僕とコウ

三原みぱぱ

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誕生日と別れ

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 僕は唯にメールを送る。

『何してる?』
『家でテレビ見てますよ』
『ちょっと出てこれるか?』

 僕の携帯電話が鳴る。

「たっくん、今どこにいるんですか? もうすぐ年越しですよ」
「唯の家の近くの公園だよ」
「ちょっと待っててください。すぐ行きます」

 除夜の鐘が鳴り始め、初詣に行く人々がチラホラと見える。
 十分ほど待っただろうか、ジーンズに白いニットの上に黒いダウンを着た唯が走ってこちらに来る。

「待ちましたか? しかしどうしたんですか? 実家じゃなかったんですか?」
「ああ、今日の夕方帰ってきた」

 携帯のタイマーが鳴った。

「あ、年越しですか? あけましておめでとうございます。まさか一番にあたしに挨拶したかったからですか?」

 唯がにやりとして僕を見ている。
 僕は用意していた小さな箱を渡す。

「なんですか? これ」

 受け取っていいかどうか迷っている唯を見て僕は言った。

「唯、誕生日おめでとう」
「え、覚えてくれてたのですか?」
「そりゃ、愛しの彼女の誕生日くらいは覚えてるよ」

 実はクリスマスのことで頭がいっぱいだった僕にコウが唯の誕生会をいつするのかと聞いて来たので思い出したのだ。

「四日の夜は空いてるか? コウと袴田さんと四人で誕生会をしようと思ってるだ」
「うれしい! 絶対空けます」

 
 僕たちはコウの料理で誕生会を開いた。
 唯は僕が誕生日プレゼントにあげたイルカの瞳に小さなダイヤモンドが埋め込まれたネックレスをしていた。
 こんな楽しい日々はずっと続くと思っていた。


「青年海外協力隊に申し込んだ。選考に通ったら四月から東京に行って研修を受けるから、大学は休学する」

 突然、コウは一緒に部屋で酒を飲んでいる時に言った。

「え、どういうことですか?」

 僕が何か言う前に唯が口を開いた。

「予定より早くないか?」

 日本一周の時に聞いていたので唯ほどは驚かなかったが、卒業してからと聞いていたので急な話に驚いた。

「袴田さんには話しをしているのか?」
「そうですよ。だいたいどのくらいいないですか?」

 コウは少し言いにくそうにビールをあおる。

「咲とは別れた」
「「はい?」」

 僕と唯は口をあんぐりとあけてしまう。

「なんで?」

 僕の方が先に立ち直った。

「あいつ、俺に嘘をついてたんだ」

 そういえばバーベキューの時にタバコを吸ってるのを黙っているようだったけどそれくらいで別れるか?

「どんな嘘ですか?」

 僕が黙っていたため唯が聞いた。

「……咲の年は二十四才って聞いてたんだが、実は二十九だったんだ」

 僕たちは二十一才、三才の差が実は八才の差は大きいが、長い付き合いを考えるならふたケタの年の差の夫婦もあり得る。

「年を誤魔化したくらいで……」
「それに!」

 唯の言葉を遮るように続ける。

「それに、バツイチで幼稚園に通う子供もいたんだよ」
「そ、それは」

 唯もそれ以上言えなくなる。

「咲には咲のこれまでの人生があるから、そのことは、まあ、俺がなにか言える立場じゃないかもしれないが、それを黙っていた事がな……」
「それで協力隊に行くのか?」

 コウはピーナッツをつまみ、ビールで喉を潤す。

「それも一つのきっかけだな。……いや、時期を早めたのはそのせいかな。好きだったからこそ、嘘をつかれたのはやっぱりきつかったからな。ちょっと遠くに行きたい気分なんだ」

 コウはモテるのに女運が悪いな、と心で呟いた。
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