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第二章
第60話 駆け出し冒険者の思い
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「どうしてですか。失礼ですが……決して、生活は豊かではありませんよね。国からの補助金があれば、みんなに栄養のある物を食べさせてあげることもできるんですよ。服だって、人形だって……」
マリアーヌは領主であり父親であるモーリスに、領民を守ると誓ったのだった。そのために冒険者になると。
その領民の中には当然、アーニャやオージーのような孤児達も含まれている。いや、この子達のように未来のある弱い者達こそ真っ先に守るべき存在のはずだ。
それなのに、その子供達を一番近くで守るべきはずの両親は、首を横に振って拒絶の意思を示した。
マリアーヌが不満そうな顔をしていると、アイルが優しく説明を始めた。
「そうね。お金があれば、今よりも良い生活ができるでしょうね。それがちゃんと仕事をした報酬であればね」
「でも、お金はお金です。犯罪で手に入れたお金ではないのですよ」
「でもね、それは他人から見たら正統な収入じゃないのよ」
「他人の事よりも自分達の事が大事ではないですか?」
「そういうことじゃないのよ」
アイルはまた、静かに首を横に振った。
「マリーちゃん、あなたも見たでしょう。この村ではみんなが助け合って生きているのよ」
アイルが言った助け合いとは昼に行っていた食料の交換の事だろう。それと補助金の件は関係があるのだろうか? そう思いながらマリアーヌはアイルの言葉をじっと待っていた。
「もしも、あなたが弱い者同士で助け合っていたとしましょう。その中で働くことなくお金を貰う人が現れたとして、あなたはこれまでの好意にお金を要求したくなりませんか? それは本来であれば正しい姿のだから、それは誰も責めることは出来ないのよ。だから、中途半端な金額を貰うなら、私達の生活は逆に苦しくなる可能もあるの」
「そんな……じゃあ、十分な額を支給出来れば」
「かなりの額を貰える場合はね、別の問題が発生するの」
アイルは冷めてしまったコーヒーを一口飲むと、温め直すためにミルクパンにコーヒーを移すと弱火にかけたのだった。
そんなアイルの言葉を、他のみんなは黙って聞いていた。マリアーヌも。
アイルは温め直したコーヒーをコップに移し、ひと息つくと話を続けた。
「孤児院は多額の補助金がもらえると分かると、それを金儲けの道具に考える人が出てくるのよ。そんな人間の運営している孤児院の子がまともに育つと思う?」
「そこは監視する人間をつければ……」
「補助金を出し、監視人を派遣する。そこまでしなければならない孤児院は健全なのかな? それに私達は孤児院を経営しているつもりはないの。ただ孤児になった子を引き取って、家族になろうとしているだけなのよ。私とワイズが子供を引き取るのは、同情ではなく愛情なの。だから、マリーちゃんがうちの子達の事を思うなら、ときどきで良いの。遊びに来てちょうだい。それだけでいいから」
「でも、わたくしは領主の娘としてみんなを守る義務が……」
アイルは静かに柔らかく、温かく、マリアーヌに言い聞かせた。
それでもマリアーヌの信念がマリアーヌを素直に引き下がらせなかった。
「だったら、こうしましょう。今のあの子達は私達が全力で守るわ。だから、施政者としてあの子達の未来をマリーちゃんが守ってちょうだい」
「あの子達の未来を?」
「そうよ。見ての通り、私達はその日の生活で精一杯なのよ。でも、あの子達がまっすぐに育つように愛情を注いで育てるわ。だから、あの子達が幸せに生活できるように、平和な世界にして欲しいのよ」
「……」
マリアーヌはアイルの言葉をかみしめるように考える。
子供達の未来。
何をする事が子供達の未来の幸せに繋がるのか。今のマリアーヌには思いつかなかった。
それは今の自分には、圧倒的に経験も知識も足りないと言うことだけは分かった。
アイルは子供達の”今”を守ると言った。
時間はある。考える時間も、行動する時間も。
マリアーヌは冒険者になって良かったと思った。
高いかごの中から、見下ろすだけでは何も分からなかっただろう。
今は、それが分かっただけで良しとするしかなかった。
「分かりました」
