名もなき民の戦国時代

のらしろ

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第七章 公家の政

第百七十話 戦勝報告

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 幕府が将軍と一緒に京から逃げただと。
 まあ、あの将軍では居ても居なくても変わりがないが、幕府というより三好の残党が足手まといな将軍を殺したり捨てて行かなかったのだけは評価できる。
 生ごみ扱いの名ばかりの将軍なんか、そこらに捨てていかれては、迷惑以外に無いしね。

「幕府が逃げ出したのは驚いたけど、逃げ方があまりにあっぱれだよね。
 まるで、夜逃げ専門の業者にでも頼んだかのように、鮮やかすぎる。
 普通だったら、今頃評定でもして意見がまとまらないか、一人ずつ先の見えるものから逃げ出している頃だよね」

「はい、幕府の対応は確かに見事の一言に尽きます。
 しかし、多分それができたのは、今町に流れている噂が原因かと」

「噂?」

「はい、弾正殿が九鬼様を伴い、軍勢を引き連れて幕府に報告に上がるという噂です」

「軍勢を連れての報告ってまずいの?」

「いえ、戦報告ですから軍勢を解かずに報告に来ることは極めて普通のことかと。
 しかし、昨今の京周辺の状況を考えますに、明らかに意図を持った行動と受け取られます」

「三好と戦った後だし、京に残る自分たち三好の残党狩りかと思われるわな。
 そんなの、俺でもそう思うし。
 しかし、そうなると、弾正様は手間が省けたようだね」

「それが目的かと思われます」

 今町の中に溢れている噂の目的がこれか。
 あの弾正は少々えげつないな。
 しかし、三好の残党を京から追い出すにはこれ以上の妙手は無いな。

「そうなると、弾正たちは目的を達したのだから、京まで来ないかな」

「いえ、すでに先触れが京に入りました。
 お上に報告する形を取るそうです。
 あ、殿にも伝言を先ほど預かりました。
 直ぐに伺うので、そこにいてほしいとのことです」

「俺のところにも来るの。
 できれば避けたいのだけれど、無理だよね」

 面倒ごとの予感しかない。
 そんなことを感じながら、俺は、いつもの作業と化している京屋敷の整備に取り掛かった。
 人足を差配して船溜まりの完成 を急がしている。


 船溜まりは、だいたいの形になってきており、今では港周りの整備に取り掛かっている。
 本当に人手があると作業がはかどるね。
 特に単純の工数作業だと人手の数がもろに作業の進捗に影響してくる。

 俺は、豊富な犯罪者の人足を死なない程度に使いまわしていたので、ここまでの作業が速かった。

 しかし、ここからは技術を要するところになってくるので、工数をぶち込んで一挙とはいかない。
 岸壁の工事などは三蔵村から無理を言って六輔さんの組を連れてきたので、彼らに頼んでいる。
 それと、賢島からも造船所を作った棟梁たちも呼んでいる。
 彼らには巻き上げ機や簡易クレーンなどを頼んでいる。

 てこの原理を使った井戸などで使われているようなクレーンを今回初めて作ってみることにした。

 船からの荷の積み下ろしに使ってみたい。
 そんな感じで、ここでの港造りは、完全に俺の趣味の世界に入っている。
 ここでの取り組みがうまくいけば他にも転用できるし、失敗しても別に構わない。

 俺一人が落ち込むだけだ。
 いかん、思考がだんだんネガティブになってきいてる。
 そう思っていたら、屋敷入口近くが騒がしくなってきた。
 どうも弾正たちが到着したらしい。

 直ぐに、家人が俺を呼びに来た。
 俺は屋敷に戻り、一応お出かけ用の服に着替えた。
 この場合正装するべきか悩んだが、そんな時間もなかった。
 直ぐに、屋敷中央付近にある広い部屋に通された。
 そこには甲冑を着た弾正と九鬼さんが待っていた。

「すみません。
 お待たせしたようで」

 なんで甲冑を着ているんだよ。
 俺の考えが正しければ、二通りの意味しかない。
 一つは、三好の残党たちに対したように俺も京から追い出したいための圧力をかけるため。
 これだったら、俺は喜んですぐにでも京から出ていくが、絶対に違うだろう。

