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第7話 僕と彼女の共通点
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僕は、急に質問を振られて、いつも聞いているマイナーな日本のバンドを答えてしまった。それは男女のツインボーカルで、アップテンポなハードな曲を歌うバンドである。本当は、みんなが知っている曲を答えるつもりだったのだが、失敗した。しかし、どうせ彼女も知らないだろうか、いくらでも修正は効くと思っていると、思わぬ答えが返ってきた。
「えー、菊池君もあのバンド好きなの? ボクもなんだ。周りに聞いてる人いなくて、寂しかったんだ。何が一番好き? どれだったら歌える? ボクはセカンドアルバムに入っている……」
武田は同志を見つけた喜びに興奮していた。それは実は僕も同じだった。園芸は部員が僕以外いないという事実から、仲間を探すことを半ばあきらめていた。ただ、他人が邪魔さえしてくれなければそれだけでいい。音楽に対してもそういうスタンスだった。ほかの誰も知らなくても、他人が好きだと言わなくても、僕がその音楽を聴くのに支障はない。けれども、同じものが好きで、それに対して話し合える喜びを捨てているわけではなかった。
それは彼女も同じようだった。おそらく、彼女の周りに彼女が好きな音楽を聴く人はいなかったのだろう。お互い、興奮気味に話し合った末、そのバンドから歌う曲を決めた。
その場が盛り上がるとか、他の人が聴いても楽しめるとか、そんな事はもう、僕達の頭から消えていた。歌う自分達が楽しめる。それを最優先にした。ただでさえ、学年の王子様と陰キャとの組み合わせの上に、クラスメイトの知らない曲を歌い始めたのだから、盛り上がるわけがない。
周りからは小さな声で「何で相手があいつなんだ?」「あいつがあんな曲を選曲したのか?」「これだから陰キャは」とか言っている声が僕の耳に届いた。しかし、幸いなことにノリノリで夢中で歌っている武田は、気が付いていないようだった。それならば、彼女のためにも気にせず歌に集中することにした。
歌い終わった彼女は興奮の熱を持ったまま、僕の手を引き、席へと戻ると、早速次の選曲に入ろうとする。
「ねえねえ、次は何歌う?」
武田は興奮したまま、僕の手を掴んだまま、同じバンドの曲を入れようとしたところを、黒柳が止めた。
「ごめん、英里ちゃん。次、菊池君と歌うのは私なのよ」
そう言って、申し訳なさそうに赤字で11と書かれたくじを見せた。
黒柳は僕と武田をくっつけないと、一人前の恋の魔女になれない。せっかく彼女が僕に興味を持ってくれているところを遮るのは、黒柳としても不本意だろう。しかし、黒柳も自分の番で歌わないと、それも不自然で僕達は変に注目を浴びてしまう。
そのため、黒柳は申し訳なさそうな顔をしていたが、彼女は全く気にしている様子はなかった。
逆に、武田の方も気づかずに申し訳なさそうな顔をした。
「ごめん、月子。ボク、なんだか興奮しちゃって。月子も菊池君とペアだったんだね」
「良いのよ。私の方こそ話を遮っちゃって、ごめんね」
「大丈夫、何も気にしてないから。それより月子はどんな曲を聴くの?」
「それが、私はあんまり、最近の歌を知らないのよね」
そう言って、黒柳が選んだ曲は、僕達が小学一年生の頃に流行った曲だった。古い曲だが、おそらくここの誰もが懐かしいと言うだろう。当然、僕達も知っている曲だった。
その曲名を聞いて武田は懐かしそうに言った。
「懐かしいわね。その頃、ボクは男の子とばかり遊んでたな」
「そうなの、どんなことしてたの?」
「どんなこと? 山を走り回ってたって記憶はあるんだけど、詳しくは覚えてないかな? でも、女の子があんまり周りにいなくて、男の子とばかり遊んで他のだけはなんとなく覚えてるんだよね。だから、制服以外でスカートなんて履いたこともなかったんだよ。でも、二年生になる前に転校してからは、愛とも遊ぶようになったかな」
武田の言う愛とは、同じクラスの相原愛で、武田と会う小学生の時代からいつも一緒にいる女子の事だった。気の弱い相原は小学生の時に軽いイジメのようなものを受けて、その時転校してきた武田に助けられたという話を噂話で聞いた事がある。その頃から女子が武田を頼るようになり、空手をしていた武田はそれに答えるようになってから王子と呼ばれるようになったらしい。
そんな彼女の言葉に、真反対のような黒柳は共感してみせた。
「なんだか、分かる気がする」
「そう? でも、月子は小さい頃から、お人形さんみたいに着飾って、ままごとしてるイメージがあるけど」
「そんなこと……あっ! そろそろ、私たちの番よ」
武田の話を聞いていると、アッという間に順番が回って来た。
武田に続いて黒柳とペアになった僕に容赦ない罵声が飛んで来た。
「菊池! うらやましいぞ! どんな手を使ったんだよ」
