ドジっ子ポーターは平和の鐘を鳴らす ~勇者パーティをクビになったドジっ子運搬人は、ポンコツ新米冒険者たちとトップを目指します~

三原みぱぱ

文字の大きさ
40 / 116
第一章

第35話 駆け出し冒険者の戦う理由

しおりを挟む
 その音に花火が始まったのかと、そこに居た者たちは思った。
 しかし、明らかに音が違っていた上に、地響きが伝わってくる。

「何事か!」
「わかりません。直ちに調査に向かいます!」

 パーティー会場の貴族たちにも異変が伝わり、動揺が走る。

「皆さま、ご安心ください。この屋敷は騎士団が護衛しております。この中にいれば、何があろうと安全です。皆さま、このままパーティーをお楽しみください」

 領主らしく、人を安心させる落ち着いた声で、会場を大人しくさせる。

「エル姉ちゃん、何があったのかな」
「わたしもわからないけど、何か嫌な予感がするわ」

 すでにエルシーたちのことは無視して、騎士たちは状況の把握と、護衛の強化に勤しんでいた。

「申し上げます! 先程の爆発音は東の城門が爆破された音です。そこから、百体単位のアンデッドが侵入して、市民を攻撃しております! 現在、街は混乱に包まれております。また、一部火の手が上がっている様子です」

 何でアンデッドが街へ?
 理由はわからない。けれども、街のみんなが危険だということだけは、マリアーヌにもわかった。

「お父様、騎士団を街へ」
「それはならん。ここに集まっているのは、重要人物たちだ。彼らに万が一のことがあっては、大変なことになる」
「では、みんなは……街の人々はどうなるのですか! いつもお父様は領民のことを考えて行動しろと言われました。それなのに、街のみんなを見捨てるのですか!?」
「……」

 マリアーヌは返事をしない父親を見て、膝から崩れ落ちる。
 その隣に一人の男が近づいて来た。
 その男はギルドマスターだった。

「申し訳ありませんが、話は聞かせていただきました。騎士団が動かせないということであれば、緊急冒険者招集を行ってもよろしいでしょうか?」

 緊急冒険者招集とは自由に活動する冒険者たちの義務の一つ。災害など不測の事態が生じた時、ギルドからの命令で冒険者を強制的に任務に従事させることである。その権限は領主承認の元、ギルドマスターが発令する。
 滅多なことでは発令されない。特別な命令であった。

「わかった。全ての冒険者ギルドに承認をする」

 領主の言葉にギルドマスターはテラスへ出た。
 すでに薄暗くなっている街はところどころ、煙が上がっており、悲鳴や叫び声も遠くに聞こえていた。

「全ての冒険者に告ぐ! 全冒険者ギルドを代表して緊急冒険者招集を発令する。市民を守り、アンデッドどもを駆逐せよ!」

 魔法で拡張された声が、混乱と悲鳴が上がる街中に響き渡った。
 その声に押されるように、マリアーヌは自らの意思で立ち上がった。

「……お父様たちは、ここを守ってください。わたくしはわたくしの使命を果たしてきます。スティーブン!」
「はい。お嬢様」

 いつのまにか、スティーブンはマリアーヌの剣を手に、控えていた。それを受け取ると、先程のギルドマスターと同じようにテラスへ出て剣を掲げる。

「わたくし、領主モーリス・ベンデルフォンが五女、マリアーヌ・ベンデルフォンが皆様にお願いします。市民の皆様は落ち着いて、そして助け合って、近くの建物に避難してください。冒険者の皆様、この街を、市民の皆様をどうか助けてください。わたくしも皆様と一緒に戦います。どうか力を貸してください。お願いします」
「マリアーヌ! なんてことを! お前はここに残るのだ!」

 マリアーヌの父親は激昂して止めようとする。これまでは父親に逆らったことのないマリアーヌは、今初めて、真っ直ぐに自分の意思をぶつける。

「お父様! 我々貴族は領民を守る義務があります。わたくしはベンデルフォン家の一人として、領民を守って来ます」
「だめだ、だめだ、だめだ! お前をそんな危険なところには行かせられない!」
「お父様。残念ながら、先ほどお父様承認のもと、全ての冒険者に招集命令が発せられました。わたくしも冒険者です。戦う義務がございます。それでもまだ、止めるというのであれば、このマリアーヌ・ベンデルフォンは今日、この場限りで、ひとりの冒険者マリーとして生きていきます」