 そうなると、残り一つしかない。
 これは、正式に俺に対して戦報告に来た場合だけだ。
 お忍びで会いに来た訳じゃ無いという明らかな意思をもってだ。
 俺がそこまで考えが及ぶと、嬉しそうに俺を弾正が見つめてきた。

 このおやじ、次は何を考えているんだよ。
 ここでは俺の配下の扱いになる?九鬼さんが初めに報告をしてきた。
 その後から、今回の海戦の協力についてのお礼を弾正さんが言ってくる。

 俺はこの時代の礼儀作法など全く知らないけど、どうも公式な会見らしく其なりに振舞っている。
 俺にこんな芸当はできないと、この際はっきり言ってみたのだが、そんなのお構いなしに会見の後ろでしっかり記録まで取られているのだ。

 勝手にしてくれ。

 一通りの儀式?が終わったら、今度は有無を言わさずに俺を連れだして太閤殿下の屋敷に向かわされた。
 ここは、俺たちの拠点から目と鼻の先くらいに近いのだが、俺たちが活動を始めてからはほとんど近寄ってすらない。

 尤も見回りをしている人たちは、しっかりこの辺りも巡回している。
 ここに近寄っていないのは俺だけだ。
 これ以上面倒に巻き込まれたくないという俺の気持ちの表れじゃない……いえ、嘘です。
 これ以上関わりたくはありませんので、できる限り顔を出さないでいた。

 いきなり殿下と面会となり、開口一番に殿下から思いっきり皮肉を巡回のお礼に混ぜて言われた。
 これに俺はどう答えればいいんだよ。
 苦笑いしかできない俺をほおっておいて、弾正が話をどんどん進めていく。

 先の海戦について、どんどん論点が違ってきているような報告が目の前で繰り広げられている。

「殿下、京の町に狼藉をなさんとする不埒者たちの集団を、伊勢守様の配下による奮戦で見事に成敗することができました。
 これで当分はここ京を脅かすものは出ないでしょう」

「おお、そうか。
 それは重畳。
 この成果はきちんと評価しないといけないな。
 直ぐにでもお上に上奏することとしよう」

「ありがたき幸せ」

「今回のお働き、誠に見事。
 伊勢守も、この成果をもって殿上人に推薦できる。
 役職に希望があれば聞くが、いかがか」

 確か、俺の今の役職は上国に当たる伊勢守で、この役職はすでに昇殿できる資格のはずで、昇殿の資格が必要ならば、今のままで十分なはずなのだが、そんなことは一切無視された。

 しかも、なんで俺の成果となるんだよ。
 そんなの聞いていないぞ。
 しかし、希望を聞いてもらえるのなら、かねてからの計画にあった治安部隊を正式に発足させたい。
 なので考えていたことを願い出た。

「希望を聞いてくださるのでしたら、今巡回している連中に正式に役を与えたいと思っております。
 できましたら検非違使の役所を開きたく、そのためのお役目を頂きたく思います」

「おお、そうかそうか。
 今までも十分に主上に尽くされたが、この上、さらに精進くださるか。
 まことにその心根はあっぱれだ。
 その旨すぐにでも主上のもとに向かい上奏いたそう」

 殿下に対してこんな感情を持つこと自体無礼になるのだろうが、このおやじも知っていてやっている感じがどうしても取れない。
 俺を取り込むのに必死だ。
 尤も弾正と同じ穴の狢のようだが、これ以上取り込まれたくはないし、もう少し上手に立ち回れるようにしていかないと、そのうちずぶずぶに取り込まれ、逃げ出せなくなりそうだ。

 すでに手遅れとも感じなくも無いが、義理とは言え殿下の娘との結婚も決まっているし、今度の昇進で結婚させられるのだろうな。
 これだけは覚悟をしておかないといけなさそうだ。
 覚悟を決めないといけないのは俺だけでなく、他の女性たちもだ。

 どうやって葵たちに伝えようかな。
 そんなことを考えているうちに面会の儀式は終わったようだ。
 やっとプライベートになるみたいだ。

 弾正や九鬼さんはここでやっと具足を解き、平服に着替えて、また、俺の屋敷に向かった。

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