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第五章 群雄
第百三十一話 熱田の屋敷
しおりを挟むその日は三蔵村に帰った空を出迎えたのはなんと藤林様だった。
「殿、おかえりなさ」
「え?
なんで藤林様がここにいるのですか」
「なんではないでしょう。
この辺りに領地を下さったのは殿でしょう。
お忘れですか。
それに今日は例の件で報告もあり伺いました」
「そうですか、では、藤林様のお宅で話を伺ってもよろしいでしょうか」
「別に構いませんが、何故?」
「ほら、最近なぜだか寺での私のことを見る目が冷たくてね。
原因はわかっていますよ。
最近とみに無理をお願いしていましたしね」
「なるほど、殿のお屋敷を早く作れってやつですね。
わかりました。
では、ご案内しましょう」
そのまま空たちは門前にある藤林邸に案内された。
ここも俺はいいように使っていたので、誰の屋敷かかなり怪しかったのだが、屋敷の管理を藤林様のところの配下に任せていたので、藤林邸といってもいいかなとは思っていた。
屋敷の奥に入り、早速藤林様からの報告を受けた。
前に熊野水軍の取り込みを頼んでいた件だ。
俺が九鬼様に熊野水軍のことを相談したすぐ後に、九鬼様と藤林さん、それに半兵衛さんの3人が安宅城まで出向き、熊野水軍を従えている安宅氏に直にあって説得した。
その報告を持ってきたと言うのだ。
「安宅には会うことができましたが、説得にはいたりませんでした」
「どういうことなの」
「はい、熊野の中でももめているようで、今のままじゃダメなのかとしつこく聞かれました。
熊野は九鬼には逆らうつもりはないが、そのまま吸収されるのは面白くないといった感じでしょうか」
「ダメなのかな~~」
「いえ、熊野の家中でも意見が割れているようで、そのために安宅は返事ができないといった感じのようです」
「意見が割れている」
「はい、九鬼水軍が最近とみに豊かになってきているのを奴らは知っております。
また、こちらからの働きかけで、水運の仕事も回してやったこともあり、徐々にではありますが彼らも豊かにはなったようです。
そのために、余計に我々の豊かさが気になるようで、いっそのこと九鬼と合流して自分らもより豊かになりたいという連中と、熊野は古くから九鬼とは別の水軍で、今更九鬼に吸収されるのは面白くないといった連中で意見が割れて、最近では少々きな臭くなってきてもいるようです」
あれ、戦をなくしてみんなで豊かな暮らしをと思っていたので、新たな火種を作ってしまったか。
俺のせいか。
「殿が気に病む必要はないことですが、希望者だけでも合流させますか」
「それをやると、決定的に関係がこじれそうだよね。
その後はどうしているの」
「はい、この件はしばらく九鬼様のところの豊田様とこちらから半兵衛殿が根気よく通われることになっております」
「そ、そうだよね。
こちらから仕掛けることはないよね。
それをやったら絶対にまずいことになるからね」
「はい、今のところはありません。
しかし、このままというわけにもいかないでしょう」
「説得の方法なのだけれど、九鬼様のところって、今では水軍は豊田様が面倒をみていてほとんど別の組織のようだよね。
それに、藤林様のところもそのような感じでしょ」
「は?
何を言わんとしているか、私には理解できないのですが」
「だから、熊野水軍との合流も、熊野水軍として丸ごと合流してもらい、九鬼水軍とは別だよって説明できないかな。
尤も九鬼様の配下となるのは理解してもらわないといけないけど。
組織的は豊田様に管理してもらうようになるけど、九鬼水軍とは別扱いにしてもらうということで説得できないかな」
「は、それはいいお考えで。
早速その旨伝えます。
おい、誰か、この話を半兵衛に伝えて参れ」
藤林様が声をかけるとすぐに人が現れ、内容の確認をしたあと、また、すぐにどこかに消えた。
忍びの人って本当に仕事が早い。
俺が感心していると、藤林様から声をかけられた。
「殿はこれからどのようになされますか」
「どのようにとは」
「明日はご予定がお有りですか」
「明日は、また熱田に行かなければならないよ。
屋敷をもらった俺は、丹羽様には一度会わないといけないからね。
今日、清須屋さんから手紙を出してもらったから、明日に返事が来ているだろうし、返事が来たらすぐにでも動けるようにしておかないとね」
「そうですか。
熱田のお屋敷は以前お話のあったあのお屋敷ですね」
「そうだけど」
「でしたら、明日はそれがしもご一緒しても」
「構わないけど、仕事大丈夫?」
「これも仕事ですよ。
うちからも人を出すので、一度見ておかなければならないと思っておりましたので、かえって好都合かと」
「それもそうか。
藤林様は、今では大名家の家老だもんね。
用もないのに他国には行きづらくなったしね。
大丈夫かな、どうせ俺のことを向こうはしっかり調べていることだし、滝川様もいることだしね。
いまさらうちから忍びが行ってますっていうようなことをしても問題ないか。
