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グラス小隊のお仕事
訓練施設
しおりを挟む俺たちは出来たばかりの練兵場に来ていた。
「できましたね。でも、これどのように使うのですか」
「ま~、見てな、うまくいくか分からないが、使い方くらいはわかるだろう」と言って、俺は、2m近くある壁に飛びついてよじ登り、平均台を渡り、ターザンロープを使って降りた。
かなり、へっぴり腰でカッコ悪かったと思うが、彼女たちには使い方はわかっただろう。
「使い方はわかったけれど、なんだか遊んでいるみたいだな。大丈夫か?他に見られたら、少なくともアプリコット准尉あたりに見られたら、また、お小言貰いそうなんだけれど、心配だな~」
「ま~、見た感じは遊んでいるようだったけれど、こんな感じで、体全身を使っての訓練になる。初めは、そのままで構わないが、慣れてきたら、フル装備をしたまま、この練兵場を走り抜け、最後には時間を決めて、その時間内に走り抜けることを目標とします。フル装備で、ここを全力で走り抜けていれば誰も遊んでいるようには見えないよ。大丈夫。実際にこれは、かなり実践に近い訓練になるはずだはずだから、練度は上がるはずだよ」
「え~、フル装備?あの軍装をフルに装備すると20kg近くになるのだけれど、そんなのでここをやるの~?」
「え~、それ無理じゃね~」
「きつそう」
「ま~、ま~、とりあえず、やってみなよ。そのままだったら、俺でも出来たんだから、君たちだったら簡単にできるはずだから。メーリカさん、最初お願いね」
「隊長の命令だから、やりますけれど、本当に『遊んでる』と怒られないかね。心配だな~。隊長のすることだもの、楽しいのは楽しいのだけれど、必ず後でお小言を貰う羽目になるからな~」
「いいから、始めて」
「了解」と言って、さっそうとメーリカはこの施設を走り抜けた。
「これ、楽しいわ。みんなも順番にやってみな」
「「「分かりました」」」
小隊の一般兵士約50名が順番に施設に挑みかかった。
若い女性ばかりである。
ワイワイキャーキャーと姦しいことこの上ない。
当然、周りの目を引くわけで、アザミ大隊長のアート少佐が、幾人かの兵士を連れてやってきた。
「少尉、なんだか楽しそうなことしているな。遊んでいて大丈夫か」
「あ、アート少佐、これは遊んでいるわけではありません。新兵たちの訓練です」
「私には、遊んでいるようにしか見えないが、どういうことだ?」と、当然この訓練を見たことも聞いたこともいない人には、そう見えるのはしょうがない。
実際に、今の状況は、アスレチックスに初めて挑戦する小学生のようなものだから。でも、これが軍装を整えての訓練になると、もうそれは遊びなどとは言えない厳しいものになるのだけれど、こればかりは経験してみないとわからない。
斯く言う俺は経験したことがないので、その厳しさを説明できないのだけれど。
俺と、アート少佐がアスレチックスもとい訓練施設のそばで話し込んでいると、ちょうどジャングル探索訓練に出ていたアザミ大隊旗下の小隊が、帰還途中にここに立ち寄った。
それを見つけたアート少佐が小隊長を呼び止め、彼女たちに現在の装備のまま、この施設へ挑戦させることにした。
小隊員30名が順番に施設に取り組んだ。
慣れていないので無理もないのだが、かなり苦労をしていた。
でも、さすがに帝都の精鋭と謳われてきただけはある。
すぐに要領を掴み、次々に戻ってきた。
兵士たちは戻りしな口々に「「「これ、きついわ~、でも楽しい」」」と言っていた。
小隊長が、全員が帰還したのを確認して、アート少佐に報告してきた。
「報告します。小隊30名、全員の帰還を確認しました」
「報告、了承しました。少尉に確認します。この訓練施設について、感想はありますか。実際に使ってみて、どう感じましたか。訓練として有用でしたか、どうですか、あなたの忌憚のない意見が欲しい」