「一生分の運を使い切ったな」
「調子に乗んな!」
そんな言葉を受けながらも、歌い終えた僕たちに武田は席を空けて待っていた。
結局、僕は新しい飲み物を頼み、武田と歌の話などをしながら、カラオケ大会は終了したのだった。
「えー、菊池君もあのバンド好きなの? ボクもなんだ。周りに聞いてる人いなくて、寂しかったんだ。何が一番好き? どれだったら歌える? ボクはセカンドアルバムに入っている……」
武田は同志を見つけた喜びに興奮していた。それは実は僕も同じだった。園芸は部員が僕以外いないという事実から、仲間を探すことを半ばあきらめていた。ただ、他人が邪魔さえしてくれなければそれだけでいい。音楽に対してもそういうスタンスだった。ほかの誰も知らなくても、他人が好きだと言わなくても、僕がその音楽を聴くのに支障はない。けれども、同じものが好きで、それに対して話し合える喜びを捨てているわけではなかった。
それは彼女も同じようだった。おそらく、彼女の周りに彼女が好きな音楽を聴く人はいなかったのだろう。お互い、興奮気味に話し合った末、そのバンドから歌う曲を決めた。
その場が盛り上がるとか、他の人が聴いても楽しめるとか、そんな事はもう、僕達の頭から消えていた。歌う自分達が楽しめる。それを最優先にした。ただでさえ、学年の王子様と陰キャとの組み合わせの上に、クラスメイトの知らない曲を歌い始めたのだから、盛り上がるわけがない。
周りからは小さな声で「何で相手があいつなんだ?」「あいつがあんな曲を選曲したのか?」「これだから陰キャは」とか言っている声が僕の耳に届いた。しかし、幸いなことにノリノリで夢中で歌っている武田は、気が付いていないようだった。それならば、彼女のためにも気にせず歌に集中することにした。
歌い終わった彼女は興奮の熱を持ったまま、僕の手を引き、席へと戻ると、早速次の選曲に入ろうとする。
「ねえねえ、次は何歌う?」
武田は興奮したまま、僕の手を掴んだまま、同じバンドの曲を入れようとしたところを、黒柳が止めた。
「ごめん、英里ちゃん。次、菊池君と歌うのは私なのよ」
そう言って、申し訳なさそうに赤字で11と書かれたくじを見せた。
黒柳は僕と武田をくっつけないと、一人前の恋の魔女になれない。せっかく彼女が僕に興味を持ってくれているところを遮るのは、黒柳としても不本意だろう。しかし、黒柳も自分の番で歌わないと、それも不自然で僕達は変に注目を浴びてしまう。
そのため、黒柳は申し訳なさそうな顔をしていたが、彼女は全く気にしている様子はなかった。
逆に、武田の方も気づかずに申し訳なさそうな顔をした。
「ごめん、月子。ボク、なんだか興奮しちゃって。月子も菊池君とペアだったんだね」
「良いのよ。私の方こそ話を遮っちゃって、ごめんね」
「大丈夫、何も気にしてないから。それより月子はどんな曲を聴くの?」
「それが、私はあんまり、最近の歌を知らないのよね」
そう言って、黒柳が選んだ曲は、僕達が小学一年生の頃に流行った曲だった。古い曲だが、おそらくここの誰もが懐かしいと言うだろう。当然、僕達も知っている曲だった。
その曲名を聞いて武田は懐かしそうに言った。
「懐かしいわね。その頃、ボクは男の子とばかり遊んでたな」
「そうなの、どんなことしてたの?」
「どんなこと? 山を走り回ってたって記憶はあるんだけど、詳しくは覚えてないかな? でも、女の子があんまり周りにいなくて、男の子とばかり遊んで他のだけはなんとなく覚えてるんだよね。だから、制服以外でスカートなんて履いたこともなかったんだよ。でも、二年生になる前に転校してからは、愛とも遊ぶようになったかな」
武田の言う愛とは、同じクラスの相原愛で、武田と会う小学生の時代からいつも一緒にいる女子の事だった。気の弱い相原は小学生の時に軽いイジメのようなものを受けて、その時転校してきた武田に助けられたという話を噂話で聞いた事がある。その頃から女子が武田を頼るようになり、空手をしていた武田はそれに答えるようになってから王子と呼ばれるようになったらしい。
そんな彼女の言葉に、真反対のような黒柳は共感してみせた。
「なんだか、分かる気がする」
「そう? でも、月子は小さい頃から、お人形さんみたいに着飾って、ままごとしてるイメージがあるけど」
「そんなこと……あっ! そろそろ、私たちの番よ」
武田の話を聞いていると、アッという間に順番が回って来た。
武田に続いて黒柳とペアになった僕に容赦ない罵声が飛んで来た。
「菊池! うらやましいぞ! どんな手を使ったんだよ」
「一生分の運を使い切ったな」
「調子に乗んな!」
そんな言葉を受けながらも、歌い終えた僕たちに武田は席を空けて待っていた。
結局、僕は新しい飲み物を頼み、武田と歌の話などをしながら、カラオケ大会は終了したのだった。
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