「ありがとうね。でもね、私達から見たらマリーちゃんもまだまだ子供なんだから、何かあったら私達を頼ってね。出来る事なんてたがだか知れてるけど、あなたたちはエルシーと同じ私達の家族なんだから」
そう言ってアイルは自分よりも背の高いマリアーヌを優しく抱きしめた。
マリアーヌは領主であり父親であるモーリスに、領民を守ると誓ったのだった。そのために冒険者になると。
その領民の中には当然、アーニャやオージーのような孤児達も含まれている。いや、この子達のように未来のある弱い者達こそ真っ先に守るべき存在のはずだ。
それなのに、その子供達を一番近くで守るべきはずの両親は、首を横に振って拒絶の意思を示した。
マリアーヌが不満そうな顔をしていると、アイルが優しく説明を始めた。
「そうね。お金があれば、今よりも良い生活ができるでしょうね。それがちゃんと仕事をした報酬であればね」
「でも、お金はお金です。犯罪で手に入れたお金ではないのですよ」
「でもね、それは他人から見たら正統な収入じゃないのよ」
「他人の事よりも自分達の事が大事ではないですか?」
「そういうことじゃないのよ」
アイルはまた、静かに首を横に振った。
「マリーちゃん、あなたも見たでしょう。この村ではみんなが助け合って生きているのよ」
アイルが言った助け合いとは昼に行っていた食料の交換の事だろう。それと補助金の件は関係があるのだろうか? そう思いながらマリアーヌはアイルの言葉をじっと待っていた。
「もしも、あなたが弱い者同士で助け合っていたとしましょう。その中で働くことなくお金を貰う人が現れたとして、あなたはこれまでの好意にお金を要求したくなりませんか? それは本来であれば正しい姿のだから、それは誰も責めることは出来ないのよ。だから、中途半端な金額を貰うなら、私達の生活は逆に苦しくなる可能もあるの」
「そんな……じゃあ、十分な額を支給出来れば」
「かなりの額を貰える場合はね、別の問題が発生するの」
アイルは冷めてしまったコーヒーを一口飲むと、温め直すためにミルクパンにコーヒーを移すと弱火にかけたのだった。
そんなアイルの言葉を、他のみんなは黙って聞いていた。マリアーヌも。
アイルは温め直したコーヒーをコップに移し、ひと息つくと話を続けた。
「孤児院は多額の補助金がもらえると分かると、それを金儲けの道具に考える人が出てくるのよ。そんな人間の運営している孤児院の子がまともに育つと思う?」
「そこは監視する人間をつければ……」
「補助金を出し、監視人を派遣する。そこまでしなければならない孤児院は健全なのかな? それに私達は孤児院を経営しているつもりはないの。ただ孤児になった子を引き取って、家族になろうとしているだけなのよ。私とワイズが子供を引き取るのは、同情ではなく愛情なの。だから、マリーちゃんがうちの子達の事を思うなら、ときどきで良いの。遊びに来てちょうだい。それだけでいいから」
「でも、わたくしは領主の娘としてみんなを守る義務が……」
アイルは静かに柔らかく、温かく、マリアーヌに言い聞かせた。
それでもマリアーヌの信念がマリアーヌを素直に引き下がらせなかった。
「だったら、こうしましょう。今のあの子達は私達が全力で守るわ。だから、施政者としてあの子達の未来をマリーちゃんが守ってちょうだい」
「あの子達の未来を?」
「そうよ。見ての通り、私達はその日の生活で精一杯なのよ。でも、あの子達がまっすぐに育つように愛情を注いで育てるわ。だから、あの子達が幸せに生活できるように、平和な世界にして欲しいのよ」
「……」
マリアーヌはアイルの言葉をかみしめるように考える。
子供達の未来。
何をする事が子供達の未来の幸せに繋がるのか。今のマリアーヌには思いつかなかった。
それは今の自分には、圧倒的に経験も知識も足りないと言うことだけは分かった。
アイルは子供達の”今”を守ると言った。
時間はある。考える時間も、行動する時間も。
マリアーヌは冒険者になって良かったと思った。
高いかごの中から、見下ろすだけでは何も分からなかっただろう。
今は、それが分かっただけで良しとするしかなかった。
「分かりました」
「ありがとうね。でもね、私達から見たらマリーちゃんもまだまだ子供なんだから、何かあったら私達を頼ってね。出来る事なんてたがだか知れてるけど、あなたたちはエルシーと同じ私達の家族なんだから」
そう言ってアイルは自分よりも背の高いマリアーヌを優しく抱きしめた。
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