「はい、実際に使ってみて、正直我々でもかなりキツイです。でも、状況の変化等、実際の戦闘などを考えると、かなり訓練としては有用だと思います。新たに新兵が配属されますと、この施設を利用したく思います。いや、新兵だけでなく我々の日々の訓練でも使いたく思います。これならば、いちいち好ましい場所を探してジャングルの中まで行く必要がないので、本当に必要な訓練だけをジャングルで行えますので、練度の維持向上にかなり役に立つと思います。で、我々は、明日からこの施設は利用できるのでしょうか?」
「かなりベタ褒めね。でも、あなたたちの取り組みを見ていたら、先ほどの遊びのような空気はなかったですね」
「少佐、これ、遊びではできません。正直かなりきついです。配属されたばかりの新兵では、いきなりはかなり難しいかと思います」
「体一つだけで取り組めば、さほど難しくはないのに、負荷がかかると途端に難しくなるのね。本当に訓練施設としては最適なようね。装備荷重を変えていけば難易度が変化しそうね。新兵の訓練に使えそうだわ。少尉、この施設は、私たちも使えるの?」
「多分、大丈夫だと思います。これをつくる時に基地の訓練施設としてシノブ大尉がサカキ中佐に書類を上げてくれているはずですから、お使いください。でも、邪魔をしないようにしますので、我々も使わせていただきます」
「あなたたちが作った施設でしょ。むしろ私たちが使わせてもらう立場なのよね。仲良く使いましょ」
先ほど協力してくれた小隊は、まだ、訓練途中だったので、きちんとジャングルでの訓練を終わらせて、明日から使うことになった。
「でも、私の大隊が使うとなると、ちょっと手狭になりそうよね」
「何だ、何だ、何やら楽しそうなことしてそうだな」
最近、たまり場によく顔を出してくるバラ大隊長のナターシャ少佐が、なにやらニヤニヤしながらやってきた。
多分、たまり場に顔を出した時に、この騒ぎを聞きつけてやってきたのだろう。
「少尉、何か新しい遊びでも考えついたのか?」
「ナターシャ少佐、遊びは酷いです。私は、新兵たちが、代わり映えしない訓練ばかりでモチベーションが保てない、しかし、まだジャングルに連れて行くには早すぎるという部下からの相談を受けて、訓練施設を作っただけです。確かに、この基地には娯楽が少なすぎますが、これは、遊び場ではありません。れっきとした訓練施設です」
「これは、申し訳ない。で、訓練施設として、効果のほどはあるのか」
「グラス少尉、しょうがないわよ。私もはじめ見たときには遊んでいるようにしか見えなかったから。でも、ナターシャ、さっきうちの小隊の連中に試させたのよ。彼女たち、かなり気に入って、明日からこれで訓練するそうよ。私の大隊全員で使おうかなと考えているのだから」
「え、アートよ、うちにも使わせて。変化のある訓練なら大歓迎だ。明日からとは言わないけど、うちの連中にも使わせて欲しい。どこに申請すれば使えるのか教えて」
「申請もなにも、さっきできたばかりだから、下手すると司令部の連中もまだ知らないわよ」
「え、また、勝手に作ったのかよ。ブル隊長が知れば、また、怒り出すぞ」
「大丈夫よ、工兵中隊から書類は出るそうだから。でも、私たちも使うとなると、これだけではかなり手狭になるわね」
「いっそ、拡張しないか?もっと色々なのを作って、できれば途中に射撃訓練の施設もあると嬉しいかも」
『それじゃ~、拡張して、色々作ろう』となって、何を作るか相談することになり、俺はアート少佐、ナターシャ少佐と連れ立って、詰所まで戻ることとなった。
「メーリカさん、そういうことだから、悪いけれど、訓練を続けていてね。明日から、また、工事仕事が増えるけれど、よろしく」と言って、訓練施設を後にした。
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