 マリアーヌは手に持った剣で、その美しく長い髪をバッサリと切り捨てた。
 それだけではなく、豪華なティアラも投げ捨て、美しく縫い上げられたドレスも動きやすいように切り裂いた。
 その所業にあちらこちらから悲鳴が上がる。

「さあ、皆さん行きましょう」
「お嬢様。私は領主様に雇われている身です。領主様の意に反して行動は出来ません」
「そうだ、スティーブン! あの娘を止めてくれ!」

 必死で我が娘を止めようとスティーブンに命令する父親。

「わかりました……」

 そう言ってマリアーヌはスティーブンを置いて、エルシーたちと立ち去ろうとした、その時。

「ご主人様。私スティーブン・ハミルトンは一身上の都合により、お暇をいただきます!」
「スティーブン! 貴様!」
「これで私もただの一個人です。それでは街へ急ぎましょう。お嬢様」
「スティーブン……」

 自らも剣を持ち、マリアーヌに付き従う執事。
 止められると思っていた。良くてここで別れるものだと。マリアーヌは自分の行動に理解を示してくれる人がいる。それだけで心強かった。
 平和の鐘のメンバー五人が、街に向かうべく部屋を出るのを遮る騎士たちがいた。

「お前たち……」

 スティーブンが威嚇するように目を細める。
 邪魔をするならば一戦を交える覚悟が、体からにじみ出ていた。
 騎士の一人が剣先を天井に向け、胸元に掲げた。

「全員! 元近衛騎士団隊長スティーブン・ハミルトン殿に敬礼!」

 号令一下、騎士たち全てが同じように剣を構えて敬礼をする。

「隊長、お嬢様と街をお願いします」
「お前たち……」

 そこにはもう、平和の鐘のメンバーを止められる者はいなかった。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう

お餅ミトコンドリア
ファンタジー
 パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。  だが、全くの無名。  彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。  若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。  弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。  独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。  が、ある日。 「お久しぶりです、師匠!」  絶世の美少女が家を訪れた。  彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。 「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」  精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。 「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」  これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。 (※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。 もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです! 何卒宜しくお願いいたします!)

ゲームの悪役パパに転生したけど、勇者になる息子が親離れしないので完全に詰んでる

街風
ファンタジー
「お前を追放する!」 ゲームの悪役貴族に転生したルドルフは、シナリオ通りに息子のハイネ(後に世界を救う勇者)を追放した。 しかし、前世では子煩悩な父親だったルドルフのこれまでの人生は、ゲームのシナリオに大きく影響を与えていた。旅にでるはずだった勇者は旅に出ず、悪人になる人は善人になっていた。勇者でもないただの中年ルドルフは魔人から世界を救えるのか。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

Sランク昇進を記念して追放された俺は、追放サイドの令嬢を助けたことがきっかけで、彼女が押しかけ女房のようになって困る!

仁徳
ファンタジー
シロウ・オルダーは、Sランク昇進をきっかけに赤いバラという冒険者チームから『スキル非所持の無能』とを侮蔑され、パーティーから追放される。 しかし彼は、異世界の知識を利用して新な魔法を生み出すスキル【魔学者】を使用できるが、彼はそのスキルを隠し、無能を演じていただけだった。 そうとは知らずに、彼を追放した赤いバラは、今までシロウのサポートのお陰で強くなっていたことを知らずに、ダンジョンに挑む。だが、初めての敗北を経験したり、その後借金を背負ったり地位と名声を失っていく。 一方自由になったシロウは、新な町での冒険者活動で活躍し、一目置かれる存在となりながら、追放したマリーを助けたことで惚れられてしまう。手料理を振る舞ったり、背中を流したり、それはまるで押しかけ女房だった! これは、チート能力を手に入れてしまったことで、無能を演じたシロウがパーティーを追放され、その後ソロとして活躍して無双すると、他のパーティーから追放されたエルフや魔族といった様々な追放少女が集まり、いつの間にかハーレムパーティーを結成している物語!

幼女はリペア(修復魔法)で無双……しない

しろこねこ
ファンタジー
田舎の小さな村・セデル村に生まれた貧乏貴族のリナ5歳はある日魔法にめざめる。それは貧乏村にとって最強の魔法、リペア、修復の魔法だった。ちょっと説明がつかないでたらめチートな魔法でリナは覇王を目指……さない。だって平凡が1番だもん。騙され上手な父ヘンリーと脳筋な兄カイル、スーパー執事のゴフじいさんと乙女なおかんマール婆さんとの平和で凹凸な日々の話。

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

処理中です...