恋の魔女の初恋

三原みぱぱ

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第5話 カラオケ大会とクジ引き

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 土曜日のカラオケ大会に来たのは、クラスのメンバーの八割を超していた。黒柳の参加とともに、武田も参加していたら当然と言えば当然の結果だろう。女子に関してほぼ全員が参加していたるようだったのに比べて、男子は野球部の四人は練習時間と重なってしまい、不参加となっている。野球部は、今頃、涙を流し、唇をかみしめながら練習をしているだろう。その悔しさをバネに今年こそ甲子園に行ってほしいものだ。そんなことをぼんやりと考えていると、提案者の高橋がマイクを手にお勧めの曲名を無駄に流している大画面のモニターの前に立った。
 コの字型に設置された長椅子の壁側にはソファがあり、中央側には丸椅子がいくつも置かれており、天井にはライト以外にミラーボールが設置された大人数用のカラオケボックスに、すでにグループごとに適当に座っていた。

「はーい! みんな注目! 今日は俺のために集まってくれてありがとう!」
「お前のためじゃないぞ!」

 高橋の軽いボケに、前列を陣取っている高橋の友人たちが一斉にツッコむ。それにつられて、軽い笑いが起こった。僕は少し離れて座っている黒柳を見ると、手で口を隠しながら笑っていた。その左右には、高倍率で勝ち取った男子が座っていた。
 そして、武田を見るとその周りにはすでに女子が席を確保して、男どもを寄せ付けない体制を取りつつあった。

「ごめん、ごめん。じゃあ改めて。せっかく同じクラスになった仲間だ。みんな、このクラスで仲良く、楽しい一年にしようぜ。それじゃあ、乾杯!」

 高橋は、かの有名な真っ黒な炭酸ジュースを手に、乾杯の合図をした。
 それを口火にあちらこちらで、グラスが触れ合う音と各々話し合う音がカラオケルームに響き渡った。
 僕は数すくない友人と、何を歌うかとか、あいつら陽キャでうらやましいなとか、軽い話をしながらポテトをつまんでいた。
 談笑が一段落すると、皆は思い思い曲を入れて、歌い始めた。
 この人数だから、そんなに歌う回数は回ってこないだろうが、一曲ぐらいは歌えと言われる対策に自分が歌えそうな曲を思い出していた。みんなが歌っている曲は、どこか聞いたことがあるような曲が多かった。おそらく、みんなで盛り上がれるように、わかりやすいチョイスをしているのだろう。そんな空気をぶち壊すわけにもいかず、無難そうな曲を頭の中で検索しながら、また周りを見ると黒柳と高橋がなにか話していた。
 やはり、高橋は彼女を狙っているのだろう。こんなにみんなを巻き込んでまで、異性とつながりを持ちたいという気持ちが理解できなかった。他の人達も、積極的に意中の異性のところに移動して、話をしていた。しかし、武田の周りは彼女の親友の相原を中心に、がっちりガードされて男子は近づけないでした。しかしそれは、ある程度予想されていた。武田自身は男女分け隔てることなく話すのだが、下心を持っていそうな男子は、周りの女子からブロックされるのは、一年生の時からの風景だった。それが、クラスの集まりだとしても崩れることはなかった。それを知っていたから、僕は屋上で黒柳に説明したつもりだった。黒柳には悪いが、このまま何事もなく終われば僕は満足だった。
 しかし、僕に順番が回ってくる前に、高橋がまたマイクを取って前に現れた。高橋自身が入れた曲を一時停止して、みんなにある提案をし始めた。

「ここで、ちょっとしたゲームをしようと思う。せっかく交流会をしてもこの人数だ。みんな同じようなメンツとばっかり話しても、クラスにいるのと変わらないだろう。そこで、男女ペアで一曲歌ってもらう。ちなみにペアはくじ引きで決めて、歌う曲はペアの二人で決める。これだったら、ランダムだからこれまで話したことのない相手と話せるから良いだろう」

 彼の言葉に男どもは歓喜の声を上げて、女子は戸惑いと驚きの声が混ざり合っていた。
 そんな中で、冷静な疑問の声が上がった。
 すっと伸ばした手の主は武田だった。

「女子の方が人数が多いけど、それはどうするつもり?」

 女子が余った場合、武田が男役で女子と歌う。そんなパターンを期待している女子は多い。実際、女子が余った場合、背の高い彼女が男子の代わりになっているのを見たことがあった。しかし、高橋の言葉はそんな女子の希望を打ち砕くものだった。

「女子が多い分は二回歌う男子を作るから大丈夫。それじゃあ、女子はこっち、男子はこっちのくじを引いてくれ。同じ番号同士がペアになるからな。女子にはダブり番号があるから、どっちが先に歌うかは各自で決めてくれ。それじゃあどんどん引いてペアを作ってくれよ」

 そう言いながら高橋は、くじが入った箱をどんどん回してくじを引かせると、くじが全員に行き渡った。当然、僕も、武田も黒柳も引き終わった。

「歌う順番は番号順な。ダブりの二人目は最後に回っても良いぞ」

 皆、自分の番号を確認してペアとなる相手を探し始めた。
 高橋も色々考えるよなと素直に感心しながら、ノートを切って作られた手製のくじを開いてみた。そこには黒いボールペンで11と書かれていた。僕は自分のペアを探そうと周りを見回すと、いつの間にか黒柳が隣に来ていた。
 上が純白のフリルの付いた七分袖シャツに、胸から下は黒い可愛いシャツワンピースを着ていた。長い髪の中から金色のイヤリングが光っていた。そのイヤリングを揺らしながら、僕の番号を確認する事無く、いたずらっ子のような笑顔を見せて断言した。

「あなたの相手は、英里ちゃんよ」

 彼女がそう断言すると同時に、武田が自分のくじを見せながら番号を叫んでいた。飾り気のないすっと伸びた指の間にあるくじには、赤い文字で大きく11と書かれていた。ノースリーブのベージュのパーカにダメージジーンズをはいている武田は、あまりファッションに詳しくない僕から見ても、よく似合っていた。女の子らしい服装の黒柳と対照的に、女の子らしいかっこよさがあった。

「ほら、英里ちゃんが待ってるわよ。男の子の方から行ってあげないと」
「なんで分かったんだ?」
「うふふ、企業秘密よ。それよりも早くしないと、お姫様がお待ちかねだよ」

 そう言って、僕の背を押した。
 そして僕が武田の所に行くと、黒柳は安心して自分のくじを開いて、思わず声を上げた。

「あ! しまった、自分のこと忘れてた」

 黒柳のくじの番号も11だった。黒柳はしょうがなく、コーラを飲みながら、ふたりの話が一区切りするのを待っていた。
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