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第七章 公家の政
第二百三十九話 逃げ出した関白たちの考えは
しおりを挟む中に入ると、最初に目についたのは、屋敷がきれいに修繕されたばかりだということだ。
どう考えても、三蔵の衆より納められた御所の修繕費を使って自分の屋敷を直したと云うのがバレバレだ。
流石に、これには山科卿からの使者もご不満のご様子。
そうだよな。
誰がどう考えても、彼らを弁護などできそうにない。
生活すらままならぬ御所を修繕どころか、何もせず放置しておいて自分の屋敷をきれいに直すとは、これ以上に無い不敬だと俺でも思う。
いくら主上が絶対にお通りにならない廊下だとはいえ、歩けないほど腐った状態で放置とかありえないでしょう。
あの廊下の先には政務を司る部屋もある筈なのに、自分たちは政務など絶対にやるつもりもないと高らかに宣言しているようなものだ。
一応、全ての部屋の中を確認して、誰も居ないことを確かめた。
後は厩や蔵などが残るが、そう言うこまごましたところは忍びの人たちに任せて俺たちは一旦屋敷に戻った。
「しかし……」
「中将殿、いかが思いますか」
山科卿からの使者が俺に尋ねて来た。
関白が都から出て行ったのは、百歩譲るとしても、直したばかりの屋敷に誰も居ないと云うのが解せなかったらしい。
最近俺たちの頑張りで、過去からは比べるべくもなく都の治安は良くなってはいるが、それでも、誰も置かずに都から出て行くとは考えられなかったらしい。
俺からすれば、当分都では活動がしにくくなると見切りをつけたのだろうと思うが、それでも思いっきりが良い。
流石に関白までなった人物だけあって、屑の中でも、それなりにできる人だということか。
それだけに、ちょっと嫌な予感がしなくもない。
「あくまで都の習慣に詳しくない私の個人的な感想ですが、関白殿下は、都に見切りをつけたのでしょう。
北陸あたりに、基盤を置いて、そこから我らに対して何らかの手を打つのかもしれません」
「北陸ですか」
「ええ、北に向かって移動していると報告を貰ったばかりですから。
朝倉もしくは上杉あたりに協力を仰ぐつもりのようだと、私は考えます」
我らに対する攻撃が、大人しく政争だけで収まればいいのだが。
直したばかりの京屋敷を見事に引き払っていることから、もう都での活動は無い。
惜しいとは思うが、都にいると危険とすら考えているようだ。
ひょっとしたら応仁の乱の再現でも狙っているようにすら思う。
それとも南北朝か、継体天皇の例もある。
新潟在住の天皇家の末裔でも探して新たな朝廷でも起こそうというつもりなのかはわからないが、どっちに転んでも主上や、都に住まう、いや、この日の本全てにおいて不幸でしかないようなことを仕出かさないとも限らない。
流石にそこまでの見通しを目の前の使者に話すわけにもいかないが、また戦争か、ほとほとこの時代の人の考えの短絡さには付いて行けそうにない。
だって、政争で勝てなかったからって、『それなら戦争だ~』ってありえないでしょう。
まあ、こちらとしても命までは取るつもりは無いけど、寺に押し込めるか、遠方に流すか……あ、今の状況とあまり変わりがないか。
まあ、どちらにしても、彼らを取り逃がしたことには変わりがない。
そうなると戦争かな。
まだ、そうと決まった訳ではないが、それでも、そのようなことも十分に考えられるだけに、その準備だけはしておかないといけない。
弾正と一度真剣に話す必要がありそうだ。
少なくとも主上は伏見に退去していただいているので、主上の御身に危険が迫ることは無いだろうが、それでも、また京の都が火の海に包まれる事だけは避けないといけない。
しかし、京って守るには向かない土地なんだよな。
積極的防衛とばかりに朝倉あたりまでこちらで押さえることができれば良いのだが、こちらから戦争を仕掛けるのもなんか違うし、どうしよう。
「中将殿。
今のお話も含め、山科卿に報告してまいります。
今回は便宜を図って下さり、卿に代わり感謝いたします」
「お礼には及びません。
私は主上より承りし仕事をしただけですから」
山科卿からの使者は俺にお礼を言ってから伏見に帰っていった。
当然帰りもうちの湊から船での移動なので、湊まで見送った。
山科卿からの使者を見送った後、うちの忍び集団の一人を呼び出して、五宮と一緒に、状況を分析した。
「少なくとも、このまま関白様がおとなしく北に潜むとは考えられません。
もし、そのおつもりならば、一度関白職を返上されたのち、すべてを引き払って都から出てくことは出来ました。
それすらしないで、それこそ夜逃げ同然に都から出て行ったことを考えますと……」
「ろくなことは考えていないと。
まあ、俺もそう思う。
何かそのあたりについて情報はあるか」
「いえ、中将様。
私たちには、北に逃げたということだけです。
追いかけることもできますが、越後まで入られますと……」
「ああ、軒猿のことだな。
無理はいい。
それよりも、どこまで行くかを正確に確かめたい。
朝倉領を出るまでは見ていてくれ」
「わかりました……
越前までは入れますが」
「あそこは一向宗の縄張りだろう。
一向宗を今は刺激したくはない。
朝倉領の北側も加賀だし、越前まででいい。
一向宗に逃げ込むのなら、北に逃げずとも本願寺に入れば良いだけだ。
本願寺の協力を得られれば、簡単に京に戻れることだし、それをしていないのなら、一向宗を今のところ頼るつもりはないということだ。
まあ、一向宗を頼って政権を取ったとしても、他の宗派が黙っていまい。
すぐに叡山との死闘が始まることくらいは関白ならばわかるだろう。
頼るとしても、補助的な話だ。
どちらにしても武家政権を壊すほどのことは出来ない。
ならば、叡山だけでなくほかの大名までも敵になるから、今以上にこの国は凄惨な状況になる。
それだけは防ぎたい」
「中将殿の言い分。
まさにその通りかと。
いまさら後醍醐陛下の御代の再現は誰もが無理と考えます。
今更ですが、武家の協力無くして政は出来ません。
しかし、そうなりますと、新たな将軍の擁立ですかね」
「五宮の云う通りになるかな。
今の足利は俺が京から追い出したしな。
でも、まだ将軍職はそのままだろう。
現将軍が死にでもしないと新たな将軍は立てられまい。
まあ、どちらでもいいか。
それよりも問題なのはどうやって都を守るかということだ。
これから忙しくなりそうだ」
俺はそういうと、急ぎ弾上との面会の手はずを整えた。
俺の方から多聞山城に出向くつもりであったのだが、俺からの依頼を受け、すぐに弾上は飛んできた。
「空よ。
聞いたぞ。
偉いことになりそうだな」
「ええ、どうしたものかと考えてはおりますが……」
「何を悠長な……
だが、下手な手は打てんか。
どうしたものかな」
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