なら、いっそのこと堂々としていればいいかもしれないね。
わかった、明日は一緒に熱田に行こう」
その日はこのまま藤林邸で厄介になり、明朝早くに港を発った。
熱田の屋敷に着くと、そこには滝川様が俺を待っていた。
「え、滝川様。
ひょっとしてお返事って、滝川様が直接なの」
「ま~そういうものだ。
それより、そちらの御仁は藤林様とお見受けしましたが」
「いかにも、藤林長門守正保と申す。
以後よしなに」
「これは大変失礼しました。
拙者は織田上総介が家臣、滝川一益と申します」
「その方とは初見だが、ひょっとして」
「はい、拙者の出身の一族はそうですが、拙者は違います。
今はれっきとした織田家の家臣です」
「そうか、では何も言わん。
以後よしなに」
「それよりも空よ、挨拶したい者を連れて熱田神宮にお参りでも行かんか。
これからの両者の発展などを祈願しに」
これは熱田神宮で誰か待っているというやつか。
丹羽様がもうすでに熱田に来ているとか。
「わかりました。
幸代さん、準備できていますか」
「私たちはいつでも。
葵ちゃんはどうするの」
「私もついていくよ」
葵も付いてくるのか。
大丈夫かな、でもこれからは張さんの代わりにちょくちょくこちらにこさせることになるし、紹介だけでもしておこう。
「藤林殿。
失礼ですが、できればご一緒願えませんか」
藤林様も分かっているのだろう。
いきなりなにかされるわけじゃないだろうから大丈夫だとは思うが。
「わかりました。
よろしくお願いします」 と言って藤林様は滝川様に深々と頭を下げた。
滝川様に連れられて、皆でぞろぞろと熱田神宮に向かった。
熱田神宮では全員揃ってお参りを済ませて、さて、この後はと思っていると、熱田神宮の宮司が我々のところまでやってきて、我々を離れに案内してくれた。
その離れの一室に揃って入ると、そこには当然のようにいました。
丹羽様がいるとは思っていましたが、まさか信長様までいらっしゃるとは思っても見ませんでした。
本当にフットワークの軽い人だと思った。
「やっときたか、まあ、茶でも振舞うで、そこに座れ」
「皆様よく来てくれました。
三蔵の方たちには大変感謝しております。
今までもかなり働いてもらい我々としては非常に助かりました。
歓迎いたします」
「空よ、堺と直接取引ができるようになって、鉄砲の仕入れが楽になったわ。
礼を申す。
して、その方らの後ろにいるのが話していた者か」
「はい、店の責任者となる幸代さんとご主人の善吉さんです。
それと、まだ子供ですがあの張さんの一番弟子でもある葵です。
彼女はこれからも店との間を行き来して連絡役をしてもらいますので、連れてきました。
この者たちが店を守りますから、これからよろしくお願いします」
「ほお、その方らか。
その方、葵と申すのか。
あの張の弟子とな。
よしわかった、励め」
幸代さんや善吉さんは完全に固まっている。
そりゃそうだ。
この時代ではまず庶民は大名には会わないよな。
我々は九鬼様とは普通に会うこともあるけどそれは別だろう。
葵なんか完全にパニクって何か言おうとアワアワしている。
「葵、何も言わないで、頭を下げていればいいから」
「うん、わかった」
信長様の一言を聞いて固まっていたみんなが俺の一言を聞いて一斉に頭を下げた。
その後、とても鋭い視線で信長様は藤林様を見ていた。
俺がその視線を感じて、慌てて藤林様を紹介した。
「最後にこちらの方が、長く私ども三蔵の衆に混じり我々を助けてくれた藤林様です。
これから色々とご縁もあるかと思い連れてまいりました。
よろしくお願いします」
「それがしは、空殿の言われたように、空殿に命を助けられたご縁が繋がっており、また、最近は九鬼の殿様の元で家老を拝命しております藤林長門守正保と申します。
三蔵の衆の関係でも、また、隣国伊勢の国主である九鬼様の家老として、これからもご縁がありますよう宜しくお願い申し上げます」
「その方が、そうか、こちらこそ宜しくたのむ。
また、九鬼殿にも先日うちの武井が世話になったそうな。
お礼を申し上げるとお伝え願えないか」
「それは、確かに伝えること、お約束します」
「それはありがたい」 といった信長様は丹羽様の方に向かって頷くと、丹羽様が葵たちに声をかけた。
「皆さんは、もうここの宝物をご覧になられたかな。
もしまだなら、見て参るといい。
なにせ、ここは、スサノオの使っていた草薙剣があるという。
そこの宮司が案内してくれるというしな」 と言って空の方を見た。
藤林様と政治の話がしたいということだ。
それじゃ俺もとはいかないだろうな。
丹羽様の配慮を汲み取って
「みんなは見てくるといい。
俺と藤林様は前に一度見ているしな」 と言って、みんなを部屋から出した。
みんなも信長や丹羽といったお武家様とあまり長く一緒には居たくなかったようで、かなり喜んで部屋から出ていった。
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