます。
花押を待っていられませんから印でも押しておきますね。」
「す、すみません。
そうしてください。
あと、幸代さんのところに話しておいてもらえますか。」
「はい?」
「熱田には幸代さん御夫婦で詰めてもらいたいと。」
「門前の商いはどうしましょう。」
「幸代さんの所に通っている子供たちのうち、しっかりしたものに引き継いでもらいたいな。
あそこは徐々に規模を縮小していくつもりなので、商いを失敗してもいいから、次世代に経験を積ませる場所としていくつもりです。
そのへんの差配もお願いできますか。」
「それは良いお考えですね。
そうですね、今の私たちから見たら規模的に見劣りしてますしね。
わかりました。
あと長島の上人様に避難してきている子供たちの引取りも連絡しておきます。
どんどん人が必要ですしね。
こちらで十分に教育できるようになったことだし、どんどん子供たちの受け入れをしていきましょう。」
「最近あのあたりでの戦も減っているのでどれだけいるかはわかりませんが、そうですね。
でしたら、観音寺の伊勢屋にも連絡して、焼け出された人たちの受け入れもさせましょう。
そちらも連絡しておいてください。」
「堺はどうします。
情報なら私たちよりも断然多く持っていますよ。」
「堺だけは辞めときましょう。
能登屋さんや紀伊乃屋さんは信頼置けますが、他はね~~。
どんなやつを送り込んでくるかわかったものじゃないですから、しばらくの間は、堺は無しということで。」
「わかりました。
ではいってらっしゃい。
できるだけ早くに帰ってきてくださいね。」
空は、その足で、港に停泊中の船を捕まえて大湊に向かった。
割と最近にも来ていたはずなのに酷く久しぶりのような気がした。
大湊は空が前に来た時とは様相を変えていたのだ。
通り道も広く整備されており、その両脇には店などが立ち並び活況を示していた。
これも原因のひとつなのだろう。
今までだと、安濃津と桑名くらいだけが商いの盛んな街だったのだが、安濃津は置いとくとしても桑名を超す勢いをここ大湊に感じる。
今ではここ大湊から熱田はもちろんのこと三河の大浜や今川領の各地まで船でつながっている。
今の大湊はとにかくものすごい勢いで変わっていっている。
九鬼様が急いで整備をしているためだ。九鬼様の居城の方も急いでいるはずなのだが、さすがにすぐには出来ていないようだ。
未だに近くの寺を借りての政だ。
俺は丹波を連れてその寺に向かった。
寺の入り口付近で空は用件を話すと、すぐに奥に通された。
奥ではほとんど待つことなく九鬼様を始め半兵衛さまや藤林様といった重鎮が集まってきた。
直ぐに会えることは非常に嬉しかったのだが、この人たちって本当は超忙しい人たちのはずだよな。
大丈夫かと心配になる空だ。
だって、絶対にこの人たちはやっていた仕事を放り出してここに来ているのだろう。
政に関しては口を出したくない空は、喉まででかかった言葉を飲み込んで、すぐに相談を始めた。
「熊野水軍を取り込めないかということですね。」
「そういう話は前々から出ておりましたが、なぜ急にこの時期にその話が出てくるのでしょうか。」
「早い話が人手不足が原因です。
水軍というより水運の方でパンクしそうなのです。」
「今でも我々の口利きで堺からの水運業をしてもらっていたはずですが。」
どんどん核心の話になっていった。
俺の意見では、熊野水軍を取り込んで、彼らの船も今の九鬼水軍と同じ船に変えていきたい。
厳密には、今の主力で使っている船を開発中の2本マストの船に置き換えると、現行の船が余ってしまう。
それを他の勢力に渡すのは安全保障上問題があるので、熊野水軍を完全に取り込んでから船を替えていきたいという話だった。
現状でも比較的話し合いがうまくいっているので、この時期に吸収の話を持っていっていいものかどうか悩みどころではあったのだが、藤林様はその辺も抜かりなく調査だけは進めていたので、その調査報告を聞いていた。
熊野水軍の連中は水運の事業で少しずつ豊かな暮らしができるようにはなっているようだが、豊かになればなるほど、彼らも限界も感じてきているようだと報告された。
現状ではこのまま九鬼勢に取り込まれる危機感を持っている派閥と、戦乱の時代の変化を敏感に感じている鋭い連中は条件がいいうちに九鬼水軍に合流してしまおうという意見が出ている。
両者の勢力バランスは今は拮抗しているそうだ。
うまくすれば合流も叶うが、もって行き方を間違えるとあのあたりで内戦すら起きかねないとも報告をもらった。
そこまで聞いて、九鬼様が決断をした。
「俺が行って話をしてくる。
強制的な吸収はしないが、我々の現状を説明して、合流してもらうように交渉をしよう。」 と力強い話をしてくれた。
「今、このあたりで我々のやることは開発の監督だけですので、しばらくなら離れることはできます。
3人で行って誠意を見せながら交渉しましょう。
最悪合流したいものだけでも合流させてみる手もありますしね。」
「半兵衛様、出来ましたらそのあたりは穏便にお願いしますよ。
内戦にでもなっても力で抑えることはできますが、それをやりますと後々めんどくさいことになりますから。」
「空殿、わかっておりますよ。
最後の手段だと思っております。
我々も急ぐつもりはありませんが、とにかく話し合いだけでもしてきます。」
空の年頭示した方針に図らずして進んでいきそうな気配であった。
いつものことだが、どうも計画は立てても前倒しになっていく傾向に有るようだ。
そのせいでいつも追われるようにしか生活できないと半ば諦めの心境になって、俺は少し落ち込んだ。
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